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第八部:遺跡と遺産

ワイバーンの襲来

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この大群をどう迎撃しようか考えていると、突然、まだ遙か彼方にいる大型のワイバーンが俺に向かってブレスを吐いた。

このワイバーンのブレスは、以前アプレイスが見せてくれたと言うか俺とシンシアに向けて吐いたブレスのような『炎の噴流』ではなく『火の玉』って感じだ。
これなら遠くまで飛ばせるからか?
と言っても、そんなに遠くから攻撃してきたって意味ないだろうに、せっかちな・・・威力の減衰も激しそうだし、そもそも飛んでくるスピード的にも楽勝で避けられるぞ?

ともかく、向かってくる火の玉に向けて石つぶてを撃ち込んでみる。

狙い通り真っ直ぐに飛んでいった石つぶては火の玉を突き抜ける瞬間に破裂し、爆風で火の玉を霧散させた。

どうやら、いまの俺にとっては難なく防げる威力に思えるな・・・思えるんだけど・・・この数から一斉に火の玉を吐かれたら、さすがに自分たち以外を守り切れる訳が無い。
王家の谷はシンシアが防護結界で守っているし、まさかエルスカイン達も『獅子の咆哮』を破壊するような真似はしないだろうから大丈夫だろうけど、王宮全体を守りきれるかと聞かれたら厳しい。
ましてやルリオンの街まで守り抜くのは到底無理だろう。

こうなったら出来るだけ早く、多く、ワイバーン達を落とすしか無いな。

エルスカインは飽和攻撃で勇者対策が万全だと思い込んでるかもしれないが、俺はお前の知らない、まだ誰も見たことがない攻撃手段を持ってるんだぞ?
今日は、それを試させて貰おう!

俺は空中に浮かんだまま革袋から二つの魔石を取り出し、続けて『魔石矢』の魔法を起動した。
そう、南部大森林で暇な時に開発してみたモノの、想定威力が大きすぎて一度も試射できてない幻の戦闘魔法だ。
つまり・・・自分でもまだ試したことが無い、ぶっつけ本番の武器だけどな!

握り込んだ『魔力供給源』の魔石から魔力を一気に取り出すと、もう一方のやじり側の魔石から極小の魔法陣リングが積層されて出来た筒が伸びる。

「頼むからうまく動いてくれよ...」

俺はその『筒先』の狙いを、一番先頭を飛んでくる大型ワイバーンに向けて固定した。
さっき俺に向けて火の玉を吐いたせっかちなヤツだ。
いったん固定した狙いは、相手がどう逃げても魔法陣側で勝手に追随してくれるから外す心配はない・・・はず・・・想定通りなら。

「ていっ!」

掛け声と共に魔力を放出すると、高純度魔石丸々一個分の全魔力を取り込んだ力で、魔石が標的に向かって撃ち出される。
そして次の瞬間、まだ遙か彼方にいたワイバーンの辺りで激しい爆発が起きた。

「えっ?」

撃った自分がビックリした。
神経を加速してる自分自身でも、飛んでいく魔石矢が見えなかったぞ?
ほとんど瞬間的に転移したのかってレベルのスピードだ。

そして爆風が吹き荒れた後には、大型ワイバーンの姿は影も形もない。
いや、その一匹だけでなく、周辺にいたワイバーン達もまとめて消えているし、かなり離れたところにいた群も、フラフラと不安定な飛行になって高度を落している。

なにこの威力?

マジに南部大森林とかで試射しなくて良かった!
森を燃やす云々どころの騒ぎじゃないよなコレ、下手したら地形を変えてるぞ・・・
なにか爆発力を調整する仕組みを取り入れないと、使い道がなさ過ぎる!

しかも生き残ったワイバーン達はみんな高度を下げて散り散りになり始めた。
これはマズい。
今の魔石矢の威力で地面すれすれに飛んでくるワイバーン達を狙えば、地上への被害が避けられない。

くっそう、魔石矢の威力が高すぎるとは予想外だったな・・・

かと言って、通常の石つぶてとガオケムルで迎撃して回っていたら、何匹も取りこぼしてしまう。
ある程度、地上への被害には目を瞑って魔石矢を撃つか?

いや、もうワイバーン達が散らばりすぎている。

ルリオンの市街を襲われたら防ぎきれないし、魔獣を使い捨てにするエルスカインは必ずそうするだろう。
例えワイバーン軍団を全滅させてでも、こちらを焦らせて攻め入る隙を造ろうとするはずだ。
そうなればルリオンの街は廃墟にされ、罪のない大勢の人々が巻き添えになってしまう。
とにかく通常版の石つぶて連射で地道に仕留めていくしかないか!

諦めずに頑張るしかないと覚悟を決めたその時、突然、辺り一帯の空に凄まじい魔力の『衝撃波』が走り抜けた。
飛翔魔法の土台に立っている俺でさえ、驚きのあまり思わずよろめきそうになったレベル。
そして同時に、これまで聞いたことがないほど大きな音量の怒声が響き渡る。

((( なにをしておるっ! この馬鹿者共がっ! )))

え? なに? って言うか、誰?

((( さっさと地上に降り立ち、首を下げるが良いこの愚か者共! )))

その怒声は、俺ではなくワイバーン達に向けられていたらしく、縦横に飛び回り始めていたワイバーン達が次々と丘陵地帯の地表に降りていく。
地面に降りたワイバーンは身体を横たえると翼を畳み、首を真っ直ぐに伸ばした。

これって、ひょっとすると『服従を示す姿勢』じゃないだろうか?
怒声を発した存在に対しての服従だとすると、このワイバーン達は魔力の衝撃波で『支配の魔法』が解けて王宮への攻撃を止めたってことなのか?
どういうことなんだ?

待てよ・・・そう言えばさっきの声は、いつか、どっかで聞いたことのあるような気がする・・・

あっ!

その瞬間、俺の脳裏に浮かび上がった記憶と全く同じ姿が、目の前の空間に突如として姿を現した。
不可視結界を解いたそれは、鈍く白銀に輝く鱗を持つ巨大なドラゴン・・・

「エスメトリスっ!」

「久しぶりであるな。息災であったか勇者ライノ・クライスよ」
「驚いたよ...」
「ここへ来るのが少し遅くなったゆえ、ワイバーン共が迷惑を掛けたようで申し訳なく思うぞ?」

口ぶりからして、ワイバーン達の異常行動に気が付いて後を追い、ここまで駆け付けてくれたらしい。

「いや、来てくれて助かったよ。俺だけじゃあ絶対に被害を防ぎきれなかった」
「ではギリギリ間に合ったという所か?」
「ああ、逆に俺の方はかなりの数のワイバーンを斃しちまったけどな...」
「それは当然のことであろう」
「なあエスメトリス、こいつらは『支配の魔法』を掛けられてたんだよな?」

「そのようだ。我が異変に気付いたのはつい最近だったゆえ対応が遅れた。許せライノ・クライス」
「むしろ感謝だよ。来てくれて本当にありがとう」
「ならば此度の件について、双方に遺恨は無いと言うことで良いか?」

「勿論だ...あ! いけない、のんびり話してる場合じゃなかったよ。すぐにアプレイスの支援に行かないと!」

「あやつはどこにおる?」

「近くの海岸沿いの街だ。いま、かなりの数のワイバーンを相手にしてるんだ」
「ワイバーンごとき敵ではあるまい?」
「街を守りながらなんだよ。それにエルスカインは絶対に、なにかドラゴン対策の罠を準備してきてるはずだ」
「ふむ、では助けに行くとするか...だが、その前に、アレを拾っておいた方が良いのではないか?」

「え、アレって?」

エスメトリスが首を振って示す方を見ると、地面に降りて恭順の姿勢を示している大型ワイバーンの背中に、一人の男がしがみ付いていた。
いや正確に言うと、しがみ付いたまま気を失っていた。

「支配の魔法に乗っ取られたワイバーン共を操っていたのは此奴であろうな」
「まじか...」

今の状況からすると、コイツは間違いなくエルスカインの配下で、魔法使いか、ひょっとしたらフェリクス王子だったりするんじゃないのか?

アプレイスも心配だけど、アレを放置しておく訳にも行かない。
急いでそのワイバーンの所へ降りて、気絶している男を掴み上げた。
顔は知らないけど若い男だ。
服装からして魔法使いとか錬金術師とかの系統じゃない。
そして見間違いようのないホムンクルスの気配・・・となると、コイツがフェリクス王子だって可能性は高いな!

この男を掴んだまま即座にアーブルに転移するべきか、いったんシンシアに渡すか逡巡していると、指通信が来た。
パルレアからだ。

< お兄ちゃん、コッチは片付いたよー! >
< 無事かパルレア! 心配したぞ! >

おおっ、意外とあっさり片付いたな・・・

しかしワイバーンだって強力な魔獣なのに、よくそんなに早く撃退できたな。
二桁のワイバーンが相手で、なにかドラゴン対策も用意されてるとなれば、さすがのアプレイスも苦戦することを覚悟してたんだけど。
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