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第六部:いにしえの遺構
本来の中身は何か
しおりを挟む大体、人族に『支配の魔法』を掛けられるのなら戦争なんか起こさなくても、敵対する相手を次々と支配していけばいいだけのような気もするよな。
もちろん魔力量とかで、支配できる『対象の数』に制限があっても不思議じゃ無いけど、それならそれで王族だけを狙うとかでなんとかなるんじゃないか?
あとは一時的にモヤで乗っ取る系とか・・・まあアレは長期間続けると対象が衰弱死しちゃいそうだけど。
それよりも・・・ひょっとすると支配の魔法は闇エルフとも同族である人族と言うか『人族由来の魂』には掛けられないんじゃ無いだろうか?
それなら魂のあるホンモノのホムンクルスを支配できないことにも辻褄が合うし・・・
対してアンスロープの魂は禁忌の魔法によって捩じ曲げられていて、元々の部分は人族だけど、そこに他の魔獣が無理矢理に付け加えられている。
だから半分半分かな?
人族じゃない部分、つまり『猿が起源じゃ無い魔獣』の部分を支配することで好きなように動かせるとすれば、わざわざ手間を掛けてアンスロープ族を産み出した理由も分かる気がするな・・・
人族の知恵と魔獣の戦闘力を持ちながら、奴隷よりも完全に支配できる存在だ。
「たしかに謀略や暗殺ならともかく、戦場ならアプレイスの言うように魔獣よりも人族の戦士の方がいいしな。それにエルスカインのホムンクルスは同時に動かせる数に限りが有るっぽいんだ」
「上限ってことか?」
「ああ、パルレアとも何度も話したけど、一度に動かせる数は少ない気がする。でもアンスロープなら好きに使えただろうから、合理的なエルスカインが使わない理由は無いと思うよ」
「となると...エルスカインがここを見つけた時に残ってたのは空箱か、せいぜい昔の魔獣の残りくらいでアンスロープはいなかった。で、空箱は自分の使役する魔獣の保管に利用しただけだったとか?」
アプレイスがそう言うとシンシアが異を唱えた。
「でもアプレイスさん、それはそうかもしれませんけど、もしもリリアーシャ殿親子が数千年前からここに入れられていたのだとすれば、この沢山のガラス箱にエルセリア族が親子二人だけ...と言う話は無いような気もするんです」
「おおぅ。だったらシンシア殿、ここはアンスロープはいない代わりに、沢山のエルセリア達が押し込められてたりしてるかも知れんってことだな!」
「はい、その可能性はあると思います」
いやぁ、実は俺もうっすら気が付いてたんだけど、実は有り得るんだよなソレ・・・
むしろ囚われていたのがリリアーシャ親子だけだったら、良かれ悪しかれ、どんだけ特別な存在だったんだってことになる。
「では御兄様、部屋中のガラス箱を調べて、アンスロープ族やエルセリア族に連なる存在が入れられてないかを確認しましょう。もしも魔獣と空箱だけなら少しホッと出来ますからね!」
いなければ『ホッと出来る』か・・・まあシンシアの言うとおりだな。
ぶっちゃけ、仮に押し込められているエルセリア族を見つけたとしたらどうすればいいのかって話だからな。
手掛かりを得るために叩き起こして『エルスカインって名前を知ってますか?』って聞くとか人の道に反しているし、目覚めさせていいのかどうかも分からない。
そもそも正しく目覚めさせる方法も分からないしな・・・
「え、コレぜーんぶ見て回るのぉー?!」
パルレアが卒倒しそうな声を上げた。
まあ気持ちは分からんでも無いよ? 『部屋』という表現は相応しくない広さだからな。
ガラス箱の数は少なく見積もっても数百は下らない。
「パルレア、全部見なくてアンスロープ族かエルセリア族に関わる存在がいると分かればそこでストップしても大丈夫だよ」
「ずーっといなかったら?」
「最後の一個まで見る必要があるな。その最後のガラス箱にバシュラール家に関係する存在が入っていないとは限らないし」
「うー...」
「それにパルレア、もしも魔獣以外に一人でもエルセリア族かアンスロープ族が入ってるかも知れないって思ったら、この場所を吹き飛ばすなんて出来ないだろう?」
「くっ、たしかにー!」
行動規範に愛とか情とか助け合いとか、そういう優しいモノが一切存在しないって印象のエルスカインが、数千年の時を超えてでも守ろうとしているもの。
数百年がかりの大事業に取り組んでさえ守りたいもの。
その本来の中身は、当時のエルセリア達なのか?
正直、違うような気もするけど、無いとも言いきれない微妙な感じだ・・・
「それにその、この場所自体というか、設備や使われている装置なんかも調べてみたいんです。ひょっとして何か手掛かりがあるかも知れないかと...」
シンシアとしては、古代の魔道具というだけでワクワクする存在だろうにな。
状況からして、そう言う態度を示すことを『不謹慎』だとでも考えているのか、なんとか理性で抑え込んでいる・・・というのが見て取れる。
「ああ、それは是非一番詳しいシンシアに調べて欲しいんだよ」
「はい!」
俺の返答で魔道具を調べて回る『大義名分』を得たって感じなのか、緩みそうな表情を必死で押さえてる様子が可愛い。
「パルレアも、まず他に怪しいかもって思えるとかエルスカインの出自に繋がっていそうなモノが無いかを見て回ってくれないか? ガラス箱の中を確認するのは最後でいいよ」
「分かったー!」
「それに御兄様、あのオリカルクムの檻がさっきの大広間に無かったと言うことは、モリエール男爵家から転移させた場所が他にどこか有ると言うことですよね。エルスカインが他に拠点を幾つ持っているのか、あの檻が、あの後どうなっているのか分かれば次の作戦を考えやすいのですけれど...」
「それも、なにか手掛かりを見つけたいよなあ」
「ここが一種の倉庫だとすれば、保管物などの記録が残っている可能性はあります。それも併せて探しましょう」
「うん、置かれてるのはガラス箱だけじゃ無いかもしれないしね」
「はい。悩んでいても仕方有りません。とにかく片っ端から調べてみましょう!」
言うが早いか、早速シンシアはブラディウルフの入っているガラス箱に取り付いて隅々まで調べ始めた。
さすが行動力のシンシアである。
知識と知力のシンシアでもある。
ちなみに俺は、攻撃力の担当だ。
「それは何を調べてるんだいシンシア?」
「えっと、このガラス箱は同じ形のモノが並んでいます。つまり、手作りの品物では無くて、大規模な工房などで一斉に造られたものだと思うんです。そうであればどこの工房であるかを示す印や記述などがあるかもしれません」
「なるほど!」
「いまとは国の名も違う時代ですけど、それでも歴史のある街の名前とか地名は、意外と昔のまま残っていたりするものなんですよ」
「へえー...それにシンシアは古代語も知ってるもんな! リリアちゃんのペンダントも解読したし」
「いえ御兄様、世界戦争時代の言葉や文字そのものは、いまとそんなに大きく変わりませんよ?」
「そうなのか?」
「と言うよりも、いま私たちが使っている言語は、その頃に世界中に広まったモノが引き継がれているって言う方が正しいですね。もちろん時代と共に地域毎の『方言』とかはかなり変わって来ていますけど」
言われてみれば、破邪の遍歴修行中にあちらこちらの国を訪れていた時でも『訛りが酷いな』と思ったことはあっても、抜本的に『何を喋ってるか分からない』ってレベルで会話に困ったことは無い。
あえて言えば南方大陸の一部地域で使われている変わった形の文字がまったく読めなかったくらいか?
「じゃあリリアちゃんのペンダントの時に、『古語だから正確か分からない』って言ってたのは?」
「同じ単語でも、いまでは意味が昔と変わっているモノが沢山あるんです。例えば『塩』はリンスワルド領の特産品ですけど、同じ単語が古語では『報酬』という意味になります」
「へ? なんで?」
「伝聞ですけど、古代では人々の労働への対価を『塩』や『塩の重さ』を基準にして支払っていたからだそうです。それが、いつの間にか報酬とか支払いという意味が消えて、中身の『塩そのもの』を意味するようになったとか」
「なるほどねえ。シンシアはホントに博学だなあ!」
「私の知識は本で読んだだけのモノですよ」
「それが大切なんだよ」
「そうですか? 私は御兄様のように経験を沢山積んでいるほうが素晴らしいと思うのですけど?」
「いや考えてごらんよシンシア。自分の経験は自分の一生の長さ以上には積めないから、これまでの人生より長い経験を持つのは不可能だろ?」
「それはそうですけど...」
「でも、本を読めば何百人、何千人って言う凄い人達の経験や知識や考え方を知ることが出来るんだ。それを糧にした上で自分の経験を積んだ方が、断然よい経験を積めると思うよ?」
「なるほど! 確かにそうですね!...さすがは御兄様です」
「いやいや。話が逸れちゃったな。俺もガラス箱にそういう目印や記述が無いか探してみよう」
「はい!」
シンシアは直感も優れているけど、論理的に組み立てて『こうなるハズ』とか『こうあるべき』と推測することに関しては俺なんか足下にも及ばない。
そういう『知識は行動の礎』だと改めて気付かせてくれた点でも、俺はかなり本気でシンシアに感謝しているのだ。
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