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第六部:いにしえの遺構

アスワンの森で

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俺が口ごもっていると、アプレイスが姿勢を変えて俺に真っ直ぐ顔を向けた。

「ライノは、前に精霊の力で浮いた事はあるんだろ?」

「ああ、パルレアっていうかパルミュナと一緒にな。あの時の俺は、ただパルミュナを抱っこして立ってただけなんだけど...あ!」
「ん?」
「あの時って、そう言えば俺は『空中に立ってた』なと思って。こう...フワっと浮いてるんじゃ無くて、まるで空中に土台っていうか板があるみたいにしっかりした感触が足下にあってな。その上に立ってたよ」

「抱えていたパルレア殿...その頃はパルミュナ殿なんだな...の身体は重かったか?」

「いや、そう言われてみると抱いてた感触はしっかりあったけど、重いとは感じてなかったな」
「まあライノの剛力だからエルフの一人くらい指で摘まみ上げられるとは思うけどな。でも重さを『感じなかった』って言うなら、それは魔法で二人揃って身体を軽くしていたからだ」

「そういうことか...」

なるほど。
パルミュナが軽いんじゃ無くって、『重さを感じてない』事そのものが魔法の効果だったんだな!
妙に納得できた。
アプレイスが『軽くなる』ことの意味を解説してくれる。

「重さ自体は変わらなくても、重さの感じ方や影響は変える事が出来る。水に入れば身体の重さを感じないほどになって、水中を漂う事だって出来る。自分の重さそのものが軽くなった訳でも無いのにな」

ああ、そう言えば以前にシンシアから重量と質量?だったけか・・・そういう話を聞かせて貰った事があったな!
あの時にシンシアは『水に浮かべた丸太を軽く感じたとしても、重さの本質は変わってない』と言っていた。
丸太自体が軽くなったんじゃ無くて、軽く感じているだけだと。
それと同じなのか?

「なあアプレイス。水中を漂うって、有る意味では水の中を飛んでるって言っても良いよな?」
「ああ。だったら周りの空気が水のように...ライノの重さよりも重たいモノみたいに『ライノ自身が認識して振る舞う』ことが出来たらどうなる?」
「俺は空気に浮かぶ!」
「そういうことだ。それでもう、ライノの身体が空気より軽くなってると見なせるワケだろ? 空気の中を泳げるって寸法だな」

「おおっ...」

「その時ついでに、石つぶてを打ち出す時みたいに自分の身体の下にある空気をギュウギュウに圧縮して見ろよ。上手くやれば『空気の上』に立てるかも知れないぜ?」

「おおおっっ!!」

さっそくアプレイスのくれたヒントを自分の中でイメージとして膨らませてみる。
俺が羽毛のように軽くなるんじゃ無くて、俺の周りの空気がガッシリと重たくなる・・・
そう、まるで水の中にいるように・・・
そして俺はそこで、大地のように固めた空気の板の上に立っている・・・

「お、少し浮いたぞライノ!」
「マジか? マジだ!」

自分の足の裏の感触はあまり変わらないから、あやふやだったけど、アプレイスに言われて足下を確認してみると確かに少しだけ芝生の上から浮いていた。

「おぉ、俺は浮いてるぞアプレイス!」
「やったなライノ」
「ああ、これでいいんだな!」
「それにしても、ちょっとヒント出しただけで即座に習得しちまうとはな...やっぱ勇者って恐ろしいや」
「ありがとなアプレイス! そのヒントを貰えなかったら、俺はこのまま明日まで地べたでうんうん唸ってた気をがするよ!」

最初の内はちょっと気を抜くと地面まで下がってしまっていたけれど、何度も練習している内に、自由に身体を浮かび上がらせることが出来るようになっていた。

ただ、確かに魔力の消費量は凄い。
それにあまり高くは浮かべない。

俺の魔力保有量はアスワンのお陰で底なしになりつつ有るから良いようなモノの、生まれつき持っている種族魔法で飛べるドラゴンやピクシーと違って、普通の人族の魔法使いが『鍛錬して』飛べるようになるっていうのはかなり大変だろうな。

まだまだ『飛べる』とは言い難いけど、一番の難関は突破できたように思える・・・突破出来たよね?

++++++++++

パルレアとアプレイスのお陰で、俺もなんとか空に浮かぶ事が出来るようになったので、ともかく浮かんでは降りて浮かんでは降りて、それを何度も繰り返し練習していると、屋敷の玄関からパルレアが出てきた。

「あー、お兄ちゃんもう飛んでる! 習得早すぎ!」

「え、そうか? まあまずパルレアに言われたように自分の身体を軽くして地面から浮くってのが大変だったんだけどな、アプレイスが例の重量と質量の話でヒントをくれて、それを参考になんとかなった」
「そっかー」
「あと、空気を固めるって言うか、自分の足下に力を固めて立てるような土台にするとかもな」
「さすがライノだ。一発で習得したぜ?」
「えーっそれって、お兄ちゃんがまず浮かび上がれるようになったら、次のステップでアタシが教えるつもりだったのに!」

「おお、そうだったかパルレア殿。すまんな」

「まあ手早く進んだんだから良いじゃないか。それにまだ、飛ぶって言うにはほど遠い状態だと自分でも思うよ」
「いーけどさー。ポリノー村の時みたいにお兄ちゃんに抱っこして貰って、見本に飛んでみせる計画だったんだけどなー」

「抱っこぐらいいつでもするから、むくれるなって」

って言うか、いまはコリガンサイズになってるから抱っことか言うけど、ピクシーサイズの時は基本的に俺の肩に座ってるだろうに。

「じゃー、浮かべるようになったんだから、次は飛び回るって方ね。でもこっちは簡単だけど」
「そうなのか? なんだか自分ではちょっと上がったり下がったりしているだけで、パルレアみたいに飛べるようになるまで、まだまだ練習が必要そうだけどな」

「ううん、そこは大丈夫。いま、お兄ちゃんはどんなイメージで身体を浮かび上がらせてる?」
「アプレイスに貰ったヒントで、周りの空気が水より重い...つまり自分の身体より重いものだって認識して、相対的にかな? 自分の身体が軽くなった状態を作りだしてるよ」

「浮かぶのはそのイメージでいーんだけど、前後左右上下に自由に動くためにはどーするのがいいと思う?」

「えっと、まず思いついたのは人族の魔法で言う『風の魔法』な? あれで自分を動かす事も出来るんじゃ無いかって考えたんだけどさ...」
「シンシアちゃん方式の魔法二段発令ね」
「だけど、考えてみればパルレアはポリノー村の時に風の魔法なんか使ってなかったよな? だからこれは違うと思い直した」

「おー。正解!」

「だったら力の魔法しか無いはずだけど、コイツはすでに浮かび上がる空間と自分を乗せる土台を作る事に使っちまってる。もちろん練習すればやれるようになるかも知れないけど、土台を固める力と横方向に押す力は、ズレるっていうか反発し合っちゃうような感触がするんだよなあ。それにこの方式だと斜めに移動するのが難しそうな気もする」

「それも正解だー。やっぱりお兄ちゃん凄ーい!」
「そっか?」
「うん! じゃー、どうやって動く?」
「そこが悩みだ。ぶっちゃけ上手い方法が思いつかん!」
「ふふふ、やっぱりアタシの出番はまだ残ってるみたいねー! じゃあ抱っこ!」
「はいはい」

俺を見上げて両手を差し上げてきたパルレアの脇に手を差し込んでをひょいっと持ち上げ、そのまま首に掴まらせて横抱きにする。

この前の夜、ノイルマント村に精霊の大結界を張って貰った後の帰り道もこうやってパルレアを横抱きに持ち上げて歩いたけど、いまのパルレアの身体はピクシーの身体を無理矢理大きくしてるからなのか、以前のエルフの身体に較べても随分と華奢で軽い。
上空で強い風でも吹いたら、どこかに飛ばしてしまいそうだ。

俺の命に替えても飛ばさないけどな!

「えっとね、お兄ちゃん。いまのアタシって昔より軽いでしょ?」
「お、ぉおぅ。そうだな!」
「でも、軽いから飛ぶって事じゃーないのよねー」

まるで心の中を読んでいたかのようなパルレアの言葉にちょっとビックリしたが、どうやら単に飛ぶ話の続きだったらしい。

「ああ。ピクシーは小さくて軽いから飛べるって思えるけど、じゃあドラゴンやグリフォンはどうなんだって話だよな?」

「そーそー。結局は質量よりも魔力量次第。それに軽いピクシーでも飛んでる時に、木の葉みたいに風に振り回されたりはしないでしょー?」
「それもそうか!」
「うん。ただ軽くて浮いてるんだったら、葉っぱみたいにすぐ風に飛ばされちゃうよねー」
「だよなあ...」
「で、浮かび方や飛び方は種族によって魔法の使い方が違うから色々だけどさー、精霊魔法の力で飛ぶのはピクシーよりもドラゴンの方が近いかなーって思う」

「へぇー」

なるほどねえ・・・まあ正直、どっちの方法も自分で会得してないから実感としての差が分からないけどな!
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