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25.エンディングは突然に
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沈黙の後。王様が立ちあがる。
「……これは何のためにしている」
魔獣王の方を振り返ると、彼はうなずいて口を開く。
「子供をさらうのはやめてくれ。魔獣をモノではなく人として扱い彼らに敬意を。魔力鎖で繋ぐのはやめてくれ。彼らの労働力には正当な対価を」
俺はうなずいてそれを代弁する。
「花嫁も生贄もいらない。欲しいのは安寧だ」
俺は魔獣王を見上げた。結婚式の途中でフラれてしまった。
予定調和だけど。
ミランマイレン国が今までしてきたことを考えると、寛大な措置だと思うのだが王はすぐにうなずかなかった。
「それができないというなら西の森から出ていくと言っている」
これは脅しだ。魔獣王がいなくなれば、他国から、あるいは統率者のいない魔獣からミランマイレン国は攻撃を受けることになる。そうなればこの国はひとたまりもないだろう。
「わかった……」
王は立ち上がり、魔獣王の側まで来るとその爪先にキスをした。
これがこの国の誓約のしるしになるらしい。つまり、条件をのむってことだ。
俺は交渉成功の合図に高く手を上げる。魔獣王はキョトンとして頭を下げてきた。仕方がないのでその頭を撫でたが、ハイタッチをするつもりだった。やっぱ、陽キャの真似は難しい。
礼拝堂はざわめいていた。これは間違いなく。ミランマイレン国の転機だ。
教会の外に控えていたトカゲちゃんたちはいっせいに頭を上下に振っている。
そして、意を決してリーンハルトの方を見た。リーンハルトは驚いた顔でこちらを見ていた。
「リーンハルト。魔獣王様が花嫁いらないって。フラれちゃったよ。だから俺を伴侶にもらって?」
リーンハルトは立ち上がると俺の元に駆けつけて、ぎゅっと抱きしめてくれた。おいこら、コインを投げるな。投げられたコインは魔獣王が受け止めてくれた。
二人の頭上で祝福の鐘が鳴っていたらしい。
……俺には聞こえなかった。だって目の前に、リーンハルトがいたから。
「タロウ。あなたの側においてください」
俺はリーンハルトの目の色が好きだ。優しい声。枯草の匂い。カフェオレ色の髪。大きな手。俺の大好きな人。
「今のセリフ。勇太って呼んで言い直して? 俺、吉沢勇太って言うんだ」
「ゆうた。私の勇者。愛しています」
かくして、ミランマイレン国に新たに、吉沢勇太という異世界人と魔獣人という新たな国民が生まれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、魔獣王とミランマイレン国王との誓約は細かなところまで詰められた。
誓約文を作る王国側ばかり有利にならないように見張る必要があって、俺も魔獣王のそばで誓約文を読む羽目になっていた。
俺にそんな専門的な知識はなくどうすっべかな?と悩んでいたら。「オッケーグリモワールこの誓約文どう思う? 」で人間側の小ずるい言い回しを全て訂正してくれた。
魔獣王はコインを膝に抱えてゴキゲンである。イチャつきやがって……。俺がうなりながら誓約文を読み返している間にすっかり仲良くなっている。くっそ、俺はこの雑務のせいでリーンハルトに会えてないのに!
ようやくすべての誓約文の文言を決めると、今度は清書だ。魔力を込めた特別なインクで魔力でできた特別な紙に書き写していく。これ破ったら国が亡びるぞ的な仕掛け付きだそうだ。そこは魔法省に全委託だ。
次の仕事はトカゲちゃんたちの聞き取りだ。
実家に帰りたいトカゲちゃんや虐待が疑われるトカゲちゃんを解放していく。トカゲちゃんたちを人として扱うと誓った以上、鎖でつなぐのも罰則を付けた。
トカゲちゃんたちは人間以上に賢く温厚だった。ずっと理不尽な目にあわされていたのにやり返さなかったのだから言わずもがなだ。
話をしても分からないのは人間の方だった。身分や権利を主張してごねてきたが、そこは王子3人組が頑張ってくれた。王子たちと王子たちの騎獣が間に入ってうまくやってくれたらしい。ハーツのエロ本は今もちゃんとクラちゃんが守っている。
ここまで2年かかった。
今では街中でぽつぽつ自由に歩く魔獣人もいる。
俺とリーンハルトの交際は順調だ。
聖騎士って言うのは結婚までは童貞を守らないといけないらしく、なかなかの苦行だった。おかげで立派に指と舌だけで開発された。これは初夜で淫乱コースだ。あの女神さまそう言うの好きそうだもんな。
そういえばもう一つ問題があった。アワーバック家は国でも王様の次に偉い貴族らしく、当初は身分をたてに結婚ではなく妾にという意見が王国から出されたのだ。たぶん、俺に対する嫌がらせだ。
だがそれは俺が魔獣王の義理の父になったことで解消された。うん、俺のコインがあっさりと魔獣王と結婚したのだ。扶養家族とは言っていたが息子になっていたみたいだ。
なんか女神さまが話を収束に向けるために都合よく動かしているようにも感じるが、おかげで王国側を黙らせることができたのでヨシとしている。
そして、この国に勇者として召喚されてから3年。
俺とリーンハルトはアワーバック領の教会で盛大な式を挙げた。
見上げた青い空には魔獣たちが飛び交い 「召喚勇者は異世界で最愛と出会う fin.」と文字が浮かんだ。
久しぶりにピアノとバイオリンの音を聞いた。
「……これは何のためにしている」
魔獣王の方を振り返ると、彼はうなずいて口を開く。
「子供をさらうのはやめてくれ。魔獣をモノではなく人として扱い彼らに敬意を。魔力鎖で繋ぐのはやめてくれ。彼らの労働力には正当な対価を」
俺はうなずいてそれを代弁する。
「花嫁も生贄もいらない。欲しいのは安寧だ」
俺は魔獣王を見上げた。結婚式の途中でフラれてしまった。
予定調和だけど。
ミランマイレン国が今までしてきたことを考えると、寛大な措置だと思うのだが王はすぐにうなずかなかった。
「それができないというなら西の森から出ていくと言っている」
これは脅しだ。魔獣王がいなくなれば、他国から、あるいは統率者のいない魔獣からミランマイレン国は攻撃を受けることになる。そうなればこの国はひとたまりもないだろう。
「わかった……」
王は立ち上がり、魔獣王の側まで来るとその爪先にキスをした。
これがこの国の誓約のしるしになるらしい。つまり、条件をのむってことだ。
俺は交渉成功の合図に高く手を上げる。魔獣王はキョトンとして頭を下げてきた。仕方がないのでその頭を撫でたが、ハイタッチをするつもりだった。やっぱ、陽キャの真似は難しい。
礼拝堂はざわめいていた。これは間違いなく。ミランマイレン国の転機だ。
教会の外に控えていたトカゲちゃんたちはいっせいに頭を上下に振っている。
そして、意を決してリーンハルトの方を見た。リーンハルトは驚いた顔でこちらを見ていた。
「リーンハルト。魔獣王様が花嫁いらないって。フラれちゃったよ。だから俺を伴侶にもらって?」
リーンハルトは立ち上がると俺の元に駆けつけて、ぎゅっと抱きしめてくれた。おいこら、コインを投げるな。投げられたコインは魔獣王が受け止めてくれた。
二人の頭上で祝福の鐘が鳴っていたらしい。
……俺には聞こえなかった。だって目の前に、リーンハルトがいたから。
「タロウ。あなたの側においてください」
俺はリーンハルトの目の色が好きだ。優しい声。枯草の匂い。カフェオレ色の髪。大きな手。俺の大好きな人。
「今のセリフ。勇太って呼んで言い直して? 俺、吉沢勇太って言うんだ」
「ゆうた。私の勇者。愛しています」
かくして、ミランマイレン国に新たに、吉沢勇太という異世界人と魔獣人という新たな国民が生まれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、魔獣王とミランマイレン国王との誓約は細かなところまで詰められた。
誓約文を作る王国側ばかり有利にならないように見張る必要があって、俺も魔獣王のそばで誓約文を読む羽目になっていた。
俺にそんな専門的な知識はなくどうすっべかな?と悩んでいたら。「オッケーグリモワールこの誓約文どう思う? 」で人間側の小ずるい言い回しを全て訂正してくれた。
魔獣王はコインを膝に抱えてゴキゲンである。イチャつきやがって……。俺がうなりながら誓約文を読み返している間にすっかり仲良くなっている。くっそ、俺はこの雑務のせいでリーンハルトに会えてないのに!
ようやくすべての誓約文の文言を決めると、今度は清書だ。魔力を込めた特別なインクで魔力でできた特別な紙に書き写していく。これ破ったら国が亡びるぞ的な仕掛け付きだそうだ。そこは魔法省に全委託だ。
次の仕事はトカゲちゃんたちの聞き取りだ。
実家に帰りたいトカゲちゃんや虐待が疑われるトカゲちゃんを解放していく。トカゲちゃんたちを人として扱うと誓った以上、鎖でつなぐのも罰則を付けた。
トカゲちゃんたちは人間以上に賢く温厚だった。ずっと理不尽な目にあわされていたのにやり返さなかったのだから言わずもがなだ。
話をしても分からないのは人間の方だった。身分や権利を主張してごねてきたが、そこは王子3人組が頑張ってくれた。王子たちと王子たちの騎獣が間に入ってうまくやってくれたらしい。ハーツのエロ本は今もちゃんとクラちゃんが守っている。
ここまで2年かかった。
今では街中でぽつぽつ自由に歩く魔獣人もいる。
俺とリーンハルトの交際は順調だ。
聖騎士って言うのは結婚までは童貞を守らないといけないらしく、なかなかの苦行だった。おかげで立派に指と舌だけで開発された。これは初夜で淫乱コースだ。あの女神さまそう言うの好きそうだもんな。
そういえばもう一つ問題があった。アワーバック家は国でも王様の次に偉い貴族らしく、当初は身分をたてに結婚ではなく妾にという意見が王国から出されたのだ。たぶん、俺に対する嫌がらせだ。
だがそれは俺が魔獣王の義理の父になったことで解消された。うん、俺のコインがあっさりと魔獣王と結婚したのだ。扶養家族とは言っていたが息子になっていたみたいだ。
なんか女神さまが話を収束に向けるために都合よく動かしているようにも感じるが、おかげで王国側を黙らせることができたのでヨシとしている。
そして、この国に勇者として召喚されてから3年。
俺とリーンハルトはアワーバック領の教会で盛大な式を挙げた。
見上げた青い空には魔獣たちが飛び交い 「召喚勇者は異世界で最愛と出会う fin.」と文字が浮かんだ。
久しぶりにピアノとバイオリンの音を聞いた。
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