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第三部:王都への道
三人にパルミュナを紹介
しおりを挟むとりあえず、俺の背中に隠れるようにしていたパルミュナの肩を掴んでを前に押し出し、三人に紹介する。
「ダンガ、レミンちゃん、アサム、改めて俺の妹のパルミュナだ。正体は前にも話したとおりだけど、あくまでも俺の妹だ。仲良くしてやってくれ」
三人の表情がハッと凍り付く。
咄嗟に立ち上がったが、俺の以前の話を思い出したのと俺の視線で感づいてくれたのだろう、跪くなんて事にはならず、ちょっと不自然ながらも、互いに自己紹介という感じになった。
「ライノの妹のパルミュナです、よろしくねー!」
「あ、ああ、えっとダンガです」
「ダンガの妹のレミンです」
「おろうとのアサムですす」
噛んだなアサム。
まあ、事前に話しておいたお陰で跪くとか平伏するとかにならなくて良かった。
「ダンガさん、レミンさん、アサムさん、お兄ちゃんを手伝ってくれてありがとー! これからもよろしくお願いします」
急にパルミュナが健気なことを言って三人にペコリと頭を下げた。
愛い奴め!
こういう時の演技は超一流だな!
演技でも妹的に可愛いからいいけどね。
ダンガたちはパルミュナのセリフと演技に面食らって、眼がまん丸になっている。
「はいっ! こ、こちらこそ!」
村人だろうが王様だろうが、普通に人生を送ってれば大精霊にお辞儀されるとか経験しないよな。
て言うよりも、大精霊に会ったりしないか・・・
「とにかく、パルミュナは俺の自慢の妹だ。で、俺の友達なんだから、みんなもパルミュナには友達として接してやってくれな?」
「ああ、ああ、分かった。頑張るよ」
頑張らないと友達付き合いできないって言うのもどうなのかという感じだけど、最初はしょうがないかな。
レビリスだって跪いたし、俺だって泉で初めて大精霊に出会った時には、アスワンに対しては言葉遣いが丁寧になってたはずだ。
まあ、パルミュナとはその時からこんな感じだけどな。
考えてみると、出会った初っぱなから大精霊とタメ口きいてたくせに、姫様から敬語禁止とか言われて焦ってたのが自分でも不思議。
「そ、それでパルミュナ様...」
レミンちゃんが少しばかりおどおどしながら口を開いた。
「パルミュナちゃんって呼んでねー! きっと年も近いと思うしー」
また言ってるよ。
そりゃ俺の妹である以上は、俺より若くあってくれないと困るけどな。
「は、はい。パルミュナちゃん様...」
「ちょっと違う?」
「え、えっとパルミュナちゃん、その、実は私、以前にパルミュナちゃんの高級毛布をお借りしたんです。いつか、そのお礼を言いたいとずっと思ってて」
「あー、そうだったのねー。気持ち良かったでしょー? あの毛布」
「はい。もの凄く軽くて柔らかくて暖かくて本当にビックリしました」
「へっへー、お兄ちゃんがねー、アタシのためにわざわざ誂えてくれたの! いいでしょー!」
「ええ、ええ、とってもステキでした」
「褒めてくれて、ありがとねー」
「とんでもないです!」
「ところでダンガ、後で姫様に言ってもう少し気楽に過ごせるようにさせて貰おうか? 寛げないようなら、とりあえず家僕や小間使いの方々には下がって貰うか?」
「それよりも、むしろ使用人の人たちと一緒の場所とか、敷地の中にある物置小屋とか借りられないかなあ?」
ダンガの意見に、レミンちゃんとアサムもブンブンと頷いているが・・・
姫様の客人が自分たちと一緒に寝起きするとか、それは逆に使用人の人々が恐慌を来すぞ?
「分かるんだけど、あんまり萎縮しすぎて姫様の好意を無駄にしてしまうのもな。ほどほどがいいと思う」
「すまないライノ、俺たちにはなにがどのくらいでホドホドなのかとか、さっぱり分からないんだよ...」
それもそうか。
生まれてこの方、村の仲間以外から客扱いされた経験なんてないんだろうし、塩梅が難しい。
俺だって中身はダンガたちと大差ないけど、破邪として色々な立場の人たちと話してきた経験はあるし、大精霊と出会って勇者になって以来、肝が据わってきたと言うこともある。
一緒にしちゃいけないよな。
姫様になんと相談しようかと考えていると、扉を叩く音がした。
「クライス様、ダンガ様、騎士団のヴァーニル護衛隊長とローザック殿がお見えです。いかがいたしましょうか?」
『いかがいたしましょう』って、ヴァーニル隊長でも即座に扉開けじゃないのか?
これはキツい。
「お入り下さい、ヴァーニル隊長!」
固まっているダンガに変わって、すぐに返事を返した。
「失礼します!」
扉が開いて、ヴァーニル隊長と一緒に若い騎士が入ってきた。
見覚えがあるから護衛隊にいたのだろうけど、直接言葉を交わした記憶はないな。
ダンガたちを振り返ってみるが特に反応していないので、帰還途中で仲良くなったとか言うわけでも無さそうだ。
とりあえず椅子でも勧めようかとした途端、ヴァーニル隊長に続いて入ってきた若い騎士が、突然跪いた。
「えっ?」
ダンガたちはもちろん、俺にもどういうことかさっぱりわからない。
咄嗟にヴァーニル隊長の方を見やると、相も変わらず温和な顔で説明してくれた。
「うちの団員のローザックが、どうしてもダンガ殿たちに非礼を詫びたいと言っておりましてな。昨夜や移動中はその機会がなかったので、いま改めて連れてこさせて頂きました」
「非礼、と仰いますと?」
俺が尋ねると、ローザックと呼ばれた若い騎士が、跪いた姿勢のまま顔を上げずに言った。
「はっ、実は街道で最初に襲撃を受けた際、自分たちは最後尾の馬車を守っていたのですが、ブラディウルフの群れに圧倒され、とても馬車を守り切れないほどの状態でございました」
あー、あの最後尾か・・・あれは絶望してても無理ない感じだ。
「自分も数頭のブラディウルフに引き倒されてのしかかられ、もはやこれまでと覚悟を決めたところで、ダンガ殿とアサム殿が駆けつけて下さり、そのブラディウルフらを打ち倒して下さったのですが...」
・・・が?
「死に瀕して混乱していた私は、あろうことかダンガ殿とアサム殿を新手の敵と見間違え、私を助けに駆けつけて下さったお二方に対して剣を振るってしまったのです。幸い、私の未熟な腕前のせいで、お二人に傷を付けることにならずにすみましたが、敵と味方も見分けられないとは、騎士としてあるまじき醜態」
いやまあ、腕が未熟かどうかはさておき、防護結界があったからね。
「私だけでなく、主君や一行全員にとって命の恩人とも呼べる方に剣を向けたとは、償いようのない行いだと承知してはおりますが、お許し頂けないまでも、せめて謝罪を受け取っては頂けないかと!」
「いや、そ、その...そんなこと、気にしないで下さい!
「そうです、あんな混乱した場で狼姿で走り回ってた俺たちが間違われるくらい、当たり前のことですから!」
「いや、むしろ狼姿で行ったことに問題があったんですから、あなたはまったく悪くないです!」
ダンガとアサムが大慌てしている。
「しかし、お二人に斬り付けてしまったことは事実...」
「いや、本当に問題ないです。どうか顔を上げてお立ち下さい」
「兄の言うとおりですよ。あの場にあの姿で飛び込んだ俺たちを見分けるなんて無茶な話です」
「そうですよ! そもそも事前に面識なかったんですから、敵か味方か見分ける以前の問題でしょう?」
「では...まさかお許し頂けると?」
「許すもなにも、あなたに非があったなんて、牙の先ほども思っていませんから!」
そこは『爪の先』じゃないのかアサム?
「そうです。謝って頂くことなど一つもありません!」
「なんと寛大な...」
ローザック騎士はダンガとアサムの態度に感動している。
この表情は本物だな。
と言うか、演技だったらパルミュナが即座に茶々を入れてそうだ。
「言ったであろうローザックよ? クライス殿のご一行はみな、宥和にして寛容なのだ。我らが騎士としての矜持を忘れぬ限り、失敗も非力も許して下さる」
「はっ! 有り難き幸せ!」
いやいやいやいや、そういう大袈裟な物言いはやめましょうよ?
視察隊にいた面子は俺が勇者だと知っているから仕方がないところもあるけれど、ダンガたちの居心地がますます緊張感の高いものに・・・
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