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第三部:王都への道

ドラゴン・キャラバン

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話の成り行きに戸惑っている俺を余所に、姫様はびっくりするような言葉を続けた。

「ですがコーネリアス、あなたはここに残って下さい」

「ひ、姫様、さすがにそれは! なにゆえにございましょうか! まさか足手まといだと?」
ヴァーニル隊長が一気にパニックな表情を見せる。
初めてだな、こんなに慌てているヴァーニル隊長を見るのは。

「ホムンクルス対策のためです」
「うっ...」
「わたくしたちの体を元にしたホムンクルスがもう作れないとしても、恐らく、この屋敷の留守を狙う動きは必ずあるでしょう」

「ぬう...そこは仰るとおりですな...」

「あの夜、パルミュナちゃん手ずからの宣誓魔法を受けたのはこの四人だけ。秘密保持の点からも増やすことは好ましくありませんし、また、コーネリアスでなければ、相手がホムンクルスと分かっても対応することが難しいと思うのです」

確かに、仮にホムンクルスが現れたときに、それを的確に見破れるのはここにいる面子だけだ。
しかも、騎士団の重鎮であるヴァーニル隊長クラスでなければ、見定めるための振る舞いも難しい。

「コーネリアス、万が一の時には、あなたにホムンクルスを斬り捨てて貰うしかないかもしれません。その時には、あなたに重責を負わせることになってしまうでしょう」

何らかの手段で、見た目だけでも姫様に似せたホムンクルスを造ってくる可能性だってあるんだよな。
その場合、絵面的には家臣たちの前で主君を斬るって事になるのか。
うーん、謀反というかなんというか、良くて投獄、その場で他の騎士に成敗される可能性も高いだろうな・・・
ヴァーニル隊長はそれに抵抗しないだろうし。

「承知致しました姫様。その信任にお応えし、必ずや役目を果たして見せましょうぞ」
さっきは一瞬慌てていたヴァーニル隊長がそう言って表情を和らげた。

「ねー、ヴァーニルおじさん。魂のない、ニセモノのホムンクルスなら、死んでしばらくすれば体がボロボロに崩れて消えちゃうと思う。だから、きっとそれで身の証は立てられると思うなー」

「おお、左様でございますか。その時は必ずや見届けましょう」

「ライノ、俺たちが一緒に行っても、足手まといになんかならないよな?」
ドラゴン探しの話になってから、いままでずっと黙っていたダンガが口を開いた。

「そりゃもちろんだけど、ダンガたちには新しい村の候補地探しがあるじゃないか? それは大切なことだし、出来るだけ早いほうがいいだろ?」

「いやライノ、それこそ優先順位の問題って奴だ。姫様を守る方が重要だろ?」
「どっちが、って話でもないけどなあ」
「でも姫様がエルスカインにどうにかされるようなことが起きたら、それこそリンスワルド領で村づくりなんてやってられないよ」

「それもそうなんだけど...危険というかリスクというか、測れないんだよ。正直、俺や姫様はどこにいたってエルスカインに狙われるけど、ダンガたちは側にいなけりゃ問題ない立場だからな?」

「これは大きな『屋根』だよ、ライノ」
「う...」
「俺たちは姫様の好意に甘えてリンスワルド領に村を作りたい。でも、そのためには姫様やこの土地がエルスカインに狙われているという状況を解決しないと絶対にダメだ。そうだろ?」

ダンガの言うことは至極もっともだ。
というか現実的だ。
俺自身が、この三人を巻き込み続けることに、微妙な躊躇いを感じてるだけなんだよな・・・

「それは俺たち兄妹や故郷の一族にとっても大切なことだ。だからこうしないか? 俺たちはエルスカインの件が解決するまでライノと一緒に行動する。心は友達のままだけど、エルスカインとの戦いはライノの指示で動く。それでいいだろ?」

「分かった...ダンガ、レミンちゃん、アサム、君たちが一緒に来て姫様たちを守ってくれるなら百人力だよ。ありがとう」

姫様がすっと椅子から立ち上がってダンガたちの方に向いた。
シンシアさんとエマーニュさんもそれに続く。

「ありがとうございます。ダンガ殿、レミン殿、アサム殿。不肖レティシア・ノルテモリア・リンスワルド、このご恩は一生忘れません」

「ちがいますよ姫様。恩があるのは俺たちの方です。村づくりの話だけでも、返しきれないほどの恩なんです。せめて俺たちも少しはライノや姫様たちの役に立ちたい、それだけです」

姫様たちも、それ以上のやり取りは、ただ言葉が行き交うだけになると察したのだろう。
黙ったまま三人揃ってダンガたちに会釈すると、それぞれ自分の椅子に戻った。

全然、俺の思ったとおりに進んでいないって言うか、むしろ姫様に誘導されているような気もしないでもない。
なんて言うか・・・
こんな交渉力でドラゴンと対話しようとするなんて、ひょっとしたら俺は、超が付くレベルの愚か者なんじゃないだろうか?

いや、だからこそみんなの知恵が必要なんだな。
俺はパルミュナやレビリス、それにダンガたちや姫様たちに助けて貰ってようやっと、の勇者なんだ。

よーし分かった!
腹をくくったぞ俺は!
あ、これケネスさんの物言いだったな・・・
まあいいや。

「ライノ殿、ドラゴンを探しに行く旅の手始めとして、まずは王都に向かいたいと思うのですがいかがでしょう?」

「え? そりゃ俺たちも元々キュリス・サングリアに向かってましたから問題ないですけど?」
「わたくしたちが揃って王都へ向かうのであれば、ここから大規模な隊列で出発しても普通のことのように見せられます」
「ああ、なるほど」

それなりの大所帯だし、しかも伯爵家当主、伯爵令嬢、子爵家当主が一堂に揃っているという顔ぶれ。
その場にいなければ、絶対にそんなことが起きるなんて信じられないって言うか、なんの冗談だよ? って感じだな。

まあ更に、そこに勇者と大精霊が一名ずつ混じってるんだけどね。

「王都に到着した後は大公陛下に謁見して、ドラゴンの詳細な居場所の情報を頂戴することもできると思います」
「いや極秘なんでしょう? 理由もなしに教えて貰えますかね?」
「大公陛下の人となりは良く存じ上げております。きちんと話を進めれば恐らく問題ないかと」
「そうですか...じゃあ、その辺は俺には分からないし、どうにも出来ないので、ぜひ姫様にお願いします。王都での行動や大公陛下に関わることは全部、姫様に頼らせてください」

「かしこまりました。お任せ下さいませ!」
あ、なんだか姫様が嬉しそう。

「それと...もちろん俺が勇者だって事は出来るだけ人に知られたくないんですけど、場合によっては誰かに教える必要が出てくることもあると思うんです」
「そうでございますね...難しい状況を説明する際など、事実を話すか嘘をつくかの二択になってしまうこともございましょう」

「ですよね。この場にいるみんなは俺が信用してる人たちなんで、その辺りの判断はお任せしたいと思います」
「それは私どもの判断で、ライノ殿が勇者であることを誰かに喋っても構わないと?」
「隠したい理由は皆さんご存じの通りなんで、そこに留意して貰えればいいです。それに嘘や隠し事って気が重たいじゃないですか? 俺としても友人たちに重荷ばかり押しつけたくはないですよ」

これは本音だ。
仲間たちを契約的な感じで縛るのは本意じゃないし、アスワンの忠告に背くことにもならないと思う。

「なるほど、承知いたしました。友として仲間として我ら一同、その信任にお答え致しましょう」
姫様の言葉に、他のみんなも頷いてくれる。

「で、王都から先への行動は、得られた情報とエルスカインの動き方次第で臨機応変にって感じになりますね?」

「はい。わたくしどもが王都を出たことや、その後にこの屋敷に戻ってないことをどのくらいエルスカインに隠し通せるか、それによって互いに手の打ち方が変わってくるでしょうから」

さすがに雁首揃えてドラゴンの目の前に顔を出す必要は無いけれど、どこまで姫様たちと一緒に行動するかも見極めが必要だよな。
多分にエルスカイン側の出方次第になっちゃうだろうけど・・・しかも、最後の行程はたぶん山歩きだぞ。

「じゃあ細部は追々、みんなで相談しながら柔軟に進めていくってことで」

「かしこまりました。では早速準備に掛からせましょう。ただし名目上は、ノルテモリア家とエイテュール家によるキャプラ公領地での共同事業について大公陛下に上奏する、ということに致します。二人もそれで進めて下さいませ」

シンシアさんとエマーニュさんが頷いた。

「姫様、随行する騎士団員や家僕はどうされますかな? 大っぴらに動ける王都まではいつも通りで良いかもしれませんが、その先を考えると、あらかじめ選んでおいた方が良いでしょうな」

「そうですね...王都から先は危険もありますし、不測の事態に耐えられる心の持ち主でないと厳しいでしょう。一旦、コーネリアスの方で人選して案をまとめて貰えますか?」

「心得ましたぞ」

ヴァーニル隊長はそう言っていつものようにニッコリと微笑んだ。

下手をしたら、この場の全員の中で一番危険な役回りになるかもしれないのにブレない人だな。

確かに、いくら姫様たちが広大な領地の視察で旅慣れてると言っても、世話をするお付きの人もある程度は必要だろう。
馬車を動かす以上は御者も必要だし、馬の世話係やらなんやら、秘密保持のために最低限の人数にしたいと思っても、結構な規模になってしまいそうな気もする。

まじめに商隊キャラバン規模になりそう。
名付けてドラゴン・キャラバンか?
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