上 下
495 / 912
第六部:いにしえの遺構

エルダンの情報

しおりを挟む

「ただ一つ気になるのは、あのペンダントが持ち出された頃、つまりリリアちゃんと母親がルースランドから逃げ出したのは八年前だそうなんだ。それから八年間、フォブさんと二人でミルシュラント中をグルグル行商して回っていたのに、一度も危ない目に遭ったことはないって言うんだよ」

「そりゃ不思議だな。重要なモノを持って逃げたんだったら、草の根分けても探し出そうとしてそうなもんだ」

普通に考えればアプレイスの言う通りだ。

俺の両親・・・のんびりしたエドヴァルの田舎に十年も隠れ住んでいた育ての両親が、ある日突然エルスカインに送り込まれたブラディウルフに殺されてしまったように・・・

あの場所から失われたという、産みの母親が俺の両親に託したペンダントと、リリアちゃんのペンダントとの関係性は分からない。
果たしてそれが探知魔法の組み込まれたペンダントであったかどうかも推測の範疇を出ない。

俺の産みの母親の実家である『レスティーユ家』と、リリアちゃんの母親の家名らしい『バシュラール家』の間になにかの縁があるのかも分からないし、実は何の関係もないのかも知れない。
そして俺の両親が魔獣に殺されたのが八年前の秋で、リリアちゃんと母親が恐らくはエルダンから逃げ出したのが同じく八年前、その年の冬だったということも単なる偶然かも知れない。

だけど・・・

もしもそこに関わりが、なにかのえにしがあるのならば、それはパルレアの言うように並大抵の事ではないはずだ。

「とにかく、これまでの処はリリアちゃんもペンダントもエルスカインの標的にされてない。だけど...それでも俺とシンシアは、あのペンダントがエルスカインの秘密の『何か』と関わりがあると直感したんだよ。理由は上手く言えないんだけどな」

「ふーん、まあライノとシンシア殿がそう言うのなら、きっとそうなんだろう。で、リリア嬢と母親がなんらかの意図を持ってエルダンから逃げ出した。その理由やエルスカインとの関わりを探ってみたいって事だな」
「そんな感じだ」
「だったら、リリア嬢をエルダンに連れて行くってのは危なすぎるとしても、ペンダントは預かっていく方が良いんじゃないか?」

「いや、それは却ってリスクになるかも知れない。それにシンシアの見立てによれば、リリアちゃんの血筋に宿っている魔力が注がれないと鍵が動作しない可能性も高いんだよ」
「となると『何処にある何の鍵か』がはっきり分かるまでは迂闊にリリア嬢を連れ出さないほうがいいって訳か...」

「そうなんだ。ペンダントに刻まれてた古語をシンシアが解読したところによると、リリアちゃんの家名はバシュラールで、それと一緒に『風と戯れる者に幸いあれ』っていう意味のフレーズが刻み込まれてる」
「なんだよそれ、面白いな!」
「その言葉が何を指しているかや由来は分からないんだけど、『鍵』っていう存在からして、普通は秘密の場所や大切なモノに関わる事が多いだろう?」

「そうだよな。家名やら良く分からんフレーズやらを刻み込んだ魔法の鍵となれば尚更だ。普通なら宝物庫レベルの鍵を想像するね...でもライノ、そうなるとエルスカインが放置してることがますます不可解だな...ただ気付いてないだけなのか、実はどうでもいいモノなのか、それとも...」

「それとも?」
「知ってて泳がせてるとか?」

「可能性は分かるけど八年は長くないか? それに言っちゃあなんだけどリリアちゃんが行き倒れる可能性も低くなかったと思う。現に母親は脱出直後に亡くなってるんだ」
「まあそうか。考えすぎても仕方ないな」
「リリアちゃんは母親から何の情報も受け継いでないしね。泳がせる意味がないって気がするよ」

「御兄様、リリアーシャ殿のペンダントがエルスカインにとってどんな存在であれ、それを探るために一番近い手掛かりがエルダンの古城だと言うことは間違いないと思います」
「だよな!」
「ですが...そうそう部外者が近寄れる場所でもありませんよ? お父様、と言うか公国軍の放った密偵の情報が断片的なのも、それが理由ですから」

「そこなんだけど...なんとかして中に...しかも悟られずに入り込む必要がある。不可視の結界でどうにか出来ないかな?」

「まだエルスカインは私たちの使っている防護メダルと不可視結界のことは把握してないはずです。とは言え、敵の本拠地にどんな魔法が仕込まれているかは見当も付きません。それに彼らがアプレイスさんを捕らえるつもりでいたのなら、当然ドラゴン族の使える不可視結界のことも知っていたでしょうから」

ああ、そうか。
確かにモリエール男爵がドラ籠の罠を発動させたとき、籠の中に気配はあれどアプレイスの姿が見えない事に対して、『我らの知らぬ魔法で姿を隠しておるだけだろう!』とか叫んでたよな。
男爵が何も知らなかった可能性もあるけど、あの籠の中が『ドラゴンの不可視結界』に関しては無効化する力を持っていたって可能性も否定できない。

ぶっちゃけ、あの時あのドラ籠の中には『本当にドラゴンがいなかった』というだけなのだけど。

「うーん、潜入してみたらダメでした。じゃあ洒落にならないな...」
「そうですね。『ものは試し』と言ってしまうには、少々リスクが高すぎる気がします」

「ねえお兄ちゃん。えーっと、いまの防護メダルに組み込んだ不可視結界って、アプレースから見せて貰ったドラゴンの種族魔法とシンシアちゃんの精霊魔法の合わせ技じゃん?」
「そうだな。で?」
「ドラゴンの不可視結界は露呈するかもって考えてー、でも精霊魔法の不可視結界だけじゃー、その場から動けない。そこが問題よねー」
「あちら立てればこちら立たずか」
「だったら、二段構えで試してみたらいーのかなー? って」
「んん?」

パルレアが何かを思いついたらしいことは分かるけど、その場から動かずに潜入するってどういう理屈だ?

「精霊の『箱』、別に箱じゃなくてもいーんだけど、アレの不可視結界を使えばたぶんエルスカインにも見破れないはずかなーって。それにアレって実際には現世うつしよに存在してないものだから、結界隠しを使わなくてもそもそも精霊魔法が動いてるって事も検知できないと思うのよねー」

「精霊の力を承けている者にしか見えないし、中のモノを取り出すまでは現世にない...って言うかあの箱は、俺たちから精霊界に手を突っ込んでるようなモノなんだよな。でも、それでどうやって動かずに潜入するんだ?」

「アスワンに、エルダンの古城が見える場所に箱を出して貰うの。ホントーなら城の地下に直接、箱と転移門を出して貰えばいーんだけど、それだと転移が出来ないかもしれないし、万が一露呈したときのダメージがおっきいでしょ? 城内に潜入しやすそうな外の空間を適当にアスワンに見繕って貰ってさー、そこに精霊の箱を置いて転移門を開いて貰うってわけ」

「うーん、いきなり近場に転移して、そこからメダルの不可視結界に頼って潜入を試みる...で、ダメだったら速攻で箱のところまで逃げ帰って即転移して避難って感じか?」
「そーゆーこと」
「勝率は低いぞ? そもそもドラゴン族の不可視結界が見破られるのなら、その時点で終わりだからな」
「だからさー、メダルの不可視結界はアプレースのやり方じゃなくってピクシー族の方法に変えちゃうの」
「そんなこと出来るのか?」
「ピクシー族は人族の中でも魔力量は膨大な方だから、誰でも不可視魔法を使えてたでしょ? まーそれでもお兄ちゃんには気配を見破られてたけど」

「ダメじゃん!」

そう言えばそうだった。
朧気ながらも、俺はラポトス氏の存在を感じ取れていたんだ。

「もっちろん改良するの! ルマント村に行く前にやったときはさー、アプレースも一緒に使える様にメダルに組み込むって言うのが前提だったからドラゴン族の魔法を真似させて貰ったけど、いまは高純度魔石が好きなだけ使えるでしょー」

「それって、高純度魔石があれば『力技』でナントカできるって事か?」
「そーそー。たぶんね!」
「たぶんかよ! まあ仕方ないだろうけど」

「ピクシー族の不可視魔法の原理を精霊魔法に組み替えちゃうってワケ。その上で、シンシアちゃんの結界隠しが働いてれば、エルスカインにも探知されない確率は高いと思うのよねー」

「なるほど。手法としてはアリだな」

うーん、いけるか? いけそうな気もする。
ただ、可能性は高そうに思えるんだけど、問題はアスワンの手を借りる必要があるって事か・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

エッケハルトのザマァ海賊団 〜金と仲間を求めてゆっくり成り上がる〜

スィグトーネ
ファンタジー
 一人の青年が、一角獣に戦いを挑もうとしていた。  青年の名はエッケハルト。数時間前にガンスーンチームをクビになった青年だった。  彼は何の特殊能力も生まれつき持たないノーアビリティと言われる冒険者で、仲間内からも無能扱いされていた。だから起死回生の一手を打つためには、どうしてもユニコーンに実力を認められて、パーティーに入ってもらうしかない。  当然のことながら、一角獣にも一角獣の都合があるため、両者はやがて戦いをすることになった。 ※この物語に登場するイラストは、AIイラストさんで作成したモノを使っています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一
ファンタジー
 王道一直線のファンタジー。  俺は、異世界に召喚され聖桜剣なんてものの使い手に選ばれて超強くなった。  そこで助けた女の子ドラセナを王都に送り届けることにする。立ち塞がる敵をなぎ倒し仲間を増やし(何故か美少女ばかり)仲間たちとわいわい過ごしながら、王都を目指す。俺の冒険は始まったばかりだ。  適度にチートで適度にハーレムなこれ以上無いくらいの王道ファンタジーをお届けします。  異世界に召喚された葛城ナハトは伝説の聖剣・聖桜剣の使い手に選ばれ絶大な力を得、そこで出会った不思議な力を秘めた少女ドラセナを守るため一緒に旅をしながら想獣に襲われた村を助けたり、ドラセナを狙う勢力と戦うことになる。  聖桜剣の使い手の従者を名乗る少女イヴ、武者修行中の無邪気な格闘少女イーニッド、女騎士グレース、ツンデレ傭兵少女剣士アイネアス。旅の途中で様々な少女たちと出会い、仲間になりながら、ナハトはドラセナを守るための旅を続ける。  ラプラニウム鉱石という特殊な鉱石から作られる幻想具という想力という力を秘めた特別な武器。  ラプラニウム鉱石を取り込んだ凶暴な動物・想獣、国同士の陰謀、それらがあふれる世界でナハトはドラセナを守り抜けるのか!?  小説家になろうにも投稿してあります。

処理中です...