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第三部:王都への道
精霊式転移門
しおりを挟む「お兄ちゃん、精霊の力の使い方がホント腑に落ちてきてるよねー」
「おう、ありがとうな! 精進するぜ」
「屋敷の転移門はアスワンが相当頑張ったっぽいねー。革袋もそうだけどさー、なんかアスワンって、そういうの工夫して作るのが好きなのよねー」
「ガオケルムとかだって俺に合わせて作ってくれてるし、なんていうか職人肌だよな。大精霊なのに」
「アスワンってさー、普通は出来ないことを出来るようにするとか、そーゆーのに熱中しちゃうのよー。目的があるのが大好きな感じ?」
「精霊にも個性があって面白いもんだなあ」
「だって世界って、それ自体が面白いもん」
「そりゃ、その通りだな!」
「ねー!」
「あ、だけどさあ...考えてみると勿体ないことしたかな?」
「なにがー?」
「だって、これまでパルミュナと二人で通ってきた場所さ、俺が転移門の出口って言うか戻り口って言うか、それ設置しとけば王都に行ってから使えたわけだろ?」
「うーん、養魚場を越える辺りまでのお兄ちゃんの力だと無理だったかなー?」
ですよね・・・
「まあ、それもそうだよな...アスワンだって俺が予想より早く力を付けたって言ってくれてたし、それ以前は革袋を貰っても使えなかっただろうって話だしな」
「だって、お兄ちゃんは精霊の力を承けた勇者って言っても、精霊そのものじゃないわけだしさー、肉体は人族のものだし? 普通ならたとえ行き先限定でも、自力で転移門が使えるってだけでビックリって感じよー?」
「ああ、なんか分かるよ。贅沢言っててもキリがないな」
養魚場を越える辺りまでの俺には、転移門の『印』を付けておく力も無かったというのは納得だが、逆に言えば、これからは自力で転移先を『マーキング』しておくことも出来るってわけだ。
「でー、ここで優しくてお兄ちゃんラブな妹のパルミュナちゃんから発表でーす!」
「なんだよ? その妙ちくりんな前振りは」
「アタシがこれまで結界を張った場所はですねー、お兄ちゃんの代わりに転移門の魔法陣も埋め込んでおいたからー!」
「マジかっ!」
「マジでーす。アスワンが転移門を用意してることは聞いてたからねー」
「凄いぞパルミュナ!!!」
「へっへー。褒めてー!」
「おおぅ、もちろん褒めるぞパルミュナ! それにしても、そんな準備してたなら教えてくれたら良かったのに」
「でもさー、レビリスの防護結界もおんなじだけど、自分で使えないモノのこと知らされても面倒なだけじゃなーい?」
「まあ、それもそうか...」
「でしょー?」
「お前の言う通りだな。なんにしても今後は、お前が結界を張ってたラスティユ村とかガルシリス城とかにも行けんのかな?」
「そーゆーことー」
「そいつは本当に有り難いな! で、だ。いまの俺なら、この屋敷に俺が戻り口の転移門を設置しておけば、王都に着いてからはいつでも来れるってことだよな?」
「そーだけど、やらなくていーよ?」
「なんでだ?」
「だってアタシが、ラスティユの村のと同じ結界をここにも張ってあげるからー」
「マジで!?」
「マジでーす。だって、色々考えても姫様を守ってあげた方がいいしー、お兄ちゃんとの関わりも強いしー、友達になったしー、ソファとか屋敷も貰ったしー、それに、あーんな凄いワインが作られなくなったら大問題だしー」
やたら音引きが多いのと、気のせいか最後のセリフが最大の理由のように思えなくもないけど、あの結界をここにもやって貰えるなら有り難い。
あれは妹としてのパルミュナじゃなくて、大精霊としてのパルミュナの行いだからな。
俺が頼んでどうこうするようなもんじゃないと思ってたんだ。
「ありがとうなパルミュナ。それは凄く助かるよ」
「だってアタシは優しくてお兄ちゃんラブな妹なんですー」
「いやホラ、この手のことは大精霊としての立ち位置ってのがあるだろ? だからいくら妹でも、気軽に頼んでいいもんじゃないと思っててな...」
「そーゆー謙虚なところもお兄ちゃんらしくってラブなんですー」
「とにかく感謝するよ。助かる。それに俺も妹ラブな兄だからな?」
「知ってるー」
「ならば良し!」
「お腹空いたー」
「おう、その話の飛び具合こそパルミュナだ。じゃあ、メイドさんに聞いて、なんかおやつでも持ってきてもらうか!」
我ながら、パルミュナが箱から出てきた当初は、いつかぶっ飛ばしてやりたいなんて思ってたのが嘘みたいだな。
++++++++++
部屋付のメイドさんが見繕ってきてくれたおやつは、おやつと言うよりも、まるで晩餐に出てくる前菜のタネが色々と盛り合わせられたようだった。
つまり豪華、そして美味。
さすがに生ものはなくて保存の利く食材が中心だが、それが見事に手を加えられて、パーティー会場に並べてあってもおかしく無さそうな一皿に変身している。
すでにパルミュナの甘い物好きも知れ渡っているようで、甘いものや焼き菓子系もちゃんと添えられていた。
どうしてリンスワルド家の台所は、こういうモノがサクッと出てくるのか・・・
まあともかく、だ。
「なあパルミュナ、相談があるんだけど?」
「なーに?」
「お前がここに張ってくれるっていう結界な。ラスティユ村のと似たような感じなのかな?」
「そうだねー。土地の様子が少しだけ違うから細かな部分を言い出すと変わるけど、まー得られる効果とかは似たような感じ?
「そっか」
「ただー、この土地の方が奔流の流れが断然力強いから、その分は効きが強くなるかなー? 代わりにどれくらい保つかは奔流次第?」
「なるほどな。で、相談なんだけど、ラスティユ村の結界のことは、あそこの村人たちには教えなかっただろ? それこそラキエルやリンデルにも」
「そだねー」
「それは分かるんだ。さっきお前が言ってたように、知らされても自分たちで触れるものじゃないし、良く分からないままで頼るようになったら、逆に良くないと思うしな?」
「うん。精霊はねー、人に期待をさせちゃいけないの。だって人の期待には応えられないから」
「そうだよな...人が求めるモノは自分たち個々の幸せだ。それは、精霊が手を出す領分じゃないもんな」
「そーなのよねー。楽しい世界であって欲しいけどさー、それは友人でもない何処かの誰かの幸福とは関係ないもん」
「ああ。だけど、姫様たちは友達であると同時に、たぶん、これからも長い付き合いになるような気がするんだ...あっ、これは変な意味じゃないぞ? エルスカインとの戦いでってことだ!」
「わかってるー」
「ならいいけどな」
「お兄ちゃんが焦って心臓バクバクしたらきっとアタシにも分かるから、その時はちゃんと邪魔しに行くから大丈夫ー!」
「ちゃんと邪魔するって、なんだそれは! と言うか、そういうのは大丈夫とは言わん」
「でー?」
「で、今回は結界のことを姫様に説明しておいた方が良いように思うんだ。この領地での先々のこともあるし、留守中の防御態勢にも関わってくるだろ?」
「それもそっか...」
「考えすぎかもしれないけどな、味方の行為で知らないことがあると、逆にそれが相手に付け入られる穴になったりするんじゃないかって思ったりするんだ」
「うん、分かったー!」
「じゃあ、それでいいか?」
「いいよー!」
「なら今度折を見て説明しておこう...いや、その場に来もてらっても構わないか? アレは見ないと分からないって言うか、言葉で聞かされても掴めない気がするんだ」
「うーん、見られるのは構わないんだけどさー、姫様はどうせ精霊の言葉とか分からないよ?」
「それでもな、あの場に立っていれば感覚としてパルミュナのやってることが掴める気がするんだよ」
「ふーん。いいけど、姫様に変な風に思われない?」
「ちゃんと言い聞かせとくよ」
「りょーかい!」
パルミュナの言う『変な風に』と言うのは、大精霊の力を披露することで、また妙に崇められたり持ち上げられたりしないかって心配だ。
気持ちは分かるけど、グリフォン三匹の討伐とその後の宣誓魔法で、出だしからインパクト与えてるからな・・・
まあ大丈夫だろう。
++++++++++
その翌日の夜、ダンガ兄妹やレビリスも姫様と一緒に晩餐をとることになり、久しぶりに顔を出したシンシアさんも含めて総勢十人でテーブルを囲んだ。
俺たちが拒否反応を起こさないようにって姫様の気遣いなのか、連日、少しずつ色々な服や装飾品が差し入れられているんだけど、なんとなくそれに手を通したりしているうちに、みんなの服装もだいぶ垢抜けてきた様子だ。
最初の夜に絹の寝間着が届けられたときは、ちょっと焦ったのが懐かしい。
ダンガたちも当面は狼姿をとる必要は無さそうってことで、元々着ていた旅装を脱いで差し入れされた服に着替えているけど、それもちゃんと尻尾が外に出る構造になってるっぽい。
さすが姫様というか、このお屋敷の手配力って処だろうな。
生粋の村人であるダンガたちもこうやって貴族風の衣装に身を固めると、アンスロープ貴族の三兄妹って感じで、みんな『それなりの家の方々』みたいに見えてくるから不思議だなあ・・・
レミンちゃんも、ちょこんと頭上に立ってる三角形の耳がドレス姿にマッチしてて可愛い。
姫様たちの、見た目は三姉妹なエルフ美女系とは全く違う雰囲気だけど、元々の愛嬌に一層の磨きが掛かって魅了の効果はばつぐんだ。
・・・と言うか、レビリス。
ちょっと見蕩れ過ぎじゃないか?
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