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第九部:大結界の中心

地下遺構の探し方

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「作り替えると言っても土地を弄るんじゃ無くて魔法的にですけどね。出来るというか、すでに進行中で、いや正直に言えばかなり進んでます」
「本当なんだ...」
「まあ信じ難いとは思いますけど」

「信じるけどさ。ただ、アルファニアにとってもそんな大事なら、国王陛下に話して動いて貰う方が良いんじゃ無いかな? 僕はコレでも一応は王宮に出入りできる立場だし、なんならこれから陛下に話してきてもいいけど?」

パジェス先生は、『一応は王宮に出入りできる立場』だなんて言ってるけど、謁見の申し込みもなしに今日これから国王に声を掛けられるのは、やっぱり普通の『非常勤の王宮魔道士』じゃあ無いな。
功績の高さから日常勤務を免除されてるだけで、実際にはトップに近い立場なんだろう。

「本来的にはそうなんでしょうけど、仮にアルファニアの国王陛下が協力を申し出てくださったとしても、やって頂けることが極端に少ないんですよ」
「その理由は教えて貰える?」
「俺たちの敵が、『魔獣使い』という二つ名を持つ大魔道士『エルスカイン』だからです」
「エルスカイン...」
「ご存じですかパジェス先生?」

「名前と、ちょっとした話だけはね...って言うかさ、エルスカインと魔獣使いって同一人物だってこと?」

「ええそうです。人物って言うのは差し障りがありますけどね」
「どういう意味?」
「エルスカインは魔道士として知られてるけど、実際は人族じゃ無い。人ならざるモノだからです」
「え? 人じゃ無いって、じゃあエルスカインは何者?」

「分かりません。ですが俺たちはこれまでに、確実に人じゃ無いけど人と同じように振る舞えるって存在に出会った事がありますし、有る意味では、パジェス先生の隣に座ってるマリタンだってそうでしょう?」

「あぁ、それもそうだ!」

「もちろんエルスカインがマリタンみたいな『書籍』の一種だなんて思っていませんけど、いくつかの事象から『人ならざるモノ』だって考えざるを得ない存在なんですよ」
「なるほど」
「俺としては恐らく、マリタンが生まれた頃と同じ三千年前の古代の魔導技術に基づく存在じゃ無いかと思いますね」

「そうか...そうなるとかなりややこしい話だね。クライスさんが僕に告げることを躊躇ったのも理解できるよ」

「そう言って頂けると気が軽いです」

「ただねぇ...アルファニアの国民が大勢、命を落とすかも知れないような可能性を放置しておくことも出来ないし、正直、知っていて陛下に黙っているって言うのも気が引ける」
「でしょうね」
「だから最初は僕に言わずに済ませようとしたんだよね? それはそれで正解だったかも」
「もう言ってしまいましたね。すみませんパジェス先生」

「それはシンシア君の気持ちを楽にするためでしょ? 仕方ないさ」

どこまでも鋭い人だ。
姫様とはまた違う方向性で、絶対に叶わないって気がするよ・・・

パジェス先生は、手にしていたお茶のカップを静かにテーブルに置くと、俺の目を覗き込むようにして言葉を継いだ。

「僕も約束は守りたい。だからクライスさんが『誰にも何も教えるな』って言うなら、僕はそれには従うよ。ともかく、これから皆で一緒に王宮図書館へ行ってみるのはどうだろう?」

「ですが、さっき見せていただいた歴史書はもうお借りできるんですよね?」

「もちろんだけど、他にも参考になる資料が有ると思うし、いくつかの違う視点から見た情報を突き合わせた方が、クライスさんが探しているような遺構を見つけ易いと思うんだ」
「なるほど...」
「さっきも話したけど、坑道みたいな遺構があるとしたら十中八九、それは旧市街だよ? つまり古い建物が多くてゴチャゴチャと込み入ってる街並みだ。ま、僕は好きな地域だけどね」
「俺たちも、遺構があるとしたら旧市街だってのは分かってます」

って言うか、あの老錬金術師は魔石集積所の場所を『恐らく旧市街の地下に埋もれている遺構』だって言ってたもんな・・・
彼が集積所の場所を旧市街と断定していた理由は、パジェス先生と同じように『もし地下に遺構があるなら旧市街だろう』という判断、つまりラファレリアの成り立ちについて詳しいことを示唆しているように思える。

随分と昔の話だろうけど、やっぱりあの老錬金術師はかつてラファレリア在住だったんじゃないか?

「でもクライスさん、ある場所の地下に坑道が残されてると確信できたとしてさ、どうやって中を探るの? いくら勇者さまでも、人の家を勝手に壊して掘り返す訳には行かないでしょ?」

「それは勿論です。マリタンの使える魔法の中に、地面の下に埋まっているパイプや用水路みたいな空隙を探すためのモノがありますから、最初はそれで探ってみようと思います」
「へぇーっ、そんな魔法があるんだ!」

「ええ、それで場所が絞り込めたら、あとは俺の土魔法で細い穴をどこかから掘り進んで到達できれば、なんとかなるんじゃないかと...」

「うーん、魔法でコッソリ掘るわけねぇ...それはそれで面白そうだけど、かなり深く掘ることになると思うよ」
「やっぱりそうですか?」
「ああ、『ヤッパリ』って言うことは、クライスさんは他の場所の事例を知ってるんだね?」
「ええまあ。でも、ラファレリアはポルミサリアで一番古い都市だって聞いたので、ある程度は遺跡なんかも残っているのかと思ってました。」

「なにしろ世界戦争の時代には街全体が燃え尽きただの土砂に埋もれただの、挙げ句は周囲の山が崩れたなんた逸話も残ってる位なんだからね。ただ、古い街なのは確かで、だからこそ目に付くところにあった遺跡はもうあらかた掘り尽くされてるよ。クライスさんが探してるのは、坑道であれなんであれ『誰も存在を知らない遺構』だろうし、そうなると少々掘り下げたくらいで出てくるようなモノじゃ無いと思うな?」

「そうですね。どうしてもダメなら、そこの建物を買い取って取り壊し、本格的に発掘することも必要かも知れません」

俺としては、エルダンやウルベディヴィオラのように、密かに地上と繋がる出入口が有ってくれることを期待したいんだけど、あの老錬金術師の口ぶりでは、『転移門以外に出入りの方法が無い』ってこともありえるな・・・

あれ? でもその場合は、最初の転移門を開いた魔法使いはどうやって入り込んだんだろう?
普通に穴を掘り進んで、後から出入口を塞いだのか?

「シンシア君もいるから資金力はあるんだろうけど、そういうのは手続きも必要だし、時間が掛かるよ?」

「ですが、他に方法も無いように思えるんですよ」

「そうだな...こういう段取りはどうだろうクライスさん。僕から国王陛下に、エルスカインがアルファニアで騒動を起こそうとしてて、それを勇者が防ごうとしてるって話を個人的な話として告げるんだ。具体的なことはボカして、あくまでも非公式な話だって建前でね」

「非公式、ですか?」

「それで、もし『非公式でも勇者に会いたい』って陛下が言うなら会って直接話して貰えないかな? そうなれば当然、旧市街のどこを掘り返すのでも王命で実行できると思う。もちろん権利者への補償は必要だけど、それは王家としてやればいいことだし」
「大丈夫ですかね?」
「陛下が興味を持たないようなら僕もそれ以上は喋らないし、もしも陛下が自分の威信や権力を高めるために勇者を利用しようなんて思惑を見せるようだったら、この話は無かったことにする。まぁ、陛下の人柄からしてそんなことは絶対無いと思うけどさ」

確かにコレなら、パジェス先生としては危機を知りながら国王陛下には黙っていた、という状況を回避できる。
その場合、進言を無視したのは国王だからな。
旧市街の探索も王家のバックアップがあれば素早く進められるだろう。
これも非公式なら、国じゃ無くて王家個人としての行いってことで、面倒な手続きは後回しに出来る訳か。

「パジェス先生が言うなら、それもアリかなって思えてきましたよ」

「良かった、僕も少しはクライスさんに信頼して貰えたのかな? ともかくこれからみんなで図書館に行って関係しそうな資料を集めてみよう。それでシンシア君がそれを調べてる間に、僕はチョット国王陛下のところに顔を出してくるよ!」

非公式で個人的な話をするって理由で国王にすぐ会えるとか、パジェス先生ってホントどんだけトップクラスの人物なんだよ・・・
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