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一
しおりを挟む先程まで私の頭上で嫌気がさすほど美しい青を見せていた空は、いつの間にか反転したらしい。
つま先のさらに奥の方でチラチラと見えるその青に、あぁ逆さまなのは空ではなくて自分なのだと気付いたのだった。
学校から家へと続く、なんてことはないただの帰り道。
半日と少しで溜まった憂鬱な気持ちを、家に着く前には捨てておきたくて、イヤホンを
耳に突っ込んだ。
両親共に健在。一人っ子という恵まれた環境の中で私は大事に育てられてきた。
成績は、ずば抜けて良い訳ではないがそれなり。
友達も苦労しない程度にはいる。
普通の女子高生だって?そりゃそうだよ。そうなるように頑張ってきたからね。
正直同年代の子達と仲良くするのは疲れるし、彼女らの言動には疑問しか生まれなかった。
疑問が増えれば増えるほど、自分と周りの子たちの違いが明確化されていくようで、それを隠すように、無理矢理自分を変えた。
基本スタイルは愛想笑い
相手へ対する返答はつねに肯定から
運動も勉強も極めすぎずにそこそこで
無理矢理繕って完成した私の周りには、たくさんの友達がいた。それこそ苦手なタイプから仲良くなれそうな子まで。
でも多くの友達を手に入れた私の心には、何故かぽっかりと穴が空いていた。
それをどうにか埋めたくてもがいてはみたものの、結局穴が空いた原因も、埋め方も分からなかった。
「…疲れたなぁ」
今日もまた、人に合わせて自分を殺した。
いつからこんな面倒臭い事を始めたのか、もう記憶にない。
溜め息を一つついて耳元から流れ込む曲に意識を向ける。
音楽を聴くと、少し気が楽になる。
体の中に響く重低音に合わせるように、私は足を進めた。
その時
空を裂くようなクラクションの音が鳴り響き
目の前にトラックが現れた。
「っ…!」
十字路の先からいきなり目の前に迫り来るトラックをどうすることもできない訳で
衝撃と共に私の視界は狭くなってゆく。
あぁ、ここで終わりか…。私の人生って意外と短かったな…。
やり残したこと、と言われて思いつくようなものもなければ会っておきたかった友達の顔も浮かばない。
結局そんなものなのだろう。
…でも、両親にはちゃんと別れを告げたかったな。
見つかった心残りに胸が痛くなるが、もうどうしようもない。
せめて天国か地獄でいつか会える事を祈ろう。
衝撃と共に逆さまになった体は、まだ地につかない。
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