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12.アルファのマーキング
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次の日俺は戸惑っていた。週末、興奮したせいか微熱っぽいのと体が熱い。
そのことを森下医師に相談するとフェロモン値を測るように指示された。
俺のフェロモン値は上がりきっていた。至君といたことで俺はオメガだって体が叫んでいる状態だと森下医師に言われた。恥ずかしくて枕から顔を上げられない。
結局一日学校を休んで部屋でゴロゴロした。
ツバサからお見舞いメッセが来たので事情を話すと放課後ヒナタとお見舞いに来るそうだ。病気ではないからうつらないけど大丈夫なのかなと心配になる。
「とーおーる、あーそーぼー」
ツバサ達が小学生みたいな掛け声で遊びに来た。入ってきてすぐツバサの眉間にしわが入った。
「くっさ!透くっさ!」
ひどい…
「これはアルファのマーキング?」
ツバサが鼻をひくひくさせている。俺は申し訳なくてそっと窓を開けた。
「これは至君の…」
俺が慌てて言うと、ツバサが首を傾げた。
「透君、実家に帰ったんじゃなかったの?なんで張ヶ谷さんと?」
ヒナタがきょとっとしながら聞いてくる。最近二人がよくこの部屋に来るからテーブルは出しっぱなしだった。二人は勝手に座布団を出して定位置に座り、俺はベッドに座る。
週末、航兄の付き添いで大学に行ったこと。そこで至君と逢ったこと。至君と恋人同士になったこと。
昨日ここまで送ってもらったことを簡単に説明した。
「はぁ?すっげ、何その偶然…」
ツバサは俺のすねを拳でぐりぐりしてきた。対するヒナタはキラキラした目で見てくる。
「で、告白ってどっちから?」
俺は顔を覆ってベッドに倒れた。
「至君からです」
「へえやっぱり、張ヶ谷さんからだと思ってたよ。この匂いとか強烈だもの」
ヒナタにまで強烈だと言われてしまった。
「で、今日は休んだんだ…透、それって擬似ヒートってやつだよね」
俺はハテナが飛ぶ。起き上がってツバサとヒナタを見る、ギジヒート?
「相性の良いアルファの匂いに反応してフェロモン値が上がってヒートみたいな症状が出ることだよ」
ツバサが滑らかに説明した。森下医師は言葉を濁したが、そうか。俺はまたベッドに倒れた。さすがオメガ歴の長い人たちは良く分かっていらっしゃる。
俺を揶揄おうとニヤニヤしているツバサをヒナタが窘めて話を変えてくれる。
「実家はどうだったの?」
俺は寝っ転がったまますっかり見慣れた天井を見る。ツバサは立ち上がって紅茶を淹れ始めた。
「部屋にさ。バースの本がいくつかあってさ。みんな俺のことを知ろうと勉強してくれてた。航兄も俺と一緒に暮らす方法はないか調べてた。なんか、俺のせいで…」
ヒナタが俺のズボンを引く。
「言葉が違うよ、せいじゃなくて、透君のためだよ。知りたいって思ってくれてるんだよ。そんな風に力になりたいって寄り添ってくれるなんて良い家族だね」
ヒナタがにっこりと笑う。
「うん。そう思う、俺オメガにならなかったら、家族の愛情もこんな風に感じることは無かったかも」
俺は父の真面目さや母の明るさ、兄の優しさをありがたいと思っている。
「すごいね、僕んちはお母さんもおばあちゃんもオメガだけど、うっすらアルファの方が上位みたいな雰囲気が家にあって寄り添うみたいなことなかったな。愛情はちゃんと感じているよ。でも、ちょっとかわいそうって思われている節があって過保護気味でね…だから中学から寮に入ったんだ」
ヒナタがカバンからごそごそとプリントを出した。
「僕んちもそうだよ。良くも悪くも伝統あるアルファオメガの家系だからね。僕がオメガって判定されてからは、より良いアルファと番わせようってそればっかりだった。僕自身に期待されることなんてなかったな…良い番を見つけることがオメガの幸せって。オメガ前提の幸せを押し付けられてた」
ツバサは3人分の紅茶をテーブルに並べた。
「何が幸せかは自分たちで見つけたいよな」
俺がツバサに言うと。ツバサはにっこりとうなずいた。
「僕はこうやってツバサの紅茶を飲んで透君のお菓子を食べられて。皆でおしゃべりするの幸せだよ」
ヒナタが俺に両手を出しておねだりポーズをした。
「今日は抹茶のパウンドケーキだよ。冷凍庫にあるからどうぞ。俺今日学校休んでるからね」
ツバサがヒナタとハイタッチしている。
「緑は張ヶ谷の好きな色だっけ?単純だな。でも、僕はもう透がいない頃に戻れない気がする」
ツバサは冷凍庫から抹茶パウンドケーキを出してレンジに向かいながらそんなことを言う。
「ねぇ、これ何分?」
「俺もここに二人がいなかったらって想像できないわ…1分」
レンジのボタンを何個か押してツバサはじっとレンジの庫内を見つめていた。
「僕さ、たぶん来週か、再来週くらいにヒートが来るよ。そしたら彼と番になるんだ。またこの部屋に来るからさ。僕の話も聞いてよ」
ヒナタと俺はツバサの後頭部を見つめた。
「あぁ待ってるよ。生々しい話は勘弁だけど聞かせて」
俺がニヤリと笑うとヒナタもコクコクとうなずく。
「僕も吉岡さんの話、しなきゃダメかな?」
冗談めかしてヒナタが笑う。俺はニヤリと笑って抹茶パウンドケーキ分はしゃべってよと言っておいた。
ひとしきりしゃべって二人は帰って行った。
俺は昨日着ていた至君の匂いがする服を出して匂ってみた。森の匂いだ、水分を含んだ緑の優しい匂いだ。ツバサもヒナタもこの匂いを苦手だと言った。それぞれに匂いに対して感じ方が違うんだな。俺はこの匂いを好きだと思う。優しくて包み込まれるような安心感がある。
俺だけに心地いい匂いか…思わず頬が緩む。
そのことを森下医師に相談するとフェロモン値を測るように指示された。
俺のフェロモン値は上がりきっていた。至君といたことで俺はオメガだって体が叫んでいる状態だと森下医師に言われた。恥ずかしくて枕から顔を上げられない。
結局一日学校を休んで部屋でゴロゴロした。
ツバサからお見舞いメッセが来たので事情を話すと放課後ヒナタとお見舞いに来るそうだ。病気ではないからうつらないけど大丈夫なのかなと心配になる。
「とーおーる、あーそーぼー」
ツバサ達が小学生みたいな掛け声で遊びに来た。入ってきてすぐツバサの眉間にしわが入った。
「くっさ!透くっさ!」
ひどい…
「これはアルファのマーキング?」
ツバサが鼻をひくひくさせている。俺は申し訳なくてそっと窓を開けた。
「これは至君の…」
俺が慌てて言うと、ツバサが首を傾げた。
「透君、実家に帰ったんじゃなかったの?なんで張ヶ谷さんと?」
ヒナタがきょとっとしながら聞いてくる。最近二人がよくこの部屋に来るからテーブルは出しっぱなしだった。二人は勝手に座布団を出して定位置に座り、俺はベッドに座る。
週末、航兄の付き添いで大学に行ったこと。そこで至君と逢ったこと。至君と恋人同士になったこと。
昨日ここまで送ってもらったことを簡単に説明した。
「はぁ?すっげ、何その偶然…」
ツバサは俺のすねを拳でぐりぐりしてきた。対するヒナタはキラキラした目で見てくる。
「で、告白ってどっちから?」
俺は顔を覆ってベッドに倒れた。
「至君からです」
「へえやっぱり、張ヶ谷さんからだと思ってたよ。この匂いとか強烈だもの」
ヒナタにまで強烈だと言われてしまった。
「で、今日は休んだんだ…透、それって擬似ヒートってやつだよね」
俺はハテナが飛ぶ。起き上がってツバサとヒナタを見る、ギジヒート?
「相性の良いアルファの匂いに反応してフェロモン値が上がってヒートみたいな症状が出ることだよ」
ツバサが滑らかに説明した。森下医師は言葉を濁したが、そうか。俺はまたベッドに倒れた。さすがオメガ歴の長い人たちは良く分かっていらっしゃる。
俺を揶揄おうとニヤニヤしているツバサをヒナタが窘めて話を変えてくれる。
「実家はどうだったの?」
俺は寝っ転がったまますっかり見慣れた天井を見る。ツバサは立ち上がって紅茶を淹れ始めた。
「部屋にさ。バースの本がいくつかあってさ。みんな俺のことを知ろうと勉強してくれてた。航兄も俺と一緒に暮らす方法はないか調べてた。なんか、俺のせいで…」
ヒナタが俺のズボンを引く。
「言葉が違うよ、せいじゃなくて、透君のためだよ。知りたいって思ってくれてるんだよ。そんな風に力になりたいって寄り添ってくれるなんて良い家族だね」
ヒナタがにっこりと笑う。
「うん。そう思う、俺オメガにならなかったら、家族の愛情もこんな風に感じることは無かったかも」
俺は父の真面目さや母の明るさ、兄の優しさをありがたいと思っている。
「すごいね、僕んちはお母さんもおばあちゃんもオメガだけど、うっすらアルファの方が上位みたいな雰囲気が家にあって寄り添うみたいなことなかったな。愛情はちゃんと感じているよ。でも、ちょっとかわいそうって思われている節があって過保護気味でね…だから中学から寮に入ったんだ」
ヒナタがカバンからごそごそとプリントを出した。
「僕んちもそうだよ。良くも悪くも伝統あるアルファオメガの家系だからね。僕がオメガって判定されてからは、より良いアルファと番わせようってそればっかりだった。僕自身に期待されることなんてなかったな…良い番を見つけることがオメガの幸せって。オメガ前提の幸せを押し付けられてた」
ツバサは3人分の紅茶をテーブルに並べた。
「何が幸せかは自分たちで見つけたいよな」
俺がツバサに言うと。ツバサはにっこりとうなずいた。
「僕はこうやってツバサの紅茶を飲んで透君のお菓子を食べられて。皆でおしゃべりするの幸せだよ」
ヒナタが俺に両手を出しておねだりポーズをした。
「今日は抹茶のパウンドケーキだよ。冷凍庫にあるからどうぞ。俺今日学校休んでるからね」
ツバサがヒナタとハイタッチしている。
「緑は張ヶ谷の好きな色だっけ?単純だな。でも、僕はもう透がいない頃に戻れない気がする」
ツバサは冷凍庫から抹茶パウンドケーキを出してレンジに向かいながらそんなことを言う。
「ねぇ、これ何分?」
「俺もここに二人がいなかったらって想像できないわ…1分」
レンジのボタンを何個か押してツバサはじっとレンジの庫内を見つめていた。
「僕さ、たぶん来週か、再来週くらいにヒートが来るよ。そしたら彼と番になるんだ。またこの部屋に来るからさ。僕の話も聞いてよ」
ヒナタと俺はツバサの後頭部を見つめた。
「あぁ待ってるよ。生々しい話は勘弁だけど聞かせて」
俺がニヤリと笑うとヒナタもコクコクとうなずく。
「僕も吉岡さんの話、しなきゃダメかな?」
冗談めかしてヒナタが笑う。俺はニヤリと笑って抹茶パウンドケーキ分はしゃべってよと言っておいた。
ひとしきりしゃべって二人は帰って行った。
俺は昨日着ていた至君の匂いがする服を出して匂ってみた。森の匂いだ、水分を含んだ緑の優しい匂いだ。ツバサもヒナタもこの匂いを苦手だと言った。それぞれに匂いに対して感じ方が違うんだな。俺はこの匂いを好きだと思う。優しくて包み込まれるような安心感がある。
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