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第108話 世話焼きな私が

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 学校、昼休み。

 ゆーみんに、望月くんのことを相談した。

 最近、望月くんと一緒に居るとおかしな気持ちになる事が増えたって。

 シュークリームを買ってきてくれた時、高尾山で抱き留められた時、明美さんに選んでもらったお洋服を「可愛い」って褒められた時。

 頭がぽわーってなって、にやにやが止まらなくなって、胸がきゅんきゅんってなって……。

「病気かな!?」
「いやいやー、恋でしょー」

 即答された。

「こここ恋!?」
「びっくりしすぎー」

 やれやれと、両手のひらを上に向けるゆーみん。

「というか、ぶっちゃけ自覚してたでしょー」
「うっ……」

 ゆーみんの言う通り、薄々、いや、かなりそうなんじゃないかと予感はしていた。

 これまでの人生で一度も抱いたことがなかった、だけど、直感的に感じた。

 この感覚の正体はいわゆる、『恋心』というやつなんじゃないかと。

 でも、もしそうだとしたら、私は、

「どうすれば……」
「告白すればいいじゃんー」

 さらっと言うゆーみんの意見は、ごもっともだ。

 でも……それはできない、って思った。

 私には、人に言えない秘密がある。

 力のことと……家族のこと。

 私の持つ力の事は確かに、受け入れてくれた。

 でも、私と家族との間にあるヘビーな部分は……流石の望月くんでも受け止めきれないと思う。

 そうなったらきっと、望月くんは離れていってしまう。

 中学の時、私の友達がみんな、居なくなっちゃったみたいに。

 それは……すごく、嫌だ。

 想像すると、胸に鈍い痛みが走った。

 けどその胸の内は、ゆーみんには明かせない。

 だから、こう答えた。

「……恥ずかしいから、無理」

 やれやれと、ゆーみんは再び両手のひらを上に向けた。

 胸にチクリと痛んだけど、これでいいんだと自分を言い聞かせる。

 ちょうどそのタイミングで、昼休み終わりのチャイムが鳴り響いた。

「まーこの話の続きは、今夜の誕生日会でじっくりと話しますかねー」

 ふっふっふと、意地の悪そうな笑顔を浮かべて、ゆーみんは自分の席に戻っていった。

「誕生日、か……」

 一人になって、呟く。

 今日は、私の誕生日。

 そのことを、望月くんには話していない。

 お仕事忙しそうだし、気遣わせちゃうのも悪いなーって思ったから。

 でも、もし望月くんが私の誕生日プレゼントを選んでくれるとしたら。

 一体、なにをプレゼントしてくれるんだろう?

 ちょっとだけ……いや、結構気になる。

 確かめる術は、無いけれども。

 少しだけ、心に隙間風が吹いた。


 ◇◇◇


「誕生日……おめで、とう」

 望月くんがその言葉を紡いだ途端、口から心臓が飛び出てしまうんじゃないかと思った。

 まさか、まさかまさか!

「知ってたの?」

 こくりと、望月くんが頷く。

 先日行った図書館で、貸し出しカードの申請書で知ったらしい。

 あの時か!

 うはーーなんと迂闊な。

 気遣わせてしまったことをとても申し訳なく思った。

 けど……それ以上に、嬉しい、って思ってしまった。

 そのあと、もっともっと嬉しい事が起きた。

 『もし望月くんが私の誕生日プレゼントを選んでくれるとしたら』

 その問いに、望月くんが答えてくれた!

 可愛くてもふもふな、白い猫のぬいぐるみ。

 前に私が何気なく口にした、「もふもふが大好き」って言葉を元に選んでくれたらしい。

 ちゃんと、私を見てくれた上でのセレクト……。

 そう思うと、胸がきゅーんってなった。

 ドキドキが止まらない、顔が熱い、にまにまが止まらない。

 嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しすぎる!

「ありが、とう」
 
 声が震えないようにするのに必死だった。

 一生、大事にしよう。

 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、心に誓った。

 部屋に帰ってから、この子に名前をつけてあげようと思った。

 いろいろ考えて、たどり着いた名前は、

「おさむ」

 超絶恥ずかしくなって、枕に顔を埋めてじたばた。

 おさむ、おさむて!

 なに考えてるのよもー!

 ……。

 …………。

 でも……いいな、おさむ……しっくりくるし、なんだか、落ち着く……。

 おさむ、にしよう。

 ぎゅっとおさむを抱きしめた。

 もちろんこのことは、望月くんに秘密だ。

 これも、心に誓う。


 ◇◇◇


 誕生日の一件以来、望月くんへの想いがより強くなった。

 私の料理を美味しそうに食べる望月くん、ブラックコーヒーを無表情ですする望月くん、じっと真面目な表情で読書をする望月くん。

 望月くんのひとつひとつの動作を、自然と目に追うようになった。

 あー、これ、誤魔化しきれるレベルじゃないや。

 私は、望月くんに恋をしている。

 でも……その気持ちを明かそうとは思わなかった。

 距地が縮めば自然と、私の家族のことも話さなくちゃいけなくなる。

 その時、望月くんはどんな反応をするだろう?

 受け入れて、くれるかな?

 望月くんなら、受け入れてくれそうだ。

 でもまだ何処かで、ネガティブな情景が拭えなかった。

 頭では、『望月くんなら』って思っているのに。

 それがすごくすごく申し訳なくて……辛かった。

 それとは別に、望月くんとの今の距離感が心地よすぎる問題もあった。

 望月くんと一緒にいると……なんと表したらいいんだろう。

 学校とか全部放り出して旅に出て辿り着いた、お日様ぽっかぽかで風が気持ちよくてすぐうとうとしてしまいそうになる原っぱ、に寝転んでいるような感じ?

 よくわからないや(笑)

 とにかく、無理に関係性を意識しないでも良い気がしてたの。

 無理に自分から変えないで、楽しい今の日々を続けるのもいいんじゃないかって、そう思うようになった。

 ……うん、そうしよう。

 もうしばらく、今の距離感でいよう。

 逃げてるわけじゃ、ない、と思う、たぶん。


 ◇◇◇


 ひとつ、気になっていることがある。

 望月くんは私のこと、どう思っているんだろう?

 ……どう、思ってるんだろう?

 たぶん、意識してないんだろうなあ(笑)

 相変わらず無表情で仏頂面だし、話し方に温度は感じられないし……。

 時々息を詰まらせたり顔赤くしている時とかあるけど、ただ女の子に対して免疫が無いだけだというか。

 私という女の子を意識した結果、というわけじゃ、たぶんない。

 ちょっとショック(笑)

 自分で言うのもなんだけど、オシャレとか髪の手入れとか、けっこう気を遣ってるんだけどなあ……しょんぼり。

 ま、こればかりはしゃーない!

 そのうち望月くんも、私の魅力に気づいてメロメロになるに違いない。

 ふっふっふ、覚悟するがいい。

 ……でも、意識、して欲しいなあ。

 そう思った結果、こんな質問をしてしまった。

「私たちさ、周りから見るとカップルに見えているのかな?」

 返ってきた答えは面白かった。

 そういうオブジェには見えてるんじゃないか、だって。

 なんだそれ(笑)

 でも、嫌な顔はされなかった。

 むしろちょっとだけ、照れてるみたいだった。

 全く意識されてないわけじゃ、ないのかも?


 ◇◇◇


 箱根旅行、楽しかった!

 温泉は最高だったし、お蕎麦もおまんじゅうもソフトクリームも串かまぼこも美味しかったし……何よりも、望月くんの寝顔の写メゲット!

 むふふう、ニヤけが止まらん。

 これはお宝フォルダに保存しておこう、ぽちり。
 
 でもちょっと、困ったことになった。

 帰りの電車の中、治くんに家族のことを尋ねられたのだ。

 どうしよう。

 家族のことを話すのは、やっぱり……。

 そう思った時、あれ? ってなった。

 前よりも、話すことに対する拒否感が薄れている、ような気がした。

 まだ、ネガティブな想像は浮かぶ。

 話したら、望月くんに距離を置かれてしまうんじゃないかという恐怖も、ある。

 でも、それよりも……望月君ならもしかしてって気持ちが、前よりも大きくなっていた。

 気づく。

 望月くんに対する信頼が、私の中で大きくなっていること。

 そして望月くんが踏み込んで来たのも、彼の私に対する信頼の証なんじゃないかと。

 ……近いうちに、話そう。

 ちゃんと自分の中で色々と整理して、きちんとしたタイミングで言おう。

 そう決意した。

 いつかちゃんと言うって、望月くんに伝えた。

 そしたら望月くん、「無理に話さないでいい」って。

 ああもう、この人はどれだけ私をぽかぽかさせたら気が済むの。

 嬉しくて嬉しくて、溢れる想いが止められなくって、ただただ感謝することしか、できなかった。

 その日はとても、楽しくて嬉しい日だった。

 でも数日後、困った事態になった。



 ──お母さんが、家にやってきたのだ。
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