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「さて、どこから話そうかな。お二人は今回の件、どこまで聞いてる?」
「自分は、総理大臣が行方不明というところまでは」
総理大臣が行方不明?何それ?
「そう。日下部君は?」
「私は何も…。会議にも出ていませんので」
「そうか。じゃあ、最初から説明したほうがいいね」
野々村係長はおっとりとした声でゆっくりと話しだした。
事の発端は、本日の日の出と共に、正確な時間で言えば午前5時22分、SNSに投稿された「新しい1日」というタイトルの動画だった。もちろん、そんな時間の投稿なので、最初の頃の閲覧数は20人余り。しかしその内容が衝撃的すぎて、午前7時過ぎには再生回数は1億を超えた。
実際に動画を観てみよう、という話になったが、今度は総務にパソコンを借りに行く羽目になった…。
最初に画面に映し出されたのは、白髪でこれまた真っ白の立派な髭のある男性であった。国民がよく知る人物だ。先月、ノーベル賞を受賞したばかりで、連日メディアに顔を出している。白髪と髭が特徴的で、丸眼鏡に大柄な身体付き。フライドチキンで有名なオジさんに良く似ている為、印象的だ。
山田太郎。名前も覚えやすい。
彼の専門は地質学で、東大の名誉教授でもある。私も学生時代、友人に誘われて、興味本位で彼の講義を受けた記憶がある。
山田教授は画面中央に置かれた椅子に座り、語り始めた。
「これから私が話す事は、全てが事実であると、話を聞き終えれば御理解頂けますでしょう。皆様も御存知のとおり、私は先日、ノーベル賞をいただいたばかりなので、自己紹介は省きましょう。先ずはこちらをご覧ください」
画面が切り替わる。
1995年 1月17日 午前5時46分。
街の彼方此方で建物が倒壊し、高速道路が崩れ落ちている。奥手では火が上がっている。
阪神淡路大震災の映像だ。
また画面が切り替わる。
2004年 10月23日 午後5時56分。
こちらも彼方此方で建物が倒壊している。
新潟県中越大震災だ。
…画面が切り替わる。
2011年 3月11日 午後2時46分。
まだ記憶に新しい…。東日本大震災だ。
次の映像。
2011年 3月12日 午前3時59分。
…これは?
「栄村だ」朝倉さんが言う。
「栄村、ですか?」
「長野県北部で起こった地震でね。マグニチュードは6.7。本地震以外にも一時間以内に震度6弱の地震が2回もあったんだが、奇跡的に死傷者はゼロ。東日本大震災のすぐあとだったし、死傷者ゼロということもあって、あまり大きくは取り上げられていないし、被災者の方には申し訳ないけど、覚えている人もあまりいないんじゃあないかな」
係長がおっとりとした声で言ったが、係長の表情を見て、一瞬ビクッとした。声とは裏腹に険しい顔をしている。
震災の映像が終わり、再び山田教授が映し出される。
「今ご覧頂いた映像は、日本で平成の時代に起きた大震災と呼ばれる映像です。記憶に新しい方も多いと思いますが、最後にご覧頂いた、映像。これは、あまり見慣れないかたも多いかと、思います。最後の映像は、長野県の北部の新潟県との県境に位置する、栄村という場所で起きた地震です。マグニチュードは6.7、一時間以内に本地震以外で二回に渡る震度6弱の地震でしたが、奇跡的にも、この震災での死傷者はゼロでした」
大震災の映像。これが総理大臣の失踪にどう繋がるのだろうか。
「阪神淡路大震災での死者は6434名。負傷者43762名。新潟県中越大震災では死者68名
負傷者4700名。東日本大震災においては、1万5千名以上の死者、2千5百名以上の行方不明者。負傷者は6千名以上になります」
画面に細かい数字が表示される。
「では、何故、栄村の震災では負傷者がゼロで、何故、負傷者ゼロという奇跡があったにも関わらず、ほとんど報道されていないのか。その答えは、もう一つ、映像を観ていただいてからにしましょう」
また画面が切り替わる。
2017年 7月7日 午前 4時52分。
コンクリートの道路が大きく割れ、彼方此方で建物が倒壊し、火の手が上がっている。
道路の割れも、ヒビ割れなどという比ではない。最早、地割れだ。海外の映画で見るような光景。朝方の時間帯のせいか、薄暗いなかで上がっている炎が不気味に見える。
何これ…。
「皆様、ご覧頂けましたか。これだけの規模の地震があったにも関わらず、この震災でも死傷者はゼロでした。では、先程の疑問に戻りましょう。栄村の震災、今ご覧頂いた映像の震災も然り、死傷者はゼロです。では何故そのような奇跡が起こり得るのか」
この規模で?いや、ちょっと待って、それより…
「それは、政府が把握していたのです。地震が来ることを。そう。地震はいつ、どこで、どれくらいの規模で起こるのか。現代の科学において、正確な地震の予知は可能なのです」
いや、そうじゃなくて、今の地震の映像の日付け。2017年7月7日って…
今日の日付け。
「自分は、総理大臣が行方不明というところまでは」
総理大臣が行方不明?何それ?
「そう。日下部君は?」
「私は何も…。会議にも出ていませんので」
「そうか。じゃあ、最初から説明したほうがいいね」
野々村係長はおっとりとした声でゆっくりと話しだした。
事の発端は、本日の日の出と共に、正確な時間で言えば午前5時22分、SNSに投稿された「新しい1日」というタイトルの動画だった。もちろん、そんな時間の投稿なので、最初の頃の閲覧数は20人余り。しかしその内容が衝撃的すぎて、午前7時過ぎには再生回数は1億を超えた。
実際に動画を観てみよう、という話になったが、今度は総務にパソコンを借りに行く羽目になった…。
最初に画面に映し出されたのは、白髪でこれまた真っ白の立派な髭のある男性であった。国民がよく知る人物だ。先月、ノーベル賞を受賞したばかりで、連日メディアに顔を出している。白髪と髭が特徴的で、丸眼鏡に大柄な身体付き。フライドチキンで有名なオジさんに良く似ている為、印象的だ。
山田太郎。名前も覚えやすい。
彼の専門は地質学で、東大の名誉教授でもある。私も学生時代、友人に誘われて、興味本位で彼の講義を受けた記憶がある。
山田教授は画面中央に置かれた椅子に座り、語り始めた。
「これから私が話す事は、全てが事実であると、話を聞き終えれば御理解頂けますでしょう。皆様も御存知のとおり、私は先日、ノーベル賞をいただいたばかりなので、自己紹介は省きましょう。先ずはこちらをご覧ください」
画面が切り替わる。
1995年 1月17日 午前5時46分。
街の彼方此方で建物が倒壊し、高速道路が崩れ落ちている。奥手では火が上がっている。
阪神淡路大震災の映像だ。
また画面が切り替わる。
2004年 10月23日 午後5時56分。
こちらも彼方此方で建物が倒壊している。
新潟県中越大震災だ。
…画面が切り替わる。
2011年 3月11日 午後2時46分。
まだ記憶に新しい…。東日本大震災だ。
次の映像。
2011年 3月12日 午前3時59分。
…これは?
「栄村だ」朝倉さんが言う。
「栄村、ですか?」
「長野県北部で起こった地震でね。マグニチュードは6.7。本地震以外にも一時間以内に震度6弱の地震が2回もあったんだが、奇跡的に死傷者はゼロ。東日本大震災のすぐあとだったし、死傷者ゼロということもあって、あまり大きくは取り上げられていないし、被災者の方には申し訳ないけど、覚えている人もあまりいないんじゃあないかな」
係長がおっとりとした声で言ったが、係長の表情を見て、一瞬ビクッとした。声とは裏腹に険しい顔をしている。
震災の映像が終わり、再び山田教授が映し出される。
「今ご覧頂いた映像は、日本で平成の時代に起きた大震災と呼ばれる映像です。記憶に新しい方も多いと思いますが、最後にご覧頂いた、映像。これは、あまり見慣れないかたも多いかと、思います。最後の映像は、長野県の北部の新潟県との県境に位置する、栄村という場所で起きた地震です。マグニチュードは6.7、一時間以内に本地震以外で二回に渡る震度6弱の地震でしたが、奇跡的にも、この震災での死傷者はゼロでした」
大震災の映像。これが総理大臣の失踪にどう繋がるのだろうか。
「阪神淡路大震災での死者は6434名。負傷者43762名。新潟県中越大震災では死者68名
負傷者4700名。東日本大震災においては、1万5千名以上の死者、2千5百名以上の行方不明者。負傷者は6千名以上になります」
画面に細かい数字が表示される。
「では、何故、栄村の震災では負傷者がゼロで、何故、負傷者ゼロという奇跡があったにも関わらず、ほとんど報道されていないのか。その答えは、もう一つ、映像を観ていただいてからにしましょう」
また画面が切り替わる。
2017年 7月7日 午前 4時52分。
コンクリートの道路が大きく割れ、彼方此方で建物が倒壊し、火の手が上がっている。
道路の割れも、ヒビ割れなどという比ではない。最早、地割れだ。海外の映画で見るような光景。朝方の時間帯のせいか、薄暗いなかで上がっている炎が不気味に見える。
何これ…。
「皆様、ご覧頂けましたか。これだけの規模の地震があったにも関わらず、この震災でも死傷者はゼロでした。では、先程の疑問に戻りましょう。栄村の震災、今ご覧頂いた映像の震災も然り、死傷者はゼロです。では何故そのような奇跡が起こり得るのか」
この規模で?いや、ちょっと待って、それより…
「それは、政府が把握していたのです。地震が来ることを。そう。地震はいつ、どこで、どれくらいの規模で起こるのか。現代の科学において、正確な地震の予知は可能なのです」
いや、そうじゃなくて、今の地震の映像の日付け。2017年7月7日って…
今日の日付け。
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