19 / 29
19.待ってろよ
しおりを挟む俺がこの世界に来てここまで頑張れたのも彼と彼の家族のおかげだったのに騙していた。理由があっても彼に嘘をついていたのは間違いない。
「……ごめん。サバラ」
こんな時のごめんって便利な言葉だ。
俺はそれを言われて何もかもどうでもよくなったのだ。
幼馴染の自分がすっきりするためだけのごめん。
あの時、あんなに嫌悪を抱いたのに、俺は今、それを大事だと思っている友だちに言った。
「タローのばか!」
サバラは部屋の外へ走って行った。追いかけるために一歩踏み出した瞬間、ミスジが俺の腕をぐっと握って見下ろしてきた。
「異世界人はずるいな。言っておくが今逃げたら。魔獣王様のいけにえはリーンハルトにするからな」
ミスジはニヤリと笑ってマントをひるがえした。こんなとこでそんなことするなよ。いろんなものに当たってるだろ。ガチャガチャうるさい。クールとかショタとかも迷惑そうにミスジを睨んでいる。
「今日はちゃんと寝ろよ。明日はお前を魔獣王のもとに送ってやる」
王子たちはフハハハハ! と高笑いをしながら一列になって部屋を出て行った。はけ方が大阪の喜劇っぽいな。去っていった扉は締まると元の壁に戻った。
静かになった部屋に風が吹き込む。自分が壊した窓枠からだった。まだ壊れたまんまだ。窓枠に手を掛けたが逃げる気になれなかった。
せめて最後にリーンハルトに会いたかった。疑ってごめん。信じなくてごめん。
俺が信じられないのは相手じゃない自分だ。
『リーンハルト 城塞 右翼二号塔地下1階にて監禁中』
え?グリモワール。
『聖剣も呼べば来ます。それに乗って会いに行きましょう』
グリモワール。……ありがとう。
『祝福を受けし聖剣よ。闇より暗き漆黒を裂いて……』
もうその手には乗らないからな。あと今度同じようなことしたら。牛乳かけるからな。
『……ひぃ』
「聖剣!」
俺が呼ぶと掲げた手の中に柄が現れた。それを両手でぐっと握ると柄からゆっくりと刃が現れてあの見慣れた聖剣が実体と化す。あっ、やべ。焼肉してたから表面に焦げた野菜や脂が付いてる。
そうだった。焼肉をしていた途中だった。
さっさと浄化して、柄を持ち直す。背中にはコインを背負った。
俺は俺の事情でサバラも、リーンも疑ってしまった。誠心誠意謝ろう。そして、ちゃんと話をしよう……もう後悔はしたくない。
グリモワールだって言った。
リーンハルト監禁中と……
よし、待ってろよ。リーンハルト。今から会いに行くからな!
42
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
悩ましき騎士団長のひとりごと
きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。
ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。
『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。
ムーンライト様にも掲載しております。
よろしくお願いします。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる