16 / 34
16.アルファの執着
しおりを挟む
学校ではいつも誰かの席の近くに集まってお昼ご飯を食べる。
今日はツバサと二人向かい合ってお昼ご飯を食べていた。
ツバサは最近、練習と言って自分で作ったお弁当を持ってきたりする。俺のは寮の人が用意してくれたお弁当だ。
今週はヒナタがいない。
なんと、とうとうヒナタにヒートが来た。
すべて綺麗に食べ終わり片付けを済ませると。ヒナタのヒートの話になった。
ツバサが言うには相性の良いアルファが近くにいるとオメガ性が活性化するらしい。最近、ヒナタは吉岡さんと順調にお付き合いをしている。吉岡さんからはヒナタは運命だと言われている。
相性が良いアルファ性がオメガ性を活性化させるなら俺はなんで9月の頭にヒートが来たんだろうって。その答えに行きつくのは簡単だ。パティスリー三浦には週に1回か、2回は至君が来ていた。
「なになに透、その顔」
「至君と俺も相性が良いのかもしれないなって」
「なんだ惚気か、実際そうなんじゃないかな。嫌じゃないんだろ?張ヶ谷至のあの匂い」
俺はコクリとうなずいた。交流会の時にも思った。良い匂いだと思っても一歩踏み込んで好きだと思う匂いは至君だけだ。俺は指でチョーカーをなぞった。
「匂いが好きか嫌いかって結構重要なポイントなんだよ。良いと思っても好きって思えるのは貴重だ」
ツバサはニヤリとして。チョーカーを指さすと。
「それだって、アルファの囲い込みだからね。透はもうかなりマーキングされてるよ」
「マ…マーキング!」
「愛されてるの最上級だよ」
ツバサが声を出して笑った。俺はツバサの肩をぐりぐり拳で攻撃した。
「死んでも良いって思えるくらい好きになれると良いね」
俺はツバサの肩を殴るのをやめてツバサのチョーカーを見る。うなじには歯型がついているため、守るためと言うより目立たなくさせるためのシンプルなチョーカー。
「やっぱ、痛い?」
「そう言う事、教室で聞く?」
ツバサが今度は俺の肩をガシガシ殴り始めた。殴られた肩をさすっていると授業開始のチャイムが鳴った。
週が明けて現れたヒナタは少々やつれた感じだった。
俺はヒナタより背が高い。だから気付いてしまった、鎖骨の上ところに歯型があった。俺は真っ赤になって口をパクパクさせた。
ヒナタは俺のリアクションを見て急いで第一ボタンまで留めた、そして、潤んだ目でこっちを見てくる。今までは可愛いだけだったけど今日はなんだか…けしからん感じがした。
放課後。事情を聴くためにツバサと二人で引きずるようにして俺の部屋にヒナタを連れて行った。
テーブルをはさんでヒナタとツバサと俺は座った。ツバサが手を上げた。
「ヒナタさんに質問です」
「はい。ツバサさんどうぞ」
「その鎖骨の歯型はいったい何でしょう」
俺が聞きたかったことをズバリ聞いてくれた。いや、3人の中で一番背が低いのがヒナタだからツバサもばっちり見えてたってことだ。ヒナタはテーブルに突っ伏した。プシュ~という音が聞こえそうなほどに真っ赤になって。
「説明します。僕とあっくんは10月の初めごろから正式にお付き合いをはじめました。そして二人で話し合った結果。僕にひ…ひひひ…とがきたら一緒に過ごそうと約束をしていまして…約束を果たしてもらったカタチです」
途中壊れたレコーダーみたいになっていたが最後まで言い切った。あっくん。明久だからあっくんなのか。ツバサはふむふむとか、なるほどとか相槌を打ってヒナタの頭を撫でまわしていた。そうやっているとうなじの奥の方も見えるから。ほら、見えた。背中の方にも赤い点と歯型だ。
俺は天井を見た。もう、見慣れた天井だ。
「吉岡さんって中3の時からヒナタが参加する交流会には必ず現れては絡んできてたからな」
ツバサがさもありなんとうなずいている。ヒナタが浮上しかけた頭をまた勢いよく突っ伏したためにゴンっとおでこを打つ音が聞こえた。
「ヒナタ?大丈夫?」
「うん、大丈夫。あっくんはチャラそうだけど。根は真面目でほんとは優しい人なんだ」
そっちの大丈夫か。
「ヒナタの意志なら俺に言うことは無いよ」
「ありがとう」
ヒナタが良い笑顔で答えた。ツバサがまた手を上げる。
「はい、質問です」
「はい、ツバサさんどうぞ」
「番の登録はされたのですか?」
ヒナタの目がいよいよ潤んできた。
「噛んでもらってないのでゆっくりでいいかなと、でも。ひひひひ…とのあと、あっくんのお父さんとお母さんには会いました。今週末、うちの両親と向こうの両親とで会食します。婚約と言う形に納まると思います」
ツバサはさっきよりも優しい顔になった。
「ずっと見てたから分かってたよ。ヒナタさえ覚悟すればうまくいくって。おめでとう」
今度は俺がヒナタの頭を撫でた。黒いつやつやの髪はサラサラでうなじまで真っ赤だなと可愛く思った。
「ただ、あっくんは来年受験生なんだ。だから、できるだけ僕もそれを応援して邪魔にならないようにしたい」
「ヒナタがそばにいればあっくんも大丈夫だよ」
ツバサまであっくん呼ばわりしている。俺はふとカレンダーを見た。
「って、今週の日曜日って良い夫婦の日だね」
ヒナタが顔を覆って唸り始めてしまったので機嫌を取ることにした。冷蔵庫に入れておいたシフォンケーキをテーブルの上にどんと置いた。
「ヒナタ、ほらヒナタの好きな。紅茶のシフォンケーキ焼いたよ」
ヒナタはむくりと顔を上げて一人で一気にホールの半分を食べた。
それにしてもヒナタはすごい。勇気を出して吉岡さんを誘い一緒にヒートを過ごしたのか。俺も来週あたり2回目のヒートが来る予定だ。森下医師にも言われた。だけど、それを至君に言うには勇気がない。
アルファと一緒にヒートを過ごすという事はそう言う事だから。
至君は好きだ。笑顔も 手も 声も 逢うたびに好きが増えるのに俺には勇気がなかった。
俺はどんよりと暗く落ち込んだ。
ツバサがぎょっとこっちを見る。俺はどうやら不甲斐なさがあふれて涙になっていたみたいだ。
「なんで透が泣くんだ」
「俺はどんどん体はオメガになるのにまだ覚悟が足りない。ツバサが…ヒナタが…すごいって思う。来週ヒートかもしれないって言うのに至君に何も言ってないんだ、大好きなのに」
ツバサが俺の頭を撫でる。
「そんなの当たり前じゃないか。オメガの体はオメガのものだ。付き合ったら全部明け渡さなきゃダメなんてそっちの方が間違ってる。それにヒートの相手をお願いすることが好きの証明だとも思わないよ。オメガにだって心の準備がある」
ヒナタも俺の頭を撫でてきた。
「透君、ごめん。僕はちっとも勇気なんてないんだ。実はその時、あっくんがいたのは偶然だったんだ。デートしてたら急にひ…ひぃとになってあっくんに介抱してもらったから。僕は…僕は…もしあっくんのいないところでひ…ひぃとになってたら、あっくんにちゃんとお願いできてたか分からない。結局、噛まないでって叫んじゃったんだ、ほんとは…勇気なんてないんだ。約束はしてたけど、事故みたいに巻き込んだだけなんだよ」
ヒナタの子犬みたいな大きな丸い目から涙がぼたぼた落ちてきた。
今度は俺がヒナタの涙を拭いてやった。
ツバサはヒナタを撫でまわす。そして、すごく優しい目でヒナタを労わる。
「あっくんだって抑制剤を持ってるはずだし。ちゃんとシェルターを使おうと思えば使えたはずだ。それでもヒナタに付き合ったなら、それはあっくんの意志じゃないか。あっくんはヒナタのお願いを聞いてうなじを噛んでないってことはちゃんと自制もできてたって事だろ。僕は知ってるよ。あっくんがヒナタにすごく執着してたこと。ヒナタはちゃんと大切にされている。あっくんは巻き込まれたなんて思わないよ」
ツバサは泣きそぼる俺とヒナタの手を握った。
「二人とも、相手がいることで悩むくらいならちゃんと相手と話し合えよ」
…もっともだ。俺はコクコクとうなずいた。ツバサはふーと細く息を吐いて笑顔を浮かべる。
そのまま俺とヒナタの頭を雑に撫でた。
「偉そうに言ってるけど。僕も悩んだことだから…ちょっとだけ先輩だから言えたんだ。僕に教えてくれたのは右京さんだよ」
「ツバサの旦那?」
「うん。案外、話せば簡単に解決するんだ。僕たちはそうだった」
俺は泣くだけ泣いたら、なんかスッキリした。
「ツバサ、ありがとう」
ヒナタも隣でコクコクとうなずいている。
俺は目元を赤くしたヒナタのために冷凍庫から保冷剤を出した。ヒナタはお礼を言って受け取る。その間にツバサは半分になっていたシフォンケーキを2㎝だけ残してたいらげていた。
俺は残り少ないシフォンケーキをつつく。
「次に吉岡さんに会ったら、あっくんって呼びそうだ」
ついそんな不安を口にしたら二人とも笑い出した。
俺はその晩、至君にちょっと長いメッセを送った。もうすぐヒートが来ること。だけど至君と過ごすのは怖いこと。だけど大好きだってこと。
至君は僕の体を気遣う言葉と「大好きだよ」って言葉をくれた。
ツバサの助言通り至君に話せば簡単に不安は消えた。
俺のヒートは予定通り11月の最後の週にきた。
それにしても、ヒートは最悪だ。
相変わらずお腹は痛くなるし。頭は沸騰するし、どんどん気持ちがネガティブになる。試しに触ってみようかとも思ったけどやっぱり怖かった。感じたことのない衝動が性欲だと今なら分かる。俺は至君の声や手の感触を思い出してパニックになりそうだった。以前より耐えられないとくじけそうになった。
まざまざと感じるオメガの本能に俺は震えることしかできなかった。
今回はスマホを持ち込んだ。至君から励ましのメッセが来るから頑張れた。ゼリー飲料を乱暴に飲み干してただひたすらベッドで丸まった。
ヒートが明けて出た廊下はひんやりとして空気がもう冬だった。
カレンダーは12月に変わっていた。
今日はツバサと二人向かい合ってお昼ご飯を食べていた。
ツバサは最近、練習と言って自分で作ったお弁当を持ってきたりする。俺のは寮の人が用意してくれたお弁当だ。
今週はヒナタがいない。
なんと、とうとうヒナタにヒートが来た。
すべて綺麗に食べ終わり片付けを済ませると。ヒナタのヒートの話になった。
ツバサが言うには相性の良いアルファが近くにいるとオメガ性が活性化するらしい。最近、ヒナタは吉岡さんと順調にお付き合いをしている。吉岡さんからはヒナタは運命だと言われている。
相性が良いアルファ性がオメガ性を活性化させるなら俺はなんで9月の頭にヒートが来たんだろうって。その答えに行きつくのは簡単だ。パティスリー三浦には週に1回か、2回は至君が来ていた。
「なになに透、その顔」
「至君と俺も相性が良いのかもしれないなって」
「なんだ惚気か、実際そうなんじゃないかな。嫌じゃないんだろ?張ヶ谷至のあの匂い」
俺はコクリとうなずいた。交流会の時にも思った。良い匂いだと思っても一歩踏み込んで好きだと思う匂いは至君だけだ。俺は指でチョーカーをなぞった。
「匂いが好きか嫌いかって結構重要なポイントなんだよ。良いと思っても好きって思えるのは貴重だ」
ツバサはニヤリとして。チョーカーを指さすと。
「それだって、アルファの囲い込みだからね。透はもうかなりマーキングされてるよ」
「マ…マーキング!」
「愛されてるの最上級だよ」
ツバサが声を出して笑った。俺はツバサの肩をぐりぐり拳で攻撃した。
「死んでも良いって思えるくらい好きになれると良いね」
俺はツバサの肩を殴るのをやめてツバサのチョーカーを見る。うなじには歯型がついているため、守るためと言うより目立たなくさせるためのシンプルなチョーカー。
「やっぱ、痛い?」
「そう言う事、教室で聞く?」
ツバサが今度は俺の肩をガシガシ殴り始めた。殴られた肩をさすっていると授業開始のチャイムが鳴った。
週が明けて現れたヒナタは少々やつれた感じだった。
俺はヒナタより背が高い。だから気付いてしまった、鎖骨の上ところに歯型があった。俺は真っ赤になって口をパクパクさせた。
ヒナタは俺のリアクションを見て急いで第一ボタンまで留めた、そして、潤んだ目でこっちを見てくる。今までは可愛いだけだったけど今日はなんだか…けしからん感じがした。
放課後。事情を聴くためにツバサと二人で引きずるようにして俺の部屋にヒナタを連れて行った。
テーブルをはさんでヒナタとツバサと俺は座った。ツバサが手を上げた。
「ヒナタさんに質問です」
「はい。ツバサさんどうぞ」
「その鎖骨の歯型はいったい何でしょう」
俺が聞きたかったことをズバリ聞いてくれた。いや、3人の中で一番背が低いのがヒナタだからツバサもばっちり見えてたってことだ。ヒナタはテーブルに突っ伏した。プシュ~という音が聞こえそうなほどに真っ赤になって。
「説明します。僕とあっくんは10月の初めごろから正式にお付き合いをはじめました。そして二人で話し合った結果。僕にひ…ひひひ…とがきたら一緒に過ごそうと約束をしていまして…約束を果たしてもらったカタチです」
途中壊れたレコーダーみたいになっていたが最後まで言い切った。あっくん。明久だからあっくんなのか。ツバサはふむふむとか、なるほどとか相槌を打ってヒナタの頭を撫でまわしていた。そうやっているとうなじの奥の方も見えるから。ほら、見えた。背中の方にも赤い点と歯型だ。
俺は天井を見た。もう、見慣れた天井だ。
「吉岡さんって中3の時からヒナタが参加する交流会には必ず現れては絡んできてたからな」
ツバサがさもありなんとうなずいている。ヒナタが浮上しかけた頭をまた勢いよく突っ伏したためにゴンっとおでこを打つ音が聞こえた。
「ヒナタ?大丈夫?」
「うん、大丈夫。あっくんはチャラそうだけど。根は真面目でほんとは優しい人なんだ」
そっちの大丈夫か。
「ヒナタの意志なら俺に言うことは無いよ」
「ありがとう」
ヒナタが良い笑顔で答えた。ツバサがまた手を上げる。
「はい、質問です」
「はい、ツバサさんどうぞ」
「番の登録はされたのですか?」
ヒナタの目がいよいよ潤んできた。
「噛んでもらってないのでゆっくりでいいかなと、でも。ひひひひ…とのあと、あっくんのお父さんとお母さんには会いました。今週末、うちの両親と向こうの両親とで会食します。婚約と言う形に納まると思います」
ツバサはさっきよりも優しい顔になった。
「ずっと見てたから分かってたよ。ヒナタさえ覚悟すればうまくいくって。おめでとう」
今度は俺がヒナタの頭を撫でた。黒いつやつやの髪はサラサラでうなじまで真っ赤だなと可愛く思った。
「ただ、あっくんは来年受験生なんだ。だから、できるだけ僕もそれを応援して邪魔にならないようにしたい」
「ヒナタがそばにいればあっくんも大丈夫だよ」
ツバサまであっくん呼ばわりしている。俺はふとカレンダーを見た。
「って、今週の日曜日って良い夫婦の日だね」
ヒナタが顔を覆って唸り始めてしまったので機嫌を取ることにした。冷蔵庫に入れておいたシフォンケーキをテーブルの上にどんと置いた。
「ヒナタ、ほらヒナタの好きな。紅茶のシフォンケーキ焼いたよ」
ヒナタはむくりと顔を上げて一人で一気にホールの半分を食べた。
それにしてもヒナタはすごい。勇気を出して吉岡さんを誘い一緒にヒートを過ごしたのか。俺も来週あたり2回目のヒートが来る予定だ。森下医師にも言われた。だけど、それを至君に言うには勇気がない。
アルファと一緒にヒートを過ごすという事はそう言う事だから。
至君は好きだ。笑顔も 手も 声も 逢うたびに好きが増えるのに俺には勇気がなかった。
俺はどんよりと暗く落ち込んだ。
ツバサがぎょっとこっちを見る。俺はどうやら不甲斐なさがあふれて涙になっていたみたいだ。
「なんで透が泣くんだ」
「俺はどんどん体はオメガになるのにまだ覚悟が足りない。ツバサが…ヒナタが…すごいって思う。来週ヒートかもしれないって言うのに至君に何も言ってないんだ、大好きなのに」
ツバサが俺の頭を撫でる。
「そんなの当たり前じゃないか。オメガの体はオメガのものだ。付き合ったら全部明け渡さなきゃダメなんてそっちの方が間違ってる。それにヒートの相手をお願いすることが好きの証明だとも思わないよ。オメガにだって心の準備がある」
ヒナタも俺の頭を撫でてきた。
「透君、ごめん。僕はちっとも勇気なんてないんだ。実はその時、あっくんがいたのは偶然だったんだ。デートしてたら急にひ…ひぃとになってあっくんに介抱してもらったから。僕は…僕は…もしあっくんのいないところでひ…ひぃとになってたら、あっくんにちゃんとお願いできてたか分からない。結局、噛まないでって叫んじゃったんだ、ほんとは…勇気なんてないんだ。約束はしてたけど、事故みたいに巻き込んだだけなんだよ」
ヒナタの子犬みたいな大きな丸い目から涙がぼたぼた落ちてきた。
今度は俺がヒナタの涙を拭いてやった。
ツバサはヒナタを撫でまわす。そして、すごく優しい目でヒナタを労わる。
「あっくんだって抑制剤を持ってるはずだし。ちゃんとシェルターを使おうと思えば使えたはずだ。それでもヒナタに付き合ったなら、それはあっくんの意志じゃないか。あっくんはヒナタのお願いを聞いてうなじを噛んでないってことはちゃんと自制もできてたって事だろ。僕は知ってるよ。あっくんがヒナタにすごく執着してたこと。ヒナタはちゃんと大切にされている。あっくんは巻き込まれたなんて思わないよ」
ツバサは泣きそぼる俺とヒナタの手を握った。
「二人とも、相手がいることで悩むくらいならちゃんと相手と話し合えよ」
…もっともだ。俺はコクコクとうなずいた。ツバサはふーと細く息を吐いて笑顔を浮かべる。
そのまま俺とヒナタの頭を雑に撫でた。
「偉そうに言ってるけど。僕も悩んだことだから…ちょっとだけ先輩だから言えたんだ。僕に教えてくれたのは右京さんだよ」
「ツバサの旦那?」
「うん。案外、話せば簡単に解決するんだ。僕たちはそうだった」
俺は泣くだけ泣いたら、なんかスッキリした。
「ツバサ、ありがとう」
ヒナタも隣でコクコクとうなずいている。
俺は目元を赤くしたヒナタのために冷凍庫から保冷剤を出した。ヒナタはお礼を言って受け取る。その間にツバサは半分になっていたシフォンケーキを2㎝だけ残してたいらげていた。
俺は残り少ないシフォンケーキをつつく。
「次に吉岡さんに会ったら、あっくんって呼びそうだ」
ついそんな不安を口にしたら二人とも笑い出した。
俺はその晩、至君にちょっと長いメッセを送った。もうすぐヒートが来ること。だけど至君と過ごすのは怖いこと。だけど大好きだってこと。
至君は僕の体を気遣う言葉と「大好きだよ」って言葉をくれた。
ツバサの助言通り至君に話せば簡単に不安は消えた。
俺のヒートは予定通り11月の最後の週にきた。
それにしても、ヒートは最悪だ。
相変わらずお腹は痛くなるし。頭は沸騰するし、どんどん気持ちがネガティブになる。試しに触ってみようかとも思ったけどやっぱり怖かった。感じたことのない衝動が性欲だと今なら分かる。俺は至君の声や手の感触を思い出してパニックになりそうだった。以前より耐えられないとくじけそうになった。
まざまざと感じるオメガの本能に俺は震えることしかできなかった。
今回はスマホを持ち込んだ。至君から励ましのメッセが来るから頑張れた。ゼリー飲料を乱暴に飲み干してただひたすらベッドで丸まった。
ヒートが明けて出た廊下はひんやりとして空気がもう冬だった。
カレンダーは12月に変わっていた。
0
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説
スキル【特許権】で高位魔法や便利魔法を独占! ~俺の考案した魔法を使いたいなら、特許使用料をステータスポイントでお支払いください~
木塚麻弥
ファンタジー
とある高校のクラス全員が異世界の神によって召喚された。
クラスメイト達が神から【剣技(極)】や【高速魔力回復】といった固有スキルを受け取る中、九条 祐真に与えられたスキルは【特許権】。スキルを与えた神ですら内容をよく理解していないモノだった。
「やっぱり、ユーマは連れていけない」
「俺たちが魔王を倒してくるのを待ってて」
「このお城なら安全だって神様も言ってる」
オタクな祐真は、異世界での無双に憧れていたのだが……。
彼はただひとり、召喚された古城に取り残されてしまう。
それを少し不憫に思った神は、祐真に追加のスキルを与えた。
【ガイドライン】という、今はほとんど使われないスキル。
しかし【特許権】と【ガイドライン】の組み合わせにより、祐真はこの世界で無双するための力を得た。
「静寂破りて雷鳴響く、開闢より幾星霜、其の天楼に雷を蓄積せし巍然たる大精霊よ。我の敵を塵芥のひとつも残さず殲滅せよ、雷哮──って言うのが、最上級雷魔法の詠唱だよ」
中二病を拗らせていた祐真には、この世界で有効な魔法の詠唱を考案する知識があった。
「……すまん、詠唱のメモをもらって良い?」
「はいコレ、どーぞ。それから初めにも言ったけど、この詠唱で魔法を発動させて魔物を倒すとレベルアップの時にステータスポイントを5%もらうからね」
「たった5%だろ? 全然いいよ。ありがとな、ユーマ!」
たった5%。されど5%。
祐真は自ら魔物を倒さずとも、勝手に強くなるためのステータスポイントが手に入り続ける。
彼がこの異世界で無双するようになるまで、さほど時間はかからない。
【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」
リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」
「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」
「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」
リリア
リリア
リリア
何度も名前を呼ばれた。
何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。
何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。
血の繋がらない、義理の妹ミリス。
父も母も兄も弟も。
誰も彼もが彼女を愛した。
実の娘である、妹である私ではなく。
真っ赤な他人のミリスを。
そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。
何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。
そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。
だけど、もういい、と思うの。
どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。
どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?
そんなこと、許さない。私が許さない。
もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。
最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。
「お父様、お母様、兄弟にミリス」
みんなみんな
「死んでください」
どうぞ受け取ってくださいませ。
※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします
※他サイトにも掲載してます
最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜
恋音
ファンタジー
『目的はただ1つ、1年間でその喋り方をどうにかすること』
辺境伯令嬢である主人公はそんな手紙を持たされ実家を追放された為、冒険者にならざるを得なかった。
「人生ってクソぞーーーーーー!!!」
「嬢ちゃんうるせぇよッ!」
隣の部屋の男が相棒になるとも知らず、現状を嘆いた。
リィンという偽名を名乗った少女はへっぽこ言語を駆使し、相棒のおっさんもといライアーと共に次々襲いかかる災厄に立ち向かう。
盗賊、スタンピード、敵国のスパイ。挙句の果てに心当たりが全くないのに王族誘拐疑惑!? 世界よ、私が一体何をした!?
最低ランクと舐めてかかる敵が居れば痛い目を見る。立ちはだかる敵を薙ぎ倒し、味方から「敵に同情する」と言われながらも、でこぼこ最凶コンビは我が道を進む。
「誰かあのFランク共の脅威度を上げろッッ!」
あいつら最低ランク詐欺だ。
とは、ライバルパーティーのリーダーのお言葉だ。
────これは嘘つき達の物語
*毎日更新中*小説家になろうと重複投稿
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます
リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。
金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ!
おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。
逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。
結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。
いつの間にか実家にざまぁしてました。
そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。
=====
2020/12月某日
第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。
楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。
また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。
お読みいただきありがとうございました。
【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった
華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。
でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。
辺境伯に行くと、、、、、
【完結(続編)ほかに相手がいるのに】
もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。
遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。
理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。
拓海は空港まで迎えにくるというが…
男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。
こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。
よろしければそちらを先にご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる