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第六部:いにしえの遺構

久しぶりの顔合わせ

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せっかく転移門のテストが上手く行ったのだし、モノはついでだ。
いまや移転計画のリーダーとなっているダンガや、この地の行政長官であるエマーニュさんにも早めに現地を確認して貰った方がいいだろう。

「シンシア、俺はちょっとルマント村に戻って、ダンガとエマーニュさんをここに連れてくるよ。先に村の予定地を見ておいて貰いたいからね」

「でしたら私が行きます御兄様。もし大丈夫そうなら、レミンさんとレビリスさんも一緒に連れてきましょうか?」
「そうだな。ちょっと内輪の相談ってていでここに集まろうか」

俺の借りてたメダルもシンシアに渡し、早速開いたばかりの転移門でシンシアがルマント村に戻った。

しばらくしてシンシアが四人を連れてきたけど、正確に言うと、四人はそれぞれ個別に転移メダルと魔石を使ってここに来たから、連れてきたというか四人を順次案内したって感じだな。
それよりもメダルが二個しか無いから、シンシアはメダルを届けるために一人で四往復だ。
高純度魔石の力を使わずに転移してたら倒れてたろうな・・・いや、そもそもこの距離を自力で一発で跳ぶのは無理か。

「メダルの量産はパルレアにも手伝わせような?」
「そうですね...出来るだけ多く作っておきたいですから」

魔石は潤沢にあるんだし、今回のシンシアみたいな『メダルの運搬役』を決めて、その村人が何往復もすればいいだけなんだけど、それでもメダルの数は多いに越したことはない。
ノイルマント村と旧ルマント村に複数の転移門を開いておけば、その数だけの村人が同時に転移できるわけだからね。

姫様と行動を共にするようになって以来、お金持ちの行動形態というか思考には随分馴染んでいたつもりでいたけれど、それでも高純度魔石をこれほど好き勝手に使えるとなったら、更に『行動の自由度』の基準が変わってしまう。

だけど気を付けないとな・・・

エルスカイン同様に、この潤沢な魔石は子々孫々まで使い続けられるものじゃないし、この魔石を前提にした仕組みに頼っていると、魔石の枯渇と同時に社会が崩壊するだろう。
それこそ世界戦争時代の社会のように・・・なのかもしれない。

高純度魔石は自由度をもたらしてくれるけど『自由そのもの』じゃ無くって、コイツは金や宝石と同じような、ただの『富』に過ぎないんだと、そう自分の肝に銘じておこう。

++++++++++

「なんだよここ! 凄い場所だなアサム!」
「素晴らしいですわっ!」

アサムに連れられて丘に登ったダンガが絶叫し、珍しくエマーニュさんも語尾に感嘆符が付いているような興奮した物言いだ。

「きれいですねー! すっごく綺麗ですっ!」
「良い場所だなあ...コリンの街より南西にこんな場所があったなんて知らなかったよ!」

レミンちゃんとレビリスも感動している。
実際、おれの鈍な感覚でさえ、ちびっ子たちがそこらじゅうにいるのを感じるほどだからね。
悪い土地のはずがない。

「だって本来は立ち入り禁止の場所だそうだからね。地元が近いレビリスさんでさえ知らなかったのも無理ないと思うよ」
「凄いわアサム、よく見つけたわね!」
「うん、リリアちゃんのおじいちゃんのお陰なんだ。偶然出会ったんだけど、この場所の噂を教えてくれてね」
「そうかあ...良かったなあ!」

「わたしも狩猟地の存在は記録として存じておりましたが一度も訪れたことが無くて...まるで念頭にありませんでした」

「アサムはホントに運がいいわ」
「運がいいのは姉さんだって同じだろ? そもそもライノさんに出会ってなかったら破傷風で死んでたんだから」

「まあそうだな。だから俺たち兄妹は三人揃って運がいいんだよ」

「でもさあ兄貴、もしも姉さんが破傷風に罹らなかったらライノさんと出会ってないよね? なにが運がいいのかって、その時には分からないや」
「たしかになあ...」
ダンガがアサムのセリフに感心しているけど、そこは俺も同じだな。

もし、あそこで破傷風で倒れているレミンちゃんに会う事が無かったら、遊撃班のケネスさん達との出会い方も違っていただろうし、姫様と知り合うことも無かった。
巡り巡ってシンシアと兄妹になることも、アプレイスと友達になることも無かったはず・・・

結局、すべては『偶然の結果』か・・・いや、『選択の結果』だな。

人はそれを『運命』と言ったりもするけど、運命とは不可避なモノじゃ無くて、進む道の選び方次第で如何様いかようにも変わっていくモノだ。
河の流れは変えられなくても、その河をどこでどう渡るかの選択は自由なように。

「それでアサムはノイルマント村のつくりをどういう風にしようと考えてるんだ?」

「えっと、まず出来るだけ湖側には手を付けないで、そのままの状態で残そうと思ってるんだ」
「なんでだ? あっちの方が水の便がいいだろ?」
「だからこそだよ。綺麗な水源は出来るだけ手つかずで確保しておきたいでしょ? 湖の側に大勢の人が住むようになったら、あっという間に湖や周りが汚れると思うんだ」
「それもそうか...」

「草地の方にも湖側とは別筋の小川が流れ込んでるし、南東の開墾予定の森のずっと奥にも、湖から流れ出す川から水を引いて来れそうだから水源の心配は無いと思う。元々ここは雨の少ない土地じゃ無さそうだしね」
「うんうん」
「それに湖側の森はそのまま残しといた方が、兄貴も奥の山で狩りがしやすいだろ?」

「ん、まあ、狩りは、別にな...」
目が泳いでるぞダンガ!

「だから村の中心は丘のこっち側だけに作る。斜面から草地までを人が住むエリアにして、当面はそこで小さな畑をみんなが作ることになるだろうけど、落ち着いたら、将来は村人が増えても大丈夫なように、あの向こうの森を伐採していって農地にしたい。土もいいし、地面も平らだって調べてあるんだ!」

「そうか、俺はアサムに任せたからな。アサムの考え方でいいと思うよ」
「私もよアサム」
「それと、いずれは湖で魚の養殖もやりたいな。大きな鱒が泳いでるのは確認してるんだ」
「アサムって本当にお魚が好きよね。でも、あなたがずっと昔から考えてた事が実現出来そうで、姉さんも嬉しいわ」

「うん。ありがとう姉さん」
「必ず出来るさアサム」

いいなあ、こういう会話。
ずっと互いに支え合って暮らしてきた家族、兄妹ならではって感じがするよ。
もちろん俺にもパルレアとシンシアという素晴らしい妹たちがいるけどね!

あれ?
そう言えば、そのシンシアは一緒に丘に上がって来てないよな・・・
何処に行った?

そう思って湖の方を振り向くと、シンシアが姫様とジュリアス卿を連れてこちらに登ってくるところだった。

マジか・・・

大公ってホント、実は結構ヒマなのか?
姫様と手を繋いで悠然と歩いてくる。

それにしても、ダンガとエマーニュさん、レミンちゃんとレビリス、姫様とジュリアス卿と、なんでみんなカップル・・・これから夫婦、事実上夫婦、ほぼ夫婦、で一緒に来るかな?
そしてアサム君の横にさえリリアちゃんが!
いや、こっちはまだちょっと若いか。

なんてまあ羨むような気持ちは無いのだけど、彼と彼女らの醸し出す雰囲気がちょっと眩しい。

「すみません御兄様、皆さんが丘に向かうと同時に手紙箱が届いたので、それを読んですぐにお母様とお父様を迎えに行ってました」

一足先に上がってきたシンシアが、ちょっと言い訳っぽく早口で喋る。

「そうだったんだ。お疲れ様、今日はコレでシンシアだけ六往復か? いくら高純度魔石があると言っても疲れただろ?」
「それは大丈夫です。魔力抜けと充填の繰り返しがないせいか、思いのほか疲れませんね」
「そうか。ならいいけどね」

湖の脇ではローザックさんと騎士団がパニック状態になってるぽいけど、どうやら付いてこないように姫様から押し留められたらしい。

やがて二人が丘の上まで上がってきた。

「姫様、ジュリアス卿、今回は本当にありがとうございます! なんてお礼を言ったらいいか分かりません!」
兄妹三人が一列に並んで礼を言う。
お互いの約束事として跪いたりしないって言うのが無かったら、絶対に三人とも姫様とジュリアス卿に跪いてただろうって思える勢いだな。

「なんのなんの。我も約束が守れてホッとしているところであるし、この場所が皆に気に入って貰えて、むしろ鼻高々であるな!」

「そうですよ? スターリング家の私有地をノイルマント村に提供できることになったと決まってから、もうずっと、自慢げな台詞を毎晩聞かされておりますわ」
「いやレティ、それほど繰り返しておるまい?」
「自覚が無いだけですわジュリア」
「う、そうなのか...まあ、それくらいに我も有頂天になっておると言うことだな...」
「わたくし相手でよろしいのでしたら、幾晩でも耳を傾けますけれど?」

えっと、これはあれだな。
俗に言うピロートークという奴の内容について言及しているように思える。
まあ『ほぼ夫婦』だから当然だけど、なんか姫様とジュリアス卿って、ドラゴンキャラバンからの帰還以来、一気に距離が縮まったという感じ。

いや・・・むしろ昔に戻ったって言うことなんだろうか?

当の二人の娘であるシンシアがそれとなくそっぽを向いているのが可愛いね。
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