23 / 25
結婚式とハッピーエンド
しおりを挟む僕らの結婚式は2月にあの二人で行ったチャペルで行うことが決まった。実は牧野家のご兄弟の結婚式もそこで行われていたそうだ。
急に決まった結婚式だけどなぜか真由美さんから準備万端だと連絡があった。1月は結婚式の準備に忙しく動いた。涼介さんのフロックコートも僕のタキシードも完璧だった。
そして、明日は結婚式と言う夜を迎えた。
僕はソファでもちもちクッションを伸ばしたり縮めたりして遊んでいた。涼介さんは僕を後ろから抱えて本を読んでいる。
「僕達、婚約して番になって入籍して結婚してってすごく早く話がまとまってるけど、涼介さんはどう思ってる?」
涼介さんは読んでいた本を置いて僕を抱きかかえてうなじにキスをする。涼介さんがつけた傷痕がズクンとした。
「俺はむしろもっと早く俺だけのものにしたかった。ナオが俺の運命だって…初めて会って抱きしめた時に分かったから。キスだけでラットになったこともあったろ。だから、運命だって確信を持ってたよ。ナオはヒートの時どうだった?」
僕は慌てて後ろを向いた。涼介さんが目を合わせるように僕をのぞきこんだ。
「ナオは気づいて無かった?」
「涼介さん、僕はこの期に及んで怖かったんだ。だから、決定的な言葉を言えないでいた。運命じゃないかなって思ってた。涼介さんの匂いが大好きで包まれると気持ちが昂る。キスをしてこんなに甘いって思うのは相性だけじゃないって。でも、ヒートの時のこと僕はほとんど覚えてないんだ」
「ヒートの時のこと覚えてないのか?俺に何度も赤ちゃんが欲しいって言ったことは?」
僕は顔が一気に赤くなった。
「それは本心だ…」
涼介さんが肩におでこを摺り寄せてきた。
「式を早めるのだって子供ができているかもしれないって思ったからだよ」
僕はお腹に手をやる。
「ナオ、言葉が足りなかった。ごめん」
「僕の方こそ、もう運命かどうかなんて縋らなくて良いって思ってた」
涼介さんは一度ソファから下りて跪いて僕の手を取る。
「ナオ。俺の運命…俺のオメガ。一生を共にしてください。大切にします」
僕はソファから下りて涼介さんの首に手をまわして抱きしめた。
「涼介さん、僕のアルファ。僕は怖がりだから困ったら涼介さんがたしなめて。僕はずっと涼介さんの側にいたい」
「明日が結婚式なのに今が結婚式みたいなことしてるな俺たち」
涼介さんがおでこをくっつけて唇にキスをくれた。
次の日。雪がちらちらと降る寒い日だった。
控室で僕は白いタキシードでお母さんからヴェールをかけてもらった。
「直哉。最後の仕上げ、ヴェールダウンは悪いものからあなたを守っておめでとうと幸せになってねって思いを込める行為だそうよ…あなたの幸せをずっと祈ってる」
お母さんが優しく僕の肩に手を置く。
チャペルの扉の前にはお父さんが待機していた。お母さんと入れ替わり僕の手を取って微笑んでくれる。
「ナオ君ありがとう。バージンロードを可愛い子供と歩きたいって僕の夢が一つ叶ったよ」
いたずらっ子の顔をして笑う顔はいつも通りの優しい顔だった。
「僕はお二人の子供になれてほんとに良かった、こんな幸せなことが続くのも僕に手を差し伸べてくれたみんなのおかげです」
扉の向こうで音楽が鳴るとドアが開いた。僕らはお辞儀をしてバージンロードを進む。
参列席の皆にはバラを持ってもらっていた。歩くたびに受け取ることでブーケが出来上がる。
シェルターのみんな、小橋君とカオリさん、ミカ先生 赤木さん テル君と水原さん5本の色とりどりの薔薇の意味は
「感謝」「誠実」「幸福」「信頼」「希望」
牧野家の家族 5兄弟から1本ずつ そしてお母さんから1本。涼介さんのご両親から1本薔薇をもらう。
「愛情」「情熱」「真実」「尊敬」「栄光」「努力」「永遠」
合わせて12本になった薔薇のブーケ。
涼介さんは覚えているだろうか。僕の誕生日にくれたあのブーケを。
チャペルのガラスの向こうはふわふわと雪が舞い光の反射が幻想的だった。
そして、その真ん中には僕を静かに見つめる涼介さん。
涼介さんは白のフロックコートで襟のデザインやズボンのデザインは僕とお揃いだった。背の高い涼介さんにとても似合っていた。この期に及んでまた惚れそうだ。
祭壇に着くとお互いお辞儀をしてお父さんと涼介さんが握手を交わす。そして、涼介さんが僕の手を取る。僕はブーケから1本最後にもらった「永遠」を意味する薔薇を涼介さんの胸に刺す。
僕ららしくと思ったら腕を組むよりも手を握る方が良いと思った。
神父様の厳かな声が響く。
「木下涼介さん あなたは牧野直哉さんを伴侶とし 神の導きによって夫夫になろうとしています
汝 健やかなる時も 病める時も 喜びの時も 悲しみの時も 富める時も 貧しい時も これを愛し 敬い 共に助け合い その命ある限り 真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「牧野直哉さん あなたは木下涼介さんを伴侶とし 神の導きによって夫夫になろうとしています
汝 健やかなる時も 病める時も 喜びの時も 悲しみの時も 富める時も 貧しい時も これを愛し 敬い 共に助け合い その命ある限り 真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
指輪の交換に使う指輪も誕生日にもらったペアリングを使うことにした。気が付けば触っているほどに愛着が増した何ものにも代えがたい価値を持った指輪こそが僕らの結婚の象徴だと思ったからだ。
涼介さんは震える僕の指を一度なだめるように力を込めて握ってくれた。何とか落ち着いて指輪を交換した。
そして、ゆっくりとヴェールが上がる。
何の隔てるものなく涼介さんの真っすぐな目と合う。少しかがんで目を閉じるとおでこに涼介さんの唇が降りてくる。少し冷たく感じた、余裕そうな涼介さんも実は緊張してるのかもしれないと思うと愛しさが増す。
結婚証明書にサインをすると神父様がまた厳かな声で結婚成立の祝辞を述べる。
僕らは手をつないでチャペルを退場する。涼介さんも笑顔でみんなも笑顔で。僕はそれが嬉しくて泣きそうだ。
披露宴は隣のレストランで会食メインで行われた。
高砂席に座って皆の笑顔を見ていた。我慢していた涙が止まらなくなった。
涼介さんが気づいて僕の涙をぬぐってくれる。
どうして涼介さんじゃないとダメなのか、僕は分かった気がした。
いつだって一番に僕の涙に気づいて手を差し伸べてくれる彼を僕は大事にしたい。
何もかも捨てて家を出て11か月。
僕は失くした以上にいろいろなものを手にした。ここまでの道のりでひとつずつ受け取って。
今手にしているこのブーケは僕だけのものだ。そしてこれからもたくさんの花を受け取るだろう。
涼介さんが僕の気を引くように指をとって口づけた。
「2月に結婚式をしたくなったのは意味を知ったからだ。2月の結婚は運命による結婚であり、生涯恐れるものはないって意味があるんだ」
「涼介さんもかなりのロマンチストだね」
ニヤリと笑う顔もかっこいい僕の大切な運命。僕は運命に拾われて、救い上げられて手にした今の自分が大好きだ。
大好きだよ。
END
27
お気に入りに追加
686
あなたにおすすめの小説
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
その咬傷は、掻き消えて。
北月ゆり
BL
α以上にハイスペックなβ・千谷蒼は、高校時代からΩ・佐渡朝日に思いを寄せていた。蒼はαでない自分と結ばれることはないと想いを隠していたが、ある日酷い顔をした朝日が彼に告げる。
「噛まれ……ちゃった」
「……番にされた、ってこと?」
《運命になれなくとも支えたい一途な薬学部生β ×クズ男(α)に番にされた挙句捨てられた不憫Ω、のオメガバース》
※BSSからのハッピーエンドですがタグ注意
※ ストーリー上、攻めも受けも別の人とも関係を持ちます
その運命に跪く時
みこと
BL
上位アルファの家系に生まれた孝太郎はオメガ嫌いの両親の影響でオメガが大嫌いだった。
フェロモンを振り撒く卑猥なオメガ…。そう思って生きてきたのに。
大学で弘海と出会って、自分の中の何かが変わっていく。でもそんな自分を受け入れられない孝太郎は…。
『運命はいつもその手の中に』の孝太郎と弘海のスピンオフです。
後半はただイチャイチャしてるだけです。
愛しているかもしれない 傷心富豪アルファ×ずぶ濡れ家出オメガ ~君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる~
大波小波
BL
第二性がアルファの平 雅貴(たいら まさき)は、30代の若さで名門・平家の当主だ。
ある日、車で移動中に、雨の中ずぶ濡れでうずくまっている少年を拾う。
白沢 藍(しらさわ あい)と名乗るオメガの少年は、やつれてみすぼらしい。
雅貴は藍を屋敷に招き、健康を取り戻すまで滞在するよう勧める。
藍は雅貴をミステリアスと感じ、雅貴は藍を訳ありと思う。
心に深い傷を負った雅貴と、悲惨な身の上の藍。
少しずつ距離を縮めていく、二人の生活が始まる……。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる