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24.叶えたいこと
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公園のベンチで二人は絵本を読んでいた。至君が俺をみとめて手を振る。駆け寄ってベンチに座ると、さっきまでブランコで遊んでいたと教えてくれた。合流して一緒に砂場で遊んだ後。和希君はやっと俺に抱っこされてくれた。そのまま、皆で三浦に戻ると、和希君は森下医師を見て目が潤み始めた、眠かったみたいだ。森下医師は俺から和希君を受け取ると帰って行った。
俺達もケーキを6つ買って帰ることにした。店を出たところで振り返ると、芳樹さんが両手をぐっと握って頑張ってってポーズをしてくれた。俺はうなずいて返事をした。
車から生活感のあふれた街並みが見える。木枯らしが吹いて葉っぱがくるくると舞っていた。
至君の家に着いて、車庫に車を止める。俺は降りようとする至君のジャケットの裾を捉まえた。
「至君。少し二人で話がしたい」
「うん」
俺はそのままうつむいた。何から話したらいいんだろう。至君がカーオーディオのボリュームを絞る。驚くほど車内は静かになった。少し緊張する。いや、少しじゃなかった俺の手は震えていた。心臓がバクバクと打って頬が震える。これから言う事を至君がどう受け取ってくれるか。それでも…俺は深呼吸をした。
「俺はオメガになったばかりで至君と出会ってからもそんなに日が経ってない。それでも俺の全部を至君に受け止めて欲しいと思ってる」
至君は俺の方を見て黙って聞いてくれて、俺の震える手を握ってくれた。
「次のヒートは2月になると思う…」
握ってくれている手に力が籠った、至君の手は俺よりも温かい。
「その時一緒に過ごしてほしい」
言い切って。俺は至君に手を伸ばす。首に手をまわして首筋におでこを寄せた。至君が俺の背中に手をまわして優しく撫でてくれた。
「もちろん。ありがとう、透」
耳を押し付けた体を通して声が聞こえてくる。言ってよかった、涙ぐみそうだ…。
「至君、ありがとう」
俺は至君にまわした手に力を込めて座席に膝立ちし背伸びした。おとなしく引き寄せられた至君にキスをした。目を開けると至君は俺を見ていた。もう一度キスをする、今度は唇を舌でノックした。開いた口の中に舌を入れた。引っ込んでいる舌をチロチロと舐めて。至君がしてくれたことをなぞる。上あご。舌のつるつるしたところ、ザラザラしたところを頑張ってやわやわと舐めた。唇を離すと至君が少し追ってきて、その仕草に笑った。頬に熱がこもってそのまま座席に正座した。
「こんな、エッチなキス。好きな人としかできない。至君としかしたくない」
至君が答えるように俺の肩を抱いてくる。
「思ってるだけじゃダメって。至君を見習って、俺も至君にちゃんと態度と言葉で伝える」
俺は自分の不安でいっぱいいっぱいだった。だから、のほほんとチョーカーだったり、キスだったり、いつも受け身だった。その行動にどんな思いがこもっているか。この執拗なマーキングには至君の不安な心が現れている。しっかり気持ちを返せていないことを反省したんだ。
俺だって俺の好きが伝わらないのは悲しいから。
至君の頬を挟んで、微笑んで見せた。
「言葉じゃ足りないくらいに好きだってことだから」
今度は至君が俺を引き寄せてキスをしてきた。俺は受け止めて背中に手をまわす。
「俺も透が好きだ。もう離してあげることなんてできないから、強引に囲い込んで、俺に落ちてくるのを待つつもりだった」
至君は自嘲するように微笑む。
「やっぱ、透には勝てないな」
「…至君」
至君が嬉しそうに笑った。俺の好きな笑顔だ。
「今日さ、芳樹さんのところに行ったのは、将来のことを考えたからなんだ。俺には叶えたいことが、たくさんあって。お菓子を上手に作れるようになりたい」
「うん」
「もうひとつ、はっきり思ったのは至君の側にいたいってこと。ずっと。だから」
至君は両手で顔を覆うと静かに息を吐いた。俺は正座を崩して助手席に座りなおした。
「わかってる、重いだろ。だからちゃんと話し合いたいなって思って。恥ずかしいけど…」
思わず爪が食い込むほど握りしめた。だけど、俺は選びたい。
「お菓子作りと至君の側にいる事を叶えたい」
独りよがりで恥ずかしかった。うつむいた俺の顔を挟んで至君が目を合わせてきた。
「もっと、重いこと言っていい?今度さ。俺の両親に会ってもらえる?それで、透の両親にもちゃんと挨拶したい。俺も透の側を離れる気はないし逃がさないよ」
俺はゆっくりまばたきをして至君を見た。真剣な顔が赤く染まる。
「うん」
まるでプロポーズだ。胸に広がる多幸感に苦しくなる。
「もう一回キスしたらうちに戻ろう?」
そう言って何度かキスをして家に入った。
至君のご両親はおじいさまの会社の新年行事に合わせて帰ってくるそうだ。会うのはその時に決まった。俺と航兄はもう1泊して実家に帰った。当たり前のように至君はうちに1泊して帰った。その時、至君と俺は二人並んで両親にこれからの話をした。二人は特に何か言うでもなく分かったとだけ言ってくれた。至君はふにゃりと笑った。
その後はなんだかんだと、お互いの家を行き来して過ごす。穣君も一緒に遊びに来たりもして一緒におせちを食べた。気付けば我が家に至君兄弟が馴染んでいた。
俺達もケーキを6つ買って帰ることにした。店を出たところで振り返ると、芳樹さんが両手をぐっと握って頑張ってってポーズをしてくれた。俺はうなずいて返事をした。
車から生活感のあふれた街並みが見える。木枯らしが吹いて葉っぱがくるくると舞っていた。
至君の家に着いて、車庫に車を止める。俺は降りようとする至君のジャケットの裾を捉まえた。
「至君。少し二人で話がしたい」
「うん」
俺はそのままうつむいた。何から話したらいいんだろう。至君がカーオーディオのボリュームを絞る。驚くほど車内は静かになった。少し緊張する。いや、少しじゃなかった俺の手は震えていた。心臓がバクバクと打って頬が震える。これから言う事を至君がどう受け取ってくれるか。それでも…俺は深呼吸をした。
「俺はオメガになったばかりで至君と出会ってからもそんなに日が経ってない。それでも俺の全部を至君に受け止めて欲しいと思ってる」
至君は俺の方を見て黙って聞いてくれて、俺の震える手を握ってくれた。
「次のヒートは2月になると思う…」
握ってくれている手に力が籠った、至君の手は俺よりも温かい。
「その時一緒に過ごしてほしい」
言い切って。俺は至君に手を伸ばす。首に手をまわして首筋におでこを寄せた。至君が俺の背中に手をまわして優しく撫でてくれた。
「もちろん。ありがとう、透」
耳を押し付けた体を通して声が聞こえてくる。言ってよかった、涙ぐみそうだ…。
「至君、ありがとう」
俺は至君にまわした手に力を込めて座席に膝立ちし背伸びした。おとなしく引き寄せられた至君にキスをした。目を開けると至君は俺を見ていた。もう一度キスをする、今度は唇を舌でノックした。開いた口の中に舌を入れた。引っ込んでいる舌をチロチロと舐めて。至君がしてくれたことをなぞる。上あご。舌のつるつるしたところ、ザラザラしたところを頑張ってやわやわと舐めた。唇を離すと至君が少し追ってきて、その仕草に笑った。頬に熱がこもってそのまま座席に正座した。
「こんな、エッチなキス。好きな人としかできない。至君としかしたくない」
至君が答えるように俺の肩を抱いてくる。
「思ってるだけじゃダメって。至君を見習って、俺も至君にちゃんと態度と言葉で伝える」
俺は自分の不安でいっぱいいっぱいだった。だから、のほほんとチョーカーだったり、キスだったり、いつも受け身だった。その行動にどんな思いがこもっているか。この執拗なマーキングには至君の不安な心が現れている。しっかり気持ちを返せていないことを反省したんだ。
俺だって俺の好きが伝わらないのは悲しいから。
至君の頬を挟んで、微笑んで見せた。
「言葉じゃ足りないくらいに好きだってことだから」
今度は至君が俺を引き寄せてキスをしてきた。俺は受け止めて背中に手をまわす。
「俺も透が好きだ。もう離してあげることなんてできないから、強引に囲い込んで、俺に落ちてくるのを待つつもりだった」
至君は自嘲するように微笑む。
「やっぱ、透には勝てないな」
「…至君」
至君が嬉しそうに笑った。俺の好きな笑顔だ。
「今日さ、芳樹さんのところに行ったのは、将来のことを考えたからなんだ。俺には叶えたいことが、たくさんあって。お菓子を上手に作れるようになりたい」
「うん」
「もうひとつ、はっきり思ったのは至君の側にいたいってこと。ずっと。だから」
至君は両手で顔を覆うと静かに息を吐いた。俺は正座を崩して助手席に座りなおした。
「わかってる、重いだろ。だからちゃんと話し合いたいなって思って。恥ずかしいけど…」
思わず爪が食い込むほど握りしめた。だけど、俺は選びたい。
「お菓子作りと至君の側にいる事を叶えたい」
独りよがりで恥ずかしかった。うつむいた俺の顔を挟んで至君が目を合わせてきた。
「もっと、重いこと言っていい?今度さ。俺の両親に会ってもらえる?それで、透の両親にもちゃんと挨拶したい。俺も透の側を離れる気はないし逃がさないよ」
俺はゆっくりまばたきをして至君を見た。真剣な顔が赤く染まる。
「うん」
まるでプロポーズだ。胸に広がる多幸感に苦しくなる。
「もう一回キスしたらうちに戻ろう?」
そう言って何度かキスをして家に入った。
至君のご両親はおじいさまの会社の新年行事に合わせて帰ってくるそうだ。会うのはその時に決まった。俺と航兄はもう1泊して実家に帰った。当たり前のように至君はうちに1泊して帰った。その時、至君と俺は二人並んで両親にこれからの話をした。二人は特に何か言うでもなく分かったとだけ言ってくれた。至君はふにゃりと笑った。
その後はなんだかんだと、お互いの家を行き来して過ごす。穣君も一緒に遊びに来たりもして一緒におせちを食べた。気付けば我が家に至君兄弟が馴染んでいた。
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