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第八部:遺跡と遺産

会見の段取り

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それから三日後、スライからの手紙箱が届いた。

あっという間にサラサス国王陛下との会見の段取りを付けてくれたようだ。
しかも会見の日が明後日とか・・・
早いよ! 異様に早いよ! 
ラクロワ家の方々はみんな、ホント何をするにも『前のめり』って感じだぞ。

国政に関与していない子爵のヴァレリアン卿がいきなり転移門でルリオンに行っても、ずかずか王宮に入って行けるかどうかは微妙だろうから、まず自分自身の謁見を申し込んで許可を貰い、実際に陛下に謁見が出来たところで次回は俺を連れてくる許可を貰う・・・なんて段取りだろうと思っていたから、ここまで早いのは予想外だよ。

ひょっとしてサラサスでは、王様さえも前のめりなのかも知れない・・・
早速みんなに声を掛けてアルティントに跳ぶ。

ただ、そのままだと俺達が不在中に何かあっても、セイリオス号の乗員達は船も動かせず転移も出来ずで、ヒップ島に閉じこめられてしまう。

万が一に備えてパーキンス船長と縫帆手のションティさんをアルティントに連れて行って、しばらく滞在してもらうと同時にガフセールの仕上げを監督してもらう事にした。
船大工のスミスさんは、その間に船底へのタール塗布や諸々の補修を進めておいて貰う。

さらにパーキンス船長には転移メダルと魔石も渡しておいた。
これなら何かあっても自力でヒップ島に戻れるし、逆にヒップ島で何かあっても手紙箱のやり取りで知らせてもらう事が出来る。

もし万が一・・・そんなことがあっては困るけど・・・ルリオンから誰も戻ってこれないような状況になったらパーキンス船長がアラン殿に頼んで船を雇い、ヒップ島に乗組員達を救出に行く事も出来るだろう。
それは本当の本当に『万が一』だけど、俺達はエルスカインを相手にしてるんだから油断は禁物だし、罪のない船乗り達を遭難させる訳にも行かない。

何しろ、乾ドックもどきに上げてあるセイリオス号は、アプレイスがいなければ海に降ろすことさえ出来ないからな。

++++++++++

パーキンス船長と縫帆手のションティさんをアルティントに残した俺たちは、前回、ルリオン郊外に開いておいた転移門へと跳ぶ。

意識を集中して転移門周辺の様子を見ると、予定通りにスライが待ってくれているのが分かった。
もしもスライがいつも通りの様子だったら人目を気にせず転移して問題なしで、鞘ごと剣を抜いて手に抱えているか、剣を身に帯びていなければ転移地点になにか問題ありっていうサインにしてある。

いま転移門の向こうに見えているスライは、普通に剣を佩刀しているから問題なしだな。

「有り難うスライ。待たせたか?」
「問題ねぇよ」
「何度もルリオンに来るようなら、もっと目立たない場所に転移門を開くか、いっそ宿屋の部屋でも借り切った方がいいかな?」
「アタシは街中の方がいーと思うー!」

パルレアはワインの飲み比べが狙いか?
まあいいけどね。
ピクシーボディじゃ重くて飛べなくなるまで飲ませてやろうじゃないか。

「いやライノ、宿屋はソブリンの時と同じで、女将おかみや他の客の目を誤魔化すのが面倒になるぞ。それに万が一にでも敵に攻められたりしたら、街中で立ち周りすることになりかねないしな。ホントに宿屋で俺がドラゴン姿に戻ったら、周りは壊滅だぜ?」
「そうだよなぁ...ルリオンにはスライの家の屋敷とか無いんだよな? リンスワルド家の王都別邸みたいなヤツ」

「ライノ、ウチはそんな大富豪じゃねえ。田舎の泡沫子爵家を天下のリンスワルド伯爵家と一緒にするな!」
「そうか?」
「あ、あの御兄様。でしたらいっそ、どこか近辺で小さな屋敷でも買い取る方がいいかもしれませんね?」

その『天下のリンスワルド伯爵家』の爵位継承者であるシンシアが、慌ててフォローっぽく対応策を口にするけど、それってフォローになっているような、いないような・・・

「サラサス王との会見結果次第かな。あっさり追い払われることだって無きにしも非ずだから」
「それはねえと思うケドよライノ...もし陛下との会見が物別れに終わったらどうする?」

「手段は変わるけど目的は変わらないさスライ。ヒュドラの毒は回収するし、この国もエルスカインの好きなようにはさせない。みんなと一緒なら、なんとでも出来るよ。サラサス王と会うのは、出来るだけコトを穏便に運びたいからって言うだけだからね」
「そうだな。うん」
「で、スライの方の準備は大丈夫かい?」

「ああ。父上と兄上にゃあ王宮で待って貰っている。時間になったら...正午、太陽が南中すれば王宮じゃあいつも鐘を鳴らすから、それを合図に父上が陛下を謁見の間からバルコニーに連れ出す手はずだ」
「連れ出せるのか?」
「父上が謁見の時に、『必ず驚くべき人物に引き合わせる。もし陛下が驚かなければ子爵位を返上してラクロワ家の領地も王家直轄地として返納する』って大見得を切ったからな。陛下も興味津々だそうだぜ?」

「マジかっ!...」

重いよ!
その信頼が重たいよヴァレリアン卿! 
言うに事欠いて領地を返納するとか、普通じゃ有り得ないだろ?

吃驚している俺をヨソに平然としたシンシアは、手の平に方位の魔法陣を浮かべて影の向きを確認している。
驚かないはずは無いから問題ないって理解か・・・
そりゃあ俺はともかく、アプレイスの姿を見ても『驚かなかった』と言い張ってラクロワ家の領地を没収しようとする不埒な王様なら、こっちも敵認定するけどな!

「御兄様、正午まで少し時間があります。先に『獅子の咆哮』を上空から見てみませんか? それで鐘が鳴ったらアプレイスさんに降りていって貰えば良いかと」
「よし、そうしよう」
「ライノ。ここで変身しちまって構わないか?」
「ああ、不可視で頼む」

不可視状態になったアプレイスがふわっとジャンプするように皆の側から離れると、お定まりの魔力の風が吹きすさんだ。

「いいぜ、みんな乗ってくれ!」

アプレイスの掛け声を受けて一斉に背中に乗らせて貰う。
だがシンシアよ、どうして俺がスライを運んでいる間に自分で跳躍せず、ニコニコと俺に運ばれる前提の顔をして地面で待っているんだ?

++++++++++

今日も天気が良くて幸いだ。
冬の南部沿岸諸国で雨降りの日は少ないだろうけど、もしも今日が豪雨だったりしたら会見の状況は最悪だったかもしれないな・・・

スライも二度目なので、平然と背中の端っこの方に立って眼下を指差しながらシンシアやパルレアに王宮付近の建物や城壁について説明している。

「アレが『獅子の咆哮』だよシンシア殿」
「あの黒い壁ですね!」
「ホントーに城壁のど真ん中にあるのねー...お兄ちゃんの言ってた『池』って意味がアタシにもよーく分かった!」
「だろ?」
「ねぇ兄者殿...」
「うぉいっ!」
「どうしたスライ?」
「あ、いや、すまねぇ。マリタン殿への偏見は無いつもりだけど、まだ慣れてなくてな、その...『本の人』が喋るって状況に...」

「あらスライさんったら『本の人』だなんて、そんなに気を遣わなくても良くってよ。ワタシは魔導書なんだから、文字通りの本でしょ?」

「文字通りの本って、マリタンが言うと一種のジョークに聞こえるよな!」
「黙りなさいドラゴン!」
「で、マリタン。さっき俺に何を言いかけたんだ?」

「ああ、そうそう兄者殿。やっぱり微弱な魔力波を感じるわ。それも周期的に強弱が付いてる感じね」
「強弱? どういうことだい?」

「自動で動いてるだけだと思うけど、周囲の敵を常に探知してるんだと思うの。前回、ドラゴンが嫌な感じがしてたって言うのは、きっとその波動を感じてたからだと思うわ」
「なるほど、それは意外だったな!」
「ホントに意外よね。ドラゴンがそんなに繊細だなんて」
「やかましいわ」
「まあともかく、あの凝結壁の後ろって言うか中には、古代の魔導兵器が眠ってるってコトで確定だなマリタン」

「あら兄者殿、アレは『眠って』はいないんじゃ無いかしら、ね?」
「うっ...その通りだな...」

まったくもって嫌なことに、この大量殺戮兵器は今も生きていて獲物を探している状態に有る。
活性化されてはいないけど、薄目を開けてるって感じかな?

幸いなのは、現王家が毒ガス放出を起動する術を持ってないらしいってコトだけどね・・・
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