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第六部:いにしえの遺構
魔獣の保管場所
しおりを挟むこのガラス箱は、禁忌の魔法で生み出したアンスロープの兵士達か、その元・・・.平たく言ってしまえば『素材』とされた魔獣や人族の奴隷達を収めておくために作られた魔道具の可能性が高いだろう。
こうやって凍結保管しておけば、何百体でも何千体でも手間を掛けずに何年、何十年でも維持できるし、必要なのは、このガラス箱のような魔道具と置き場所、それに昔は潤沢だった高純度魔石だけだ。
「はぁー、だーいたいホムンクルスとか、人に取り憑いて操るモヤみたいな魔法とかだけでも気に入らなかったけどさー、もう決定的にエルスカインって不愉快! だいっ嫌い!」
「同感だよ...」
「いつか、ぜーったいに命の価値を知らしめてやるんだから!」
パルレアが憤る気持ちも理解できつつ、内心では、どんなに言葉を尽くそうと力を振るおうと、エルスカインがそれを理解する日は来ないんじゃ無いかって気もするけど、ここは黙っておこう。
「そういやモヤって言えば、旧街道のガルシリス城でハートリー村の村長さんに憑依していたモヤの本体...つまり後ろで喋ってたホムンクルスの魔法使いだろうけど、そいつもさっきの大広間で死んだ可能性が高いかもな」
「ホムンクルスは『生きてるもの』じゃ無いから死ぬんじゃ無くって、ただ崩れて消えるだけなのーっ!」
「はいはい。その認識ならあそこでシンシアの精霊爆弾に吹き飛ばされて崩れて消えたってコトだ」
「なんでー?」
「そう思う理由か?」
「うん」
「その魔法使いは現場要員って言うか、動けないエルスカインに代わってあちらこちらに行って転移門を張ったり、魔獣をここから召喚して下準備をしたり、そういう役割だったと思うんだ。きっと牧場の罠だってソイツが設置してから、ここに転移門で戻って来てたんだと思う」
「まー、きっとそーよね」
「だけど...仮にモリエール男爵のところは事前の準備がされてたから例外として考えれば...精霊爆弾でここが吹き飛ばされてから以降は、俺たちは魔獣の攻撃を一度も受けてないんだ」
「アレ? そっか!」
「そうだよ。ルマント村移転のことでバタバタしてたから意識してなかったけど、俺たちがエンジュの森から戻って以来、ずっと平穏だったろ?」
「言われてみればー...」
「だいたいモリエール男爵のところでもドラ籠はともかく、最後はたった数匹のアサシンタイガーしか出てこなくって、むしろショボさに驚いたんだしな」
「んんー、確かにあの時のエルスカインって、アプレースのことだけ気にしてて、アタシ達の正体を分かってなかったっぽいよねー」
「そんな感じだったな。で、アプレイスに会う直前にシンシアと一緒に魔獣の大群から攻撃を受けて以降は、本格的な襲撃を一度も受けてないと。ウォームを弄ったあともリアクションは一切ナシだ」
「となるとー...」
「現場要員が爆発で消失したって事だよな。以前は、単にエルスカインは計画が狂って慌ててるだけだと思い込んでたけどな...ココの状況と絡めて考えると、さっきの話のように『物理的に動けなくなってる』と判断する方が理に適ってるよ」
「なーるほどねー! うん、その可能性は高いかも?」
「もちろんエルスカインだって次の準備を進めてるだろうし、また動けるようになったらここも修復しようとするかも知れない」
「そうなる前に...」
「ここは破壊しよう」
「よっし、りょーかーいっ!」
おおぅ、急に元気になったなパルレア。
「そろそろシンシアもここに呼んでやるか?」
「そーねー...やったら広い空間だけど変な気配は無いし、ココが『魔獣使い』としての拠点だったとすれば、なんか証拠? 手掛かり? とかシンシアちゃんが見つけてくれるかも」
「そうだな。危険はゼロじゃ無いけど心配しすぎてても始まらないし、罠が張られてる可能性は低くなった。アプレイスも一緒でいいだろう」
「うん!」
「じゃあ二人を呼び寄せて徹底的に家捜しだ。一応シンシアにも大広間を見ておいて欲しいから、あっちに戻って転移門を開こう」
「はーい」
指通信を起動して三度目の呼び出し・・・今度こそ三度目の正直で、シンシアも安心してくれるだろう。
< 大丈夫ですか御兄様? >
< ああ。ちょっと凄いモノを見つけたぞ。良くないものではあるけれど、エルスカインの出自って言うか、源流を辿れそうなシロモノの可能性がある >
< すごいですね! なんですか?! >
< まあ言葉で説明するよりも見て貰った方が早い。いったん城砦の地下に戻って転移門を開くから二人で跳んできてくれ。ただし、見てショックを受ける可能性はあるから、そこは覚悟しておいてくれな? >
< は、はい。分かりました! >
< アプレイスにも人の姿になって貰って、一緒に来るように言ってくれ >
< 了解です! >
うんうん、いい返事だ。
しかしパルレアもシンシアも、過激って言うかダイナミックな活動に直面してる時の方が元気がいいよね?
シンシアは姫様の血筋だし、パルレアは勇猛だったクレアの影響なのかな・・・?
++++++++++
いったんパルレアと二人でガラス箱の部屋を出てまたテクテクと通路を歩いて城砦の方へ戻り、大広間からの階段を降りたところに転移門を開いた。
待ち構えていたのだろう、間髪入れずにシンシアとアプレイスが転移してくる。
ホントに転移門を開いたのとほぼ同時に跳んできたので、こっちがビックリしてしまったよ。
ここに俺とパルレアがいることがおぼろに見えた瞬間にはもう跳んでただろう。
そりゃアプレイスも一緒だし俺が大丈夫と言ったようなものだけど、もうちょっとこう、周囲の状況を確かめるというか安全確認というか・・・用心しよう?
シンシアの中には、『どんなモノでも可能な限り予備を作っておく』という慎重さと共に、『戻れないタイミングを狙って俺の後を追ってきた』ような大胆さが同居している。
そして、それが両立できているのがシンシアの強みであり、凄みなんだろうな。
俺よりも全然若いのにね・・・
「御兄様! 御姉様! 何事も無くて良かったです!」
「大袈裟だなぁシンシア」
「ねぇー!」
「だって本当に心配だったんですよ? どう考えても、ここはエルスカインの縄張りの内側なんですから!」
「まーねー」
「心配させて悪かったよシンシア。でもこうして無事に潜入できたから許してくれよな?」
「そんな許すだなんて...」
そう言いながらも、シンシアがまんざらでも無いって表情を見せた。
うん、パルレアとは違う方向で愛い奴だ!
「ともかく...この階段の上にあるのが、多分ドラゴンを取り込むつもりだった大広間なんだ」
「つまり、あの魔道具が破裂した場所ですね?」
シンシアが気を遣って『魔道具』って言ってるけど、もう大精霊当人が『精霊爆弾』って単語を平気で使ってるからな?
気にする必要は無いぞ?
「ああ。ここにアプレイスが取り込まれるはずだったんだと思う。でも今はもう精霊爆弾で何もかも粉々だから、壊れてないモノはなにも残ってないよ」
「そーなの、岩穴自体も天井が崩れかけてるしねー!」
「パルレアと一緒におおよそ探してみたけど、記録や壊れてない道具の類いもなにも無かったから、この大広間はただの転移関係の作業場だったような感じだね」
そう話しつつ四人で階段を上がる。
「わあっ!」
「おお、凄いな!」
大広間に踏み込んだシンシアとアプレイスが揃って喚声を上げた。
「ここに牧場の罠が開かれてたんですね!」
「そうだ。見事に綺麗サッパリ消し飛んでるから、転移門の写し絵を撮って基準点を確認するってのはさすがに不可能だな」
「いえ、それは仕方が無いです。それにあの時点では、ここにあった転移門は高原の牧場と繋げられた状態だった訳ですから、解析しても、そんなに新しい事実は出てこなかったんじゃ無いかと思います」
「それもそうか。いまのところ俺とパルレアが見た限りじゃあ、この城砦地下に他の転移門は見当たらないんだ。奴らの転移門は魔力喰いだから、常設分は最小限にしてあるんだろうね。基準点を探るのは別の機会を待とう」
「はい!」
うん、いい返事だな。
ルマント村で転移門の解析が終わって基準点が『ラファレリア』を指していると知った時の落ち込み具合からすれば、その件に関してはもう平気になったというかシンシアの中で片付いたと考えて良いだろう。
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