50 / 76
聖女暗殺編
第50話 隠された場所(1)
しおりを挟む
宿屋でラテラと話していた俺だったが、あの後は特に中身のない雑談をしてその日を終えた。
夕食の時間だったこともあり、ラテラも直ぐに帰っていったのだ。
何事もなく翌日を迎え、俺は図書館へと来ていた。
聖女に関する情報収集が目的だった。
図書館の入場に制限はない。身分証の提示を求められることもなく、スムーズに入場することが出来るのだ。
ちなみに図書館は巨大だ。
宿屋とは城を挟んで正反対の位置関係にあった為、はじめは気付かなかった。だが、今まで見てきたどの店たちよりも大きいだろう。
当然城には及ばないが、地球で見た図書館と比べても遜色ない様子だった。
幾度となく訪れた場所なので、もう慣れたものだ。
俺が探すのは聖女に関する本だ。
図書館内部をほとんど回ったことがある為、目当ての本がどの辺りにあるのかは感覚で理解できる。
俺はそのまま階段へ向かい、図書館の2階へと上がった。
左に曲がって、更に左に曲がれば目当ての場所へと着くのだが──そこで、あることに気が付いた。
右側に、俺の行ったことのないスペースがあったのだ。
確かに図書館内の本棚波全て見て回ったはずだった。
それにも関わらず、何故かあそこだけは行ったことが無かった。
理由は分からないが、自ら避けていたような気がする。
そんな場所が今更気になってしまった。
俺は左へ行くことを辞め、右に曲がる。
目当ての本がある場所では無いが、それは疑問を解決してからでも良いだろう。
本棚まで辿り着く。
ただの図書館なので何かに阻まれることもなく、アッサリと目的地へは着いてしまった。
その本棚にある本を見るが──特に変わった本があるわけではない。
ほとんどが歴史に関する本だ。
勇者史やギルドの歴史、大陸間での交流など、ちょっと調べれば誰でも知れるようなことばかりがタイトルにされている。
だが、その中に1冊だけ、異質な本があった。
『女神について』
と表紙に書かれた本だ。
見た目が異質というわけではなく、”女神”がタイトルに入る本が少ないから俺の目に止まっただけなのだが。
弱点などが書いてあるはずもないが、一応読んでおこうとだけは思い、本を手にとった。
すると、その本の奥にボタンのようなものを見つけたのだ。
なんというか、よくあるあからさまな隠し部屋への入口のように見えた。
俺は何も気にせずそのボタンに触れた。
・ ・ ・
視界が暗転したかと思うと、次の瞬間には妙に柔らかい地面に立っていた。
───ここは?
先程までの図書館の床とは違う質感に疑問を覚えるも、本棚裏の魔法陣が何か影響しているであろうことは予測できた。
何より、この感覚を俺は知っていた。
───これは…転移。
俺が初めて異世界に来たときに、女神に使われた魔法。形容し難いその感覚は、今でも鮮明に覚えている。
そんなことを考えていると、だんだんと視点が定まってくる。急に景色が変わる光景に慣れていないからか、目がチカチカとするのは仕方ないだろう。
「部屋?」
視界に映ったのは、木製の机と椅子、そして小さな本棚。足元を見下ろすと、柔らかさの正体がカーペットであったことに気づく。
周りは壁で囲まれており、後ろには扉がない。仕事部屋か何かだろうと思える程度の部屋だった。
人は──いない。
何かの罠の類かとも思ったが、そういう雰囲気ではない。何より、俺の前には扉があった。
入り口はここだけです、とでも言うかのような扉。進むにも、戻るにも、この扉を開けることは避けては通れないだろう。
───人がいるなら交渉。いないならば颯爽と立ち去りたいな。
前に進む。
扉は真っ直ぐと進めば直ぐにつく位置にある。
何の変哲もない扉だ。
部屋の雰囲気にあった、やや黒い木の扉。
どことなくログハウスの内装っぽい。
もしかしたら、この扉を開けたら外界かもしれない。ただただ、ログハウスを挟んだ転移の可能性もある。
そんな希望を胸に、扉に手をかける。
ガチャッ
魔術師ギルドの入り口の扉に比べれば、驚くほど軽い調子で扉は開いた。
視界が一気に開け、そこには光が映し出される。
ログハウスなどでは決してなかった。
俺の目に映ったもの。それは言うなれば、
「白亜の神殿…」
まさに、神話の造形物。
扉一枚隔て、一気に広がる空間。
横50メートル、奥行き50メートル、そして高さは15メートルほどある。
扉から奥に続く道には、幅7メートルほどの赤いカーペットが敷かれている。
道の横には繊細な彫刻が彫られた柱があり、天井を支えていた。
天井を見上げれば、そこには青と赤のガラスが張られていた。天使や悪魔がガラスには細工として描かれている。
光源はないが、宮殿は全体的に明るい。魔法の光か何かだろう。
赤いカーペットの先には、少しの階段と、玉座がある。
玉座は白と金を織り成して作られており、あれ一つでもいくらするのか、想像もつかない。
───なぜ?
小さな部屋を出たら、神話の世界にいた。
原因は、分からない。
図書館の内部にこんな巨大な神殿が入るほどのスペースは無かったはずだ。
───つまり、図書館の内部ではない。
教会と言うにはあまりに趣味が悪すぎる。
石像やら彫刻やらは端に多く置かれているが、その多くは生物を象ったものなのだ。
ただ、どれも驚くほど繊細で、丁寧な作りである。この空間にある全てが、柱も、カーペットも、玉座も、それらすべてが美しい。
まさに、美の結集なのだ。
───なのに、人一人いない。
こんなところに、俺が一人でいる事はあまりにも不自然だ。いくら迷い込んだとはいえ、いつつまみ出されてもおかしくない。
なのに、誰も声をかけてこない。
いや、声をかける者がいない。
この場にいるのは俺のみ。どんな異常事態が起きているか、どんな罠かも分からない。
何より、幻覚の類を疑うほどだ。
瞬間、轟と風が吹く。
後ろの扉から、突如として強風が俺を煽った。
その強風が俺を前に突き出し、転びそうになるも、右足を踏み出すことで耐え抜く。
「勇敢なる者よ、よくぞ参られた」
少年のような、それでもってどこか威厳のあるような、そんな不思議な声がかけられる。
方向は、前。
先程まで誰もいなかった玉座には、今は一人の少年がいた。
あまりにも突然に、彼は現れた。
夕食の時間だったこともあり、ラテラも直ぐに帰っていったのだ。
何事もなく翌日を迎え、俺は図書館へと来ていた。
聖女に関する情報収集が目的だった。
図書館の入場に制限はない。身分証の提示を求められることもなく、スムーズに入場することが出来るのだ。
ちなみに図書館は巨大だ。
宿屋とは城を挟んで正反対の位置関係にあった為、はじめは気付かなかった。だが、今まで見てきたどの店たちよりも大きいだろう。
当然城には及ばないが、地球で見た図書館と比べても遜色ない様子だった。
幾度となく訪れた場所なので、もう慣れたものだ。
俺が探すのは聖女に関する本だ。
図書館内部をほとんど回ったことがある為、目当ての本がどの辺りにあるのかは感覚で理解できる。
俺はそのまま階段へ向かい、図書館の2階へと上がった。
左に曲がって、更に左に曲がれば目当ての場所へと着くのだが──そこで、あることに気が付いた。
右側に、俺の行ったことのないスペースがあったのだ。
確かに図書館内の本棚波全て見て回ったはずだった。
それにも関わらず、何故かあそこだけは行ったことが無かった。
理由は分からないが、自ら避けていたような気がする。
そんな場所が今更気になってしまった。
俺は左へ行くことを辞め、右に曲がる。
目当ての本がある場所では無いが、それは疑問を解決してからでも良いだろう。
本棚まで辿り着く。
ただの図書館なので何かに阻まれることもなく、アッサリと目的地へは着いてしまった。
その本棚にある本を見るが──特に変わった本があるわけではない。
ほとんどが歴史に関する本だ。
勇者史やギルドの歴史、大陸間での交流など、ちょっと調べれば誰でも知れるようなことばかりがタイトルにされている。
だが、その中に1冊だけ、異質な本があった。
『女神について』
と表紙に書かれた本だ。
見た目が異質というわけではなく、”女神”がタイトルに入る本が少ないから俺の目に止まっただけなのだが。
弱点などが書いてあるはずもないが、一応読んでおこうとだけは思い、本を手にとった。
すると、その本の奥にボタンのようなものを見つけたのだ。
なんというか、よくあるあからさまな隠し部屋への入口のように見えた。
俺は何も気にせずそのボタンに触れた。
・ ・ ・
視界が暗転したかと思うと、次の瞬間には妙に柔らかい地面に立っていた。
───ここは?
先程までの図書館の床とは違う質感に疑問を覚えるも、本棚裏の魔法陣が何か影響しているであろうことは予測できた。
何より、この感覚を俺は知っていた。
───これは…転移。
俺が初めて異世界に来たときに、女神に使われた魔法。形容し難いその感覚は、今でも鮮明に覚えている。
そんなことを考えていると、だんだんと視点が定まってくる。急に景色が変わる光景に慣れていないからか、目がチカチカとするのは仕方ないだろう。
「部屋?」
視界に映ったのは、木製の机と椅子、そして小さな本棚。足元を見下ろすと、柔らかさの正体がカーペットであったことに気づく。
周りは壁で囲まれており、後ろには扉がない。仕事部屋か何かだろうと思える程度の部屋だった。
人は──いない。
何かの罠の類かとも思ったが、そういう雰囲気ではない。何より、俺の前には扉があった。
入り口はここだけです、とでも言うかのような扉。進むにも、戻るにも、この扉を開けることは避けては通れないだろう。
───人がいるなら交渉。いないならば颯爽と立ち去りたいな。
前に進む。
扉は真っ直ぐと進めば直ぐにつく位置にある。
何の変哲もない扉だ。
部屋の雰囲気にあった、やや黒い木の扉。
どことなくログハウスの内装っぽい。
もしかしたら、この扉を開けたら外界かもしれない。ただただ、ログハウスを挟んだ転移の可能性もある。
そんな希望を胸に、扉に手をかける。
ガチャッ
魔術師ギルドの入り口の扉に比べれば、驚くほど軽い調子で扉は開いた。
視界が一気に開け、そこには光が映し出される。
ログハウスなどでは決してなかった。
俺の目に映ったもの。それは言うなれば、
「白亜の神殿…」
まさに、神話の造形物。
扉一枚隔て、一気に広がる空間。
横50メートル、奥行き50メートル、そして高さは15メートルほどある。
扉から奥に続く道には、幅7メートルほどの赤いカーペットが敷かれている。
道の横には繊細な彫刻が彫られた柱があり、天井を支えていた。
天井を見上げれば、そこには青と赤のガラスが張られていた。天使や悪魔がガラスには細工として描かれている。
光源はないが、宮殿は全体的に明るい。魔法の光か何かだろう。
赤いカーペットの先には、少しの階段と、玉座がある。
玉座は白と金を織り成して作られており、あれ一つでもいくらするのか、想像もつかない。
───なぜ?
小さな部屋を出たら、神話の世界にいた。
原因は、分からない。
図書館の内部にこんな巨大な神殿が入るほどのスペースは無かったはずだ。
───つまり、図書館の内部ではない。
教会と言うにはあまりに趣味が悪すぎる。
石像やら彫刻やらは端に多く置かれているが、その多くは生物を象ったものなのだ。
ただ、どれも驚くほど繊細で、丁寧な作りである。この空間にある全てが、柱も、カーペットも、玉座も、それらすべてが美しい。
まさに、美の結集なのだ。
───なのに、人一人いない。
こんなところに、俺が一人でいる事はあまりにも不自然だ。いくら迷い込んだとはいえ、いつつまみ出されてもおかしくない。
なのに、誰も声をかけてこない。
いや、声をかける者がいない。
この場にいるのは俺のみ。どんな異常事態が起きているか、どんな罠かも分からない。
何より、幻覚の類を疑うほどだ。
瞬間、轟と風が吹く。
後ろの扉から、突如として強風が俺を煽った。
その強風が俺を前に突き出し、転びそうになるも、右足を踏み出すことで耐え抜く。
「勇敢なる者よ、よくぞ参られた」
少年のような、それでもってどこか威厳のあるような、そんな不思議な声がかけられる。
方向は、前。
先程まで誰もいなかった玉座には、今は一人の少年がいた。
あまりにも突然に、彼は現れた。
0
お気に入りに追加
1,101
あなたにおすすめの小説
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ネタバレ異世界 ~最強チートスキル【心を読む】で第一話からオチを知ってしまった生ポ民の俺が仕方なくストーリーを消化して全世界を救う件について
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
伊勢海地人(いせかいちーと)は、異世界でチート無双する事を夢見る生活保護家庭の貧民。
ある日、念願の異世界行きを果たした彼が引き当てたスキルは、他者の心を読む能力だった!
【心を読む】能力が災いして異世界に飛ばされる前から世界観のネタバレを食らったチートは、やや興ざめしながらも異世界に挑む。
戦闘力ゼロ、ルックスゼロ、職歴ゼロの三重苦をものともせずに【心を読む】ことでのみ切り抜ける新天地での生活。
解体屋、ゴミ処理業者、ヤクザへの利益供与、賞金目当ての密告と社会の底辺を軽やかに這いずり回る。
底辺生活系異世界冒険譚。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
(完結)私の夫を奪う姉
青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・
すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。
私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?
樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」
エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。
他に好きな女ができた、と彼は言う。
でも、それって本当ですか?
エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?
ほんわりゲームしてます I
仲村 嘉高
ファンタジー
※本作は、長編の為に分割された1話〜505話側になります。(許可済)
506話以降を読みたい方は、アプリなら作者名から登録作品へ、Webの場合は画面下へスクロールするとある……はず?
───────────────
友人達に誘われて最先端のVRMMOの世界へ!
「好きな事して良いよ」
友人からの説明はそれだけ。
じゃあ、お言葉に甘えて好きな事して過ごしますか!
そんなお話。
倒さなきゃいけない魔王もいないし、勿論デスゲームでもない。
恋愛シミュレーションでもないからフラグも立たない。
のんびりまったりと、ゲームしているだけのお話です。
R15は保険です。
下ネタがたまに入ります。
BLではありません。
※作者が「こんなのやりたいな〜」位の軽い気持ちで書いてます。
着地点(最終回)とか、全然決めてません。
(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私
青空一夏
恋愛
私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。
妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・
これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。
※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。
※ショートショートから短編に変えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる