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第六部:いにしえの遺構

太古の遺産

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こつこつと作業して扉っぽい境目の全周に深い切れ目を入れていくと、徐々にその部分がぐらついてきた。

やっぱりこれは扉だ。
このまま剥ぎ取れそうだよな・・・

思い切り腕を伸ばしてギリギリ手が届く天辺の部分にナイフの刃を深く差し入れてこじってみると全体が揺らぐ手応えがある。
思い切って力を込め、扉部分を手前に引き倒すようにすると隙間が空いた。
後は、その隙間に手を突っ込んでひたすらグイグイと手前に引っ張ると、切り込みを入れた矩形全体がガバッと倒れた。

「おお、開いたな!」

「人の姿で、どんだけ馬鹿力なんだよライノ」
「さすがお兄ちゃーん!」
「この扉って蝶番はサビ一つ無くて綺麗なままだけど、周囲の黒い素材がボロボロだったから綺麗に剥ぎ取れた感じだな」
「へー、幾ら埋まってたって言っても、何千年も錆びてないなんて凄いな」

アプレイスにそう言われて、地面に倒れている扉の蝶番をよく見ると合点がいった。
ただの蝶番と言えばその通りなんだけど、ただの金具と言うには語弊がある。
なぜなら、その蝶番がオリカルクムで出来ていたからだ。

「この蝶番、オリカルクム製だ」
「まじか?!」
「やっぱり古代の建造物だな。かつてはオリカルクムも潤沢に使われていたっていうのは本当なんだろう」
「それにしても、蝶番にオリカルクムかよ...」

もちろんガオケルムのように魔力で鍛えたものではなく、単に金属素材としてオリカルクムを使用してあるに過ぎないが、それでも現代の感覚で素材の高級さというか希少さからすれば目の玉が飛び出る。
あえて言えば、ただのオモリに純金を使うとか、宝石をおはじきにして遊ぶとか、そんな感じか?
価値の無駄遣いもいいところだ。

「中はなにが詰まってんだ?」
「出入り口かと思ったけど通路とかじゃ無いな。なんか奥の方にぎっしり詰まってる」
「ちょっと変な気配?」
「なんかホントに倉庫みたいだな。真っ暗だ」
「窓ないもんねー」

指先に光魔法を灯して奥の方を照らしてみる。

そこに積み上げられているモノを見て、パルレアの『サイロ』という想像もあながち間違っていなかったと分かった。

「これってー!...」
「マジかよ...」
「凄まじいな...」

『サイロ』の奥にぎっしりと詰まっているモノを見て、三人とも馬鹿みたいに単純な言葉しか出せなかった。
足下までなだれ落ちて来ているそれを一つ拾い上げ、外からの光に透かしてみてみる。

凄まじく高純度の魔石だ。
それがびっしりと周囲の空間を埋めている。
本当にこの『倉庫』がサイロみたいな構造だとすれば、天辺までびっしりとこの魔石が詰め込まれているんだろう。
上からどんどん魔石を放り込んで、下から取り出した分だけ少しずつ落ちてくるような仕掛けのようだけど、こんな高品質な魔石を、まるで家畜の飼料のように扱ってたのか?

「なあライノ、俺、ここで暮らしてもいいか?」
ドラゴン姿のまま、扉の外から目だけで覗き込んでいるアプレイスが嘆息する。
恐らく一緒に並んでいる他の建物も全て魔石倉庫だろうな・・・

「アプレイス、『宝物への執着は緩慢な死』だって、お前が言ってたんじゃなかったっけか?」
「だよなあ...それにしても執着する奴らの気分が少しは分かったよ」
「まあこの状況を見れば無理もないな」
「ここって、ホントーに魔石の倉庫だったんだねー」

「シンシアも、古代には高純度の魔石がふんだんにあったって言ってたよな。それで橋を架ける方式の転移門も使えてたんだろ? これだけあれば、そりゃあ出来るよなぁ...あぁって?」
「えっ!」
「それだ!」
「エルスカインが転移門を使える理由か!」
「そーよ! きっとエルスカインも、こーゆー古代の高純度な魔石倉庫を持ってるのよ!」
「だから、まだ奔流から直接魔力を汲み出していない場所でも、自由に人の魔法で転移門が開けるんだな」
「だねー」
「そういうことだったか!」

魔力を大食らいする人の魔法で転移するには術者が膨大な魔力を保持しているか、何らかの手段で奔流の魔力を汲み上げてるはずだった。
こんな高純度な魔石の存在は想定外・・・そしてコレを自由に使えるなら?
目から鱗だ。

「...そうか...だとすれば...いや、行けるかな?...」
「なーに、お兄ちゃん?」
「パルレア、ここからならルマント村との間で新型転移門使うのに、別に問題はないよな?」
「ちょっとくらい結節点の影響は受けると思うけど、この距離ならダイジョーブでしょ」
「よし、すまんがちょっとルマント村に戻ってシンシアを呼んできてくれるか? ダンガの家の中に転移すれば大丈夫だろ。俺とアプレイスはここで待ってるから」

「いいよー!」
パルレアはその場に転移門を開いた。
ちゃんとシンシアの改良が加えられている新型の奴だ。
「行ってきまーす!」
「よろしく!」

パルレアがすっと転移門から消えて、ドラゴン姿のアプレイスと俺が残された。

「なあライノ、こういう魔石倉庫って他にも沢山あるのかな?」
「分からないな。ただ、ここにはエルスカインが手を付けてない気がする。アイツも古代の遺産を全部知ってる訳じゃ無いんだろう」
「だとすれば、この南部大森林にあった古代の王国だか帝国だかは、闇エルフ側の陣営じゃないって事だよな?」

「ん、なんでそうなる?」

「戦争ってのは相手があってこそ成り立つものだぜ? この場所が闇エルフ側の勢力圏だったら、エルスカインが世界戦争当時の街の様子とか施設の場所とか把握しててもおかしくないだろ。知らないって事は、この南部大森林に陣取ってた側は逆に闇エルフと敵対してた勢力だって可能性が高いと思うよ」
「まあそうか」
「俺がこの場所を知ってれば、すぐに手を付けないにしても、誰かに荒らされないようには手を打つ。せめて罠ぐらいは張るよ」
「なるほど。ここは完全に手つかずな状態だったもんな!」

「たぶん世界戦争の余波で...理由は分からないけど火山の噴火みたいに岩に埋まってからずっと、誰にも触れられずにここにあった。それは誰にもここの存在が知られていなかったからだと思う」

アプレイスの読みは正しい気がする。
だとすれば、南部大森林はエルスカインの本拠地じゃあない可能性が高い。
むしろ、かっての敵側の本拠地だったということか?
他の結節点と同じように、『大結界に利用できる古代のなにか』がある場所に過ぎないのかも知れないな。

そしてもう一つ、以前にパルミュナと話したことが頭をよぎった。

エルスカインがこの場所に気付かず、手を付けてないのは、この魔石倉庫自体は奔流に何の影響も与えてないからだ。
魔石は使用時に解放されるまで魔力を外に逃がさない。
だからこそ魔石として魔力をストックできる訳だけど、どれほど大量に集積されていても魔力がこぼれでないなら、『魔力しか視ていない』相手には存在していないも同然だろう。
だから、見つけてない。

それに、パルミュナの精霊魔法を感知して発動した牧場の罠は、シンシアの作った『精霊の気配そのもの』を隠蔽できる魔道具で見事に騙された。
そしてあの場所に、見張りの人間のような存在は一人もいなかった。

やっぱりエルスカインには『人の手下』が非常に少ないか、またはごく少数のホムンクルス以外には存在していないのかもしれない・・・

++++++++++

それほど待つこともなく、パルレアが開いた転移門にシンシアが一人で現れた。
魔道士業務用のローブはダンガの家の中で脱いできたらしく、二人でフォーフェンに行った時に買った涼しげな旅装姿だ。
なのに俺が作った杖を持ってきてるのは、転移先が森の中だとパルレアに言われたせいだろう。

「あれ、パルレアはどうした?」
「念のために連絡役として村に残りました。もし必要なら指通信で呼んでくれればすぐに来れるからと」
「ああ、それもそうか」
「で、聞いた?」
「いえ、なにをでしょうか? と言いますか、私から御兄様にご報告が...」

パルレアめ、シンシアをビックリさせるためにワザとココに何があるか言わなかったな?
どうせ適当な理由で俺が呼んでると言って向かわせたんだろう。

「そうか? まあ、まずはこっちに来てくれ」

シンシアを手招きして倉庫の中に一緒に入り、指先に光を灯して見せた。
真っ暗な倉庫の奥に積み上がっている綺麗な魔石がキラキラと光を反射する。

「えええぇぇっー!」
シンシアが絶句する。

うん、パルレアの狙い通りだな!
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