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第七部:古き者たちの都
火山島
しおりを挟む早速アプレイスがドラゴン姿に戻って、みんなで背中に上がらせて貰う。
そろそろ船員たちもアプレイスのドラゴン姿を見慣れてきただろうと思っていたんだけど、やっぱりドラゴン姿になると皆がどよめくな・・・まあ、普通に生きていればドラゴンなんて一生見かけることも無いだろうから仕方ないかもだけど。
「乾ドックもどきの材料を集めた時には、俺は山の南側の森しか確認していないんだ。みんな一緒だし、ついでだから山の向こう側や島の東側も見てみるか?」
「さっきライノが見た限りじゃあ、こっちの森には特に珍しいモノは無かったんだろう?」
「ああ。人の手が一度も入った形跡が無い『原生林』って感じだったな。この湾は穏やかだろうし、森のあるところは平坦な土地だから、もしもヒップ島に人が住んでるとしたら、この近辺の土地を全く使ってないハズはないと思う」
「なるほどな」
「それとも、他にもっと住みやすい場所があるんでしょうか?」
「どうだろうな? パーキンス船長の話だとこの島は東西に伸びていて、いま目の前に見えている一番高い山の東側にも、そこそこ起伏のある土地が広がっているそうだけど...だけど、もし人が住んでるとすれば海岸べりに痕跡が何もないって言うのは不自然だな。まあ誰もいないと思うけど、どんな場所かだけでも見てみないかい?」
「じゃあ、一通り、島をぐるっと回ってみるか?」
「まず山の方へ行ってみようよ。あそこの頂上まで上がれば全体の様子も見渡せるんじゃないかと思う」
「了解だライノ。そっちの方に飛んでみよう」
そう言ってアプレイスが翼の端をほんのわずかに動かし、ゆるやかに向きを変えた。
そのまま伐採に行った南の森を通り過ぎ、この島で一番高いと聞いた山の頂上へ向かう。
中腹までは深い森に覆われていたけど、徐々に木々が減って草むらに覆われた斜面と所々に顔を出している大きな岩が目に付くようになり、八分目辺りから完全に樹の姿が消えた。
ところどころに草が生えてはいるけど、大体は赤茶けた岩と砂礫だ。
アプレイスは土地の様子を良く眺められるようにワザとゆっくり、それも左右に蛇行しながら飛んでくれている。
「ライノ、こりゃあ火山だな」
「火山か!」
「ああ。海から山の形を見た時にもそう思ったんだけどな。ここまで来るとハッキリ分かる。賭けてもいいけど頂上は真ん中がへこんでるか、穴が開いてるぜ」
「アプレイスさん、それって、焼けて溶けた岩と砂が炎と一緒に吹き出す場所ですよね?」
「そうだ。噴火口ってヤツだな」
「近づくと危険なのでは?」
「いや、この火山はもうとっくの昔に死んでるな。大昔に海の底から噴き出して、冷えて固まって島になったんだと思う。考えてみれば砂浜も灰色っぽかった」
「へぇー...でも、海底に火山があるのか?」
「俺も見たことは無いけど、あって不思議は無いだろう?」
「いや、深い水の中なら火が消えそうじゃないか」
「どうなんだろうな? 普通の火山だっていつも外に炎を噴き出してる訳じゃ無くて、地面の下で燃えてる感じだから、海底でも地面の下なら燃え続けられるんじゃ無いか?」
「で、いよいよ力が溜まったら一気に噴き出すと?」
「たぶんな」
ヴィオデボラでドゥアルテ・バシュラール卿が言っていた話を思い出す。
南部大森林の中に有る山が本当は火山で、その力を利用した大規模兵器をイークリプシャン達が使ったって話だったな。
その兵器の力でエンジュの森の南側に有る山は半壊して粉々に吹き飛び、谷にあった都市を大量の土砂で埋め尽くしたと。
ところが、その兵器を何者かに壊されて火山の力が暴走して爆発、いまで言う『南部大森林』の一帯は溶岩に埋め尽くされて、周辺にあった都市はすべて滅びた。
全く、ロクでもない話だよ・・・
エルスカインのたくらんでいる『大結界』の南端の結節点が南部大森林のど真ん中にある理由は、恐らくは暴走した火山の兵器に関係あるんだろう。
以前にアスワンが言っていた、『世界戦争時代の古い王国の遺跡』ってヤツがきっとそれだ。
敵側の破壊工作って言うのが、どこまでのことを予期していたかは分からないけど、結果、利用していた火山を制御しきれなくなって自分たちの都市を滅ぼしたってのは自業自得に思える。
挙げ句に、そこから起死回生を狙った手段がヒュドラとはな・・・
どうしてそう、『自分たちの手に負えそうも無いシロモノ』を平気で使おうとするのか、俺にはさっぱり分からん。
「ねーっ、山のてっぺんに池があるよーっ!!」
物思いにふけっていると、不意にパルレアが叫んだ。
確かに頂上に青く見えるものがある。
近づくと、それは青い水を湛えた丸い湖だった。
まあ湖と言うにはチョット小さいけど、溜め池と言うには大きいって位のサイズ感だな。
そして綺麗な円形・・・絵に描いたようにまん丸な輪郭をしている。
「山上湖か...綺麗だな」
「ホラ見ろよ。やっぱり天辺の真ん中辺りはへこんでたぜ?」
「そのへこみに雨水が溜まっているワケですね」
「アプレースすっごーい! 予言者みたーい」
「ただの知識だ。まあ、この火山は冷えてからも随分経ってそうだから、さすがにリントヴルムも来ないだろうな」
火山の天辺を空から見下ろすなんて初めての経験だけど、アプレイスが言っていた通り頂上は丸くへこんでいて、池の周囲はまるですり鉢の様な形だ。
頂上付近は砂礫の斜面で、ウッカリ足を滑らせたら、そのまま湖まで滑り落ちていきそう。
赤茶けたすり鉢か・・・内部には、特に動くモノの姿は無い。
「本当に、この山もいまはただの岩の塊になってしまっているんですね」
「シンシア、さっきの森は結構大きかっただろう? 乾ドックの材料に使ったような大木がゴロゴロ生えてるんだ。もし火山が噴火していたらあの森が残ってるはずは無いからな。それだけ昔の話ってコトだろう」
「そうですね...でも、いつ頃なんでしょう?」
「何が?」
「最後に噴火したのが、です」
「うーん。分からん...」
「御兄様はさっき『人の手が一度も入っていない原生林』と仰いましたけど、それだったらエンジュの森よりも木々が大きく育っていて不思議では無いのかと」
「あー、なるほどな」
「どーだろ? どんな樹だって無限に大きくなったり、永遠に生きたりはしないモンよー。樹にも寿命ってあるしさー」
「そうなんですか御姉様?!」
「そーよシンシアちゃん。木の種類によって寿命は違うけどさー、何もヒドいことが起きなくても、やっぱりいつかは年老いて枯れちゃうもんなのよねー」
「なるほど...考えてみれば樹木だって生き物なのだから、いつか死んで当然ですよね...」
「そーゆーこと!」
「でもシンシア殿が気にしたことも、あながち的外れじゃ無いかも知れないぜ?」
「なんでだいアプレイス?」
「ヴィオデボラほどじゃないにしても、この島は大陸よりはかなり南だし、そこで針葉樹が大きな森になってるのはなんでだろうなって」
「え、南って言っても南方大陸みたいな常夏じゃないだろ? トウヒが生えてるくらいは普通じゃ無いか?」
「いやつまりだ、その種はどっからこの島に来たんだ?」
「へ?」
「木が生えるには種がいるだろ」
「えーっと、流れ着いてとか?」
「良く知らないけど、トウヒの種って何ヶ月も海を漂ったりするモンなのか? それとも、鳥が実を食べたりして運んでくるような種とかなのか?」
あー、そう言われと甚だ心許ないかも。
針葉樹の種なんて、地面に落ちてても種か土くれか見分けが付かないような代物だし、オークの実ってのはつまりドングリだ。
多分、アレがぷかぷか浮かんで海を漂ったり、リスじゃあるまいし渡り鳥が飲み込んで運んだりなんかしないよなあ・・・
「つまりなんだ、不自然ってコトか、アプレイス?」
「さあな? 俺は木の事なんか詳しくないけど、シンシア殿が何か引っ掛かったのは分かる。木の育ち方って言うよりも森その物の存在感とか雰囲気とかじゃ無いか? なあシンシア殿?」
「そうですね...アプレイスさんの言うような感じです。それで、ついでに少し確認してみたいことがあるので、このまま反対側の斜面に沿って降りてみて頂けませんか?」
「了解だ、シンシア殿」
すり鉢のような頂上周辺をぐるりと回ってから、アプレイスは北斜面に沿って低く降下し始めた。
シンシアが何を確認したいのか気になるけど、先に聞いてしまうよりもシンシア自身がそれを見つけてからの方が分かりやすく教えてくれるだろう。
それに島の北側の海岸も見てみたかったしね!
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