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第三部:王都への道

ドラゴンを探す?

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「なあパルミュナ、ルースランドかミルシュラントに一番近い場所で、ドラゴンがいるのってどこだろう?」

「へ? ドラゴン? なんで?」

「だってな、グリフォン出してダメだったら、『じゃあドラゴンならどうだ?』とか考えそうな相手じゃないか?」

「えーっ!...」

ドラゴンか・・・自分で言ってて怖い。
っていうか戦ったら絶望的な相手?

「ライノ殿、極秘だとされていますが、実は北部大山脈の東側に一頭のドラゴンが住み着いていると聞きました」

パルミュナよりも先に姫様が教えてくれた。
姫様の情報なら確かなんだろうけど・・・

「どうして極秘なんですか?」

「ドラゴンがいると知れ渡ってしまったら、近隣の住民が農地を捨てて逃げ出したり、逆にそういう混乱を狙った輩が入り込んで治安が悪化したりと、国にとって非常に悪い状況になります」

「なるほど。そりゃもっともだ」

まあ大抵のドラゴンは人族に興味などないので、普通はこちらからちょっかいを掛けに行ったりしなければ、街や農村に危害を加えてきたりはしないだろう。
しないだろうけど、いつそうされてもおかしくない、という範囲に住んでいる人にとっては楽観できることでもない。

言い換えれば、自分たちの暮らしが安全かどうかはドラゴンの気まぐれ次第ってことだからな。

「でも、お兄ちゃん。ドラゴン見つけてどーするつもりー?」
「説得してみようかと」
「なにそれー?」
「たぶんグリフォンと違って、大抵のドラゴンは言葉が通じるはずだ。エルスカインの悪巧みに乗らないように説得するんだよ」

「...えっとさー...言葉が通じるのと、会話が通じるのは違うと思うのよねー?」

「そんくらい分かってるぞ。だけど、お前だって『今度ドラゴンにあったら財宝を貯め込むだけじゃなくて使わなきゃダメだって話を伝えてみろ』って言ってたじゃないか」

「あれはジョーダンだからっ!」

「でもホラ、言葉さえ通じれば、こっちの言いたいことは伝わるんだし、同じポルミサリアに住んでる生き物同士なんだ。この世界を守ることに繋がる話なら、耳を傾けて貰える可能性はあるんじゃ無いかなー?って」

「ドラゴンが人族の話なんか聞くわけないからーっ!」
「決めつけちゃダメだろ。やってみなけりゃ分からんぞ?」
「無!理! ムリムリムリ! 絶対に無理っ!」

「そこはアレだ。孤独な奴って気難しいって言うよりも捻くれてるだけで、意外と話し相手に飢えてたりするもんなんだよ。きっとドラゴンもそれと似たようなもんだ」

「ちっがーう!!! ぜんっぜん違っうー! 冒険に行くのと自殺しに行くのくらい違うからっー!」

うん、なんとなく予想はしてたんだけど、パルミュナの反対意見が力強い・・・
とは言ってもなあ・・・
他にいい手も思い浮かばないし。

「じゃあさー、じゃあさー、お兄ちゃんがドラゴンのところに行って、相手が話を聞き入れてくれなかったらどーなるのさ?」
「そりゃ死ぬかもな」
「エルスカインが、もうドラゴンを配下にしてたら?」
「当然死ぬだろ」
「ダメじゃん!」

「だから、それが決定的になる前に話し合うんだよ。もし、ドラゴン連れで攻めてこられたら、いまの俺じゃ太刀打ちできんぞ? ここで守りに入ってたってみんな死ぬ」
「そりゃ、そーだけどさー...」

爆裂の石つぶてをパルミュナと一緒に浴びせたとしても、ドラゴンを倒す前に俺もパルミュナも魔力が尽きるだろうな。

いま思えば、ガルシリス城から吹き出していた魔力を見たパルミュナが『ドラゴンを倒せばあれどころじゃない量の魔力が吹き出す』と言ってたのは冗談じゃないだろう。
ドラゴンに較べれば遙かに劣ると言うグリフォンと戦ってみて、俺はそれを実感した。

「リンスワルド領をほっぱらかしてみんなで逃げるか?」

「逃げたっていーじゃん! だって破邪は義務じゃなくって矜持で戦うんでしょ!?」
「破邪はな。でも勇者になった時に義務は引き受けてるよ。人より強い力を得てるんだから、人より働かないと釣り合いがとれんだろ?」

「もーっ、強情!」

「エルスカインにグリフォン以上の手駒がないならいいけどな、次は向こうだって、グリフォンじゃ勝てないってことを前提に仕掛けてくるだろ?」
「それは...」
「となると、先手を打つべきだって気がするんだよ」
「でも、エルスカインにドラゴンは操れないかもしれないよー?」
「出来ると決まったわけじゃないけど、出来ないとも言い切れないだろ?」

むしろグリフォンを操れるのにドラゴンは操れないはずだなんて、とんでもない希望的観測だろう。

「言い切れないけどさー。あやふやなのに危険だけ大きくない?」

「そりゃあ俺だって死にたくはないし、死にに行くつもりも無いぞ? だけど行動しないことには手が打てないだろ?」
「でもさー、他にも方法があるかもしれないじゃん、それを考えようよー!」
「まあ、思いつくならな。でも、勘で喋ってるばかりで悪いけど、それほど時間の余裕は無いと思うぞ?」

「そっかなー?...」

「エルスカインは今回、グリフォンと双方向の転移門をまとめて失ったからな。その体勢を建て直すまでは次の攻撃もないだろうけど、逆に、その間にこっちも対応を進めとかないと、また後手に回ることになっちまう」

もちろん俺だって死にたくはないし、『死を覚悟の上で!』なんて壮絶な話でも無いんだけど、説得が難しいなコレ。
なんとかなりそうな気がするってレベルだもんね・・・

過去の俺の魂がドラゴンを倒したことがあると言っても、それは俺じゃないし、いまの俺がそんなに強いわけない。
ただ、それでもなぜか・・・
いや、だからこそ、なのかな? 

ドラゴンは『話が通じる相手だ』って感覚が捨てきれないんだよ。

これまで言葉の通じない魔獣や魔物を散々相手にしてきたことを思えば、言葉が通じるだけでもわかり合えるチャンスはあるだろって思えるんだけどなあ・・・
さすがに破邪以外には、そういう感覚は通じないか。

「たぶん悠長にしてる時間はないと思うんだよ? 仮にドラゴンのいる場所を探しに行くとしたら、ひと月やそこらじゃ厳しいだろうしな」

「ライノ殿、北部大山脈といっても国境もハッキリしないほど広い土地です。その中でどの辺りにいるのか絞り込めなければ、とても探し出せはしないかと...」

それもそうなんだよなあ・・・なにか方策はないもんかな。

「大公陛下に伺えば詳しい場所をご存じである可能性はありますが、ドラゴンは気に入った場所で一旦眠りにつくと、何年も、場合によっては何十年も眠り続けることがあるとも言います。もしも眠っていたら、見つけ出すことは不可能かもしれません」

「仮に見つけ出せてもさー、寝てるドラゴンを起こすとか正真正銘の自殺行為だからねー? お兄ちゃん分かってる?」

「それくらいは想像つくさ。でも本格的に眠ってるんならエルスカインにとってもすぐに見つけ出せる相手じゃないだろうし、逆にそっとしておいてもいいだろ?」

「もー、分かったわよー!」
「おお、わかってくれたか!」
「最後はなんとか出来るようにアタシが頑張る!」
「それはダメだな。行くのは俺一人じゃないと」
「えぇっ! なんでよーっ!?」

「だって大精霊と言えども不滅の存在ってワケじゃないんだろ?」
「それでもお兄ちゃんよりは丈夫だよーっ!」

「でも、二つの理由でダメだ。まず一つは、俺は大精霊の代わりに現世うつしよを平穏にするために勇者となったんだ。勇者が大精霊を危険に巻き込むわけにはいかない」

「そんなの逆じゃん、だってアタシたちが勇者を巻き込んだんだからさー!」
「まあ、それはそれ、コレはコレ、だ」
「そうだとしても、アタシが一緒に行かないとヤバくない?」

「もう一つは、レビリスもダンガたちも、俺かパルミュナが魔力を供給してやらないと精霊の防護結界を動かせないだろ?」
「あー、それもそうだけどさー...」

「俺がいない隙に、あるいは戻れなかった時に姫様たちを守るには、みんなの力を借りなきゃいけない。パルミュナが四人に魔力を供給してやらないと全員死んでしまうからな?」
「うぅー...」
そんな唸るなよ。
野良犬じゃないんだから。

「まあ、もしも俺がドラゴンに会いに行って戻らなかったら、アスワンと一緒にできるだけ早く次の勇者を探し出してくれよ」

「却下っー!」

急に俺みたいな物言いすると驚くぞパルミュナ。
「ほら、他の勇者の魂だって世界の何処かにあるはずだしな?」
「いりませんー! お兄ちゃん以外の勇者なんか、絶っっ対にいりませんーっ! べーっだ!」

パルミュナが舌を出すのは久しぶりに見たな・・・
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