楽しくフリーターしてたら、突然声優プロダクションの社長になる事になったんだが

第二章 社長生活の開始

マネージャー、後藤

オレは予定通り、朝８時に事務所に行き、社長室に入った。
程なくして、秘書の瀬戸涼子がオレに告げた。

「マネージャーの後藤が出社しました」

早いな。
就業時刻は、いや、芸能プロダクションの就業時刻なんてのはあってないような物かもしれないが、一応ベガの就業開始は１０時のはずだった。
その２時間前に出社するとは。
やる気があるのか、特別な事情でもあるのか。

事務所スペースでしばらく瀬戸と後藤が話をしているらしく、その聞き取れない話し声をオレは何と無しに聞いていた。
しばらくして、ノックの音がして、後藤の声がした。

「失礼します」
「入って下さい」

後藤は、女性だった。
パンツスーツが良く似合っている。
髪型は短髪で、活動的な印象を受けた。
ボーイッシュ、という言葉が似合う。

「この度、プロダクション・ベガの社長に就任致しました、天野輝星です」
「マネージャーの後藤です。よろしくお願い致します」
「随分早いですね・・・何でこんな早く出社を？」
「事務所の掃除をさせていただいています」
「それは義務で？」
「いえ、私が一番下っ端なので。それに、事務所が綺麗な方が仕事が捗るじゃないですか。好きでやらせていただいております」
「それは・・・ありがとうございます」
「ベガには、新卒で入社しました。今、二年目です」
「僕も大学を出て二年目なんです。多分同い年ですね」
「社長は・・・」

後藤は、遠慮気味に聞いた。

「大学を出てから、何をされていたんですか？あ、留学とか？」

嘘は言えないが、本当の事も言いたくない。

「近所の・・・知り合いの会社で、社会勉強をしていました」
「へえ・・・」

後藤は素直に感心してくれた。
単純な性格のようだ。

「父の病気の為に急遽跡を継ぐ事になりましたが、プロダクション経営の事は全然わかりません。どうか後藤さんの力を貸して下さい」
「任せておいて下さい。精一杯頑張らせていただきます！」
「よろしくお願いします」

そんな感じで、一人目、後藤との面接は終わった。
気持ちいいくらいに真っ直ぐな人だ。
若さと元気が溢れる、好印象だった。
きっとこの先、オレの力になってくれるに違いない。

他のマネージャーたちも、みんなこんな感じで友好的だといいのだが。