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第九部:大結界の中心

四者?会談

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「パジェス先生、勇者という存在をご存じでしょう?」
「うん勿論。え?」
「信じ難いとは思いますけど、俺がその勇者なんですよ。シンシアがシエラと友達になれたのも、そのことから始まった経緯なんです」

「なっ...まさか、そう来るとはね...」
「信じ難いとは思いますけど...」
「いや信じるよ。シンシア君と一緒に来たんだからね」

ワイバーンの背に乗ってラファレリアの空を飛ぶという希有な経験をしたばかりだからか、俺が勇者だと言うことを教えても、パジェス先生はそれほど動じなかった。

一応、すべてを秘密にしてくれと言う俺の御願いに承諾を貰って話し始めたんだけど、そもそもシンシアがワイバーンを手懐けているという尋常ならざる出来事からして、むしろ納得出来たそうだ。
そして、シエラがシンシアと行動を共にするようになった経緯の説明から、アプレイスとエスメトリスの話になると、明らかに興味がソッチに振られたのが分かる。

「じゃあ、クライスさんはドラゴンの背に乗って飛ぶこともあるんだ?」
「と言うか、いつも運んで貰ってますよ。彼は俺にとって無二の親友ですからね」
「凄いなぁ! ホントに凄い!」

正直、魔法の話が絡まないなら勇者とかどうでも良さそう。

それはむしろ、俺にとっては居心地良く感じる。
慌てず騒がずサバサバとした態度なのは、スライに始めた会った時のことをちょっと思い出すな・・・

「話は変わるけどクライスさん、貴方がシンシア君の婚約者だってのは本当なんだよね?」
「ええ、勿論ですよ」
「だったら、将来シンシア君は『勇者さまの奥方』になるってこと?」

「さま付けは不要ですけど、まぁそうですね。ただ、色々と経緯があってシンシア自身も勇者の力をある程度身につけていますから、『勇者の妻』とかいうより二人揃って『勇者夫婦』とでも言う方が実態に近いと思いますよ」

俺がいきなり『夫婦』とか口にしたもんだから、シンシアが恥ずかしがって俯いてしまったけど・・・耳の先まで赤い。

「シンシア君もそうなんだ。それは面白い!」
「すみません先生」
「いや、なんで謝るのさシンシア君」
「黙っていたので...」
「昔もそうだったけど、シンシア君は細かなことを気にしすぎだな!」
「はい、すみません」

「それはともかくパジェス先生、最初にお約束した、『ラファレリアの歴史書と古代の魔導書を一日だけ交換で貸し合う』って言う約束なんですが、それについても実はお伝えしてないことがありまして」
「うん、なにかな?」
「俺がシンシアに口止めしてたんですけどね、実はその魔導書にもワイバーン級の秘密があるんですよ」

「ええぇ! なになにっ?」

こういう瞬間のパジェス先生の口調は子供みたいだな。

「あの『マギア・アルケミア・パイデイア』を、どこでどうやって入手したかって話は他にも色々なことに関わってくるので勘弁して欲しいんですけど、実はあの魔導書は、古代に造られていた魔導書ならではの特徴を持っていまして...それが表沙汰になると大騒ぎになってしまうんですよ」

「そりゃあ凄そうだね...で、その秘密って、どういうモノ?」
「自我を持っています」
「ん、つまり?」
「あの魔導書は書物でありながらも、人と同じように自意識を持ってるって言うことですよ」

「は?...はぁあああっ!?」

「本当にそうなんです。さっきは俺が口止めしていたから一言も喋ってないと思いますけど、実際に会話してみると人と変わりませんよ?」
「そそ、そうなの!」
「ええ。少し話して頂ければ、俺の言っていることの意味も分かって貰えるかと」

「わかったっ!」

そう言うが早いかパジェス先生は椅子から飛び上がると、ローブの裾を翻しながら駆け出していった。
俺は即座に指通信でマリタンに予告する。

< マリタン、いまパジェス先生がそっちに走って行ったぞ >
< 階段を駆け上がってくる音が聞こえてるわよ。二段飛びしてるわね >
< じゃ、よろしく頼む >
< 了解よ、兄者殿 >

ここに戻ってきた時のパジェス先生の表情は、俺にも予想できる気がするね。

++++++++++

アッと言う間に二階の書斎と往復して、息を切らすように客間に戻ってきたパジェス先生は、抱えていたマリタンをローテーブルに置くのでは無く、俺と向き合った位置のソファの上に置いた。
それも表紙を前にして背もたれに立て掛けるようにだ。

俺の横にはシンシアが座っていて、さっきまで向かい側にパジェス先生が座っていたのだけど、こうすると丁度ローテーブルを挟んで二人対二人?が向かい合う形になる。
コレは、マリタンを人として扱う主旨だろうか?
だったら、本当に飲み込みの早い人だな。

「それでクライスさん、この魔導書...の人には、普通に話し掛けて構わないのかな?」
「ええ構いません。答えられないことも色々と有りますが、その場合は彼女がそう知らせてくれますから」

「彼女?」

パジェス先生は、ちょっと面食らったような顔で自分の隣にいるマリタンに目を向けた。

「パジェス先生こんにちは。先ほどは黙っていてゴメンなさいね。兄者殿...つまり勇者ライノ・クライスから、普通の本のように振る舞うようにって言われてたのよね」

「凄いっ、本当に人と同じだ! 古代の魔導書が意志を持つってのはお伽話じゃ無かったんだね!」
「ええ。よろしくお願いしますね、パジェス先生」
「いや、こちらこそよろしく頼むよ。貴方の知ってる魔法のこととか、是非教えて欲しい」
「かしこまりました、わ」

「先生、マリタンさん...それがこの魔導書さんの名前なんですけど、マリタンさんが喋れるということを黙っていてすみません。本当に普通の、古代の魔導書として読んで貰おうと思っていたので...」

「構わないさ、そんなこと! もう教えて貰ったしね!」

「あと探知魔法も、方位の魔法陣以外に勝手に色々と改造して使ったりしてました。すみません...あ、でも、商品にして売るとか対価を貰うとか、そういう事は絶対にしてないです!」

流れでシンシアが告白する。
言うなら今しかないって思ったんだろう。

「ハハッ、だと思ったよ」
「じゃあ、察してらっしゃったんですか?」

「あの『方位魔法陣』は、探知魔法の仕組みを完全に理解してないと発明できないよ...と言うかね、僕はシンシア君が絶対にそう言う面白いことをしてくれるだろうと思ってた。だから探知魔法の秘密を教えたんだよ?」

「えっ?」

「そりゃ、あれはアルファニアの重要な輸出品目になってるし、シンシア君はいずれミルシュラントに帰国する人だった。だけど、大富豪といえる伯爵家の一人娘である君が、お金に目が眩むようなことになる訳無いしね? そんな心配よりも、新しい知識や技術が増えて、世界が広がることの方が、ずっとずっと大事だろう?」

「はい先生!」

「うん。だからアレは、ずっと図書館に籠もりきりで調べ物に没頭していた君が可哀想だから教えたと言うよりも、『次の新しいなにか』に繋げるために君に託したって側面があったんだよ」
「そうだったんですね先生!...本当に有り難うございます!」

「いいさ。だって実際に君は、僕が期待していた以上のモノを生み出してくれたもの! あの方位魔法陣は素晴らしい。本当に世界を変えるのはああいう発明なんだよシンシア君!」

パジェス先生からそう言われてシンシアの顔が輝く。
良かったな、シンシア!

「ところでクライスさん、今すぐマリタンさんと色々な話をしたいのは山々なんだけど、地下の遺構探しも急いでるんだよね?」
「ええ。あまり時間の余裕はありません」
「その言い様からすると、見つけなければ勇者的にマズい、つまり何らかの危機が訪れる可能性があるって事かな?...あ、もちろん教えてくれなくても構わないけどね!」

本当に鋭い人だな。
まぁ、トップクラスの王宮魔道士でシンシアが尊敬する先生ともなれば、それが当然か。

「実はそうです。ラファレリア...最終的にはアルファニア全土に災いが及ぶ可能性もあります。大勢の人が死ぬかも知れません」
「そうか...」
「俺が勇者になった理由と言うか、切っ掛けでもあると言うか...北部ポルミサリア全土を自分の思うままに作り替えようとしている存在がいて、俺たちは、なんとしても、その計略を止めないといけないんです」

「え、出来るのそんなこと? あ、いや止めることじゃなくて、ポルミサリア全体を作り替えるって方の話だけど?」

作り替えるって言い方が悪かったかな?
まあ、実際にエルスカインは土木工事もやってるけれど、主眼はあくまでも魔力の奔流を捩じ曲げることの方だ。
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