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41. 公爵邸に連れてって
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イリスはアリスの後ろに控えながら思う。ほんの2時間前に婚姻誓約書にサインしたばかり、なのになぜ私はここにいるのでしょう。高級な調度品が備わった客室。なぜか……それは2時間程前のことまで遡る。
「お義父様」
「ははっ、娘にお義父様と呼ばれるのは良いものだな」
「先程話したマリーナ様のご自宅にお邪魔したいので、公爵に話していただけませんか?」
「ああ構わないよ。いつがいいんだい?」
「あちらに公爵がいるので彼とすぐに向かいます」
「?言ってる意味がよくわからないんだが」
「あっ!公爵がこちらに来ますよ!紹介してください」
「!?」
混乱していると公爵が目の前に来て挨拶を述べた。王も思わずああ……と返してしまう。しっかりしてほしい。ガンを飛ばすと気づいたのか、はっとした表情になった。
「公爵、こちらはつい先程ブランクの妻となり私の義娘になったアリスだ。アリス、こちらはブレッツェル公爵だ。私の従兄弟にあたる」
「はじめましてアリスです。お会いできて光栄です」
「カサバイン家の噂の姫君にお会いできるとはこちらこそ光栄です」
噂とはどのようなものなのか……ニヤリと口角が上がる。……いかんいかん。口角を戻す。
「公爵、私はまだこの国に来たばかりで友達がおりませんの……」
伏し目がちに公爵を見上げるアリス。いきなりなんだ?この小娘は。
「…………?ああ!うちには娘がたくさんおりますので、よろしければ紹介いたしましょう」
「本当ですか?嬉しいですわ。あっ……でも、たくさんいらっしゃるということは全員を王宮にお招きすることは難しいですわね……。少しでも多くの方とお知り合いになりたかったのに」
「でしたら我が家にいらっしゃいますか?」
「まあ!ぜひ!さっ、公爵参りましょう」
儚げで弱々しい印象だったのが一転して、快活に変わったアリスに目を見開く公爵。いや、それだけではない。
「今からですか?流石に……なんのご用意もできていませんし。この後は陛下に同行する予定なのです」
「ああ、そうだった。アリス。すまないがまた後日にお願いできないかい?」
「お話がしたいだけでしたので、おもてなしなど不要ですわ。しかしお二人がそう言われるのなら仕方がありませんね」
「申し訳ございません。アリス様」
申し訳無さそうにしながら王とこの場をさろうとする公爵。
「新しく王都に娼館ができたそうですね」
ビクッと身体を震わせる男性が2名。
「基本営業は夜だけですが、上客には昼間もお相手してくださるお店だとか」
顔だけ後ろを振り返りーーーアリスの方を見る男性2名。
「特に人気の方のお名前は……確かエ「アリス!予定はなくなったんだ。公爵邸に行ってきなさい!良いな?公爵」」
ヤバイ!なぜ知っている!?王妃は子供に関しては残酷な一面もあったが、貴族令嬢や平民でも身元がしっかりした女性を側妃や愛妾に迎え入れることは大目にみてくれた。しかし、娼婦と関係を持つことはひどく嫌い、激怒した。
王妃曰く……娼婦が悪いわけではありません。色々な事情を抱えて足を踏み入れたものが殆どです。同じ女性として思うところもあるほどです。しかし!不特定多数の方と関係を持つ娼婦は病を得ている可能性もあります。万が一それが陛下に……それから側妃、愛妾に…………そして、私に……っ…うっ……。
そう言って儚く泣かれては行けなくなった。王妃の言うことは最もだと思ったから。だが、最近大臣たちがあまりにも自慢するから自分も行きたくなってしまったのだ。
「畏まりました、陛下」
王の尋常ではない冷や汗と目の前の厚かましい小娘に自分まで冷や汗が出てくる公爵が速やかに答えた。
王とわかれ、公爵家の馬車までエスコートする公爵は隣のアリスをちらっと見る。先程はてんやわんやでよく見ていなかったが。これだけの美貌を見るのは久しぶりだ。あれは……
「アリス様。エレナ様はお元気ですか?」
そう、母であるエレナだ。
「公爵は母とお知り合いでしたか?」
「いえ、ガルベラ王国に伺った際お見かけしただけです。他のご令嬢にちょっかいをかける男性に股間に見事な一撃を食らわしておりました」
美しさに見とれた途端起こった出来事に、思わず大事なところを隠してしまったのをよく覚えている。
それにしても、なぜ公爵家に来たいのか?それもこんな早急に。王を脅してまで……普通ではありえない。
公爵は気づく。あの噂がデマだと。無能などととんでもない。蔑まれてる?ありえない。これだけの剛胆な娘を嫌うような女帝ではない。ずば抜けた才能を持つ夫もその子達も。
何しに来る?ぐるぐると頭を回転させるが全くわからない。しかし、その表情は人に食われぬ大臣にふさわしい顔つきへと変わっていた。
アリスは微笑む。
流石は王妃様に手を焼かせるジジイ。
でも、
無駄よーーーーーあなたには地獄へ落ちていただくわ。
「お義父様」
「ははっ、娘にお義父様と呼ばれるのは良いものだな」
「先程話したマリーナ様のご自宅にお邪魔したいので、公爵に話していただけませんか?」
「ああ構わないよ。いつがいいんだい?」
「あちらに公爵がいるので彼とすぐに向かいます」
「?言ってる意味がよくわからないんだが」
「あっ!公爵がこちらに来ますよ!紹介してください」
「!?」
混乱していると公爵が目の前に来て挨拶を述べた。王も思わずああ……と返してしまう。しっかりしてほしい。ガンを飛ばすと気づいたのか、はっとした表情になった。
「公爵、こちらはつい先程ブランクの妻となり私の義娘になったアリスだ。アリス、こちらはブレッツェル公爵だ。私の従兄弟にあたる」
「はじめましてアリスです。お会いできて光栄です」
「カサバイン家の噂の姫君にお会いできるとはこちらこそ光栄です」
噂とはどのようなものなのか……ニヤリと口角が上がる。……いかんいかん。口角を戻す。
「公爵、私はまだこの国に来たばかりで友達がおりませんの……」
伏し目がちに公爵を見上げるアリス。いきなりなんだ?この小娘は。
「…………?ああ!うちには娘がたくさんおりますので、よろしければ紹介いたしましょう」
「本当ですか?嬉しいですわ。あっ……でも、たくさんいらっしゃるということは全員を王宮にお招きすることは難しいですわね……。少しでも多くの方とお知り合いになりたかったのに」
「でしたら我が家にいらっしゃいますか?」
「まあ!ぜひ!さっ、公爵参りましょう」
儚げで弱々しい印象だったのが一転して、快活に変わったアリスに目を見開く公爵。いや、それだけではない。
「今からですか?流石に……なんのご用意もできていませんし。この後は陛下に同行する予定なのです」
「ああ、そうだった。アリス。すまないがまた後日にお願いできないかい?」
「お話がしたいだけでしたので、おもてなしなど不要ですわ。しかしお二人がそう言われるのなら仕方がありませんね」
「申し訳ございません。アリス様」
申し訳無さそうにしながら王とこの場をさろうとする公爵。
「新しく王都に娼館ができたそうですね」
ビクッと身体を震わせる男性が2名。
「基本営業は夜だけですが、上客には昼間もお相手してくださるお店だとか」
顔だけ後ろを振り返りーーーアリスの方を見る男性2名。
「特に人気の方のお名前は……確かエ「アリス!予定はなくなったんだ。公爵邸に行ってきなさい!良いな?公爵」」
ヤバイ!なぜ知っている!?王妃は子供に関しては残酷な一面もあったが、貴族令嬢や平民でも身元がしっかりした女性を側妃や愛妾に迎え入れることは大目にみてくれた。しかし、娼婦と関係を持つことはひどく嫌い、激怒した。
王妃曰く……娼婦が悪いわけではありません。色々な事情を抱えて足を踏み入れたものが殆どです。同じ女性として思うところもあるほどです。しかし!不特定多数の方と関係を持つ娼婦は病を得ている可能性もあります。万が一それが陛下に……それから側妃、愛妾に…………そして、私に……っ…うっ……。
そう言って儚く泣かれては行けなくなった。王妃の言うことは最もだと思ったから。だが、最近大臣たちがあまりにも自慢するから自分も行きたくなってしまったのだ。
「畏まりました、陛下」
王の尋常ではない冷や汗と目の前の厚かましい小娘に自分まで冷や汗が出てくる公爵が速やかに答えた。
王とわかれ、公爵家の馬車までエスコートする公爵は隣のアリスをちらっと見る。先程はてんやわんやでよく見ていなかったが。これだけの美貌を見るのは久しぶりだ。あれは……
「アリス様。エレナ様はお元気ですか?」
そう、母であるエレナだ。
「公爵は母とお知り合いでしたか?」
「いえ、ガルベラ王国に伺った際お見かけしただけです。他のご令嬢にちょっかいをかける男性に股間に見事な一撃を食らわしておりました」
美しさに見とれた途端起こった出来事に、思わず大事なところを隠してしまったのをよく覚えている。
それにしても、なぜ公爵家に来たいのか?それもこんな早急に。王を脅してまで……普通ではありえない。
公爵は気づく。あの噂がデマだと。無能などととんでもない。蔑まれてる?ありえない。これだけの剛胆な娘を嫌うような女帝ではない。ずば抜けた才能を持つ夫もその子達も。
何しに来る?ぐるぐると頭を回転させるが全くわからない。しかし、その表情は人に食われぬ大臣にふさわしい顔つきへと変わっていた。
アリスは微笑む。
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でも、
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