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第三部:王都への道

演武大会の始まり

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サミュエル君とトレナちゃんの婚約式と、お祝いの歌なんかの余興も無事に終了し、ここから先は血気盛んな騎士たちの演武大会だ。

演武と言っても剣技の型を見せるとか技を披露するとか、そういうデモンストレーション的な指導じゃなく、基本は一対一の模擬戦でトーナメント方式の勝ち抜き試合だという。
『演武』と言うのはあくまでも、実戦に即した武芸習得の場、という意味合いなんだそうだ。

「ホラお兄ちゃん、サミュエル君も出場するみたいだよー?」
本気マジか!?」

使うのは木剣だし、あくまでも審判のいる模擬戦だから大事にはならないと思うけど、主役がボッコボコにされたりしたらどーすんだ。
まあ姫様付治癒士のブラウン婦人も席に着いてるようだし、シーベル家の治癒士もスタンバってるから大丈夫かな・・・

トレナちゃんの前でカッコいいところを見せたい気持ちは、俺も男としてもの凄っく良く分かるんだけど、ちょっと心配。

「並んでる人たちってさー、何やってるの?」
「あれは、自分の名前を書いた札を箱に入れてるんだ。勝ち抜き試合だから組み合わせを決めないといけないだろ? 誰と当たるかは運次第ってことだな」
「へー、最初に強い人と当たるとかわいそーだね」
「でも、勝ち抜いていったら結局は何処かで当たるからな? 最期まで残るには体力もいるし、そういうのも含めて勝ち負けが決まるんだよ」
「なーるほど!」

もちろん、同じルールで闘う騎士同士でも相性はあるから組み合わせの要素も大きいし、そもそも勝負はなにが起こるか分からない。
でも、これだけの人数で上位に入るのは、運の良さだけでは無理だな。
最期まで残る数組は、いずれも手練れ揃いだろう。

みんなが見守る中で、シーベル家の進行役の人たちが木箱から名札を取り出して順に並べていく。
どうやら『リンスワルド家対シーベル家』みたいな演出は考えてないらしく、ただ取り出した順に端から並べているようだ。
これを二名ずつに区切れば第一回戦の組み合わせが出来上がる。

「昔のお兄ちゃんだったらさー、騎士さん相手にどれぐらいいけそう?」

「お前はホント、答えにくいことサクッと聞くよなぁ!」
「照れるー」
「褒めてねえよ! まあそうだなあ...いま見てるような普通の装備の騎士を相手にだったら、結構いい線いけるんじゃないかって思うけど」
「さっすがー」
「茶化すな。でも例えば戦場にいるような...フル装備で馬に乗ってる重騎兵相手だと厳しいっていうか勝てないかもな」

「それって、昨夜の鎧みたいな?」

「そういう感じのだ。ああいうプレートアーマーってのは防御力が高いから、普通に向かっていっても蹴散らされちまうだろうなって思うよ。ガオケルムならいいけど、前に使ってたような普通の刀じゃ折れちまうだろうし」
「試合なんだから、こっちも同じ装備で勝負すればいーじゃん。お兄ちゃんの鎧姿もカッコ良かったと思うよー?」

「カッコは勝ち負けに関係ないだろ。って言うか戦い方が全然変わるから、そんなすぐには上達できないよ。剣と刀だって使い方が違うんだ」
「そっかー」
「それに破邪が相手するのは基本的に魔獣なんだぞ。魔獣は剣も持たないし鎧なんか着てないからな?」
「言われてみれば確かに!」

「まあ、この演武は公平さ第一って様子だから、装備も鎧はありで盾はナシとかルールも決めるし、みんな騎士だからな。自分だけ有利になんてセコいことは考えないだろ」
「なんで盾を使わないの?」
「木剣で盾ありだと打ち合いになって勝負が長引く。あと、木剣がよく折れる」

「こっそり魔法使うとかナシ?」
「あるわけない。やる人もいないだろうけど、騎士がソレやったら辞職もんだよ」
「ふーん、ところでヴァーニルおじさんは出ないのかなー?」
「こういうのには隊長クラスは出場しないのが不文律だな」
「なんでー?」
「基本、強くて当たり前だし、もしも新人に負けたりしたら隊の士気が下がるから」

「えー、シーベル家の隊長とリンスワルド家の隊長が最期に残っていざ勝負! とかなったら盛り上がりそーなのに」

「それたかぶりすぎるだろ...っていうか勝負は時の運だし、そんなの勝っても負けてもお互いに楽しくないよ」
「騎士の試合ってそんな感じかー」
「所詮は模擬戦だし、お祝いの余興だもの。だから街の武闘大会みたいな『強者決定戦』じゃなくって、あくまでも武芸を習う『演武』ってくくりなんだろうな」

「あ、ちょっと意味が分かった気がするー! じゃあ演武じゃなくて本当の戦場だったら、その重騎兵って人たちが一番強い?」

「そういう訳でもないさ。攻める力と守る力はいつでも対になってるんだ。
「んー、つまり?」
「強い攻撃手段があるなら、それを迎え撃つ強い防御方法もあるって事さ。前に三すくみの話をしただろ?」
「あー、魔法使いと剣士と暗殺者で、誰が強いか決められないみたいな話だっけー?」

「おい、俺、暗殺者とか言ったっけ?...まあでも、そんな話だな。それに魔法攻撃には魔法の防御手段があるし、剣には鎧、矢には盾、馬に乗った騎士は堀や柵で足止めする。結局、いつも必ず勝つ武器とか方法なんて無いんだ」

「組み合わせとか状況次第って話だねー」
「そうだ。どれか一つを極めたヤツが最強になって世の中を支配するなんてあり得ないって分かるだろ?」
「だったらさー、結局戦争って人数とか攻撃手段? が多い方が勝つって事にならない?」

「だいたいその通りだな。その差をひっくり返すためにいろんな作戦を練ったり新しい武器を考えたりするんだろうけどね。俺の師匠は、人数の差が三割以上あったらまず多い方が勝つし、五割以上違ったら普通は勝負にならないって言ってた。まあ能力が拮抗してる場合はだけどな」

そう考えるとなあ・・・
大公家や公国の力を使うべきだって言う姫様の提案というかサジェスチョンというか、まさに『仰る通り』って事なんだよね・・・

いまはエルスカインに較べて、俺たちの手札は圧倒的に少ないはずだ。
ドラゴンのことはさておき、この戦力差を五分五分に持ち込むためにはどうするべきか、それをちゃんと考えなさいと姫様に言われてる訳で・・・

++++++++++

やがてシーベル子爵が演武大会の始まりを宣言し、出場予定者も観客も、みな手に手に好きな飲み物や食べ物を持って急ごしらえの演武場の回りに集まった。

周囲には腰掛けられるベンチや、立ったまま寄り掛かれるような木柵も置かれて、それぞれ思い思いの場所に陣取っている。
姫様達やシーベル子爵達は、周囲よりも高く作ってある『観覧席』に置かれたテーブルに着いているから、演武場の周りに大勢集まっていても観戦には問題ないだろう。
俺とパルミュナは近くで見物したかったので、観覧席へのお誘いを辞退してレビリスやダンガ兄妹と一緒に演武場の最前列に陣取った。

ただし、演武場と言っても特になにかを作り込んであるわけじゃなくて、平らに均した地面に綱を打ち込んで二重に線を引き、大小の四角いエリアを示して有るだけだ。
騎士達が打ち合うのは内側の四角いエリアの中だけ。
設定では内側の綱と外側の綱の間は『堀』になっていて、そこに押し出されたら堀に落ちたことになって負け。
武器を堀に落としても負けらしい。

ついでにその『堀』の範囲は、観客の安全を守るための緩衝地帯でもあるわけで、ちょっと気の利いた設定だと感心したね。

審判はシーベル騎士団のハルトマン氏だ。
俺はなんとなく、この人もヴァーニル隊長と同じようなタイプの苦労人なんじゃないかって気がしてきている。
ハルトマン氏も隊長だって言うし、こちらの姫様ほどでは無いにしろ、シーベル子爵も昨日今日のアレコレを見るに付け、咄嗟の思いつきで色々やらかしてそうだもん。

「では第一組の演武を始める! シーベル騎士団のアルヘルムとリンスワルド騎士団のシルヴァン殿、両者演武場の中へ!」

おっと、第一組は俺たちの馬車の護衛役に就いてくれているシルヴァンさんか、これは応援したいな。
二人とも服装や鎧は日頃のものだけど、安全対策にちゃんと兜を被っているから、顔や首筋も遠慮なく狙って構わないようだ。

「それでは始め!」
「お願い致します!」

審判の合図と共に両者が木剣を掲げて対戦相手に礼を示し、それからそれぞれに構えを取った。
シルヴァンさんも相手のアルヘルム氏も、空に向けて立てた両手剣の柄をへそのあたりの位置で構えて、少しだけ腰を落としたごく普通のスタイル。
まあ騎士だからね。
そんなにトリッキーな構えや不意打ち的な技は使わないのかな?

このトーナメントに治安部隊遊撃班のケネスさんとかアンディーさんとかが飛び入りで参加したら、結構面白いことになりそうだが・・・

「はっ!」
掛け声と共にアルヘルム氏が剣を大きく振り上げつつ踏み込む。
バッサリ袈裟懸けコース・・・剣で防がれても力で押し切るつもりか?

シルヴァンさんは剣を横にしながら持ち上げると、体の前でアルヘルム氏の打ち込みを斜めに叩くように弾いた・・・
と思ったら、弾き飛ばさずにたいを落としながら手をひねり、そのままアルヘルム氏の剣に沿って自分の剣を滑らせるように押し込んで、首筋に一撃。
凄い、まるでシルヴァンさんの剣がアルヘルム氏の剣に沿ってクネっと纏わり付きながら伸びたみたいに見える。
剣先が伸びている状態でそれを避けようとしてバランスを崩したアルヘルム氏にシルヴァンさんがそのままタックルすると、アルヘルム氏はもんどり打って倒れた。

タックルとかアリなんだ。
まあ実戦スタイルならキックやパンチも当然か。
倒れた相手にシルヴァンさんが上から剣先を突きつけると、ハルトマン氏が声を上げる。
「そこまでっ! 勝者シルヴァン殿!」
「おおおっ!」
開始一発目で瞬殺の勝利にリンスワルド勢が気勢を上げた。

それにしても勝負が早いな。
若いアルヘルム氏にくらべるとさすがベテラン、余裕のシルヴァンさんだ。
最小限の動きで相手の踏み込みを捌いて一撃で倒した。
実戦というか真剣だったら、それこそ相手がプレートアーマーでも着込んでない限り、最初の首筋へのスラッシュで頸動脈を切り裂いて勝負がついてただろうね。

「凄いなっ! 今の剣の動きとか、シルヴァンさんがどうやったのか良く分からなかったよ!」
「カッコ良かったよねっ!」
ダンガとアサムが興奮している。
二人とも男の子だねぇ・・・

「剣を持った人と闘ったことなんて一度もないから知りませんでしたけど、結構軽々と振り回すものなんですね!」
レミンちゃんは可愛いねぇ・・・

そりゃレミンちゃんたちは、エルスカインの襲撃の時も魔獣としか闘ってないし、そもそも狩人が対人戦なんか経験してるわけないからね。

旧街道へ向かうときにレビリスがパルミュナのことを案じてくれたように、対人戦・・・平たく言ってしまえば『誰かと殺し合う』って言うのは魔獣と闘うのとは全く違う。
ダンガとアサムも今日は姫様の仕立てた貴族風の服を着て、腰には狩猟刀の代わりに短めの片手剣を下げているが、彼らが人族相手にこれを使う機会は無いに越したことがないな・・・

そんな事態にならないように俺が頑張らないと。

「では第二組、シーベル騎士団のデュードニーとクルガン、演武場の中へ!」

ハルトマン氏が宣言した。
次はシーベル騎士団同士か。
なにしろ参加希望者が多いせいで、一回戦目には三十二名、十六組もいるのだ。

サクサク進めないと優勝争いの頃には暗くなってしまいかねないだろう。
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