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旅の始まり

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大正八年、一月五日。
一人の美しい女性が、今まさに命を断とうとしていた。

「先生・・・島村抱月先生。今、須磨子もそちらに参ります」

そして女性は首を吊ったのだった。


時は移り変わって、現代。
脳外科の専門病院の病室。
ベッドに寝かされている女性がいる。
女性は目覚め、ゆっくりと動き出す。

「うん・・・ここは・・・どこだ?」

女性に付き添い、目覚めるのを待っていた男が、興奮した様子で声を上げた。

「清子さん・・・清子さん?・・・先生、先生!」

看護師が駆け込んで来て尋ねる。

「佐々野さん・・・どうかしましたか?」
「看護師さん・・・清子さんが、清子さんが目を覚ましたんです!」

看護師もまた、驚き、しかし嬉しそうな様子で言葉を返した。

「すぐに先生を呼んで来ます!」

佐々野と呼ばれた男は、ベッドに横たわっている女性に語りかける。

「わかるかい清子さん、僕だ、渡だ」
「渡?」
「そうだ、清子さん。君は交通事故で頭を打って、それからずっと眠り続けていたんだ」
「・・・違う」
「え?・・・何が違うんだ?」
「私の名は須磨子だ。清子などという名ではない!」

物語が、須磨子の旅が、始まろうとしていた。
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