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学園編
好きな人は白馬の王子様
しおりを挟む将来の夫を探す目的もあり、父はわたくしを王都の私立学校に入れることにしました。
死ぬ気で夫を見つけてこいと、寮のあるこの学園に送りこまれたのです。
基本的にパブリックスクールは、嫡子を当主にふさわしい者へ成長させるべく、厳しい帝王学を詰め込まれる王立魔法学院とは違います。魔力の無い生徒でも、受け入れてくれるのです。
つまりは、中流階級の平民の方々ですら、入学金や授業料を支払えれば入れるということなのです。
さらに、わたくしの入るパブリックスクールは共学で、学長の教育理念のせいか校則など色々緩く、未来の夫を私が探しやすい環境だと、父は思ったのでしょう。
しかしながら、男性慣れしていないわたくしが、共学校でどぎまぎしたことは言うまでもありません。
ちなみにわたくしは、高等科からの入学でした。でも、中等科から入学しても良かったくらい。
だってそこには、物語に出てきそうな王子様が在籍していたのですもの。
それは、二つ上の学年で、誰もが一度は名前を聞いたことのある名門、アンティーブ公爵家令息のベルトラン様でした。
文字通り、眼福でした。
「毎日彼を見られるなんて、ラッキーですわ!」
同級生の令嬢たちも、目をギラギラさせながら高嶺の花に狙いを定めております。
屋外授業の時などは、みなさん自分の授業をサボって見学に行くくらいです。
「どうにかして、彼の視界に入りたいですわ!」
「まだ婚約者もいないんですのよ、チャンスですわ!」
まあそうでしょうね。皆さまのようなキラキラした貴族のご令嬢でしたら、ベルトラン様と懇意になる可能性もあるのですもの。
わたくしは同級生女子たちの、コバルトブルー、ピスタチオグリーン、ローズピンクに金や銀と鮮やかな色彩の髪色、宝石のような瞳の色を羨ましく思いながら、麗しの王子様をどこか他人事で傍観しておりました。
いえ、諦観していた、というのが正しいのかしら。
魔力が身体的な色素に出てしまうのは、残酷なことです。魔力が無いと、すぐにばれてしまう。
正直に申しますわ。入学式の日、わたくしも他の令嬢たちと同じく彼に一目惚れいたしました。
入学の式典の折り、講堂に入る前のわたくしの胸に新入生用の花を付けてくれたのが、ベルトラン様でした。
たとえ枯れた老女や赤子ですら、彼を好きになったことでしょう。
太陽を溶かし込んだような金の髪、整った顔に浮かべた柔和な笑顔、がっちりとした男らしい体格。
でも、その爽やかな表情とは裏腹に、ブルーグレーの落ち着いた色味の瞳には、秘めた危うさが浮かんでいるのです。
この方、穏やかで優しげに見えますが、もしかしたら何か暗い物を抱えているのかも。
そう想像しただけで、わたくしもうダメでした。一発で、ノックダウンされてしまったの。
おかしいかしら。
まるきり平民のように地味な、褪せた茶色の髪と瞳のわたくしが、あんなギンギラメタリックな色味の方を好きになるなんて。
いいえ、心の中で思うのは自由なのです。
わたくし、妄想力はとても高いのですからね。
「ミレイユちゃん。魔力の無い君は、僕が守ってあげる。だから結婚してくれないかい?」
「ベルトラン様、わたくしなら貴方の子を産んで差し上げられるかもしれません!」
「なんて素敵なんだ僕のミレイユ、実は僕は甘いものが好きでね。僕のためにお菓子を作ってくれるかい?」
「ベルトラン様ぁああああ」
気を抜いていると、一人二役でブツブツ声に出してしゃべってしまったり。
ええ、変質者ですわね。
人に聞かれたら、その場で自決するしかございません。
ですがモブ令嬢中のモブ令嬢であるわたくしにとっては、それくらいしか許されないのです。
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