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聖女暗殺編

第50話 隠された場所(1)

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 宿屋でラテラと話していた俺だったが、あの後は特に中身のない雑談をしてその日を終えた。

 夕食の時間だったこともあり、ラテラも直ぐに帰っていったのだ。

 何事もなく翌日を迎え、俺は図書館へと来ていた。

 聖女に関する情報収集が目的だった。

 図書館の入場に制限はない。身分証の提示を求められることもなく、スムーズに入場することが出来るのだ。

 ちなみに図書館は巨大だ。

 宿屋とは城を挟んで正反対の位置関係にあった為、はじめは気付かなかった。だが、今まで見てきたどの店たちよりも大きいだろう。
 当然城には及ばないが、地球で見た図書館と比べても遜色ない様子だった。

 幾度となく訪れた場所なので、もう慣れたものだ。

 俺が探すのは聖女に関する本だ。

 図書館内部をほとんど回ったことがある為、目当ての本がどの辺りにあるのかは感覚で理解できる。

 俺はそのまま階段へ向かい、図書館の2階へと上がった。

 左に曲がって、更に左に曲がれば目当ての場所へと着くのだが──そこで、あることに気が付いた。

 右側に、俺の行ったことのないスペースがあったのだ。

 確かに図書館内の本棚波全て見て回ったはずだった。
 それにも関わらず、何故かあそこだけは行ったことが無かった。

 理由は分からないが、自ら避けていたような気がする。
 そんな場所が今更気になってしまった。

 俺は左へ行くことを辞め、右に曲がる。

 目当ての本がある場所では無いが、それは疑問を解決してからでも良いだろう。

 本棚まで辿り着く。

 ただの図書館なので何かに阻まれることもなく、アッサリと目的地へは着いてしまった。

 その本棚にある本を見るが──特に変わった本があるわけではない。

 ほとんどが歴史に関する本だ。

 勇者史やギルドの歴史、大陸間での交流など、ちょっと調べれば誰でも知れるようなことばかりがタイトルにされている。

 だが、その中に1冊だけ、異質な本があった。


 『女神について』


 と表紙に書かれた本だ。

 見た目が異質というわけではなく、”女神”がタイトルに入る本が少ないから俺の目に止まっただけなのだが。

 弱点などが書いてあるはずもないが、一応読んでおこうとだけは思い、本を手にとった。

 すると、その本の奥にボタンのようなものを見つけたのだ。

 なんというか、よくあるあからさまな隠し部屋への入口のように見えた。

 俺は何も気にせずそのボタンに触れた。




・     ・     ・




 視界が暗転したかと思うと、次の瞬間には妙に柔らかい地面に立っていた。

───ここは?

 先程までの図書館の床とは違う質感に疑問を覚えるも、本棚裏の魔法陣が何か影響しているであろうことは予測できた。

 何より、この感覚を俺は知っていた。

───これは…転移。

 俺が初めて異世界に来たときに、女神に使われた魔法。形容し難いその感覚は、今でも鮮明に覚えている。

 そんなことを考えていると、だんだんと視点が定まってくる。急に景色が変わる光景に慣れていないからか、目がチカチカとするのは仕方ないだろう。

「部屋?」

 視界に映ったのは、木製の机と椅子、そして小さな本棚。足元を見下ろすと、柔らかさの正体がカーペットであったことに気づく。

 周りは壁で囲まれており、後ろには扉がない。仕事部屋か何かだろうと思える程度の部屋だった。

 人は──いない。

 何かの罠の類かとも思ったが、そういう雰囲気ではない。何より、俺の前には扉があった。

 入り口はここだけです、とでも言うかのような扉。進むにも、戻るにも、この扉を開けることは避けては通れないだろう。

───人がいるなら交渉。いないならば颯爽と立ち去りたいな。

 前に進む。

 扉は真っ直ぐと進めば直ぐにつく位置にある。

 何の変哲もない扉だ。
 部屋の雰囲気にあった、やや黒い木の扉。

 どことなくログハウスの内装っぽい。
 もしかしたら、この扉を開けたら外界かもしれない。ただただ、ログハウスを挟んだ転移の可能性もある。

 そんな希望を胸に、扉に手をかける。

 ガチャッ

 魔術師ギルドの入り口の扉に比べれば、驚くほど軽い調子で扉は開いた。


 視界が一気に開け、そこには光が映し出される。

 ログハウスなどでは決してなかった。

 俺の目に映ったもの。それは言うなれば、

「白亜の神殿…」

 まさに、神話の造形物。

 扉一枚隔て、一気に広がる空間。
 横50メートル、奥行き50メートル、そして高さは15メートルほどある。
 扉から奥に続く道には、幅7メートルほどの赤いカーペットが敷かれている。
 道の横には繊細な彫刻が彫られた柱があり、天井を支えていた。

 天井を見上げれば、そこには青と赤のガラスが張られていた。天使や悪魔がガラスには細工として描かれている。

 光源はないが、宮殿は全体的に明るい。魔法の光か何かだろう。

 赤いカーペットの先には、少しの階段と、玉座がある。
 玉座は白と金を織り成して作られており、あれ一つでもいくらするのか、想像もつかない。

───なぜ?

 小さな部屋を出たら、神話の世界にいた。
 原因は、分からない。

 図書館の内部にこんな巨大な神殿が入るほどのスペースは無かったはずだ。

───つまり、図書館の内部ではない。

 教会と言うにはあまりに趣味が悪すぎる。
 石像やら彫刻やらは端に多く置かれているが、その多くは生物を象ったものなのだ。

 ただ、どれも驚くほど繊細で、丁寧な作りである。この空間にある全てが、柱も、カーペットも、玉座も、それらすべてが美しい。
 まさに、美の結集なのだ。

───なのに、人一人いない。

 こんなところに、俺が一人でいる事はあまりにも不自然だ。いくら迷い込んだとはいえ、いつつまみ出されてもおかしくない。

 なのに、誰も声をかけてこない。

 いや、声をかける者がいない。

 この場にいるのは俺のみ。どんな異常事態が起きているか、どんな罠かも分からない。

 何より、幻覚の類を疑うほどだ。

    瞬間、轟と風が吹く。

 後ろの扉から、突如として強風が俺を煽った。
 その強風が俺を前に突き出し、転びそうになるも、右足を踏み出すことで耐え抜く。

「勇敢なる者よ、よくぞ参られた」

 少年のような、それでもってどこか威厳のあるような、そんな不思議な声がかけられる。
 方向は、前。

 先程まで誰もいなかった玉座には、今は一人の少年がいた。

 あまりにも突然に、彼は現れた。
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