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第46話 何者ですか?
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太陽がオレンジ色に染まり、どこかで夕方の鳥の鳴き声がする。
どこかノスタルジックな雰囲気を切り裂くように、白竜アランが訓練場に戻ってきた。
「お帰りなさい、アラン様!」
竜人モードに戻ったアランに、ソフィアがぱたぱたと駆け寄る。
その姿はまるで、久しぶりに家に帰ってきた主人に飛びつく子犬のようである。
「あっ……」
「おっと」
不意にふらついたソフィアの身体を、アランが両腕で抱き止めるように支えた。
「す、すみません、少しふらっとしてしまい」
かあっと頬を赤くしてすぐ、ぱっと身体を離すソフィア。
「気にするな。……随分と疲れている様子だが、大丈夫か?」
「ほんの少しだけ……でも、大丈夫です」
気丈な笑顔を浮かべ、両腕で元気のジェスチャーをするソフィア。
そんな彼女に、アランは訝しげに目を細めた。
「遅くなってすまない。少し前の予定が押してしまってな……何やら汚れているな」
「これは、その……」
服や髪についた泥や土埃を慌てて払いながらソフィアは言う。
「つい、訓練に熱が入ってしまったのと、それと……何度か失敗をしてしまいまして……」
おやつの盗み食いがバレた子供みたいに、人差し指をつんつんするソフィアに、アランは優しい声色で言う。
「熱が入る事は良い事だ。それに、最初は誰でも失敗をするものだ。何度も反復練習をして、少しずつ上達していけばいい」
「は、はいっ。お心遣い、ありがとうございます。失敗を恐れるな、ですね」
「その通り」
満足そうに頷くアランが、もう一度ソフィアの土に汚れた身体を見て言う。
「……適正は、土の属性だったか」
「流石のご慧眼(けいがん)です」
「やはりな」
確信深げな瞳で頷くアランに、ソフィアは目を見開く。
(アラン様は……知っていたのでしょうか?)
その疑問を投げかける前に、アランがソフィアに手を伸ばす。
「あ、え……?」
ぱんぱんと、アランがソフィアの服についた土埃をはたき落とす。
「あの、ありがとう、ございます」
「どうって事ない」
そのままアランの手は、ソフィアの美しい長髪についた土埃を撫でるように落とした。
「ひゃいっ……」
「どうした?」
怪訝そうに眉を顰めるアランの元に、すかさずクラリスがやってきて苦言を呈す。
「アラン様、失礼ながら女性の髪に無闇に撫で回すのは如何なものかと」
「あ、ああ、すまない!」
今気づいたといったリアクションをして、アランはぱっと手を離す。
「……嫌だったか?」
「い、いえ、嫌ではありませんが……」
目を伏せて、口元を多い、頬を夕焼けのオレンジに負けないくらい朱に染めて。
ぽつりと、ソフィアは言葉を落とす。
「少し……恥ずかしかったです……」
ほのかに恥じらいを浮かべた、思わず抱きしめたくなるような表情。
アランの胸が、どくんと跳ねた。
「そ、そうか……」
自分でも予想外だった感情が湧き出し、アランは次に告げる言葉を失ってしまう。
ふと自身の頬に手を当てると、指先から確かな熱が伝わってきた。
(馬鹿な……この俺が……照れている、だと……)
普段のアランからすると馴染みのない、胸に嵐のようなざわめきをもたらす感情に当惑してしまう。
「……」
「……」
またしても、無言の間が到来。
「またですか……」とクラリスがジト目で二人を見守る中。
モーリスがごほんと、わざとらしく咳払いを立てた。
「アラン様、ちょっと……」
モーリスの言葉で状況を察したクラリスが、ソフィアに言う。
「ソフィア様、お風呂の前に少し身を清めておきましょう。こちらへ」
「はっ、え……う、うん。ありがとう、クラリス」
未だ冷静になりきっていないソフィアを、クラリスが連れていく。
二人きりになってから、モーリスはアランに問いかけた。
「彼女は何者ですか?」
「俺の妻だ」
「いえ、そういう話ではなく」
「だが……」
どこまでも広がるオレンジ色の空を見上げ、険しい表情でアランは言った。
「この国を救う、妻だ」
どこかノスタルジックな雰囲気を切り裂くように、白竜アランが訓練場に戻ってきた。
「お帰りなさい、アラン様!」
竜人モードに戻ったアランに、ソフィアがぱたぱたと駆け寄る。
その姿はまるで、久しぶりに家に帰ってきた主人に飛びつく子犬のようである。
「あっ……」
「おっと」
不意にふらついたソフィアの身体を、アランが両腕で抱き止めるように支えた。
「す、すみません、少しふらっとしてしまい」
かあっと頬を赤くしてすぐ、ぱっと身体を離すソフィア。
「気にするな。……随分と疲れている様子だが、大丈夫か?」
「ほんの少しだけ……でも、大丈夫です」
気丈な笑顔を浮かべ、両腕で元気のジェスチャーをするソフィア。
そんな彼女に、アランは訝しげに目を細めた。
「遅くなってすまない。少し前の予定が押してしまってな……何やら汚れているな」
「これは、その……」
服や髪についた泥や土埃を慌てて払いながらソフィアは言う。
「つい、訓練に熱が入ってしまったのと、それと……何度か失敗をしてしまいまして……」
おやつの盗み食いがバレた子供みたいに、人差し指をつんつんするソフィアに、アランは優しい声色で言う。
「熱が入る事は良い事だ。それに、最初は誰でも失敗をするものだ。何度も反復練習をして、少しずつ上達していけばいい」
「は、はいっ。お心遣い、ありがとうございます。失敗を恐れるな、ですね」
「その通り」
満足そうに頷くアランが、もう一度ソフィアの土に汚れた身体を見て言う。
「……適正は、土の属性だったか」
「流石のご慧眼(けいがん)です」
「やはりな」
確信深げな瞳で頷くアランに、ソフィアは目を見開く。
(アラン様は……知っていたのでしょうか?)
その疑問を投げかける前に、アランがソフィアに手を伸ばす。
「あ、え……?」
ぱんぱんと、アランがソフィアの服についた土埃をはたき落とす。
「あの、ありがとう、ございます」
「どうって事ない」
そのままアランの手は、ソフィアの美しい長髪についた土埃を撫でるように落とした。
「ひゃいっ……」
「どうした?」
怪訝そうに眉を顰めるアランの元に、すかさずクラリスがやってきて苦言を呈す。
「アラン様、失礼ながら女性の髪に無闇に撫で回すのは如何なものかと」
「あ、ああ、すまない!」
今気づいたといったリアクションをして、アランはぱっと手を離す。
「……嫌だったか?」
「い、いえ、嫌ではありませんが……」
目を伏せて、口元を多い、頬を夕焼けのオレンジに負けないくらい朱に染めて。
ぽつりと、ソフィアは言葉を落とす。
「少し……恥ずかしかったです……」
ほのかに恥じらいを浮かべた、思わず抱きしめたくなるような表情。
アランの胸が、どくんと跳ねた。
「そ、そうか……」
自分でも予想外だった感情が湧き出し、アランは次に告げる言葉を失ってしまう。
ふと自身の頬に手を当てると、指先から確かな熱が伝わってきた。
(馬鹿な……この俺が……照れている、だと……)
普段のアランからすると馴染みのない、胸に嵐のようなざわめきをもたらす感情に当惑してしまう。
「……」
「……」
またしても、無言の間が到来。
「またですか……」とクラリスがジト目で二人を見守る中。
モーリスがごほんと、わざとらしく咳払いを立てた。
「アラン様、ちょっと……」
モーリスの言葉で状況を察したクラリスが、ソフィアに言う。
「ソフィア様、お風呂の前に少し身を清めておきましょう。こちらへ」
「はっ、え……う、うん。ありがとう、クラリス」
未だ冷静になりきっていないソフィアを、クラリスが連れていく。
二人きりになってから、モーリスはアランに問いかけた。
「彼女は何者ですか?」
「俺の妻だ」
「いえ、そういう話ではなく」
「だが……」
どこまでも広がるオレンジ色の空を見上げ、険しい表情でアランは言った。
「この国を救う、妻だ」
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