475 / 916
第六部:いにしえの遺構
仮設住居と鋳造メダル
しおりを挟む結局、バーダー騎士位が率いる輸送部隊の御者達は五台の荷馬車に分乗して来た道をそのまま戻っていった。
かなり窮屈そうに見えたけど、この先の街まで戻れば治安部隊の詰所から各種の手配や連絡が出来るから問題ないんだそうだ。
まあ食料も十分に渡したし、なによりここはミルシュラント国内だから帰路で困るようなことは起きないだろう。
「で、このままノイルマント村に運ぶのか?」
「そうだ。全部収納できると思うし、出来なきゃ転移門で何往復かするだけだからね。魔石はたっぷりあるから距離は問題ないよ」
「そこまでなると翼で飛ぶより便利だな。俺も転移魔法が使いたくなるぜ...」
アプレイスがワザと情け無さそうな声を上げて見せるけど、本心では仮に転移魔法を使えるようになったとしても、ドラゴンの誇りに掛けても絶対に自分の翼で飛ぶことを止めないだろうな。
アプレイスって言うのは、そういう奴だと思う。
「でも逆に言えば『精霊魔法頼り』なんだよ。俺もいつか勇者を辞めたら精霊魔法も使えなくなるだろうし、あのアスワンの屋敷も引き払うことになるってつもりでいるさ」
「えっ、そうなのか?!」
「そうだよ」
「勇者に『辞める』とか有るなんて思いもしなかったぜ?」
「そりゃあ人族なんだ。戦いで死ななくてもいつかは老いて、勇者なんて続けられなくなるに決まってる」
「まあ、そう言われてみればそうか...ライノやシンシア殿だって中身はハーフエルフなんだよな」
「中身って...なんだそりゃ」
そりゃ自分としても積極的に考えたいことじゃ無い。
だけど破邪としての修業をしている間にも老いて引退していった先達を何人か見ているし、鉄で出来ていそうな俺の師匠だって、やがては俺が面倒を見なきゃいけなくなるだろう。
破邪だろうが勇者だろうが時が経てば...いつかは自分がそうなる順番が回ってくるってだけの事だ。
「だからなアプレイス、俺にとっては一時的に借りてる力に過ぎない精霊魔法を使えて当たり前って気持ちになるのが『宝物への執着』なんだよ。借りたモノはいつか返さなきゃならんし、魔石だっていつかは使い切ってなくなる。その時になって慌てたくないからな」
「なるほどね。ライノらしいっちゃあライノらしい考えだよ」
「そうか?」
「なんにしても将来、精霊魔法が使えなくなった時はいつでも俺の翼で運んでやるから感謝してくれ」
「おう、頼んだ」
そんな益体もないことを話しながら、次々と馬車を革袋に収納していく。
もしも誰かが俺たちの様子を見ていたら、男が二人、隊列の脇を歩いて行くに連れて一台ずつ馬車が姿を消していく・・・そんな風に見えたことだろう。
二人で馬鹿話をしながら隊列の最後尾まで歩いて、気が付くと最後の一台を収納し終えていた。
俺の魔力量も、アスワンから革袋を受け取った時からすると桁外れに増えたな。
「結局、全部入っちまったな!」
「ああ、まだ革袋の限界を感じてないくらいだ」
振り返ると、なにも無い街道の遙か向こうに、俺たちが乗ってきた荷馬車がポツンと佇んでいる。
しまった! 先に、あれから収納しとけば良かったか。
わざわざ歩いて戻るのがチョットかったるいと感じる距離だ。
文句を言っても仕方が無いので、荷馬車までテクテクと戻ってそれも収納し、ようやくノイルマント村に跳ぶと、俺の予告を受けたウェインスさんやローザックさん達が待ち構えてくれていた。
アサムはリリアちゃんや騎士団の従者達と一緒に、少しずつ離れた場所に木の棒を打ち込んで、簡易住居にする幌馬車の設置場所をマーキングして回っている様子だ。
と言うことは、アサムが印を付けた場所に、どんどん馬車を出していけばいいのかな?
あまりにも沢山の馬車を収納したから、個々の馬車の見分けは付いてないんだけど構わないよね?
気が付くと、俺の姿を見つけたアサムがこちらに向かって凄い勢いで走って来ていた。
その少し後ろを、リリアちゃんも一生懸命について走ってきているのがとても可愛らしい。
「ライノさーん、もう受け取ったの!?」
「おおアサム。まとめて貰ってきたぞ!」
「嬉しいけど、こんなに早く来るなんて思ってなかったから、まだ置き場所の整地とか全然出来てないんだよ」
「それもそうだな。なんだったら今は出さずに、しばらく革袋に預かっといてもいいぞ?」
「うーん、でも、早めに準備を進めたいって言うのはあるからなあ...やっぱり、全部出しちゃって下さい!」
「分かった。まあ、どうしても動かすのが大変そうだったら俺を呼べよ」
「え、でもローザックさん達にも手伝って貰えるから...」
「そうじゃなくてだな...俺ならな?」
そう言ってみんなから少し離れ、さっきまで乗っていた自分の荷馬車と魔馬をそこに出してみせる。
「あ、ここに出すんじゃ無かったよ間違えた!って思ったら、また収納してチョット歩いて、そこで良い場所に出し直すだけだろ?」
喋りながら、その言葉通りに実際にやってみせると、アサムだけじゃ無くて騎士達も全員あんぐりと口を開けた。
俺の収納魔法を初めて見るリリアちゃんも、ちょっと固まっている。
事前に話には聞いていても、やっぱりみんな初めて見た時は似たような反応を示すもんだね!
「もうライノさんって何から何まで桁外れに凄いよね...知ってたけどさ」
「まかせろ。ところで、アサムとリリアちゃんが印を付けた辺りにどんどん置いていけばいいのか?」
「あ、うん! ザックリだけど配置を考えておいたんだ」
「よし。じゃあとにかく革袋から出して置いていくから、細かな修正や水平取りは後でゆっくりやってくれ。もし手に余るようなことがあれば、さっきも言ったように遠慮無く手紙箱で俺を呼べばいい」
「うん、ありがとう」
そうして街道で収納したばかりの馬車を次々と出して置いていったんだけど、一つ大事なことを忘れていてローザックさんと騎士団の人達をてんてこ舞いさせてしまった。
なにって・・・
幌馬車を全部、『馬ごと』収納してるってのを伝え忘れてたんだよ。
悪かったよ。
馬車を一つ出す度に、索具から馬を外して連れて行って一カ所にまとめてと、大騒ぎになってしまった・・・ごめんなさい!
++++++++++
ノイルマント村に『仮設住居』代わりの幌馬車群を設置して、いつ村人を移送しても問題ないとなったところで、長老達を集めてダンガが『転移門』の説明を行うことにした。
さすがにこればかりは、幾ら言葉で説明しても分かって貰えないだろうと、シンシアとパルレアが大急ぎで転移メダルの量産に手を付けたのだけど、ここでまたしてもシンシアが奇天烈というか奇跡的な方式を開発した。
それが転移メダルの『鋳造』だ。
もちろん魔銀に魔法陣を刻み込む作業は、ただの『模様』を刻印する作業じゃあ無いから、銀貨を作るみたいな方式で鋳造することは不可能だ。
術者が一つ一つに魔法を込めて作っていく必要がある。
ところがシンシアは、従来と全く異なる魔道具として、まず自分とパルレアの魔力を込めた『鋳型』を作り、それを高純度魔石で駆動して、流し込んだ魔銀に『魔力の籠もった魔法陣の複製を刻み込む』という、とんでもない製造方法を実現してしまった。
なのに、これで何度目かの常識外れの発明を成し遂げた本人は、『高純度魔石がなかったら不可能な方法でした!』と涼しい顔である。
もうなんて言うか、仮に俺がジュリアス卿の立場だったら、シンシアは大公家の筆頭魔道士どころか『主席魔導大臣』とかって役職を新たに作って叙任したいレベルだ。
おかげで転移メダルの量産は予想を超えて順調に進み、あっという間に長老達と各グループのリーダー全員をいっぺんに転移させられる数が揃った。
そして本日の長老達への説明へ・・・
「は?」
「転移?」
「転移とは?」
「すまんがダンガ、言っとる事の意味がよう分からんのじゃが...」
まあ予想通りの反応だよね。
ちなみに、ここ最近のオババ様は『信じられないこと』の連続にノックアウトされてしまった感じで、あらゆる決定をダンガに委ねてニコニコしている状態だ。
いまも他の長老達が複雑な表情を見せている中で一人悠然と構えているし、さっきまではレミンちゃん相手に『母親の心得』を蕩々と教えていた。
まるで、すぐにでもレミンちゃんが赤ん坊を産みそうなノリで話しているから、レミンちゃんもちょっと恥ずかしそうで顔が赤い。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですって!?ふざけるのもいい加減にしてください!!!
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティで突然婚約破棄を宣言しだした婚約者にアリーゼは………。
◇初投稿です。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
Crystal of Latir
鳳
ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ
人々は混迷に覆われてしまう。
夜間の内に23区周辺は封鎖。
都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前
3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶
アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。
街を解放するために協力を頼まれた。
だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。
人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、
呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。
太陽と月の交わりが訪れる暦までに。
今作品は2019年9月より執筆開始したものです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~
雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――?
私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。
「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。
多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。
そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。
「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で??
――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。
騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す?
ーーーーーーーーーーーー
1/13 HOT 42位 ありがとうございました!
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる