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第八部:遺跡と遺産

古代文字の意味

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「それで御兄様、南方の古代文字に話を戻しますと...」
「うん」

「その芝居の中にゴーレムを模した人形が出てきたんですけど、その額に書いてある古代文字の『emethエメット』と『methメト』の綴りが、あそこの岩の並びが作ってる線の並び方とピッタリ同じなんです」
「え?」
「古代文字を読めるか、そのゴーレムの話を知らなければ気が付かないと思いますけどね」
「偶然じゃ無いな!」
「ええ、『emethエメット』も『e』に当たる一文字分を消せばちゃんと『methメト』になりますし、そう読めるように並べたとしか思えません」

「それが『鍵』になる呪文か...」
「きっとそうです御兄様!」

「しかも、この角度から見ないと読めないわけだろシンシア殿? あの辺りに歩いて行っても、ただの岩が幾つも突っ立てるだけだよな」
「面白いなぁ...」
「兄者殿、実はマディアルグ王も意外と冴えた人だったのかしら、ね?」

「えー、誰かの入れ知恵じゃなーい?」
「身も蓋もないなパルレア! まぁ実際その可能性の方が高そうだけど...」

お伽話で連想したけど、昔々どこかの国の王様が、天才と名高い建築家を呼んで『世界一高い塔』を作らせた挙げ句、それ以上の塔が世の中に生まれないように、その建築家を作らせた塔の中に閉じ込めて殺そうとしたって童話を聞いたことがあったな。

ここの城壁と王宮が出来た当初は、処刑を待つ罪人で地下牢がフル回転していたとオブラン卿が言っていたけど、その中に、この景観や城壁を設計した技師が混じっていても不思議は無い気がする・・・
話に聞くマディアルグ王の性格なら、口封じのためにそれくらいのことはやりそうだもの。

ちなみに童話の方の王様は、なんとか脱出した建築士の仕返しによって崩れた塔の下敷きになって死ぬという結末だったけどね。

「御兄様、この『emethエメット』と『methメト』という言葉がキーワードだとすれば、ゴーレムみたいに『獅子の咆哮の』どこかにその文字を書き込むんでしょうか?」

「いったん動き出した獅子の咆哮に近づいて、文字を書き換えるとか不可能じゃ無いか?」
「それもそうですね」
「でも兄者殿、起動と停止なら離れたところからでも良いんじゃ無いかしら?」
「それもまあ、そうだな」
「なあライノ、マディアルグ王ってのはかなり嫌なヤツだったんだろ?」
「らしいな」
「そういうヤツは、敵が自分の仕掛けた罠に嵌まって死んでいくところを見たがると思うね。だから全体を見通せる場所から命令を出そうって考えるんじゃねえかな?」

「つまり物見櫓の上か!」
「ああ。命令のキーワードを叫ぶだけで動かせるなら、そこからで十分だろ」

「兄者殿、きっと黒い壁の方に、声を拾う魔法が組み込まれていると思うわ。それも、どこから声が聞こえてくるのか、発話者の位置を特定できるタイプじゃないかしら?」
「櫓の上から叫ばないと命令として機能しないってコトか。そりゃあ安全対策としては必要だよな」
「どこでもエメットと叫んだら動いちゃうなんて、シャレにならないもの」
「確かに」
「どうしますか御兄様、試してみますか?」

そうか、銀ジョッキ改二号には発話装置が付いているから、実際に櫓を組まなくても、その位置から声を出すことが出来るワケだよな。

とは言え・・・

「正直、試すのはちょっと怖いな」

「そうですね。エメットとメトが確実に『起動』と『停止』に対応しているという証拠も無い訳ですし」
「まあ万が一、フェリクス王子が起動しようとしてもイザって時は、この鍵で止められると考えればいいか」

「いやライノ、フェリクスだって獅子の咆哮に指示を出すためには櫓を組む必要があるんだろ。仮に櫓を組まなきゃいけないことは知ってるとしても、実際に獅子の形と『emethエメット』と『methメト』の文字を見てる可能性は低いぞ?」

「知らないかどうかは微妙だな。エルスカインの庇護下にいるなら教えられてる可能性もある」
「おぉ、それもあるか...」
「次は黒い壁の向こう側を探って見るか?」
「掘り起こすつもり、兄者殿?」
「いや、あそこでマリタンが言ってたように、闇雲に掘ると危険だろう?」

「でもワタシの地下探知魔法じゃ、地下にナニカが詰まってるか隙間があるかぐらいしか分からないのよ? 魔導装置の構造なんて読み解けないし、出来れば触りたく無いわ、ね?」
「そうだけどマリタン、止める方法が分かったと言っても、それで獅子の咆哮をこのまま放置できる訳じゃ無いからな。どのみち何らかの手段でヒュドラの毒を無効化するなり、抜き取って廃棄するなりが必要なんだ」

「そうねぇ...なにか方法が無いかワタシも考えてみるわ兄者殿。少し時間を頂けるかしら?」
「ああ、是非頼むよ」

ヒュドラの毒がここにある限り・・・いや、ここで無くても手の届く範囲にある限り、エルスカインから狙われ続けることは言うまでも無い。
どうにかして手の届かないところへ運び去るか、無毒化する方法を考えるしか無いのだけど・・・

正直どうすればいいのか?

「御兄様、ふと思ったのですけど...」
「なんだいシンシア?」
「慰霊碑の裏には、黒い石壁のどこにも転移門はおろか、物理的な出入口の類いが見当たりません。出入口があるなら、その向こうには通路があるはずでマリタンさんが見つけていたはずです」
「確かに」
「だとすれば、あの小山の地下と言うか、黒い壁の向こう側に埋まっている『獅子の咆哮』は、未来永劫まったく触れる必要の無いモノなんでしょうか?」

「それは物理的に、仕込んである毒をどうこうするって意味かい?」

「ええ、定期的なメンテナンスとか使った後の毒の補充とか...仮に転移門が地下空間に仕込まれていたとしても、本当に大事な設備なら『出入りできるのが転移門だけ』というのもリスクがあると思うんです」

「精霊魔法だろうと、橋を架ける転移門ブリッジゲートだろうと、最初の転移門を開くためには、まず物理的にその場所に行くしかないもんな。最初はどうやってそこに行ったんだって話か?」
「です!」
「でもシンシア殿、獅子の咆哮の場合は作ってから土を持って埋めたんじゃねえのかな?」
「それでも、万が一のメンテナンスが必要になった時に掘り返す前提って言うのは、危険な気がするんですよ」

「うーん、確かに。考えてみればエルダンでもソブリンでもウルベディヴィオラでも、地下には転移門だけで無くて物理的な地上との出入口が必ずあったもんなあ...」
「はい、だからあの小山の地下も、どこかと物理的に繋がっているんじゃ無いかと思うんです」
「でもそれだったら、その地下通路をマリタンが見つけてるんじゃ無いのか?」

「そこは保留ね兄者殿。ヴィオデボラでもそうだったけど、あまり深いと探知も効かないわ。それに普通の土ならともかく凝結壁で造った地下構造だったら、探れる深さはさらに浅くなってしまうもの。申し訳ないのだけど、ね」

「いや、それは仕方ないだろうな...だとすればマリタン、仮にだけど深い地下道...例えば鉱山みたいな...そういうのが王家の谷の地下に掘られてたとしたら、見つけ出すのは厄介だよな?」
「そうね、難しいと思うわ」
「なあライノ、鉱山なんて人族が掘った『アリの巣』みたいなもんだろ? 鉱石や宝石しか眼中にないドワーフなら分かるけど、人間族のマディアルグがそんなモン掘るのかねえ?」

「いやアプレイス、そんな凄いものじゃなくて鉱山ってのは譬え話だよ。仮にだけど、慰霊碑の地下と城壁内外のどこかが、地下のトンネルで繋がってるかもしれないって意味だ」

「それって王宮の地下とか離宮の地下とかが、小山の下と繋がってるかも知れねえって話か? どっちかと言うと鉱山じゃなくて、いつぞや話した『秘密の出口』って感じだな」
「ああ、ソッチの方がイメージに近いかもな」
「うーん、有って不思議じゃねえって気もするけど、それこそ銀ジョッキで空から眺めてても見つけられねえ気がするし、探し方を変えた方がいいように思えるな」

「まあなあ...」

いまアプレイスが言ったそのまま、もしパトリック王や現王家に関係する人々が誰も知らない『秘密の地下通路』が有って、それが小山や離宮や王宮と地下で相互に繋がっているとしたら。確かに探し出すのはかなり面倒だな!

探し方を変えるといっても、妥当な方法がすぐには思いつかないし・・・
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