召喚勇者はにげだした

大島Q太

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10.愛してしまったのだ

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リーンハルトがお隣さんになって3週間が過ぎた。

俺はリーンハルトの布団に潜り込んであいつが勝手気ままにしゃべる話をきいている。



俺にこんな執着じみた感情がまだあるのかと自分でも驚いている。この包まれる感じ、あたたかくて柔らかくて良い匂いがする。


そう、愛してしまったのだ。




……リーンハルトが持ち込んだ布団を。




「ですからね、領民に手を上げるのはアワーバック家の人間として良くないと判断して、説得しようと試みたのですが言葉が通じず。気付けば雷のような電気を受けて昏倒しました。ただすぐ、あなたが助けに入ってくれたことで私のケガもほらこの通り」


リーンハルトはシャツをまくり上げてちょっと焦げたような傷と、うっすらと残る青紫の打撲痕を見せてにこりと笑う。


「この程度の傷ですんだのです。もし、彼らに誘拐されて実家に連絡がいっていたら、家族がどんな報復を彼らにしていたか。ここら一帯焦土と化すところでした」


打撲痕の方に心当たりがあるので素直に相槌を打った。……って、アワーバックは狂神か何かか。一帯を焦土化って過剰防衛反対!環境破壊は未来を壊す! 火の七日間なんてシャレにならん。むしろ俺が助けたのはあの世紀末3人組の方かもしれない。


大人しく聞いているのは布団のためだ。現代日本から転移した俺は布団が不満だった。もう、リーンハルトの布団なしでは寝られない。ふわふわで暖かくて最高なのである。

コインを抱き枕にし、リーンハルトが俺を抱き枕にして寝る日々になれてしまった。


ただそうなってくると気になるのが下世話な事情である。リーンハルトはいつも前を立派にしながら眠っている。


「それ大丈夫なの?」


俺はその硬い感触から逃げるように体を離す。


「聖騎士というのは未来の伴侶に操を立てるものです。王宮聖騎士は王子たちの伴侶候補であり、聖教聖騎士は伴侶候補だけを愛するという意味です。なので、我慢できます。この清い体は伴侶のために捧げたいから」


「へー(くっそ重い)」


リーンハルトは向かい合うように俺の体を反転させて目を覗き込んでくる。


「あなたのピンク色の乳首と目が合った瞬間。私の心はあなたのものです。伴侶にしてもらえませんか?」


ぜんぜん、ロマンチックじゃない。あと、乳首とは目が合わないし。何なら変態臭い。耳を赤くして可愛い顔をしても無駄だ。俺はリーンハルトの顎をぐっと押してもぞもぞと反転する。


「俺の伴侶はこの布団だ。浮気はしない」


「そう言う一途なところも好きです」


「はいはい、おやすみ」


理不尽な現実から夢へ逃げることにした。

夢の中では大きなキノコとリーンハルトが楽し気にマイムマイムを踊っていた。


『楽し気に踊る夢は人間関係や恋愛方面がうまくいく可能性が高いことを示唆します』

オッケーグリモワール、勝手に読み解かないで。




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