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第五部:魔力井戸と水路

コリガンの里を再訪

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シンシアはさっそく小箱からお手紙セットを取り出して書き始める。

みんなにも随分と心配を掛けてきたと思うけど、パルレアが復活できたことさえ伝われば安心してくれるはずだ。

ん、そうだな...『復活できたこと』さえ伝わればいいんだよな!

「なあシンシア、パルミュナとクレアがパルレアで、しかもピクシーの姿になってることは、まだみんなには秘密にしておかないか?」

「え? どうしてですか御兄様?」

シンシアがちょっと不安そうな顔をこちらに向けた。
「だってナイショにしておいて、いきなりピクシー姿のパルレアが屋敷に登場した方が面白いだろ?」

「そーよねーっ! 驚かせちゃおー?」
「アハッ、そうですね御兄様! じゃあ手紙には御姉様の姿のことは書かないでおきますね!」
「うん、そうしてくれ。屋敷に帰ったらダイニングにみんなが揃った辺りで革袋から登場とかにするか?」
「それがいいー!」

「オイ、なんだかライノの方が発想がピクシーぽくないか?」

「うるさいわ。で、アプレイス。さっきは今夜コリガンの里に泊まるってピクシーの長に言ってたけど、あのピクシー連中の相手をするなら、ここで竜の姿でいる方が良いんじゃ無いのか?」
「ん? いや別に。なんで?」
「ホラなんて言うかドラゴン的な威厳とか?」
「いらねえよそんなの。それにコリガンの里長さとおさにも一声掛けておきたい」
「ああ、それもそうだな。じゃあ里の方に向かうか」

もちろん、命がけで着いてきてくれたラグマ達にもちゃんとお礼を言いたいしな。
母親が病床に伏しているというあの少女もきっと喜んでくれるだろう。

++++++++++

姫様への手紙には、『パルミュナの顕現が上手く行ったから早めに手紙を送るけれど、今夜はコリガン族の里に泊まるので返事に目を通すのは明日になる』と書き添えておいて貰った。

俺が出た後で姫様がどういう風に別邸や本城、あるいはジュリアス卿との間で手紙箱を活用しているか知らないけれど、これまでは夕方の定時連絡って言うのが基本形だったからな。
アプレイスと仲間になった時みたいに速攻で返事を送ってきてくれたとしても、どうせ明日の朝まで読めないなら申し訳ないし。

シンシアが書いた手紙を屋敷へ送ったあと、人の姿に変化したアプレイスと一緒に四人でゾロゾロとコリガン族の里に向かって森の中を歩く。
まあ四人で歩くと言っても、ピクシーになったパルレアは別だ。

まず飛ぶ。

以前のグリフォン退治の時のように俺と一緒に空中の土台に立ってるみたいな感じじゃ無くて、普通に鳥や虫のように飛んでいる。
そして飛ぶ時は、さっきのピクシー族の長のラポトスという男と同じように背中にカゲロウのような透明な魔力の羽根が出現する。

で、飛ぶのに疲れるか飽きるかすると、俺の肩に腰掛けている。

身体が軽いので、ほとんど小鳥が肩に止まっているようなモノだ。
まあ実際に小鳥を肩に止まらせて歩いたことは無いけどさ・・・
だって破邪時代って基本は鳥を食料と見做してたからな。

肩に乗るタイミングは、これまでだったら歩き疲れて革袋に飛び込んでいたところなんだろうけど、いまは俺の肩に座って周りを眺めていられるのせいか、飛んだり座ったりの繰り返しが頻繁だ。
肩に座っているのも革袋の中にいるのとはまた違った寛ぎ感があるらしい。

そして座っていることに退屈すると、またフワッと飛び上がって周辺の木々の周りをグルグル回ったりしている。
自分が『鷹匠』ならぬ小鳥匠になったみたいで、ちょっと可笑しい。

「パルレア、あんまり遠くに飛んで行くなよ? まだ顕現したばかりだし色々と心配なんだよ」
「うんダイジョーブ。見えないところまで離れないから」

前回は女里長おんなさとおさのパリモさんが案内してくれたけど、今回はいない。
それでも全く道を悩まないのは、シンシアのお陰。
前回の往復時に、シンシアはちゃんと岩場から里までの距離と方向を確認しながら歩いていたのだ。
ホントにありがとう。

前回と違って昼の陽射しの中だから、森の中は明るく活発な雰囲気に満ちている。

もしもダンガ達が一緒にいたなら、ちょっとテンションが上がりそうな森・・・きっと狩りの獲物も豊富で、木の実はもちろん菜草や薬草なんかも沢山あるのだろうと分かる。
この森の姿を保っているのは、コリガン族とピクシー族。
他の人族を踏み入らせず、節度を持って森の恵みを利用することで、先祖代々から生きながらえてきたはずだ。

アプレイスの話したイメージからすると、同じ森の番人と言ってもピクシー族は門番と言うか『ゲート』キーパーで、コリガン族はさながら狩猟番の『ゲーム』キーパーってところだろうか?
シーベル家の狩猟地でゲームキーパーを務めていたバルテルさんの温和な顔をちょっとだけ思い出す。

しかし、エルスカインの企みによって捩じ曲げられた奔流が、こんな静かで長閑な場所にまで壮絶な影響を与え始めている。
さっきアプレイスの気配に引き寄せられてきたピクシー族のラポトスは、本当はコリガン族のようにドラゴンに相談事をしたかったのでは無いだろうか?
例え、コリガン族のように親密には扱って貰えないとしても、襲われないと分かっているならドラゴンに直訴も出来そうだしな・・・

来てみたら予想外に自分たちと同じ姿で顕現しているパルレアを発見して、色々と頭からすっ飛んだのかもしれないけど。

++++++++++

コリガンの里に着くと、男女の村長むらおさと六人の若者を始め、沢山の人々が俺たちを出迎えようと待っていてくれた。
俺たちが岩場を出て森に入った時点で里に向かっていることは分かっていたけど、ラグマから『邪魔をしないように』と言付かっていたので里から出ることは控えていたんだそうだ。
お気遣い恐縮です。

で、里に到着して一悶着。

いや、大騒ぎではあるけれど揉め事じゃ無いから悶着とは言わないか・・・
要するに俺とシンシアに会った時のように『精霊の気配』で勘違いしたんじゃ無くて、『ホンモノの大精霊』のパルレアが俺の肩に乗っていたからだ。

出迎え組の先頭で待ち構えていたキャランさんとパリモさんがまずパルレアに気が付いて大慌て。
跪いての出迎えから土下座状態に移行しようとする一同を押し留めて説得するのに随分と手間取った挙げ句、里の集会所的な大きな部屋に案内されて、今回の出来事の一部始終とパルレアの存在を詳しく説明することで漸く落ち着いた。

とりあえずラグマ達の決死の尽力によって、魔力井戸を無事に破壊できたことを伝える。
ただ、ガルシリス城でパルミュナがやったように、奔流を力尽くで遠くに押しやると言うことまではしていないから、井戸を破壊した効果が出るまでにはしばらく時間が掛かるだろう。
逃げ出してきた魔獣達が元の縄張りに戻っていくまでに、どの位の日数が掛かるのか俺には予想が付かない。

それを伝え、しばらくは魔獣が森に押し寄せてくる傾向も続くことを話すと、キャランさんは再び居住まいを正して俺たちに感謝を述べてくれた。

「魔獣達がこれまでの勢いで増え続けるならば、早晩、我々の力にも限界が来ると覚悟しておりましたが、もう増えぬとなれば話は別でございます。減り出すまで二ヶ月かかろうと三ヶ月かかろうと、いえ半年や一年掛かろうと、いつか押し戻せると分かっているのなら耐え切れましょう。村をお救い下さり、まこと、ありがとうございました!」

キャランさんとパリモさんの後ろに居並ぶ沢山の方々も、賛同して口々にお礼を言ってくれる。
その感謝を向けられることがとても嬉しいし、ちょっと照れるというか褒められることがこそばゆい。

それにこれ自体は、俺よりもアプレイスやシンシアの力の方が大きいよ。
俺が必要だったのは、パルミュナを顕現させるための『魔力の器』として勇者の躯を持っていたからに過ぎないからね。

「お兄ちゃんが以前に、お師匠様と初めて出会ったときのことをアタシに話してくれたでしょー?」

さっきからずっと俺の肩に腰掛けているパルレアが不意に耳元で囁いてきた。
「ああ、そんなことも話したな...」
俺が育った故郷の村で、村人達を恐怖のどん底に陥れたブラディウルフを一刀のもとに斬り伏せて、村を救った師匠。
育て親の仇を取ってくれたと言うことよりも、あの照れている師匠の姿を見て、俺は破邪になりたいと心から思った。

「今のお兄ちゃんって、きっとその時のお師匠様とそっくりだと思うなー。あの村で大地の記憶を見ているアスワンなら『瓜二つ』だって言いそー!」
「そ、そっかな?」
「うん! 前にレミンちゃんも言ってたよー。『感謝されて照れてる師匠をカッコいいと思ったと言ってるライノさんを見て、とってもカッコいいと思った』ってさー!」
「なんだよその面倒な言い回しは?」
「よーするに今のお兄ちゃんがカッコいいってことー」
「そりゃあんがとさん!」

うーん、褒めてくれるのはいいとして、肩の上のパルレアと小声でブツブツ話してる姿って、知らない人が遠くから見たらヤバい人に見えそう。
ちょっと指通信的な雰囲気があるから人前では気を付けようっと。

あと、俺の耳を肘掛けとか手すりみたいに扱うなパルレア。
うっかり首を回せん。
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