508 / 912
第六部:いにしえの遺構
手つかずの残骸
しおりを挟む薄らとした魔石ランプの明かりに照らされた部屋の中には、金属、硝子、陶器、木材その他諸々、元の姿も分からない・・・当然ながら用途なんてさっぱり分からない壊れた器物が転がっている。
「なんだろうなこれ...」
「まるっきり廃墟みたいだねー...」
ただし部屋の中に家具っぽいモノは見当たらず、これらの残骸は最初からこの部屋に置かれていたものらしくない。
まるで勢いよく乱雑に投げ込まれたような・・・
自分の魔石ランプを掲げて奥を照らすと、この部屋の向こうには更に空間が続いている。
それを見て合点がいった。
つまり、床に散らばっている残骸達は、そっちの方からこの部屋に吹き飛ばされて来たんだろう。
恐らくシンシアの『精霊爆弾』がこの奥にある空間で大爆発を引き起こし、その爆風で途中の部屋なんかに置かれていたもの達が吹き飛ばされてきたに違いない。
通路の床には魔石ランプが転がったままで弱い光を放ち続けている。
「シンシアのせ...魔道具がこの奥の空間で爆発したんだ。ここに転がっている残骸は、その爆風で吹き飛ばされてきたんだと思う」
「あー、なるほどねー」
この状態なら、もう声に出して喋ってもどうって事も無いだろう。
あと、咄嗟に『精霊爆弾』と声に出しかけたけど、魔道具って言い直したからセーフだ。
「そこに転がってる魔石ランプも高純度魔石を使ってるよ。おかげで、あの高原の罠を吹き飛ばした時からずっと点き続けてるままなんだな」
「ぜーたくー!」
「こんな深い地下でランプの光を途絶えさせる事は無いだろうから順当だよ。とにかく、ここは間違いなくエルスカインの施設だった場所だ。もっと奥に行ってみよう...ここに散らばってる残骸が何に使われてたモノなのか、分かるようなものが残ってるかもしれん」
何に使われていたか?って言うと、間違いなくパルレアの予想通りホムンクルスの製造じゃないかって思うけど、そもそも俺はホムンクルスの作り方というか製造工程を知らないし、見て分かるという気はしない。
それに加えて、ここにドラゴンを引き摺り込むつもりだったのだから、支配の魔法で魔獣達を従わせるための設備でもあったはずだ。
何か、エルスカインとの今後の戦いにヒントになるようなモノが残されていればいいんだけどな・・・
「あれっ?!」
「えっ、なーに?」
「あ、スマン。思わず考えが声に出たんだ。この状態ってなんか変じゃないか?」
「ぜーんぶ、ブっ壊れてることがー?」
「違う違う。壊れたモノが残ってるって事がだよ」
「へ?」
「シンシアの作った魔道具は強烈だった。この地下空間一体が廃墟になりそうな程の爆発で、その衝撃で地上にある歩廊の一部まで崩れ落ちた訳だ」
「さっすが精霊爆弾!」
オイ待て、この前は精霊爆弾って呼び方に憤ってたんじゃ無いのか?
俺も気を遣って言い換えたのに・・・まあいいスルーだ。
「なあ、俺たちへの攻撃に失敗して撤退する時には、転移門からなにから全部破壊して、絶対に痕跡を辿られないようにするほど慎重だったエルスカインが、なんで壊れたままの施設を放置してるんだ?」
「あれっ!」
パルレアも素っ頓狂な声を上げた。
「な、おかしいだろ?」
「うん、おかしい!」
「崩落してから随分経つのに残骸は放置されたままだ。俺は内心、跡形も無く綺麗サッパリ消えてる場所で何か手掛かりは残されてないかと探し回るか、俺たちが調査に来る事を見越して罠を張るなり待ち構えられてるなりの、どっちかだと思ってたよ」
「うん、アタシもたぶん戦闘が起きると思ってたから強引に付いてきたんだし、シンシアちゃんは残してきたかったのよねー」
「だよな。じゃあコレはどういうことだ?」
「確かに謎よねー」
「あれ以降もエルスカインの活動は続いてるから、ここでヤツ自体が痛手を負ったとは考えにくい。パルレアが推測したように、ここの設備が駄目になったせいで、ちゃんとしたホムンクルスを作れなくなってたっていうのは正解っぽいけどな」
「でもさー、それと残骸の放置とはかんけー無いよね?」
「そうなんだけどさ。なんか違和感があるって言うか引っ掛かるんだよ...」
「んー...」
「エルスカインなら、いつか俺たちが調査に来る事くらい予想してるはずだ。だったら証拠を消すか、罠を張るかしてるはずだろ?」
「ヤバいかも?」
「なんでだ?」
「つまりそれって、アタシ達ごと証拠もまとめて、ぜーんぶ吹き飛ばせるような罠を張ってるんじゃ無いの?」
「可能性が無いとは言わないけど俺はそうは思わないな。って言うか俺だって、そんな可能性が高いと思ってたら踏み込んでないよ。それほど苛烈な攻撃手段を持ってるなら、もっと前に使ってるだろうし、チャンスに出し惜しみするエルスカインじゃ無い」
「そーかー...」
だからこそ、なぜ『ドラゴンの檻』を初手で出さなかったのかが謎だけど。
「なあ、だったら罠を張ってないのは、張れないからじゃ無いか?」
「ホムンクルスが作れないから?」
「そうだ」
「えーっ、なんでー!」
パルレアの『なんでー!』という叫び声で、ボンヤリと頭の中に浮かんでいた解答がはっきりとクリアになった。
なんでエルスカインはココに罠を張れないのか?
以前にパルレア・・・じゃ無くてパルミュナとホムンクルスのエルスカインの手下の数について話した時と、全く同じ事を思い出したのだ。
『やればいいと思うことを相手がしてこないのは、それが出来ないからだと考えればいい』という、俺の師匠らしいシンプルな思考。
じゃあ手の込んだ罠が好きで、念には念を入れる用心深いエルスカインが、罠も張らず、手掛かりになるかも知れない残骸を放置しているのは、その対応が出来ないからだって事になる。
そして師匠は、『相手になぜそれが出来ないのか?』を考えれば、こっちが打つべき次の手が思いつけるものだと言っていた。
「ひょっとしたらなんだけど、エルスカインって転移門以外の方法では移動する事が出来ないんじゃ無いかな?」
「ナニソレ?」
「歩くでも飛ぶでも馬車に乗るでも、とにかく転移門以外の方法じゃあ物理的に動けないのかも知れないって気がしてきた」
「えっとー...なんで?」
「さあ分からん。ここの内部は精霊爆弾で完璧に破壊され尽くしてる。多分、ドラゴンを取り込む罠だけじゃ無くて、日常的な活動に使ってた転移門も吹っ飛んでるんだろうな」
「だけどココの転移門がぜーんぶ吹き飛んでるとしてもさー。どっか近くの転移門に出て、そっから馬車か魔獣に乗って移動すれば済むんじゃー無いの?」
「それが出来ないと仮定すれば、って話だ」
「馬車に乗れない?」
「って言うか、自分の力で移動できないとか...例えばだけど、病で床から起き上がれない人みたいにさ」
「ゼータクしすぎて太りすぎて、とうとう王宮から出られなくなったどっかの王様みたい」
「誰だよソレ?」
「大昔の話だけどねー。それにエルスカインはルースランドの王宮にいるかも知れないんでしょー?」
「とにかく、さっき俺たちが通り抜けてきたルートも落盤で塞がれたまま放置されてただろ。誰もあそこを通ってないし、通ろうと努力もしてない。お前が虚無に放り込んだ結界の仕掛けは別として、ココまでのところは他に罠の一つも無かった」
「えーっと、例えば自分たちはココと外との出入りに転移門を使ってるから通路が塞がった事を気にしてない。それでー、アタシ達が階段を通ってここに来られるとは思ってないから罠も張ってないとかー?」
「前半はあり得るけど、後半はあり得ないと思う。エルスカインはそんなに甘いヤツじゃあ無いよ」
「まー、そーよねー」
「エルスカインの居場所がルースランド首都のソブリンだろうとアルファニア王都のラファレリアだろうと、あの高純度魔石を使った転移門なら移動に制約は無いよな。でも仮にエルスカイン本人が転移門でしか動けないとすれば話は面倒だ。必ず露払いが必要になる」
「つゆはらい?」
「エルスカインが行くつもりの場所を先に訪れて転移門を用意する役目の魔法使いだよ。どうせホムンクルスだろうけど、それでも、かなり優秀な魔法使いを実際に走らせる必要があると思うんだ」
貴族が訪問先に先触れを走らせるみたいな優雅な話じゃ無い。
先に手下を送り込んで転移門を開かせておかないと、自分がそこに行く事が出来ないとなったら、転移門が破壊される事は活動に致命的だろう。
あの高原の罠を吹き飛ばした精霊爆弾が切っ掛けになって、いまのエルスカインは俺たちが狙ってた以上に追い詰められてるのかも知れないな・・・
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件
有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!
父上が死んだらしい~魔王復刻記~
浅羽信幸
ファンタジー
父上が死んだらしい。
その一報は、彼の忠臣からもたらされた。
魔族を統べる魔王が君臨して、人間が若者を送り出し、魔王を討って勇者になる。
その討たれた魔王の息子が、新たな魔王となり魔族を統べるべく動き出す物語。
いわば、勇者の物語のその後。新たな統治者が統べるまでの物語。
魔王の息子が忠臣と軽い男と重い女と、いわば変な……特徴的な配下を従えるお話。
R-15をつけたのは、後々から問題になることを避けたいだけで、そこまで残酷な描写があるわけではないと思います。
小説家になろう、カクヨムにも同じものを投稿しております。
愛するオトコと愛されないオンナ~面食いだってイイじゃない!?
ルカ(聖夜月ルカ)
恋愛
並外れた面食いの芹香に舞い込んだ訳ありの見合い話…
女性に興味がないなんて、そんな人絶対無理!と思ったけれど、その相手は超イケメンで…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる