推しの護衛の推しが僕

大島Q太

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あの後、僕はのっぽのエルフィンの部屋で通信機を借りて兄さまと連絡を取った。通信機なんて高級品は僕の部屋にはない。逆にのっぽのエルフィンはかなりなお坊ちゃまで通信機はもちろんお風呂も部屋にある。たまに借りたりするので本当にありがたい友達だ。


連絡すると相変わらず兄さまは元気だった。もちろん立志式はヨシュア様とヨシュア様のご両親がうちの両親の代わりに一緒に参加すると言ってくれた。それを横で聞いていたのっぽのエルフィンは膝をついてうなだれていたけどリアクションがいちいち大袈裟だ。


次の日からアルフィン王子もフロスト様も親しく声をかけてくれるようになった。フロスト様に至ってはあーんが気に入ったみたいで、食堂で僕を見つけると隣に座り何でもかんでも食べさせようとしてくる。

フロスト様は推しである、断れない。ヴィクトールさんもフォークに刺したものをうろうろさせているが僕はもういっぱいいっぱいなのだ。気持ちもそうだが主に口が。





立志式の朝。

僕ら貴族にはそれぞれ家に色を与えられている、立志式や成人式など国主体の式にはその色を使う正装が義務付けられていた。僕の家の色は紺色だ。なので今日の僕は紺色の襟高のジャケット、腰の高さにベルトのあるタイプだ。肩から胸ポケットに渡す紐緒は灰色。中は白いシャツ ヨシュア様のご実家の色を使わせて下さった紫のネクタイ 細身の紺色パンツというかっちりとしたフォーマルな格好をしている。


ちなみにデレクの家は薄い緑色。ポッツの家は薄い黄色。のっぽのエルフィンの家は濃赤色だ。みんなそれぞれかっちりした服を着ていて普段と違う装いに気が引き締まる。



立志式は学園内の式場で行われる。

式場は大聖堂を思わせる建築様式で天井は高く吹き抜けになっておりキラキラと光る照明が星のように輝いている。柱や壁には凝った細かい装飾が施され。磨かれた床は古いものなのに年代を感じさせないほどにピカピカだ。そして、正面の大きな飾り窓にはめ込まれた色ガラスが荘厳さを醸している。中央席後部には在校生が着席しており。2階席は保護者席になっていて式の開始を静かに待っていた。



式の始まりは国王陛下の入場から始まる。楽団の静かな伴奏の中、国王陛下を先頭に2年生が中央に敷かれた絨毯の上を静かに進む。今年は総勢45名だ。


全員が席に着くと学園長の開会の声が響く、列席者が一斉に席を立ちお辞儀をする。静かな式場にザっと言う靴音が響いた。皆の着席がかなうと立志式の少年たちが一人一人国王陛下に呼ばれて壇上に上がる。


壇上では国王陛下から貴族の証である指輪が授与される。この指輪は婚姻や身分を明かすものとして生涯身につけるものだ。


僕の番が来た。

目の前で見る国王陛下は黒髪に優しげな黒い眼だ。改めてアルフィン王子が年をとったらこんな感じかなと思わせる顔をしていた。両手を出せばその上に指輪の入った箱を置かれた。

僕はあらかじめ教えられた兄さまたちの座る席に向かって感謝の言葉を言いお辞儀をする。


兄さま達の手を振る姿が見えた。国王陛下にお辞儀をして壇上を下りる。椅子に戻った時は小さく息を吐いた。僕の子供でいられる時期は終わるんだと不思議な気分だった。僕はどんな大人になるんだろう手の中の指輪の箱が少し重く感じる。


最後の生徒が指輪の箱を受け取り席に着くと国王陛下が祝辞を述べた。僕たちはまた、式の始まりと同様に国王陛下を先頭に中央の絨毯を歩いて退出する。


僕達はそのままこの後の懇親会の会場に移動した。


ポッツは早速、部屋の端に並ぶ料理の場所を確認していた。僕も一緒に兄さまの好きなプリンの場所を把握した。のっぽのエルフィンとデレクは席を確保してくれていた。総勢200名は集まるので会場は広かった。


「エルフィンのお父さまに会うのも久しぶりですね」

僕はのっぽのエルフィンのお父様たちを思い出す、何度かお会いしたあの立派な筋肉の人達。


「俺はエルの兄上には4年周期で十分だ。エルんとこの兄上はほんと強烈だ」

のっぽのエルフィンは領が隣同士ということもあり学園に入る前から知り合いだ。のっぽのエルフィンは昔から兄さまに良くからかわれてたからな。


「エルフィンのお兄さん達は有名人なんですよね。リカさまは学生時代、魔王って二つ名だったらしいですね。ヨシュア様は覇王でしたっけ、かっこいい」

ポッツが机のテーブルクロスを撫でながら聞いてきた。この前言っていた魔王ってもしかしてリカ兄さまか!僕はのっぽのエルフィンをみた、分かりやすく目をそらされた。


「あー楽しみ。エルフィンのお兄さんに早く会ってみたい」

デレクはワクワクした様子で入口の方を見ている。



まもなく、保護者たちが会場に入ってきた。明らかにごっつい集団が固まって歩いている。ここが戦場なら絶望して跪くぐらいの迫力があった。あれはのっぽのエルフィンのご家族と僕の兄さまたちだ。向こうもこちらに気づいて手を振ってくれている。

ひと狩り行きそうな集団にまわりが道を避けている。


「エル坊!!」


のっぽのエルフィンは明らかにびくっとした。僕は兄さまに手を振った。兄さまはヨシュア様と連れ立っている。その後ろをヨシュア様によく似たヨシュア様のご両親がにこやかに続いていた。そして、その後ろにはのっぽのエルフィン家族5名が連なってきている。席に着くと、席は一気に密度が増した。


遅れてポッツとデレクの家族も着席し席が整った。

辺りの席も続々と埋まりだしたころ。学園長が開式の合図をした。



「兄さまヨシュア様今日の衣装ありがとうございました」

僕は改めてその場で立ち一周して見せた。ヨシュア様のご両親にも改めて衣装のお礼を言う。


「成人の際もぜひ声をかけてくれ。うちの息子も婿殿もすぐ筋肉で破こうとするからね。贈りがいが無いんだ、だから可愛いエルフィン君のお祝いができて大満足だよ」

ヨシュア様のお父様がニコニコと頭を撫でてくる。筋肉で破こうとすると言われてしまった息子と婿殿はプリンを取りに立ってしまった。


のっぽのエルフィンのご家族もお久しぶりですとあいさつをすると。いつ婿に来るのかと冗談を言われた。ポッツが僕を二度見している。僕は慌てて訂正する昔からよく言う冗談ですよ。


ポッツとデレクのご家族にもご挨拶をする。

ポッツの両親は柔らかい笑顔で優しそうな人たちだった。お爺さまは立派な髭がふわふわして小動物めいていた。触りたくて指がワキワキする・・。デレクの父さまは眼鏡のスッキリとした細身の人だ。

いつもお世話になっているので一人ずつに飲み物を配って回った。


皿いっぱいにお肉だけを載せたヨシュア様とプリンを3つもってニコニコしている兄さまが戻ってきた。


僕たちも取りに行こうかと立ちあがった時。式場の扉が開いた。


国王陛下がこの会場に現れた。

例年なら立志式の儀式にしか参加されないのにただならぬことだ。そして、国王陛下に続いてアルフィン王子とフロスト様それぞれの護衛騎士の皆さまが入ってくる。

会場がざわざわとしだした。



「ここで来年成人を迎えるアルフィンとフロストについて布告する。両名は卒業までの期間を婚約期間とし卒業後に婚姻することを認めた」


国王陛下は良く通る声でそう宣言した。主に親世代が一層ざわざわとし始める。


「この両名の婚約に仇なすものは王家に仇なすものと知れ。この両名を牽制することは王家に歯向かうことだと知れ」


国王陛下の言葉に息をのむものもいた。本来なら婚約などの発表が学園内の式典で行われることはないのだ。これは異例中の異例。ここにいる全員への牽制になっているのだろう。


大好きな二人の婚約かー…僕はとても素敵だと思った。思わずめいっぱい拍手をする。だんだんとざわざわが消え拍手が増えていく。壇上ではアルフィン王子とフロスト様が手を振り応えていた。お二人が幸せに向かっているのだと思うと感慨深い。しっかりと指をからませて手をつないでいる。目に焼き付けた。


国王陛下は言うことを言うとさっさと帰って行った。アルフィン王子とフロスト様も壇上から下りていた。大人たちに声をかけられていたがすぐにこちらに向かってきた。


「エルフィン、今日の主役は君たちなのに失礼したね。国王陛下が動いてくださった。憂いは晴れたよ。今までありがとう」

アルフィン王子とフロスト様が幸せそうなキラキラの笑顔を見せた。お二人のバックに花が舞うのが見える。僕はそれを眼福とばかり祈るように見ていた。

そのお二方の後ろで護衛騎士の皆さまがきびきびした動きで一列に並んでかかとを鳴らし敬礼している。


「ヨシュア様、お久しぶりです!ご健勝で何よりです!」


息の合った。挨拶が会場にひびく。僕はびっくりしてそちらを見た。直立不動でピクリとも動いていない。ヨシュア様はお肉を食べながら一言「解け」とつぶやいた。

また、ザっという音がして護衛騎士の皆さまが休めのポーズで固まった。また、僕がきょろきょろしていると隣の椅子に座ったフロスト様がニコニコして肩をポンポンと叩いてきた。

推しとこんな風に交流できるなんて至福だ。


「ヨシュアとリカ様は護衛騎士たちの先輩なんだ。ここにいる子たちはみんなヨシュアとリカ様からご指導いただいていたから。頭が上がらないんだよ」


僕はまた護衛騎士の皆さんを眺めた、彫像のように動かない。

「ヨシュア様の護衛技術はほんとに素晴らしいですもんね、僕もいっぱい教わりました。ほんとにほんとにかっこいい、尊敬します」

僕は大好きなヨシュア様が皆から尊敬を集めているのだと思うとうれしかったが、護衛騎士の皆さまは目だけで驚いていた。


「エルフィンも私の教え子だよ、優秀な子だ」


ヨシュア様はそう言うと皿の上にあった人参をパンっとアルフィン王子に向かって飛ばした。僕はアルフィン王子の麗しいお衣装に汚れが付くと思ってすかさず空いていたプリンのカップでそれを受け止めた。護衛騎士の皆さまも同じようにアルフィン王子を守ったが僕の方が一拍早かった。

フロスト様が拍手している。ヨシュア様は僕を見てにっこりと笑った。


「ヨシュア様、人参が苦手だからってこういう使い方はどうかと思います」


僕は少し怒って見せた。ヨシュア様のお父さまがすかさずヨシュア様の後頭部を叩いた。隙のないヨシュア様を叩けるなんてお父様たちもすごい。

そこへのっぽのエルフィンの兄さまを引きつれたリカ兄さまが帰ってきた。手にはたくさんのデザートを持っていた。

護衛騎士の皆さまはまた先ほど見せた一糸乱れぬ敬礼をリカ兄さまにもしていた。

リカ兄さまが皆に「堅苦しい!」と怒鳴ってやっと皆は普段通りに戻った。それでも、緊張はしているみたいだ。

僕もまだ食べていなかったことに気づく。席を立つとフロスト様とヴィクトールさんが付いてきてくれた。

僕はバランス良くお皿におかずをとりつつフロスト様を見上げる。見上げても美しい人だ。


「ヨシュア様がリカ兄さまの伴侶として家にいらした時、僕は人見知りをしてしまってうまくご挨拶もできなかったんです。でも、ヨシュア様はそんな僕の態度を怒りもせず、一緒に山狩りや鍛錬に付き合ってくれた。勉強も見てくれて。今この学園で困ることなく過ごせるのはヨシュア様のおかげです…だから、ヨシュア様は素敵な方なのです」


護衛騎士の皆さまとヨシュア様がどういう付き合いだったのかは分からないけど久しぶりに会ったみんなと打ち解けたいと思っているはずだと。


「エルフィン君にとってヨシュアは大事な人なんだね。ヨシュアはすごい人だよ。在学中も剣も槍も勉強も誰も彼には勝てなかった。互角だったのはリカさまだけだ。護衛候補ってね将来が約束されている分なりたいって子も多くてね。ヴィクトールの年では30人くらいはいたよね、でもヨシュアとリカさまの稽古を最後まで受けて耐えたのは2人だけだった。ヨシュアとリカさまは皆に自分たちと同じレベルを求めて稽古をつけるんだ。見ているこちらも震えるほどそれはもうすごい鍛錬だった。だからあの鍛錬を乗り越えた護衛騎士のみんなは悪気はなく緊張してしまうんだよ」

フロスト様は肉団子を山盛り乗せた皿を持って教えてくれた。

ヴィクトールさんが苦笑いをして見せた。

「ヨシュア様はほんとにすごい人です。自分より強い人とじゃなきゃ結婚しないって言った時はこの人一生結婚できないって思ったくらいです」

僕の背中に手をまわしてエスコートしてくれる。

「そんなに!?でも、リカ兄さまも同じことを言っていましたよ。よく似た二人なんですね」




席に戻ると護衛騎士の皆さまも席について大所帯になっていた。みんなも好きなものをとってきて食べていた。空いている席にヴィクトールさんは僕をエスコートして椅子を引いて席に座らせてくれた、自分も隣に落ち着く。僕はにっこりとありがとうを言うと甘い雰囲気が漂って何ともくすぐったかったが、周りの目が一瞬で殺気立った。

「おい、ヴィクトールどういうことだ」

と聞いたことがないほど低い声でリカ兄さまがヴィクトールさんに圧をかけた。殺気だったのは兄さまだけではなかった。ヨシュア様も眼光が鋭くなっている。そのままフォークを折ってしまいそうでおろおろする。


そうか、まだヴィクトールさんを兄さまたちに紹介していなかった!慌ててヴィクトールさんを立たせた。


「僕、ヴィクトールさんに交際を申し込まれました。今は親しくさせていただいています」


のっぽのエルフィンが食べていたものを吹いている。デレクとポッツも護衛騎士の皆さまもピシッと言う音が聞こえてくるくらいに固まっている。なんでだろう。

でも、無理だとあきらめていたのに僕にも恋人ができたのだ。きっと喜んでくれると思って兄さまたちを見た。

しかし、さっきよりも黒いオーラが広がっていた。


「おい家の婿にって言ったろ!」のっぽのエルフィンのお父さまがまた冗談を言っている。のっぽのエルフィンはまたしても飲んでいた水を噴出した。今度はポッツが黒いオーラを出していた。デレクはアワアワしている。僕は冷静におじさまたちをたしなめた。

「おじさま、それは冗談でしょう。僕はこの学園に入る前からヨシュア様みたいな素敵な人を見つけたいと思っていました。ただ平凡で難しそうだからって僕の将来を心配してそう言ってくださったのですよね。ありがとうございます。」


僕は次男だから継ぐ家はない。なのでどこかへ婿に行くしかないのだが僕の人見知りを心配して言ってくれていたのだろうな、本当にやさしくて素敵な家族だ。


するとのっぽのエルフィンが

「えっと、その。僕の恋人はポッツだ。エルを婿にもらう気はないよ」

と言い出した。えっ急展開である。

「はじめまして、ポッツと言います。僕ではダメでしょうか・・・」

ポッツは真っ赤になって挨拶をしている。僕はデレクを見た。僕と同じでどうやら知らなかったみたいだ。だがデレクも少し決意した顔をした。

デレクは立ちあがると。

「僕も先日からガープさんと交際を始めました」

と言い出した。のっぽのエルフィンとポッツを見ると首を横に振っている。ガープさんは立ち上がってデレクのご両親に敬礼のポーズをとる。


なんだろう、このわちゃわちゃは…。ヴィクトールさんはヨシュア様とリカ兄さまに改めて交際宣言をしていて。ポッツとのっぽのエルフィンはあらためて両家族に説明をしていた。デレクはガープさんを連れて両親と話をしているし。アルフィン王子や他の護衛騎士の皆さんは先行きを見守っているし。フロスト様は肉団子を僕に食べさせようとスプーンを持ってうずうずしていた。


あぁ、でも悲しくなる。兄さまたちには喜んでもらいたかった。


「兄さまたちにとって僕はまだまだ心配ばかりかける子供に見えるかもしれませんが、キスをしました。大人のキスです。だからもう僕は子供でもないのです」


「ぶはぁっ」ポッツのおじいさんが盛大に吹いた。そのまま笑いが止まらなくなっている。陽気な人なんだ。


兄さまたちの黒いオーラはしぼんで真っ白になっていた。


ヨシュア様のご両親はすぐに正装用のタキシードの準備を始めると言い出していた。




立志式のパーティーはそうやって幕を閉じた。
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