召喚勇者はにげだした

大島Q太

文字の大きさ
上 下
6 / 29

6.オッケーグリモワール

しおりを挟む
彼らが檻に押し込めていた赤い塊の方を見やるとそれは羽の生えた小さな生き物だった。
「一日一善救助!」
金属の檻だったが身体強化を使えばうまい棒くらいのもろさだ。言い過ぎた黒糖かりんとうくらいだ。

赤い塊は丸まるのをやめて顔を上げた。それはトリケラトプスに羽根を付けたような小さなドラゴンだった。足には文字の描かれた鎖が繋がれ、口輪をされていた。赤い鱗や薄い皮膜の羽には細かな傷がついていた。おそるおそる開いた瞳はまるで宝石のような緑色。
こんなかわいい子にこんな仕打ち。一日一善殺生をしようか。と足元に転がっている3人を追加で一発ずつ蹴った。あれ? 4人いる。まぁ、気にしない。

ドラゴンの右上に四角い板が出てきた「ファイヤードラゴン:状態異常空腹 擦過傷」となっている。

「大丈夫、もう助けたから。君を治しても良いだろうか?」

俺が問うとドラゴンは怯えながらこちらを見上げている。
無い知恵を総動員した。確か……ドラゴンの目線の高さに目を合わせて、手を差し出す。ドラゴンがその手を嗅ぐのをじっと待って……歯を見せると威嚇だと思われるから口は閉じる。手を嗅いでくれたら仲良くなれると愛犬家が言っていた。

ドラゴンの鼻先がおそるおそる俺の握った拳に着いた。あの有名な映画を思い出した。
残念ながら自転車はこの世界にはないので前かごには載せられないけど。
おそるおそる頭を撫でると目を細めた。

鎖と口輪を外してもドラゴンはおとなしいままだった。抱き上げて全体に治癒魔法を施した。
「ファイヤードラゴン:状態異常空腹」のみになった。




「オッケーグリモワール ファイヤードラゴンの食べるもの」
満を持して最後に選んだ加護を呼び出す。言うなれば「検索先生」だ。

『ファイヤードラゴンは人と同じバランスのとれた食事をします。肉も野菜も食べさせましょう』

この音声が女神さまの声にそっくりなのが気になるが便利だ。
グリモワール ありがとう。唱えると魔導書グリモワールは静かに消えた。

人と同じで良いならさっさと手土産を手に入れてサバラの家に向かおう。肉も野菜も食えるならきっとサバラの家の焼肉も食えるだろう。
何か忘れている気がしたが、腕のなかでファイヤードラゴンがぐーっとお腹を鳴らすので考えるのをやめた。この子の空腹を満たすのが先だ。

手土産はフルーツ籠にした。水色やショッキングピンクみたいな不思議な色の実だが、味はいたって平凡である。

ドアをノックするとすぐにサバラは迎えてくれた。
「早かったね!タロー」
サバラの視線は俺に大人しく抱かれている赤い塊にそそがれている。
「どうしたの、この子なに?」
俺は路地裏での出来事を話した。にゅっと頭一つ大きい男が顔を出した。サバラの父「ネック:汚喘ぎ 寝バック」だ。友達の親の性癖とか知りたくないから勘弁してほしい。
「こんなとこで話し込んでないで奥においでよ」
俺はうなずいて、手に持っていたフルーツ籠を押し付ける。
「そんなに気を遣わなくていいのに」
と言いながらも受け取ってくれた。奥にはネックの伴侶「シビレ:オネエ 寝バック」が準備をして待っていてくれていた。二人とも仲が良くて逃げたくなった。

シビレさんは笑顔を浮かべたあと、俺の腕の中に納まる赤い塊を見て驚いた顔をしている。
「どうしたのこの子」
俺は改めて、路地裏の出来事を話した。多少脚色して、助けたのはあの男にした。あぁ、そう言えば彼のことがすっかり抜けていた。まぁ大人だから大丈夫だろう。

「そっか、ドラゴンは神の使いって言われてて、大事にしなきゃダメなのにその悪党には天罰が下るね」

聞くと現代で言うところの白ヘビ様扱いだそうだ。きっと呪われるな、あの世紀末3人組。

お腹を空かせているというと、シビレさんは赤いドラゴンを抱き上げて膝に乗せる。口元にショッキングピンクの果物を持っていくとパクリと食べた。かわいい。ドラゴンは食べ終わるとまたこちらをじっと見てくる。また、果物を口元に持っていくともしゃもしゃと食べる。かわいい。際限なく構いたくなる。
俺はドラゴンを愛でつつ。すすめられるままに食事とお酒を頂いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司と俺のSM関係

雫@更新不定期です
BL
タイトルの通りです。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

俺を注意してくる生徒会長の鼻を明かしてやりたかっただけなのに

たけむら
BL
真面目(?)な生徒会長×流されやすめなツンデレ男子高校生。そこに友達も加わって、わちゃわちゃの高校生活を送る話。 ネクタイをつけてこないことを毎日真面目に注意してくる生徒会長・伊佐野のことを面白がっていた水沢だったが、実は手のひらの上で転がされていたのは自分の方だった? そこに悪友・秋山も加わってやいのやいのにぎやか(?)な高校生活を送る話。 楽しんでいただけますように。どうぞよろしくお願いします。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...