公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
25 / 169

25. 大掃除③

しおりを挟む
 セイラの言葉に唖然としていた女は、はっとすると再び叫んだ。

「でもっ!以前嫌がるあの女に宝石をリリア様に譲るように言っていたじゃないですか!」

 まだ言うか!!あの女って言うべきでないとなぜわからない!それにリリア、リリアと何度も自分の名前を出さないでほしい。

「「「……?」」」 

 カサバイン家の面々は皆不思議そうな顔をしている。

「あの……たぶん私がアリスが作った魔法石を欲しがったときのことだと思います……」

「「ああ!アリスが本物のルビーを渡そうとしていたやつね!!」」

「えっ……?えっ!?魔法石?本物?」

 焦る使用人を嘲るように見る周囲。

「はっ!お前、本物と偽物の違いもわからないのか」

「あら、女性をそのように笑うものじゃないわよ」

 と言いつつ、口元も目も愉しそうに笑みの形になっているエミリア。

「仕方ないわよ。アリスが魔法で作る魔法石はすごい出来だもの。魔力も宿ってるからかなり高い値段で売れるレベルよ」

「下手したら宝石よりも価値があるぞ。まあ本人は宝石のほうが価値があると思ってるからリリアを思って本物を譲ろうとしていたんだろうな」

「あの子は賢いし世の中もよく見てるけど、魔法石の価値を重視してないからね。本人に膨大な魔力があるからそんなものを欲しがる人間が理解できないのよね。それに比べてあなたはよく理解できるものね」

 じっと視線を向けられビクッとするリリア。ちなみに魔法石は魔法で生み出した宝石みたいなものだ。アクセサリーとしても需要が高いが、壊すと魔力が一時的に上がる効果もある。

「恐縮です」

 図々しいと言われているようで思わず下に視線が向く。

「やっぱり!!!」

 一際大きい声がした。使用人の女だ。

「やっぱりあの女よりリリア様の方が可愛いんじゃないですか!!!」

 どうしてそうなる。もう辞めてほしい。リリアの目尻に涙がたまる。

「だって……だって!リリア様に価値のある方を渡すように言ってたじゃないですか!!」

 皆近くにいるものと顔を見合わす。

 ーーーーー頭が悪すぎる。

 今までの会話でどうしてそう思うのか。二人がアリスに魔法石の方をあげるように言ったのはアリスの魔力は国内一。魔力が宿ったアクセサリーを持っているよりも宝石を持っている方が社交場で身につけられる。それにアリスが勧めていたのは本人が気に入っているものだった。

 それに、リリアの顔色が先程から悪いのが女には見えないのか。本当に見る目のない女。

「そうね」

 皆が声の方をばっと見た。エミリアだ。

「あら!もちろんアリスの方が可愛いわよ。だけど、リリアだってそれなりに可愛いわよ。だって……血のつながった妹だもの」

 言っていることはまともだ。まともなんだが皆は思った。お前が言うか?と。

「ねえ皆?」

「あっああ……。てか普通」

「まあ、普通」

「うん、普通に」
 
 普通。リリアの顔色が普段通りの色に戻った。彼らは別に彼女を冷遇しているわけではない。

 男衆からはまあ……普通の妹のように扱われた?使用人たちはアリスへの言動と比べて優しかったと言うが、言い換えれば厳しくする必要がないのだ。だってどんな人間になろうともどうでも良いから。

 女衆とは会えば喋るし、プレゼントだってくれる。……まあ、彼女たちにとって不要なものばかりだが。中には髪の毛とかラブレターとか入ってるものもあった……一体誰からもらったものなのか。まあ売ってしまえば金になるので受け取っている。

 妹扱いと言ってよいのか微妙なところ。

 エミリアだって、リリアを嫌いなわけではない。恨んでいるわけでもない。もちろん好きでもないが。何せ大きくなってからの不倫とか生理的に受け付けない。とはいうもののリリアを責めるのは違うと理解している。
 
 お菓子に関しては……まあ、単純にもったいないということもある。そして、エミリアは国一と言われる治癒士。魔法だけでなく薬の開発も手掛けている。毒、異物に効果を発揮する薬を開発するためにはまず毒、異物による症状を見なければわからない。

 そんなわけでリリアを実験台にして、毒に対する症状を観察していた。笑っていたのは……新しい薬ができるかもという期待から。

 かなり危ないやつ。基本的に笑顔だし優しい。しかし、治癒に関しての知識を求める意欲が強すぎた。

 リリアにとって地獄だったが、エミリアが意地悪でしたわけではないのはわかっていた。ただ大事にする存在ではなかっただけ。最初は怖かったが、何か慣れてしまった。最終的には治してくれるし。

 それにリリアはただでやっていたわけではない。彼女のお陰で開発された薬の売上の一部をもらう契約を結んでいた。

 リリアは泣き寝入りするだけの女ではなかった。

 意外と強かだった。



 使用人の女に話を戻そう。女は先程まで全く話が通じなかったのに普通発言を聞き、急に現実が見えた。

 しかし、諦めない。それが愚者というものだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

貴方に側室を決める権利はございません

章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。 思い付きによるショートショート。 国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

処理中です...