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第六部:いにしえの遺構

予想外の魔道具

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「なあシンシア殿、その帳簿とやらで魔獣を管理するのか?」

ドラゴンにとって『在庫管理』とか日頃の暮らしぶりの対極にあるような概念じゃないだろうか?
いや、それとも洞窟に籠もって財宝を守ってるタイプのドラゴンだったら、在庫管理とかするのかな?
財宝の帳簿を抱えてるドラゴンの姿を想像すると、チョット笑える・・・

「そうですアプレイスさん。もしガラス箱と『対』になってるリストが無ければ、何が残っていて何を出してしまったのか、全てをエルスカインか錬金術師が一人で記憶しておかないといけなくなります」

「なるほどな...」

「しかもシンシアが言うようにガラス箱に番号すら付いてないとすれば、どうやって棚卸しするんだって話だよ」
「棚卸し?」
「在庫管理だよ。仮にエルスカイン一味を軍隊のように捉えた視点で言えば、魔獣や魔道具って言う『武器』の数や種類をちゃんと管理できてるかどうかって話さ。思いつきで適当に兵を出してたらアッと言う間に詰むぞ」

「そりゃ重要だな。って言うか適当にやってられるはずないよな?」

「ああ。世界戦争時代からの中身が何だったかはいったん忘れるとして、エルスカインが目覚めてから集めた魔獣だけでも四百年分だからな? 寿命の話はさておき、ずっと生きてても覚えてられないよ」

「仮にエルスカインが、そんな事が出来る頭脳と寿命の持ち主だったとしても、ややこしい管理方法を取ること自体が無意味ですよね。むしろ普通にリストを作れば済む話なんですから...」

「結局、その方がカンタンってコトよねー!」
「ええ、そうです」

「頑張っても意味が無いってワケかい。まあ、そこで手を抜くエルスカインじゃ無いだろうしな」
「そうだよアプレイス。だから奴らが合理的なら、どっかに必ずリストか帳簿みたいなものがあるはずだ。ここを出る前にそれを探し出したいな」

「よし分かったライノ。手分けして探そう!...って言っても、どんなものを探せばいいんだよシンシア殿?」

「そうですね...帳簿は簡単に言ってしまえば財産の目録ですから、普通なら綴じた紙束とか羊皮紙の束とか、本のような体裁になってるモノとか、そういう感じなんですけど」
「じゃあ書棚か」
「棚にはそれなりの本が並んでいるんですけど、さっきの魔導書みたいな罠があるかも知れないと思って、まだ一冊も中を開いてないんです」

「それはありうるからな...厄介だ」
「アタシが全部、検知していく?」

「それでもいいけど帳簿だろ? 他の本に交じって書棚の中に置いてるとは考えにくいな...普通ならすぐに手に取れるところとか、他のモノと混ざって探しにくくなるようなところには置かないもんだ」

「じゃー、お店とかだったら、フツーはどういう場所に帳簿を仕舞ってるの?」

「鍵の掛かる部屋の棚か引き出し、大店おおだななら責任者の部屋の机の上とかだったりするな。ここは錬金術師と魔法使いぐらいしか来ない場所だろうから、隠しておく必要は無いと思う」

「そっかー。じゃあサッと取り出しやすいところだねー!」
「机の上とかか?」
「えっ?」
「なあライノよ、『燭台、基暗しょくだい、もとくらし』かもな?」

アプレイスが指差す机の上には、一枚の黒光りする『板』が置いてあった。
表面はツルツルしてて綺麗だし、そもそも本や帳簿の類いじゃ無い。
きっと錬金術で使う道具なんだろうけど、長方形の皿かお盆だと言われた方が納得できる印象。

確かにさっきからあったはずだけど、三人の意識が罠を仕掛けてある魔導書の方に全力で向いていたので、誰にも注目されていなかったのだ。
後から入ってきたアプレイスだからこそ気が付いたって感じか・・・

だけど何だそれ?

「何だ、その黒い板モノリスは?」
「これがその帳簿ってヤツじゃ無いのか?」
「はあ?」
「ソレってさー、紙束とかじゃ無いじゃん!」

「そうだよ、紙や羊皮紙じゃなくても書いて消して記録が取れればいいんじゃ無いか? 俺は魔道具になんか全然詳しくない。だけど、コイツは知ってるぜ」

アプレイスが黒光りする板の表面に指を滑らせると、微かな光と共に白い文字のようなものが表面に浮かび上がった。

「何だよソレ....」
「こいつは『魔帳ノート』っていう魔道具さ」
魔帳ノート?」

「シンシア殿が『財産の目録』って言ったから思い出したんだけど、以前にチョットした経緯いきさつでドワーフの一族と知り合うことあってな。その時に知ったんだ」

「じゃあ、その黒い板に文字が書けるのか?」

「ああ。この銀のペンの魔力で文字を好きに書いたり消したり出来る。書いたことはどんどん貯まっていって、後からページをめくって読み出せるんだよ」

「マジで?!」

「マジだ。あのドワーフたちはコイツを自分らで作った金属製品や溜め込んだ財宝の目録として使ってたんだ。その魔帳ノート自体がどっかの戦争で負けた国の宝物庫から王冠やら宝石だのと一緒に流れ出たシロモノだったらしいけどな。俺はそう言う財宝とかには興味が無いから忘れてたよ」

「凄いですね! 私も知りませんでしたアプレイスさん。恐らく、それも古代の魔道具の一種なのだと思いますけど、アルファニアの王宮でさえ見たことがありません!」

シンシアがいきなり興奮気味だ。
あまりにも魔道具らしさと言うか、凝った品物らしい特徴が無くて見過ごされていた物体が、古代の貴重な魔道具だったとはね!
でも、その見てくれの質素さこそが、却って凄さを感じさせなくも無い。

「触らせて貰っていいですかアプレイスさん?」
「どうぞ! って、別に俺のモノじゃ無いし...」
「この銀色の棒がペンなんですね?」

「ああ、ソレでペンと同じように文字が書ける。ここの印を押せば次のページがめくれて、反対側の印を押せば前に戻る。ドワーフたちの話じゃ、魔力さえ供給できてれば幾らでもページを増やせるそうだ」

早速シンシアがいそいそと銀色のペンを手に取って、その黒い板モノリスを扱い始めた。
次々とページをめくって、書かれていることを流し読みしているようだ。

「あっ!」
「どうした?」
「数字と記号です...ガラス箱のティターン枠に刻印してあった...」

そう呟くと、どんどんページをめくる。

「コレです御兄様! これが錬金術師の帳簿です」
「アタリか?」
「大当たりです! このモノリス...魔帳ノートに書いてあるリストには項目毎に記号と数字が添えてあります。それが、さっき見たガラス箱の刻印の右端の並びと同じ記述方法なんです」

「えっと、つまり?」

「あのガラス箱に刻印されていた記号は、暦の年月日では無く『製造番号』みたいなものだと思います。ガラス箱の刻印記号と同じ並びをこの魔帳のリストから探し出せば中身が分かる、っていう事です!」

「おおっ、でかしたぞシンシア、それにアプレイスもだ!」
「やりましたね、アプレイスさん!」
「照れるぜ」

アプレイスがニヤニヤというのか、あまり見せたことの無い笑顔で顔を背ける。
どうやら場を和ませるジョークで『照れるぜ』と言ったのでは無く、ホントに照れてるっぽい・・・

ところで、このモノリス? スレート? プレート? なんと表現するのが正しいのか良く分からないけれど、『魔帳ノート』を解析すれば相当沢山のヒントを得られそうな事は想像に難くない。
しかも、アプレイスがこの場にいなければ他の三人はコレを見落としていた可能性もかなり高いのだ。

「って言うことはシンシア、並んでるガラス箱を全部見て回る必要が無くなったな。エルセリアやアンスロープが混じっているかどうかも、その板...魔帳ノートを見るだけで中身を確認できる訳だ」

「はい、恐らくは...」

「よし、さっきの魔導書と一緒にソレも持っていこう。さすがにエルスカインも魔帳が無くなったことには気が付くだろうけど、構うもんか」

「ですね! コレも私の小箱にしまわせて下さい」
「ああ、その方がいいだろう。シンシアが持っていてくれ」

コイツの解読もシンシアにお任せだ。

ガラス箱の中身を確認していく必要が無いとすれば長居は無用だな。
この場所を吹っ飛ばすべきなのかどうか、それはリストを分析した上で、もう一度ここに来る事が出来るかどうかも含めて検討しよう。
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