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第一部:辺境伯の地
Part-2:フォーフェンの街へ 〜 清々しい朝だね
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翌朝、囀る鳥たち以外に俺たちを起こしにくる人は誰もいなかった。
昨夜はそれなりに遅かったし、どうやら、気がすむまで寝かせておいてあげようと気を遣ってくれたらしい。
ちょっと助かった気分。
いくら兄妹(偽)とは言え、パルミュナ(の見た目)もいいお年頃なんだから、もしも同じベッドに並んで爆睡していたところを見られたりしたら、あらぬ誤解を受けそうで恥ずかしいからな。
外の水場を借りて二人で顔を洗い、一旦離れに戻って荷物をまとめる。まとめると言っても、俺が装備を身につけて、手入れ用に出していた用具類をしまい直すだけだ。
それから村長さんの本宅を訪れ、世話になったお礼と辞去の挨拶をしてから村の広場に出てみると、昨夜の宴会の片付けが、ほとんんど終わりかけている雰囲気だった。
昨夜は食べきれなかった料理もたくさん残っていたようなので、それは今日明日の村人たちの食事として分け合うのだろう。
村の人たちと挨拶を交わしている俺を見つけて、ラキエルとリンデルも寄ってきた。流石に、昨日の今日で狩りに出る気はないらしい。
「おはようライノ! いまから行くのか?」
「ああ、頑張って踏ん切りをつけないと、この村は居心地が良すぎていつまでもズルズルとお世話になりたくなっちまいそうだからね」
「はっはっは! だったら、そのままずっとここにいればいいのさ!」
「そうだよ。ここで狩人として暮らすのも悪くないぞ?」
「いや、それじゃあ狩人が増えすぎだろう?」
「大丈夫さ、この村にはまだまだ余裕があるよ!」
「そうしたい気持ちもあるけどね。そうもいかない事情もあってな」
「そうだろうさ。まあ、気が向いたらいつでも来てくれ」
「ああ、この村はいつだってライノとパルミュナを歓迎するよ」
「ありがとう。旅の破邪にとっては、いつでも自分を歓迎してくれる場所があるなんて、それだけで幸せな気持ちになれることさ」
俺がそう言うと、双子は何も言わず、朗らかに笑って両側から俺の肩を軽く叩いた。
相変わらず二人の動きとタイミングがぴったり一致していて最高だ。左右それぞれの肩にきた振動にズレがない。
そうこうしているうちに、エスラダ村長とミレアロさんもやってきた。
「もうクライスさんが出発されてしまうのは寂しいですな。昨夜の宴会で邪気払いができたのか、今朝はいつにも増して一段と清々しい気がいたしますぞ」
ひょっとしたら、もうパルミュナの守護の効果を感じ始めているんだろうか?
さすが村長だな。
「この村は本当に居心地がいいんですが、ずっといると居心地が良すぎて破邪としてやっていけなくなりそうです」
「それは光栄ですな。ぜひそのままここで狩人にでもなっていただきたい」
もちろん、村長さんの言葉は冗談だ。
「いつか、そんな日が来たら是非よろしくお願いします」
そう言ってみんなで笑い合う。
いいなあ、こういう時間。こういう人たち。
俺もいつの日か、ミレアロさんや村長の姪御さんみたいな美しい女性と所帯を持ったりする日が来るんだろうか?
なんにしても、まだまだ先の話だけどな・・・
と、いきなりパルミュナから脇腹を小突かれ、思わずのけぞって咳き込みそうになる。
いやお前、いまの結構スパーンと急所に入ってたぞ!
「お兄ちゃん、私と王都の屋敷で暮らす約束は?」
まだ言うか!
「はいはい、わかってるって。だから急ごーねー」
わざとあやすように言うと、パルミュナもお約束の頬っぺた膨らませポーズだ。
だんだん俺とパルミュナのやりとりも旅芸人の域に入ってきた気がするぞ。
もう少し、わざとらしさを消せるといいんだけどな!
「じゃあ、そんなわけで俺たちはそろそろお暇させてもらいます」
「ああ、クライスさん、今日からは街道をいかれるのですよね? フォーフェンの街までは五日程度だと思いますが、途中で泊まる場所はもう決めておられますか?」
「いやあ、旅の進み具合も読めていなかったので、出たとこ勝負のつもりです。破邪ですから、いざとなったら野宿でも平気ですし」
「しかし、今回は妹さんも連れてらっしゃるし、人通りの多い街道沿いでの野宿は気がすすまれんでしょう?」
村長さんの言うことにも一理ある。
それは誰でも心の中では思っていることで、人が通る場所は安全でもあり危険でもあるって話だ。
実際のところ人を襲うのは、魔獣や魔物よりも、あるいは狼やクマのような獣よりも、同じ人である場合の方が桁違いに多いからな。
旅人のフリをして街道を歩き、自分達より弱い獲物を見つけたら、即座に盗賊に変身!というパターンを狙う輩もいるし、中には困窮して本当に盗賊になってしまう旅人だっている。
大抵の人が思ってる以上に世の中には後先を考えないバカがいるのだ。
それに、なんだかんだ言ってパルミュナも見た目(だけ)は可愛い女の子だからね。
見た目で相手の強さが測れないってことを理解してるやつなら、そうそうちょっかいをかけてきたりはしないだろうけど、剣の腕だろうと魔法だろうと自分の力を過信していたり、あるいは単に考えの浅いバカはどこにでもいる。
良からぬ思惑で若い娘を攫おうとする奴だって出ないとは限らないからなあ。
ゴロツキなんかに遅れを取ったりはしないと思うけれど、そもそもトラブルに巻き込まれるというか、狙われるってこと自体を避けたい。
だって面倒だから。
俺が、うっと返答に詰まっていると、エスラダ村長は懐から書状を畳んだものを取り出した。
「途中の集落や村にあるいくつかの宿屋と、客人をお泊めすることが出来るだろう家への紹介状を書いておきました。どこも、この村と取引や交流のあるところです。これを見せれば悪いようにはされんと思いますので、よろしければ、ここに書いてある処を尋ねてみてください」
おおっ、これは凄く助かる。
いくらなんでも日頃の取引がある処の村長から紹介された相手を、粗末に扱ったりぼったくったりはしないだろうし、何よりも、そこに書かれている宿や家を目指せば、悩んだり余計な心配をしたりする必要がないって言うのはものすごく大きい。
いやもうこれ、エスラダ村長になんとお礼を言っていいやらだ。
「ああ、それは助かります! 何から何までお世話になっちゃって...本当にありがとうございます!」
「いえいえ、クライスさんには、まだまだお返しできてないくらいですよ」
村長の言葉に、双子もシンクロしてぶんぶん頷いている。
だから違うんだって。
ウォーベアを倒したのは自分達の身を守るためでもあったの!
と言いかけたけど、それはまた昨日と同じやりとりを繰り返すだけのことになりそうな気がして、黙って深く頭を下げるだけに留めた。
ちらっと横を見ると、パルミュナも俺に倣って頭を下げていた。こう言うところは、純粋に可愛い妹みたいだって思えるんだよな。
本当のところ、夜中にパルミュナがこの里にかけてくれたまじないと結界の魔法陣は、どんなにお金を積んでも買えるものじゃない。
もしも金を積めばあれを自分の城や王都に施せるというのなら、どの国の王たちも金貨の千枚でも一万枚でも喜んで出すだろう。
でも、なんとなく俺にもわかってきたことだが、精霊たちは、そんなことで動いてはくれない。
そして多分、金貨が何枚分とか、物事をそういう目で見て判断してる限り、精霊たちは味方になってはくれないのだ。
パルミュナは、ラキエルとリンデルに友情を感じた俺のために、自分がこの村に大精霊の守りを施したことなどおくびにも出さず、俺と並んで村長に頭を下げてくれている。
俺は心の中で、そのパルミュナにもう一度感謝した。
「そうだ、ライノ、昨日の山菜とクマ料理を弁当に持っていってくれよ」
「おお、そうだな。本当はうちで朝飯を食べていってもらいたいところだけど、あんまり引き止めるのも悪いしなあ。すぐに用意するから、せめて弁当くらいは持ってってくれ」
「いやもう用意しておるわい。当然だろう?」
村長は、そうしたり顔で双子に言うと後ろを振り向いた。目線の先には昨夜の姪御さんがいて、村長が頷くと包みを抱えてやってきた。手回しいいな!
姪御さんは、紐で縛った大きな布包みを俺に手渡してくれながら、物憂げな目線を投げかけてくる。
「クライスさん、ぜひまた、できるだけ早くこの村に来てくださいね。みんな、お待ちしておりますわ」
途中に挟んだ『みんな』という単語が、さも取って付けたように感じたのは先入観だろうか?
「ありがとうございます。昨日の食事はとても美味しかったし、これで、今日の道中もご飯が楽しみになりました。大切にいただきます」
そう答えて、布包を受け取った。
手にした包みはずっしりと詰まっている感じで、俺とパルミュナの二人なら明日の晩御飯くらいまで十分にカバーできそうだ。
「村長、俺たちはライノとパルミュナを街道まで送っていくよ。どうせ今日は狩りに出るつもりもないし、ついでだから街道筋の村でいくつか仕入れておきたいものもある」
「うんうん、それがいいでしょうな。ではクライスさん、またのお越しを待っておりますよ」
俺とパルミュナは、村長と姪御さん、ミレアロさんに別れを告げて、双子と一緒に村を出た。
昨夜はそれなりに遅かったし、どうやら、気がすむまで寝かせておいてあげようと気を遣ってくれたらしい。
ちょっと助かった気分。
いくら兄妹(偽)とは言え、パルミュナ(の見た目)もいいお年頃なんだから、もしも同じベッドに並んで爆睡していたところを見られたりしたら、あらぬ誤解を受けそうで恥ずかしいからな。
外の水場を借りて二人で顔を洗い、一旦離れに戻って荷物をまとめる。まとめると言っても、俺が装備を身につけて、手入れ用に出していた用具類をしまい直すだけだ。
それから村長さんの本宅を訪れ、世話になったお礼と辞去の挨拶をしてから村の広場に出てみると、昨夜の宴会の片付けが、ほとんんど終わりかけている雰囲気だった。
昨夜は食べきれなかった料理もたくさん残っていたようなので、それは今日明日の村人たちの食事として分け合うのだろう。
村の人たちと挨拶を交わしている俺を見つけて、ラキエルとリンデルも寄ってきた。流石に、昨日の今日で狩りに出る気はないらしい。
「おはようライノ! いまから行くのか?」
「ああ、頑張って踏ん切りをつけないと、この村は居心地が良すぎていつまでもズルズルとお世話になりたくなっちまいそうだからね」
「はっはっは! だったら、そのままずっとここにいればいいのさ!」
「そうだよ。ここで狩人として暮らすのも悪くないぞ?」
「いや、それじゃあ狩人が増えすぎだろう?」
「大丈夫さ、この村にはまだまだ余裕があるよ!」
「そうしたい気持ちもあるけどね。そうもいかない事情もあってな」
「そうだろうさ。まあ、気が向いたらいつでも来てくれ」
「ああ、この村はいつだってライノとパルミュナを歓迎するよ」
「ありがとう。旅の破邪にとっては、いつでも自分を歓迎してくれる場所があるなんて、それだけで幸せな気持ちになれることさ」
俺がそう言うと、双子は何も言わず、朗らかに笑って両側から俺の肩を軽く叩いた。
相変わらず二人の動きとタイミングがぴったり一致していて最高だ。左右それぞれの肩にきた振動にズレがない。
そうこうしているうちに、エスラダ村長とミレアロさんもやってきた。
「もうクライスさんが出発されてしまうのは寂しいですな。昨夜の宴会で邪気払いができたのか、今朝はいつにも増して一段と清々しい気がいたしますぞ」
ひょっとしたら、もうパルミュナの守護の効果を感じ始めているんだろうか?
さすが村長だな。
「この村は本当に居心地がいいんですが、ずっといると居心地が良すぎて破邪としてやっていけなくなりそうです」
「それは光栄ですな。ぜひそのままここで狩人にでもなっていただきたい」
もちろん、村長さんの言葉は冗談だ。
「いつか、そんな日が来たら是非よろしくお願いします」
そう言ってみんなで笑い合う。
いいなあ、こういう時間。こういう人たち。
俺もいつの日か、ミレアロさんや村長の姪御さんみたいな美しい女性と所帯を持ったりする日が来るんだろうか?
なんにしても、まだまだ先の話だけどな・・・
と、いきなりパルミュナから脇腹を小突かれ、思わずのけぞって咳き込みそうになる。
いやお前、いまの結構スパーンと急所に入ってたぞ!
「お兄ちゃん、私と王都の屋敷で暮らす約束は?」
まだ言うか!
「はいはい、わかってるって。だから急ごーねー」
わざとあやすように言うと、パルミュナもお約束の頬っぺた膨らませポーズだ。
だんだん俺とパルミュナのやりとりも旅芸人の域に入ってきた気がするぞ。
もう少し、わざとらしさを消せるといいんだけどな!
「じゃあ、そんなわけで俺たちはそろそろお暇させてもらいます」
「ああ、クライスさん、今日からは街道をいかれるのですよね? フォーフェンの街までは五日程度だと思いますが、途中で泊まる場所はもう決めておられますか?」
「いやあ、旅の進み具合も読めていなかったので、出たとこ勝負のつもりです。破邪ですから、いざとなったら野宿でも平気ですし」
「しかし、今回は妹さんも連れてらっしゃるし、人通りの多い街道沿いでの野宿は気がすすまれんでしょう?」
村長さんの言うことにも一理ある。
それは誰でも心の中では思っていることで、人が通る場所は安全でもあり危険でもあるって話だ。
実際のところ人を襲うのは、魔獣や魔物よりも、あるいは狼やクマのような獣よりも、同じ人である場合の方が桁違いに多いからな。
旅人のフリをして街道を歩き、自分達より弱い獲物を見つけたら、即座に盗賊に変身!というパターンを狙う輩もいるし、中には困窮して本当に盗賊になってしまう旅人だっている。
大抵の人が思ってる以上に世の中には後先を考えないバカがいるのだ。
それに、なんだかんだ言ってパルミュナも見た目(だけ)は可愛い女の子だからね。
見た目で相手の強さが測れないってことを理解してるやつなら、そうそうちょっかいをかけてきたりはしないだろうけど、剣の腕だろうと魔法だろうと自分の力を過信していたり、あるいは単に考えの浅いバカはどこにでもいる。
良からぬ思惑で若い娘を攫おうとする奴だって出ないとは限らないからなあ。
ゴロツキなんかに遅れを取ったりはしないと思うけれど、そもそもトラブルに巻き込まれるというか、狙われるってこと自体を避けたい。
だって面倒だから。
俺が、うっと返答に詰まっていると、エスラダ村長は懐から書状を畳んだものを取り出した。
「途中の集落や村にあるいくつかの宿屋と、客人をお泊めすることが出来るだろう家への紹介状を書いておきました。どこも、この村と取引や交流のあるところです。これを見せれば悪いようにはされんと思いますので、よろしければ、ここに書いてある処を尋ねてみてください」
おおっ、これは凄く助かる。
いくらなんでも日頃の取引がある処の村長から紹介された相手を、粗末に扱ったりぼったくったりはしないだろうし、何よりも、そこに書かれている宿や家を目指せば、悩んだり余計な心配をしたりする必要がないって言うのはものすごく大きい。
いやもうこれ、エスラダ村長になんとお礼を言っていいやらだ。
「ああ、それは助かります! 何から何までお世話になっちゃって...本当にありがとうございます!」
「いえいえ、クライスさんには、まだまだお返しできてないくらいですよ」
村長の言葉に、双子もシンクロしてぶんぶん頷いている。
だから違うんだって。
ウォーベアを倒したのは自分達の身を守るためでもあったの!
と言いかけたけど、それはまた昨日と同じやりとりを繰り返すだけのことになりそうな気がして、黙って深く頭を下げるだけに留めた。
ちらっと横を見ると、パルミュナも俺に倣って頭を下げていた。こう言うところは、純粋に可愛い妹みたいだって思えるんだよな。
本当のところ、夜中にパルミュナがこの里にかけてくれたまじないと結界の魔法陣は、どんなにお金を積んでも買えるものじゃない。
もしも金を積めばあれを自分の城や王都に施せるというのなら、どの国の王たちも金貨の千枚でも一万枚でも喜んで出すだろう。
でも、なんとなく俺にもわかってきたことだが、精霊たちは、そんなことで動いてはくれない。
そして多分、金貨が何枚分とか、物事をそういう目で見て判断してる限り、精霊たちは味方になってはくれないのだ。
パルミュナは、ラキエルとリンデルに友情を感じた俺のために、自分がこの村に大精霊の守りを施したことなどおくびにも出さず、俺と並んで村長に頭を下げてくれている。
俺は心の中で、そのパルミュナにもう一度感謝した。
「そうだ、ライノ、昨日の山菜とクマ料理を弁当に持っていってくれよ」
「おお、そうだな。本当はうちで朝飯を食べていってもらいたいところだけど、あんまり引き止めるのも悪いしなあ。すぐに用意するから、せめて弁当くらいは持ってってくれ」
「いやもう用意しておるわい。当然だろう?」
村長は、そうしたり顔で双子に言うと後ろを振り向いた。目線の先には昨夜の姪御さんがいて、村長が頷くと包みを抱えてやってきた。手回しいいな!
姪御さんは、紐で縛った大きな布包みを俺に手渡してくれながら、物憂げな目線を投げかけてくる。
「クライスさん、ぜひまた、できるだけ早くこの村に来てくださいね。みんな、お待ちしておりますわ」
途中に挟んだ『みんな』という単語が、さも取って付けたように感じたのは先入観だろうか?
「ありがとうございます。昨日の食事はとても美味しかったし、これで、今日の道中もご飯が楽しみになりました。大切にいただきます」
そう答えて、布包を受け取った。
手にした包みはずっしりと詰まっている感じで、俺とパルミュナの二人なら明日の晩御飯くらいまで十分にカバーできそうだ。
「村長、俺たちはライノとパルミュナを街道まで送っていくよ。どうせ今日は狩りに出るつもりもないし、ついでだから街道筋の村でいくつか仕入れておきたいものもある」
「うんうん、それがいいでしょうな。ではクライスさん、またのお越しを待っておりますよ」
俺とパルミュナは、村長と姪御さん、ミレアロさんに別れを告げて、双子と一緒に村を出た。
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