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第18話 白湯
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エリクの朝は早い。
と言いたいところだが、大体朝まで起きているため早いも遅いもない。
しかし今日は珍しく夜に入眠する事が出来た。
ここ最近ずっと不眠気味で疲労が溜まりに溜まっていたため、眠りも深かった。
ヒストリカが起床して二時間後くらいに、ばちいっとエリクは目覚めた。
「仕事が!!」
ガバッと起き上がって、仕事の悪夢でも見ていたような言葉を上げるエリク。
それからきょろきょろと部屋を見回した後、椅子に座って本を読んでいるヒストリカと目があった。
「おはようございます、エリク様」
「……仕事は?」
「エリク様の朝の挨拶は『仕事』なのですか?」
「ああ、いや……おはよう」
「はい、おはようございます」
ぺこりとヒストリカは頭を下げた後、尋ねる。
「ご気分はどうですか?」
「昨日と比べたら頭がスッキリしてて、身体が軽くなった気がする……まだちょっと気怠い感じはあるけど」
「そうですか。全快とは言えずとも、睡眠によってある程度回復したようですね」
「うん、それは間違いない、ね……」
言い淀んだのは、昨晩のことを思い出すと顔が熱くなったからだ。
とはいえ、ヒストリカの提案が良い方向に転がったのは確かなこと。
その感謝をエリクが伝えようとすると。
「では、まずこちらを」
ヒストリカがエリクに大きめのコップを差し出す。
中には透明な液体が入っていて、ほのかに湯気立っていた。
「これは?」
「白湯です」
「さゆ……」
「熱めのお湯ですね。寝起きに白湯を取るのは、寝ている間に失った水分を補給出来たり、身体の温度を上げて血の巡りが良く出来たりと、良い事づくめなんですよ」
「へええ、そうなんだ。熱めのお湯にそんな効能が……」
感心の息をつきつつ、ヒストリカからコップを受け取って口をつける。
白湯の温度は少し熱いくらいでごくごくと飲み干す事が出来た。
「いかがでしょう?」
「……なんだか身体が熱くなってきて、力が湧いてきている気がする」
「今まで飲んできてない分、実感は凄そうですね」
どこかぼんやりしていたエリクの瞳に光が宿った。
ベッドから降りて、エリクは言う。
「ありがとう。おかげで気分がスッキリしたよ」
「それは何よりです」
「さて、じゃあ僕は仕事に取りかか……」
「何言ってるんですか」
「ぬおっ」
ぐいっと腕を引かれてエリクから変な声が出る。
何をするんだ、とエリクが抗議の目線を送るも、ヒストリカはぴしゃりと言った。
「起きて朝食も食べずに仕事に取り掛かるなんて、正気ですか?」
「いや、しかし、そもそも僕は朝食を取らな……」
「存じ上げております。ですが、そうはいけません。朝食を取る事は、その日の活動をより良くするために重要な事なのです。朝食を抜いて頭脳労働に励むのは効率が悪いですし、身体にも響きます」
「む……しかし、朝食を取る分、仕事をする時間が……」
「昨日、確認したはずです。現状の納期を考えると、身体を酷使してまでする必要は無いと。それに、朝食をとって仕事に臨んだ方が、とらなかった場合に比べて早く仕事を終わらせる事ができると思います」
「むむむ、そうか……」
腕を組み、エリクはうんうん言っていたが、やがて「ヒストリカがそう言うなら……」と、朝食を取る事に同意してくれた。
昨日、悩みの種だった不眠を解消した経緯もあって、ヒストリカが口にする知識にある程度の信頼を置いてくれているようだった。
「ありがとうございます。ああでも、その前に」
どこから取り出してきたのか動きやすそうな服を手に、ヒストリカはエリクに言った。
「まずは、陽の光を浴びましょう」
と言いたいところだが、大体朝まで起きているため早いも遅いもない。
しかし今日は珍しく夜に入眠する事が出来た。
ここ最近ずっと不眠気味で疲労が溜まりに溜まっていたため、眠りも深かった。
ヒストリカが起床して二時間後くらいに、ばちいっとエリクは目覚めた。
「仕事が!!」
ガバッと起き上がって、仕事の悪夢でも見ていたような言葉を上げるエリク。
それからきょろきょろと部屋を見回した後、椅子に座って本を読んでいるヒストリカと目があった。
「おはようございます、エリク様」
「……仕事は?」
「エリク様の朝の挨拶は『仕事』なのですか?」
「ああ、いや……おはよう」
「はい、おはようございます」
ぺこりとヒストリカは頭を下げた後、尋ねる。
「ご気分はどうですか?」
「昨日と比べたら頭がスッキリしてて、身体が軽くなった気がする……まだちょっと気怠い感じはあるけど」
「そうですか。全快とは言えずとも、睡眠によってある程度回復したようですね」
「うん、それは間違いない、ね……」
言い淀んだのは、昨晩のことを思い出すと顔が熱くなったからだ。
とはいえ、ヒストリカの提案が良い方向に転がったのは確かなこと。
その感謝をエリクが伝えようとすると。
「では、まずこちらを」
ヒストリカがエリクに大きめのコップを差し出す。
中には透明な液体が入っていて、ほのかに湯気立っていた。
「これは?」
「白湯です」
「さゆ……」
「熱めのお湯ですね。寝起きに白湯を取るのは、寝ている間に失った水分を補給出来たり、身体の温度を上げて血の巡りが良く出来たりと、良い事づくめなんですよ」
「へええ、そうなんだ。熱めのお湯にそんな効能が……」
感心の息をつきつつ、ヒストリカからコップを受け取って口をつける。
白湯の温度は少し熱いくらいでごくごくと飲み干す事が出来た。
「いかがでしょう?」
「……なんだか身体が熱くなってきて、力が湧いてきている気がする」
「今まで飲んできてない分、実感は凄そうですね」
どこかぼんやりしていたエリクの瞳に光が宿った。
ベッドから降りて、エリクは言う。
「ありがとう。おかげで気分がスッキリしたよ」
「それは何よりです」
「さて、じゃあ僕は仕事に取りかか……」
「何言ってるんですか」
「ぬおっ」
ぐいっと腕を引かれてエリクから変な声が出る。
何をするんだ、とエリクが抗議の目線を送るも、ヒストリカはぴしゃりと言った。
「起きて朝食も食べずに仕事に取り掛かるなんて、正気ですか?」
「いや、しかし、そもそも僕は朝食を取らな……」
「存じ上げております。ですが、そうはいけません。朝食を取る事は、その日の活動をより良くするために重要な事なのです。朝食を抜いて頭脳労働に励むのは効率が悪いですし、身体にも響きます」
「む……しかし、朝食を取る分、仕事をする時間が……」
「昨日、確認したはずです。現状の納期を考えると、身体を酷使してまでする必要は無いと。それに、朝食をとって仕事に臨んだ方が、とらなかった場合に比べて早く仕事を終わらせる事ができると思います」
「むむむ、そうか……」
腕を組み、エリクはうんうん言っていたが、やがて「ヒストリカがそう言うなら……」と、朝食を取る事に同意してくれた。
昨日、悩みの種だった不眠を解消した経緯もあって、ヒストリカが口にする知識にある程度の信頼を置いてくれているようだった。
「ありがとうございます。ああでも、その前に」
どこから取り出してきたのか動きやすそうな服を手に、ヒストリカはエリクに言った。
「まずは、陽の光を浴びましょう」
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