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第二部:伯爵と魔獣の森
三人との絆
しおりを挟む「ららライノさんって、ひょっとして訳ありの貴族様なのかなーっとか思っていたら、遙かにその上を行く話でした...」
「だよねえ...まさか勇者さ、だなんてさあ」
「実はレビリスって男もこのことを知ってるんだけどな。教えたときは度肝を抜かれてたよ」
「そりゃそうだろうと思うよ。って言うか、俺たちもいま度肝を抜かれてる最中だからさ?」
「うん、先にライノさんが『これまで通りにしろ』って言ってなかったら、俺きっと跪いてたと思う」
「いやー、そういう風になったら嫌だから、先に言わせて貰ったんだよな。だって逆の立場で考えてみてくれよ。友達から跪かれるとか嫌だろ?」
「そっか、そうだよね!」
「そうそう。それって急に仲間はずれになったみたいじゃん?」
「ああ、なんかそう言われると分かるかも...」
「うん、ライノはこれからも、俺たちの仲間で友達でリーダーだ!」
「いや待てダンガ、最後のはちょっと違うと思う」
「え? そうかな...ライノがこの四人のリーダーでいいだろ? だって勇者とか関係なくてもリーダーになって欲しいと思うし」
相変わらずアサムとレミンちゃんがダンガの両脇で、ブンブンと音がしそうな勢いで頷いた。
「いやまあ...その『友達』っていうのがまずあるからな? 友情ファーストな? あくまで対等な友達同士だ。行動するときの決め事はその時その時に相談しながら考えような?」
「分かった。ライノがそう言うなら従うよ!」
それは分かったと言うことになるのか・・・と思ったが、まあ、あんまり突っ込んでも仕方が無いので、いまは脇に置いておくことにする。
「さっき俺が、勝てないと思ったら逃げてくれって言った理由もこれなんだ。勇者としてフルパワーで戦わなきゃいけなくなった状況で三人が近くにいると、俺は気になって全力を発揮できない」
「そうなのか?」
「巻き込んじゃったりしたら嫌だって思うだろ?」
「あ、ああ、そうか...却って邪魔になっちゃうって事だね?」
「悪いけどそういうことなんだ。だから俺が『逃げろ』って言ったら、全速でここから逃げて欲しい、それこそ脇目も振らずに、足が続く限り出来るだけ遠くに離れるんだ」
「分かったよ」
アサムとレミンちゃんも深刻そうな顔で頷いた。
これで、ちょっとだけ安心かな?
「そうだ。もう一つ教えておくけどな。三人はまだ会ってないけど、俺が妹って言ってる奴な、パルミュナっていう名前なんだけど、本当は血が繋がって無いんだよ」
「あ、私が毛布についていた匂いの事を聞いたとき、従妹だって言ってた方ですね?」
「うん、そいつ。俺にとっては本当に妹同然なんだけど、実は妹でも従妹でも無くて大精霊なんだよ。俺に力を分けてくれた大精霊が二人いるんだけど、そのうちの一人なんだ」
「ええっー!!!!」
三人ハモった。
「まあ、ミルシュラントに来てから、そいつも現世に顕現しててさ。で、しばらく一緒に旅してたんだけど、周りに説明するために俺の妹だの従妹だのって設定にしてたんだ」
「じゃあ、匂いが全然違うのはそういう理由だったんですね。私、もっと複雑な事情がご家族にあるのかと思ってました...」
レミンちゃんが、妙に納得顔をしてうんうん頷いてる。
『実は妹が大精霊』と言うよりも複雑な家庭の事情って一体何なんだ? っていう思いが頭をよぎったけど、ここは触らずにおこう。
「で、王都の近くで親戚の屋敷を相続するなんて言ったけど、実はその屋敷を用意してくれてるのが、もう一人の大精霊」
「大精霊が親戚?!」
「そこはただの方便だよ。言葉通りに受け取らないでくれ...なんでも、以前の勇者が使ってたこともある屋敷らしくてな。ああ、それと、荷物を何でも入れてる革袋も、その大精霊が作ってくれたんだよ」
「えっー! もうライノさん、なんだか色々凄すぎです」
「一応は勇者だからね。まだなりたてホヤホヤのヘタレだけどさ」
「でもライノさんがあんなに早くて強い理由に納得だよー」
「そうだな、本当にそうだ」
「ホントこれまでの人生で一番ビックリしたことですよ!」
あー、そう言えばレビリスもほぼ同じようなこと言ってたな。
まあ、俺だって自分が勇者になるなんて人生の想定外だったよ。
「でも、ゆう...ライノさん聞いていい? どうしてライノさんが勇者だってことが秘密なんだい?」
「大精霊からの助言かな? 大抵の人は勇者だって知ると、急に崇めたり変に敬ったりし始める、そうやって沢山の人の心を取り込んでいくと、その中から良くない思いも生まれやすい、って事らしい」
「良くない思いって?」
「魔物を生み出すような感情だよ。簡単に言うと、勇者自身が魔物を生み出す理由になりかねないって感じ?」
「へー...正直よく分からないけど...ライノさんが言うなら、そうなんだろうね」
「まあ、俺にしたって自分で考えたことじゃなくて、精霊から教えられたんだけどな」
「なあ、ラ、ライノ。その、どうして俺たちに教えてくれたんだい?」
「ん? だってダンガたちは信用できるし、秘密を話しても友達のままでいてくれるだろうって思ったからさ」
「そうか...信じてくれてありがとう」
「そのセリフはお互い様だぜ? 普通は『俺は勇者だ』とか言ったら、頭おかしいって思われるだろう?」
俺がそう言うと、三人はクスっと笑ってくれたよ。
++++++++++
それから俺は、ポリノー村の調査を思い立った原因というか、恐らく今回の襲撃の背後にいるエルスカインという正体不明の敵の存在やガルシリス城跡での事件、俺との関わりも大まかに説明した。
三人とも、俺がそんな恐ろしい敵の話をしているというのに怯えるどころか、むしろワクワクした表情で合いの手を入れてくるのは、戦闘に長けたアンスロープ族だからなのかね?
その後は、とりあえず三人にはこの後は交代で寝て貰い、俺も村長宅の居間で身体を休めることにする。
俺も散々周りを脅かしているが、結局は今夜の襲撃がない可能性だってあるのだ。
それで油断すると、今度は屋敷に向かう経路の途中で襲いかかってくるなんてパターンかも知れないが・・・
こればかりは、幾ら考えていても分からないし、ただ神経を消耗するだけだろう。
一つだけ確かなことは、このままエルスカインが諦めるはずはない、という事だけだな。
それがいつか分からないというだけで、いつかは必ず来るはず。
だったら、早いほうがこちらの消耗も少ないし。
正直、事故への偽装を諦められた段階で、更に危険な相手となったように思えるんだよ。
しばらく待ってなにも起こらないようだったら、朝まで交代で寝ながら過ごすしか無いが、とりあえず四人揃っているので、フォーフェンで買ったお茶を沸かして振る舞った。
ダンガたち三人は狩人だから、破邪と同じように獲物を待って何時間もじっと動かないことなどザラだと言っていたし、一晩や二晩なら、肉体的な耐久力はもちろん集中力を持続させることにも問題ないだろう。
とは言え、向こうが攻めてくるのは準備ができ次第なのか、こちらの忍耐切れを待つ気か、それとも完全に仕切り直すつもりか・・・
なんであれ、受け身にならざるを得ないというのは、それだけでキツい。
お茶を飲み終わるとダンガが立ち上がった。
「今のうちに変身しておこう。朝までは、交代で休むにしても狼の姿のままでいた方がいい」
「ああ、そうだな」
「いや、ここで変身して扉は通れるか?」
「肩をすぼめれば大丈夫さ。感覚的にわかる」
三人は狩人だから、持ち歩いているのは少し大きめの狩猟刀だけだ。
他に武器も持ってないし、かと言って剣や槍をいきなり渡されても扱いに困るだけだろうし・・・
それに昼間の様子を見る限りだと、肉弾戦に限って言えば狼姿の方が圧倒的に戦闘力が高いだろう。
ブラディウルフの首の骨を一咬みで砕いたパワーをもってすれば、騎士たちが着ているプレートアーマー程度、造作なく噛み砕きそうな気がするね。
戦闘がある前提なら、戦うにしても逃げるにしても、狼の姿でいてくれる方が俺も安心だな。
ダンガとアサムが変身した後、レミンちゃんもいったん客間に引っ込んで変身してから居間に戻ってきた。
そのまましばらくは四人ともまんじりともせずに過ごし、そろそろ交代時間を決めて交互に休憩を取るか、と思い始めたところで、外から扉を叩く音が響いた。
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