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第七部:古き者たちの都

ローブ男を追跡

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「姉者殿、この魔法は離れた場所との連絡用とか確認用、ね。本来は銀ジョッキみたいに『次元の狭間に姿を隠して送り込む』なんて出来ないのだから、覗き見には使えないわよ?」

マリタンが呆れたように・・・
顔は分からないけど、そんな風に思える雰囲気で・・・パルレアに教える。

「なーんだ」
「これは当たりだな!」
「え?」
「男達がエルスカインに報告するとか言ってただろ? 転移門で会いに行くかもと思ったんだけど、その魔法を使って俺たちの指通信みたいな感じで会話できるなら、実際に相手の処まで行く必要は無いからな」

「確かにそうですね!」

俺とパルレアは、何らかの理由でエルスカインが『人に会えない』のでは無いか、そして、自分の居場所を一歩も出ずに何らかの魔法で指令を出しているのでは無いか、と推測した。
銀ジョッキのように一方的に覗き見するのでは無く、互いの姿と声を何らかの魔道具で送り合って会話が出来るのなら、物理的に相手に会いに行く必要は無い。

この魔法を使えば、それが可能だろう。

随分前に『手紙箱』のテストをした時、スライがそれを見て『戦場で使えたら一瞬で優劣がひっくり返る』と言ったけど、いまこの瞬間の絵と音まで送り合えるとなったら、それどころじゃ無いよな・・・

シンシアが銀ジョッキを巧みに操作して男達の後を付けていくと、二人はやがて吹き抜けのあるホールに出た。
何やら操作して昇降機を動かしたが、観覧席のような大きな張り出し床が、四本の柱に支えられて静かに降りてくるのは中々の圧巻だ。

「階段も使えないホド疲れてるー?」
「違うだろ」
「御姉様、あの階段は罠か警報を担っているのかも知れません。知っている人間は絶対に使わず、あれで降りてくるのは部外者だけということでしょう」

「意地が悪ーい!」

「侵入者って言うよりも、事情を知らない王宮の使用人やらなんやらが、ウッカリとか興味本位で地下に来るのを防ぐ仕掛けだろうね。こんな場所で攻撃的な魔法を使って誰かを死なせたりしたら、かえって後始末の方が面倒だ」
「なーるほど!」
「シンシア、地上には付いていかなくていいよ。あの二人は外が夜だと分かったらすぐに降りてくるはずだ」

「分かりました御兄様、ここで待ちます」

なんとなく、この離宮の地上と地下はまったく別の扱いで区切られていて、それを繋ぐ唯一の経路がこの昇降機じゃないかって感じがする。
そして予想通り、しばらく待っていると二人がまた昇降機を使ってホールに降りてきた。

「あ、広い通路の方に向かいますね!」

「恐らく、その先に転移門やエルスカインと会話するための部屋か魔道具があるに違いない。転移門も余裕で徴税ゴーレムを送れる大きさのはずだ」
「廊下ってゆーより洞窟みたいねー!」
「だな。シンシア、ヴィオデボラからの荷物が云々って言ってた方の男は見分けがつくか?」
「後ろ姿だと同じローブで背格好が似ているので厳しいですけど、前に回って顔を確認すれば大丈夫です。そちらの男性の方が少し若いですし」
「じゃあ頼んだ」

二人は真っ直ぐに通路の奥へ向かうと、両開きの大きな扉を小さく開けて滑り込んだ。
銀ジョッキは扉をそのまま『貫通』できるから問題なしだ。
二人が入った事で部屋の明かりが点いたらしい。
先ほどのホールと同じくらい広い部屋の中央には、予想通りに大きな魔法陣がある。

「転移門ですね。今回は二人の行き先が違うので、行き先の切り替えを行って別々に跳ぶはずです」
「先に進み出たのが少し年を食った方だな」
「こちらは見送りますね」

年配の方の男が転移門の中心に立つと床に刻まれた巨大な転移門が光り始め、一拍の後に姿がブレて視界から消えた。

「よし、次の男が目標だ」
「はい、このまま銀ジョッキで追尾します」
「コイツは工房に戻るとか言ってたよな? たぶん徴税ゴーレムの工房だと思うけど、果たして何処にあるやらだ...」

この男の『ヴィオデボラからの荷が届く』って言い方からすれば、工房の所在がウルベディヴィオラで無い事は確実だろうけど、逆にポリミサリア中のどこでもあり得る。
荷物そのものだってどんなブツか分からないけど、馬車で届くんじゃなくって転移門で届くのだろう。

いや待て・・・
コイツは『ヴィオデボラからの荷』と言っていたよな・・・どうして『ウルベディヴィオラからの荷』じゃあ無いんだ?
地名が似てるってのは、単なる俺の早とちりなのか?

「跳びました!」

シンシアの声と同時に『銀ジョッキの本体の箱』の上に表示されている絵姿が揺らぎ、一拍の後に違う場所へと切り替わった。
銀ジョッキの移動も成功したようだ。
ここは部屋の広さや床の転移門の大きさは離宮と同じくらいだけど、壁の質感がまるで違う。
離宮のように整えられた『宮殿風』の内装ではなく、飾りの無い赤っぽいレンガ積みの壁で、いかにも荒削りだ。
秘密工房、砦、地下牢、都市の下水道、なんとでもイメージできる感じ・・・ただし陰気な場所限定で。

銀ジョッキの目が、薄明かりのついている廊下を歩いて行くローブ男の背中をひたすら追い掛けていく。

「雰囲気の暗い場所だなあ」
「なんと言うかエルスカイン達は地下が好きと言うよりも、いっそ太陽の光を嫌ってる感じですよね?」
「ホントそれだ。別にホムンクルスが陽射しを浴びられない訳でも無かろうに」

まあ普通に人々に交じって生活してたカルヴィノやオットーもいるのだから、ホムンクルスがモグラってワケは無い。
むしろ何らかの作業場の都合とか、地下の方が秘密保持しやすいとか、そんな理由の方がありそうだ。

途中に何か、この場所を特定できるようなヒントを見せてくれないかと期待していたんだけど、ローブ男は目的の部屋に入ると、そのままベッドに横たわって寝てしまった。
ゴチャゴチャとモノが置かれているが、どれも錬金関係の道具や材料に見える。
と言う事はこの男も錬金術師で、ここは私室なのだろうか?

「ここまで通った場所に窓は一つも無かったですね。やはりこの工房も全体が地下だと思います」
「だろうな。普通は建物を建てる時に地下室を大きく造る方が面倒臭いんだけど、エルスカイン達にとっては逆なのかも知れないね」
「だってさー、ウォームに掘らせればいーじゃん?」
「ホントにそれも理由かもな」

落盤を防ぐ技術や魔法があるなら、本当にそうかも知れない。
以前もパルレアと話したけれど、ドラ籠を収めるためにエルダン並みの大広間を地上に造ろうとしたら、それはそれで城や王宮並のデカい建物になって大変だし、目立つだろうからな。

「なあシンシア、あの男が使った転移門の設定って、あのままになってる可能性が高いよな?」

「そうですね...年配の男は先に転移してしまいましたし、あの後で誰も転移門を使っていなければ、そのままでしょう」
「そうだよな...」
「まさか御兄様?」
「いけるんじゃないかな?」
「絶対に反対ですっ! この地下工房の所在がどこなのかも分かってないんですよ!?」
「いや、だからこそ知りたい訳だよ」
「それはそうですけど!」

「マリタン、『橋を架ける転移門ブリッジゲート』の動かし方は分かってるだろう?」
「もちろん、よ」

「あの男は寝ちまったし、さっきの様子じゃあ離宮の地下も無人のままって可能性が高い。離宮の地下にもう一度侵入して、そこから地下工房に転移して地上に出れば所在地の見当がつくんじゃ無いかな? 帰りはそのまま自分で転移門を開いて戻ってくればいいだろ?」

「エルスカインの転移門を使うつもりですか? 身内しか通れない仕掛けでもあったらどうするんです?」
「多分大丈夫だ。魔獣や拉致した相手も通す前提の転移門なんだ。そういうややこしい仕掛けはしてないと思うよ。そもそも自分たちの領域の中なんだから、する必要も無いからね」
「保証はないです!」
「エルダンや離宮の地下と同じだよ」
「ですが、地上に出るルートが見つかるかどうか...」

「銀ジョッキでそこから地上に出られそうなルートを探してくれないか? 無ければ諦めて別の方法を探そう」
「それであれば、銀ジョッキをまっすぐ地上に出せば済むのでは?」

「外は夜だよシンシア。暗い中で銀ジョッキの視界じゃあ周囲の状況を確認するのは難しい。仮にどこかの街だったとしても、それが『どこ』かを確認するのに何時間もかかるかも知れないし、その前に銀ジョッキの魔力が切れたらパアだ」

銀ジョッキの写し絵は人の目よりも暗い。
なにより、せっかくのチャンスなのに、送り込んだ銀ジョッキを失いたくないからな・・・
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