楽しくフリーターしてたら、突然声優プロダクションの社長になる事になったんだが

第一章 オレが社長に・・・？

決断

「瀬戸さん」
「はい？」
「オレ・・・社長、やってみます」
「そう言って下さると思っていました」

瀬戸涼子は、魅力的に微笑んだ。

オレを捨て、おふくろを捨て、好き勝手生きて来た親父。
そのイメージは、変わっていた。
好き勝手やっていた事には違いはないだろうが、親父は少なくともオレを、愛してくれているのだろう。
親父と、おふくろの間の事はわからない。
今更詮索する気もなかった。
オレはオレの名を冠した親父が作り、育てた声優プロダクション「ベガ」を継ぐ。
それでいいじゃないか。
それで・・・。

「これからオレは、どうすればいいんですか？」
「これを」

瀬戸涼子は、一冊の本をオレに手渡した。

「日記？」
「社長からのプレゼントです。困ったことがあったら開け、と」

その日記帳には、企業経営のノウハウが記されていた！

「株式の譲渡や権利関係の移管手続きは、全て顧問弁護士が行ってくれます。輝星さん・・・いえ、【社長】は、好きなように会社を動かしていって下さい」
「わかりました・・・精一杯頑張ります」
「私も、精一杯お手伝いします」

瀬戸涼子が右手を差し出した。
オレはその手を握った。
契約成立。
この瞬間から、オレは【社長】になった。

「まずは」
「はい」
「全社員に社長就任の挨拶がしたいですね。社員は何人いるんですか？」
「給料が発生している【社員】は、マネージャーが５名、デスクが１名、それに私の７名です」
「意外と少ないんですね」

「ベガ」は、思っていたよりは小規模の会社のようだ。

「全員を集めますか？」

オレは少し考えて言った。

「いや・・・一人づつと話して行きたいと思います。一人一人の事を、良く知りたいし」
「そうですね、その方が良いでしょう」
瀬戸涼子の顔がちょっと曇った。
「輝星さんが社長になる事を、快く思っていない人間もいますから」

ああ。
これ、面倒臭い奴だ。
オレは思わず、深いため息をついた。