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70. 母登場

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 些か忙しないノックだったが、ギリギリ常識内?だったので、イリスが扉を開ける。立っていたのはブランクとルビー&侍女だ。いつもだったらギャイギャイ言いながら入ってくるが、今日は入ってこない。ん?と見ると口を開けたまま固まっている。

 突っついてやろうかしら。口を軽く叩くのも良いわね。ポンときれいな音が鳴りそう……まあやらないけれど。彼らは金貨や姉達の美貌に驚いたよう。

「何か御用でしょうか?」

 アリスの問いかけにはっとしたように動き出す二人。

「……っ……」

 チラチラと金貨や姉たちを見るブランク。ルビーは姉たちをガン見している。その瞳には嫉妬が見えるよう。3人揃った彼女たちの輝く美貌は半端ない威力。

「ああ、失礼いたしました。こちらは我が姉たちです」

「「「よろしく」」」

 座ったまま名乗りもせず挨拶だけする3人にルビーがピクッと反応した。

「なんと無礼な……!ブランクは王子なのよ!王族でもない者がそんな態度をとるなんて信じられないわ!」

 いやいや、自分は王子を呼び捨て。しかも彼の妻の前で呼び捨てもおかしい。更に彼女は王子の婚約者ではあるが、今はただの伯爵令嬢。アリスの姉たちは大国の公爵家の娘たち、挨拶なしに話しかけるのもこんな物言いをするのも本来なら処罰ものだ。それに年齢も親子ほど離れているのにタメ口……。

 姉たちは面白そうにこいつがいちゃもんつけ女か……と涼し気な顔で観察している。微妙にニタついているのは気のせいか。

「あら、公式な場であれば礼は尽くしますわ。ですが私達はアリスの姉。即ちブランク……様の義姉。非公式な場で、しかも初めて会うのです。どちらが礼を尽くさなければならないのかしら」

 ねえ、とエミリアの穏やかでありながら圧のある視線がブランクを貫く。うっと詰まるのは姉の美貌?圧?恥?

「ブランクと申します」

 よろしくお願いしますと小さく呟くブランクに頷くものの、名乗らない姉たち。確実にこいつはないわ~と思っている。伝わったのかブランクの顔がひきつる。ルビーが何かを言おうとしたのを察したアンジェが先に切り出す。

「今私達は久しぶりに会えた可愛い可愛い妹とお茶を楽しんでいるのですが……」

 目で語る。

 何の用だ、と。

 ルビーは先を越されて不貞腐れており話す気はなさそうだ。

「あ……。こちらのルビー……嬢が体調を崩しておりまして。ですがアリ……妻の部屋から楽しげな声が聞こえてくると耳にしまして……」

「それで静かにしろと言いに来たのかしら?ここからそこの女性の部屋までは声が届くほど近いの?それにそんなに体調が悪いの?顔色も良いし、普通に歩いているわ。格好も……」

 体調が悪いにしては気合の入った男受けするような可愛らしいドレスを着ている。しどろもどろに言うブランクと容赦なくズバズバと問い詰めるアンジェ。見事に正反対。

「い……いえ、遠いです。格好は寝間着で歩くわけにはいきませんし……。体調は歩けないほど悪くはない……です。ですが……そもそも彼女の具合が悪いのは妻のせいで開かれた話し合いの疲れからでして……」

 アリスが楽しそうなのが気に食わない、という言い分のよう。はっきり言えばよいのにしどろもどろに話すブランク。何かまずいことをして叱られている子供みたいだ。まあ実際母親ぐらいの年齢だが。

 そんなことを思っていると思いっきり3方向から鋭い視線が突き刺さる。口には出していないのに、年齢のことになると勘が働くよう。

「まあそうなの?アリスダメじゃない」

 そう言葉を発したのはセイラ。ブランクとルビーの目があれっもしかして味方?と輝く。

「こんな自分たちが主人公って勘違いしてるやつらを相手にするなんて時間の無駄よ。いちゃもんつけたら返り討ちされ。男を利用するのは良いけれど連れてきたのは役立たず。自分優位、自分最高、イケてるーとか思いこんでいる痛い女。妻がいるのに他の女をいつまでもメソメソメソメソ想う男。女の偽涙に騙されて妻の言い分も聞かない男。強気に言ってやろうと勢い込んで来たくせに義姉の登場くらいでしどろもどろになる男。妻の本当の恐ろしさをわからない男。そんなやつらを相手にするなんて……あなたの貴重な時間が無駄」

 ブランクとルビー&侍女。アリスの侍女3人衆はマシンガントークに唖然呆然。アリス、エミリア、アンジェ、イリス、フランクはクスクスと笑っている。

「な……な……失礼な!!」

 バンッ!!!

 ブランクの大きな声の後に扉が開け放たれた。登場したのは王妃だ。

「うるさ……」

 と言いながら入ってきた王妃の言葉が途切れた。金貨に姉に見惚れたわけではない。もっと圧倒的な存在が現れたからーーー。



 姉たちと同じく部屋のど真ん中に現れた人物はダイラス国の者たちが固まる中、王妃に向かって優雅なカーテシーを披露した。

 
 その人物は


 カサバイン公爵家当主にして女帝とも呼ばれる


 エレナだった。


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