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第六部:いにしえの遺構
エルダンの情報
しおりを挟む「ただ一つ気になるのは、あのペンダントが持ち出された頃、つまりリリアちゃんと母親がルースランドから逃げ出したのは八年前だそうなんだ。それから八年間、フォブさんと二人でミルシュラント中をグルグル行商して回っていたのに、一度も危ない目に遭ったことはないって言うんだよ」
「そりゃ不思議だな。重要なモノを持って逃げたんだったら、草の根分けても探し出そうとしてそうなもんだ」
普通に考えればアプレイスの言う通りだ。
俺の両親・・・のんびりしたエドヴァルの田舎に十年も隠れ住んでいた育ての両親が、ある日突然エルスカインに送り込まれたブラディウルフに殺されてしまったように・・・
あの場所から失われたという、産みの母親が俺の両親に託したペンダントと、リリアちゃんのペンダントとの関係性は分からない。
果たしてそれが探知魔法の組み込まれたペンダントであったかどうかも推測の範疇を出ない。
俺の産みの母親の実家である『レスティーユ家』と、リリアちゃんの母親の家名らしい『バシュラール家』の間になにかの縁があるのかも分からないし、実は何の関係もないのかも知れない。
そして俺の両親が魔獣に殺されたのが八年前の秋で、リリアちゃんと母親が恐らくはエルダンから逃げ出したのが同じく八年前、その年の冬だったということも単なる偶然かも知れない。
だけど・・・
もしもそこに関わりが、なにかの縁があるのならば、それはパルレアの言うように並大抵の事ではないはずだ。
「とにかく、これまでの処はリリアちゃんもペンダントもエルスカインの標的にされてない。だけど...それでも俺とシンシアは、あのペンダントがエルスカインの秘密の『何か』と関わりがあると直感したんだよ。理由は上手く言えないんだけどな」
「ふーん、まあライノとシンシア殿がそう言うのなら、きっとそうなんだろう。で、リリア嬢と母親がなんらかの意図を持ってエルダンから逃げ出した。その理由やエルスカインとの関わりを探ってみたいって事だな」
「そんな感じだ」
「だったら、リリア嬢をエルダンに連れて行くってのは危なすぎるとしても、ペンダントは預かっていく方が良いんじゃないか?」
「いや、それは却ってリスクになるかも知れない。それにシンシアの見立てによれば、リリアちゃんの血筋に宿っている魔力が注がれないと鍵が動作しない可能性も高いんだよ」
「となると『何処にある何の鍵か』がはっきり分かるまでは迂闊にリリア嬢を連れ出さないほうがいいって訳か...」
「そうなんだ。ペンダントに刻まれてた古語をシンシアが解読したところによると、リリアちゃんの家名はバシュラールで、それと一緒に『風と戯れる者に幸いあれ』っていう意味のフレーズが刻み込まれてる」
「なんだよそれ、面白いな!」
「その言葉が何を指しているかや由来は分からないんだけど、『鍵』っていう存在からして、普通は秘密の場所や大切なモノに関わる事が多いだろう?」
「そうだよな。家名やら良く分からんフレーズやらを刻み込んだ魔法の鍵となれば尚更だ。普通なら宝物庫レベルの鍵を想像するね...でもライノ、そうなるとエルスカインが放置してることがますます不可解だな...ただ気付いてないだけなのか、実はどうでもいいモノなのか、それとも...」
「それとも?」
「知ってて泳がせてるとか?」
「可能性は分かるけど八年は長くないか? それに言っちゃあなんだけどリリアちゃんが行き倒れる可能性も低くなかったと思う。現に母親は脱出直後に亡くなってるんだ」
「まあそうか。考えすぎても仕方ないな」
「リリアちゃんは母親から何の情報も受け継いでないしね。泳がせる意味がないって気がするよ」
「御兄様、リリアーシャ殿のペンダントがエルスカインにとってどんな存在であれ、それを探るために一番近い手掛かりがエルダンの古城だと言うことは間違いないと思います」
「だよな!」
「ですが...そうそう部外者が近寄れる場所でもありませんよ? お父様、と言うか公国軍の放った密偵の情報が断片的なのも、それが理由ですから」
「そこなんだけど...なんとかして中に...しかも悟られずに入り込む必要がある。不可視の結界でどうにか出来ないかな?」
「まだエルスカインは私たちの使っている防護メダルと不可視結界のことは把握してないはずです。とは言え、敵の本拠地にどんな魔法が仕込まれているかは見当も付きません。それに彼らがアプレイスさんを捕らえるつもりでいたのなら、当然ドラゴン族の使える不可視結界のことも知っていたでしょうから」
ああ、そうか。
確かにモリエール男爵がドラ籠の罠を発動させたとき、籠の中に気配はあれどアプレイスの姿が見えない事に対して、『我らの知らぬ魔法で姿を隠しておるだけだろう!』とか叫んでたよな。
男爵が何も知らなかった可能性もあるけど、あの籠の中が『ドラゴンの不可視結界』に関しては無効化する力を持っていたって可能性も否定できない。
ぶっちゃけ、あの時あのドラ籠の中には『本当にドラゴンがいなかった』というだけなのだけど。
「うーん、潜入してみたらダメでした。じゃあ洒落にならないな...」
「そうですね。『ものは試し』と言ってしまうには、少々リスクが高すぎる気がします」
「ねえお兄ちゃん。えーっと、いまの防護メダルに組み込んだ不可視結界って、アプレースから見せて貰ったドラゴンの種族魔法とシンシアちゃんの精霊魔法の合わせ技じゃん?」
「そうだな。で?」
「ドラゴンの不可視結界は露呈するかもって考えてー、でも精霊魔法の不可視結界だけじゃー、その場から動けない。そこが問題よねー」
「あちら立てればこちら立たずか」
「だったら、二段構えで試してみたらいーのかなー? って」
「んん?」
パルレアが何かを思いついたらしいことは分かるけど、その場から動かずに潜入するってどういう理屈だ?
「精霊の『箱』、別に箱じゃなくてもいーんだけど、アレの不可視結界を使えばたぶんエルスカインにも見破れないはずかなーって。それにアレって実際には現世に存在してないものだから、結界隠しを使わなくてもそもそも精霊魔法が動いてるって事も検知できないと思うのよねー」
「精霊の力を承けている者にしか見えないし、中のモノを取り出すまでは現世にない...って言うかあの箱は、俺たちから精霊界に手を突っ込んでるようなモノなんだよな。でも、それでどうやって動かずに潜入するんだ?」
「アスワンに、エルダンの古城が見える場所に箱を出して貰うの。ホントーなら城の地下に直接、箱と転移門を出して貰えばいーんだけど、それだと転移が出来ないかもしれないし、万が一露呈したときのダメージがおっきいでしょ? 城内に潜入しやすそうな外の空間を適当にアスワンに見繕って貰ってさー、そこに精霊の箱を置いて転移門を開いて貰うってわけ」
「うーん、いきなり近場に転移して、そこからメダルの不可視結界に頼って潜入を試みる...で、ダメだったら速攻で箱のところまで逃げ帰って即転移して避難って感じか?」
「そーゆーこと」
「勝率は低いぞ? そもそもドラゴン族の不可視結界が見破られるのなら、その時点で終わりだからな」
「だからさー、メダルの不可視結界はアプレースのやり方じゃなくってピクシー族の方法に変えちゃうの」
「そんなこと出来るのか?」
「ピクシー族は人族の中でも魔力量は膨大な方だから、誰でも不可視魔法を使えてたでしょ? まーそれでもお兄ちゃんには気配を見破られてたけど」
「ダメじゃん!」
そう言えばそうだった。
朧気ながらも、俺はラポトス氏の存在を感じ取れていたんだ。
「もっちろん改良するの! ルマント村に行く前にやったときはさー、アプレースも一緒に使える様にメダルに組み込むって言うのが前提だったからドラゴン族の魔法を真似させて貰ったけど、いまは高純度魔石が好きなだけ使えるでしょー」
「それって、高純度魔石があれば『力技』でナントカできるって事か?」
「そーそー。たぶんね!」
「たぶんかよ! まあ仕方ないだろうけど」
「ピクシー族の不可視魔法の原理を精霊魔法に組み替えちゃうってワケ。その上で、シンシアちゃんの結界隠しが働いてれば、エルスカインにも探知されない確率は高いと思うのよねー」
「なるほど。手法としてはアリだな」
うーん、いけるか? いけそうな気もする。
ただ、可能性は高そうに思えるんだけど、問題はアスワンの手を借りる必要があるって事か・・・
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