召喚勇者はにげだした

大島Q太

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8.恩返しにあらわれた

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木の間にロープを渡してそこに洗濯物を掛けていった。青い空に白い洗濯ものがはためく。

気持ちよくて、腕をぐっと上に伸ばしていると、はためく洗濯ものの合間に顔半分が赤い大男が立っていた。え?魔獣?


異世界怖い。馴染んだなんて嘘だ。


風でまた洗濯ものがひらめく。大男は目を血走らせてこちらを見ていた。カフェオレ色の短髪の髪、赤い軍服風。どっかで見たな。俺の視線を受け止めて男は靴を鳴らして敬礼をした。


「すみません、先日路地裏で助けていただいた。聖騎士のリーンハルトです。恩返しに来ました」


恩返し……コインは助けたが彼には恩返しされるようなことはしていないが。……名のられてしまった。おそるおそる洗濯ものから男を見るとしっかり、「リーンハルト:童貞処女」と書いてあった。セーフ。あぁ、そうかBL界の聖騎士って純潔であることが条件なのか。でも、それがほぼふりであり、凌辱されるのが前提なんだが。


てか……助けていただいた恩返しって記憶にないが、ゲリラ鶴の恩返し的な何かかな。


あらためてじっと顔を見る。やっぱり目が充血していて、耳まで真っ赤だ。あぁ、血だらけなのは鼻血か。なんで鼻血? そう思って振り返ると俺はふんどし一丁だった。

「うわぁ!」

「わぁ!」

相手も同じように声を上げた。

「あんた! 鼻血! 変態!」

リーンハルトは手で鼻の下をこすった後、ぎゃっと言ってそのまま倒れた。めんどくさ!

とりあえず、コインに大男の見張りを頼んで服を取りにワンルームの横穴に戻った。




陽も傾いて、洗濯ものを取り込む時間になった。運ぶにはごつすぎて男はそのまま地面に転がしたままにしていた。転がされるの2回目なら慣れてるだろう。

よく考えれば自分が露出狂だったのに悪かったかなと思ったので、鼻血は綺麗に拭いておいてやった。


ごついが愛嬌のある顔だ。太い眉と高い鼻。肉感のある唇。彫の深い北欧系のイケメンだ。なかなか起きないので枝で鼻を突いてやる。

「うっ」

「早く起きろ、暗くなるぞ」

男は腹筋で勢いよく起き上がった。そして俺を見てまた真っ赤になった。思い出すな、バカ。


「あのっ……。私は聖教聖騎士のリーンハルトと申します。先日助けていただいた恩返しをしに」

「けっこうです。おかえりください」

間髪入れずに断ると、ショックを受けた顔で固まった。


「そう言わず、恩返しを」

「遠慮する」


面倒ごとはお断りだ。大きな体を分かりやすくしょぼんっと小さくさせてリーンハルトはうなだれた。コインは慰めるようにリーンハルトの背中を尻尾で叩いた。

まぁ、コインにしたらリーンハルトは最初に助けようとしてくれた人だもんな。コインがキュルキュルとした目で俺を見てきたが、そいつは鼻血騎士だぞ。と目線で言い聞かせるとコインはあきらめて俺の足元に戻ってきた。


リーンハルトは何度か振り返りつつ、そのまま山を降りて行った。


俺は彼を見送りつつ、BL界で有名なラッキースケベイベントってやつだったのではと戦慄していた。


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