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第七部:古き者たちの都

久々にノイルマントへ

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善は急げという事で、早めの夕食後に早速ノイルマント村に跳んだ。
で、新村長アサムを探せば当然のように横にリリアちゃんがいる・・・と思ったんだけど姿が見えない。

「あ、久しぶりだねライノさん!」
「そう言えばそうだよな。ところでアサム、リリアちゃんは何処にいるか知ってるかい?」
「リリアなら炊飯所だよ? 夕食時だからトレナさん達を手伝ってるんだ」
「あそこは人手が足りてなく無いっていうか、むしろ余ってるだろ?」
「そうなんだけどリリアも料理を習いたがってさ。それでトレナさん達のお手伝い役ってことにして貰ったんだ」

なるほど・・・その意図というかこころざしは分からんでも無い。

リリアちゃんも自分の作った料理をアサムに食べさせて、『美味しいね!』って言って貰いたいんだろう。
くっ、その初々しさに泣けるな。
トレナちゃんが屋敷に戻ってないコトで、いまや完全に『銀の梟亭』に頼り切っている感のある俺にしてみれば、料理を習えるというのは羨ましい話でも有るけど。

あと、なにげにアサムが『リリア』と呼び捨てにするようになってるね!

「でもどうしたの? ライノさんがリリアに用があるなんて珍しい」
「実はなアサム...」

ここに来る直前にシンシアと討議した問題は『どこからどこまでを話すべきか』だった。
初めてシンシアがリリアちゃんのペンダントの謎に気が付いた時は、リリアちゃんやみんなに余計な心配をさせないために、わざわざ少し離れて会話をしたし、その後のエルダン探索以降はノイルマント村メンバーとは完全に別行動だったから、リリアちゃんの出自やペンダントの謎については、まだ詳しく話したことが無いのだ。

隠したいと言うよりは、アサムやリリアちゃんに余計な心配をさせたくないっていうコトだけどね。

これについてはリリアちゃんやアサム達だけで無く、保護者であるフォブさんにも聞いて貰っておくべきだろう・・・と思ったんだけど、フォブさんはフォーフェンへ仕入れに行ってて不在だったし、レミンちゃんとレビリスは託児所の忙しさがピークで手を離せないと言うことで、まずはダンガとエマーニュさんが仮住まいにしているという一軒家に向かった。

この前、俺たちが最後にノイルマント村に来た時には、こんな立派な家は無かったのに、アッと言う間に建ててしまうとはアンスロープの力、恐るべし。
まあ、彼らは本当に腕力とかも凄いから建材や丸太なんか一人でホイホイ持ち上げてしまうのだけどね。

「いつの間にこんな立派な家を建てたんだよアサム、凄いな!」

「オババ様と長老達が『例え仮住まいでも御領主様の寝床が掘っ立て小屋だったら村として恥ずかしい』とか言い出してさ。兄貴はいらないって言ってたんだけど、『エマーニュさんのために必要だ』って押し切られて...それで号令を掛けてアッと言う間に」
「なるほどね」
「屋根材とかはフォブさんとスライさん達がまとめて運んで来てくれたし、指導役の大工さんはウェインスさんがすぐに連れてきたし、ローザックさんの騎士団には貴族の建物に詳しいって人もいたし...で、正直、『家ってこんなに簡単に建つものなんだー』って思った」

「なんかわかるよ...」

ノイルマント村には多方面の才能を持つメンツが揃っている上に、リンスワルド家とスターリング家の総力を注ぎ込まれてる感じがあるからな。
大抵のことはあっと言う間に出来てしまいそうだ。

とりあえずダンガの家まで行ってドアをノックすると、すぐにエマーニュさんが出てきた。
このところずっと開拓地の派遣教師みたいな役回りをさせられているにも拘わらず、相変わらず立ち振る舞いが優雅だな。

「あら、お久しぶりでございますライノ殿!」
「こんにちはエマーニュさん。あれ? それとも今はフローラシアさんの方がいいのかな?」
「どちらでも構いませんわ。元々ルマント村ではエマーニュ・エイテュールと名乗りましたしね?」
「確かに。でも村人達にはもう正体を明かしてるんでしょう?」

「オババ様や長老の方々には、私が子爵位を持つ公領地長官であることはお知らせ致しました。ただ、ルマント村の頃からあまり貴族関係の人々との付き合いが希薄だったらしくて、領主で無い貴族という私の立ち位置もあまりピンと来ていないようですわ」
「それは無理もないですね。旧ルマントはほとんど外部との交流が無い自給自足みたいな村でしたし」

「そうですわね。ところで、今日はいかがされましたか?」

「ちょっとリリアちゃんのことで、アサムとダンガを交えて相談したいことがあるんです。いますか?」
「はい。すぐ呼んで参りますので中に入ってお待ちくださいね」

そう言って奥の部屋に向かうとドアを開けてダンガを呼んだ。

「あなた、ライノ殿がお見えですわ。なにか、御相談なさりたいことがあるそうですの」
「あぁ、すぐに行くよ!」

ほほぅ、エマーニュさんはダンガを『あなた』呼びですか、そうですか。

++++++++++

呼ばれたリリアちゃんも炊飯所から駆け付けて来てくれたので、みんなにことの経緯を一通り説明する。

ただシンシアとも相談した結果、リリアちゃんがエルダンの地下から脱出してきた『数千年前の人物』という可能性が高いことは、今の時点では伏せておくことにしてある。
まだ確定した訳でも証拠が見つかった訳でも無いし、すべては俺たちの推測だ。
急にそんなことを言われてもリリアちゃんや周囲の人々が不安になるだけで、何一つプラスの要素は無いからね。

シンシアとしては、むしろ『出生の秘密など知らずにノイルマント村で幸せに生きていけるのなら、その方がいいと思います』と言う考えだ。
俺自身も出生に関しては秘密と言うほどでは無いにしろ、少々ややこしい経緯を持っているからシンシアの言いたいことも良く分かる。
重荷が増えるだけで益は無いと・・・

ん、そう言えばシンシアの出生だって公式には秘密だったな!
実質的には『公然の秘密』ってやつだけど。

まあ今はとりあえず、リリアちゃんがエルセリアであるという出自と絡めて、『ご先祖由来のペンダント』が魔石サイロのような古代の遺物と関係あるかも知れないことと、それがエルスカインの企みに近づく鍵になるかも知れないという事だけ説明しておく。

一通りの説明が終わると、アサムが神妙な顔をして頷いた。

「なるほど...じゃあライノさん、ひょっとしたらリリアのお母さんの形見のペンダントが、南部大森林にあったって言う古代遺跡みたいなものに関係してるかも知れないんだね?」

「そういう話だ。ただ、エルセリア族とアンスロープ族の生まれた古代のことは実際ほとんど分かっちゃいない。リリアちゃんのご先祖由来のペンダントがなにか関係あるとしても、それが何かまだ分からないし、ひょっとしたら全く無関係かもしれない。だから、それを確かめるために協力して欲しいって感じかな?」

「でもライノ、さっきの話だとペンダントにはリリアちゃんの血筋か家柄か、なにかそういうのに関係ある魔法が掛かってるらしいって事だったじゃないか? そうだとすれば、結局リリアちゃんもそこまで一緒に行かないと分からないんじゃないのか?」
「本来はな。だけどダンガ、俺と一緒にエルスカインに関わりのある場所へ向かうってのはさすがに危険すぎると思う。それでシンシアが、リリアちゃんが一緒でなくてもなんとか出来るように工夫してくれてるんだ」

「それって、どうやるのライノさん?」

「いまシンシアとパルレアがメダルの魔道具を作ってくれてる最中なんだけど、それを身に着けてれば、その人のオーラを記録できるんだ」
「オーラ? それなに?」
「オーラってのはつまり...その人特有の魔力の流れ、その固有のパターンみたいなもんかな?」

「そんなのあるなんて知らなかったよ。見たこと無いし」

「確かにありますのよアサム殿。オーラは人によってそれぞれ微妙に違いがありますから、例え仮装してお面で顔を隠していたとしても、相手が誰かを見分けることが出来るのです」
「へえぇー! さすがエマーニュさんだ!」
「いえ、リンスワルドの女は生まれつき天然の魔力を視ることが出来ますから。ただそれだけの話ですわ」

「じゃあ、その人の匂いみたいなもんか...」

なるほど、オーラが匂いと同じか・・・やっぱり視点がアンスロープだな。
毛布の匂いだけで俺とパルミュナに血縁関係が薄い、いや実際は無い・・・と気が付いたレミンちゃんの嗅覚を思い出すね。
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