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悪役令息は受けて立つ(1)
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休学明けの初登校を終え、少し疲れた僕はベッドの上でゴロゴロしていた。そこへ、仕事を終えて帰ってきた父様が訪ねてきた。王城でサーシャを見たそうで、父様はへにょりと眉を下げてうつむく。
「いまさらだが、耐えてくれとはひどい父親だったな」
僕は父様の手を取った、できるだけ感情的にならない様に今日の出来事を報告した。
「でも、僕にはベル号とクレインがいます。だから、頑張りますよ?」
最近増えた父様との交流で僕はたくさん言葉を交わし、父様を抱きしめたりしている。僕が殿下を盲目的に慕っていたのは寂しさの反動だと気付かされた。
「それにしても、可愛いケティに食べ物を投げるとはその子爵の子は許せないな。私が法の下に裁いてあげよう」
父様が悪い顔をして部屋を出て行った。そして、次の日から僕に皿を投げた子は学園で見なくなった。
僕が父様の力を使ったことが学園に広まるのはすぐだった。おかげで変に絡まれなくなったが、さらに僕は悪目立ちするようになった。白い髪のぽっちゃりが黒くて大きな男を引き連れて学園内を歩いていればどんなに混雑した場所でも道が開けた。
そんな僕に勇気を出して近づいてきたのは生徒会の人たちだった。生徒会の面々は2カ月前より萎れていた。以前なら僕が殿下の代わりに業務をしていたが、休学していた間は殿下自身が業務をしていたはずだが。どうやら殿下は自分の業務をすべて他の生徒に割り振っていたそうだ。僕も生徒会の業務が大変なのは知っている。かなり切羽詰まった状態らしい。彼らの要求は今まで通り僕に生徒会を手伝って欲しいという事だった。
どの面下げてとため息が出そうになった。
「私は殿下に婚約を破棄したいと言われて調整中なんだ。今は殿下と距離を置いている。生徒会に無関係の人間が業務に関わるのは良くないんじゃないかな?」
「だけど・・・」
「生徒会は選ばれた優秀な人間が集まっているんだろ?模範となるべき人たちがルールを守らないのは良くないと思うよ」
彼らは渋い顔をした。あからさまに睨んでくるやつもいる。これは嫌味だと伝わったみたいだ。彼らは殿下が生徒会長の仕事をしていないのを知っていて、面倒な仕事を殿下にぜんぶ押し付けてきた。殿下に頼まれた僕がそれをふらふらになってこなしていたことを知っていて見ないふりもした。助けを求めても生徒会長が生徒会長の仕事をするのは当たり前のルールだからと言って手伝ってすらくれなかった。
「君たちは優秀なんだろ?私が1位を取らなかった時、あれだけ文句言ってきたんだ。成績を下げることなく業務をこなして見せてよ」
殿下が僕を軽く見ることが、他の生徒にも伝播して僕の存在と言うのはほんとに軽く扱われていた。どんなに頑張っても彼らはできて当たり前だと言う顔をしていた。それをやり返してみた。
「性格悪いなっ!」
生徒会の面々は捨て台詞を残して去って行った。僕の握りしめていた手が震えている。
「ケティ、よく頑張ったな」
クレインが僕の震える手を握ってくれた。
後日、僕は本性が出てめちゃくちゃ性格が悪くなったと学園内に噂が立った。
お昼ご飯は厩舎の近くのベンチで食べている。本を片手に白パンを口に放り込む。勉強とは無関係の物語をのんびりと読むのは気が晴れる。目の前では模造刀を振って鍛錬しているクレインがいる。
今の僕は権力を使って気に入らない相手を学園から追いだして、助けを求める人の手を払う性格の悪い奴だ。教室ではいるだけで気を使われる。
それに僕をかばうクレインも教室で孤立していると言う。それを思うと胸が痛い。
「クレイン、ごめん。僕の事情に巻き込んで、本来なら君もこの学園で友達を作って楽しい学生生活を送れていたかもしれない」
クレインは振っていた模造刀を腰に戻すと。こちらに近づいてきて首に掛けていた手拭いで僕の頬を拭いた、涙が流れていたみたいだ。相変わらず汗くさいが落ち着く。
「君はこんなにかっこいいのだから恋人だってできたかもしれないのに」
「ケティの側にいるのを選んだのは俺だ。ケティの事情を分かって距離を置くやつらと友達になりたいとは思わない。だから、泣くな」
クレインが僕の側に立って俺の頭を掻き交ぜた後、指で頬をつつく。
「それに、かっこいいって?」
僕はクレインを見上げた。
「うん、困ってる僕をほっとけないって。自分の立場が悪くなるのに側にいてくれるクレインはかっこいいよ」
クレインは眉間にしわを寄せて、そっちのかっこいいかとぶすくれた。そして僕の隣に座るとまた僕のおなかを揉む。くすぐったくて声を出して笑った。もうだいぶつまむところも小さくなったけど、クレインは僕のおなかを揉むのが好きみたいだ。逃げるとクレインの手が頬を揉みだした。と、親指が唇をかすめる。ふにりと形を変えた唇は指が離れれば元のカタチに戻る。一瞬真剣な目にとらわれる。首をかしげるとクレインはふいと前を向いた。
僕も同じように前を向く。ベル号が遠くからこちらを見ていた。
「僕も冒険者になろうかな。父様は悲しむかもしれないけど。世界の広さを知りたい」
「たしかに世界は広いな」
クレインが笑う。僕自身がもっと強くなりたい。僕に巻き込まれてくれた彼を守れるように、いざという時は手放せるように。
「いまさらだが、耐えてくれとはひどい父親だったな」
僕は父様の手を取った、できるだけ感情的にならない様に今日の出来事を報告した。
「でも、僕にはベル号とクレインがいます。だから、頑張りますよ?」
最近増えた父様との交流で僕はたくさん言葉を交わし、父様を抱きしめたりしている。僕が殿下を盲目的に慕っていたのは寂しさの反動だと気付かされた。
「それにしても、可愛いケティに食べ物を投げるとはその子爵の子は許せないな。私が法の下に裁いてあげよう」
父様が悪い顔をして部屋を出て行った。そして、次の日から僕に皿を投げた子は学園で見なくなった。
僕が父様の力を使ったことが学園に広まるのはすぐだった。おかげで変に絡まれなくなったが、さらに僕は悪目立ちするようになった。白い髪のぽっちゃりが黒くて大きな男を引き連れて学園内を歩いていればどんなに混雑した場所でも道が開けた。
そんな僕に勇気を出して近づいてきたのは生徒会の人たちだった。生徒会の面々は2カ月前より萎れていた。以前なら僕が殿下の代わりに業務をしていたが、休学していた間は殿下自身が業務をしていたはずだが。どうやら殿下は自分の業務をすべて他の生徒に割り振っていたそうだ。僕も生徒会の業務が大変なのは知っている。かなり切羽詰まった状態らしい。彼らの要求は今まで通り僕に生徒会を手伝って欲しいという事だった。
どの面下げてとため息が出そうになった。
「私は殿下に婚約を破棄したいと言われて調整中なんだ。今は殿下と距離を置いている。生徒会に無関係の人間が業務に関わるのは良くないんじゃないかな?」
「だけど・・・」
「生徒会は選ばれた優秀な人間が集まっているんだろ?模範となるべき人たちがルールを守らないのは良くないと思うよ」
彼らは渋い顔をした。あからさまに睨んでくるやつもいる。これは嫌味だと伝わったみたいだ。彼らは殿下が生徒会長の仕事をしていないのを知っていて、面倒な仕事を殿下にぜんぶ押し付けてきた。殿下に頼まれた僕がそれをふらふらになってこなしていたことを知っていて見ないふりもした。助けを求めても生徒会長が生徒会長の仕事をするのは当たり前のルールだからと言って手伝ってすらくれなかった。
「君たちは優秀なんだろ?私が1位を取らなかった時、あれだけ文句言ってきたんだ。成績を下げることなく業務をこなして見せてよ」
殿下が僕を軽く見ることが、他の生徒にも伝播して僕の存在と言うのはほんとに軽く扱われていた。どんなに頑張っても彼らはできて当たり前だと言う顔をしていた。それをやり返してみた。
「性格悪いなっ!」
生徒会の面々は捨て台詞を残して去って行った。僕の握りしめていた手が震えている。
「ケティ、よく頑張ったな」
クレインが僕の震える手を握ってくれた。
後日、僕は本性が出てめちゃくちゃ性格が悪くなったと学園内に噂が立った。
お昼ご飯は厩舎の近くのベンチで食べている。本を片手に白パンを口に放り込む。勉強とは無関係の物語をのんびりと読むのは気が晴れる。目の前では模造刀を振って鍛錬しているクレインがいる。
今の僕は権力を使って気に入らない相手を学園から追いだして、助けを求める人の手を払う性格の悪い奴だ。教室ではいるだけで気を使われる。
それに僕をかばうクレインも教室で孤立していると言う。それを思うと胸が痛い。
「クレイン、ごめん。僕の事情に巻き込んで、本来なら君もこの学園で友達を作って楽しい学生生活を送れていたかもしれない」
クレインは振っていた模造刀を腰に戻すと。こちらに近づいてきて首に掛けていた手拭いで僕の頬を拭いた、涙が流れていたみたいだ。相変わらず汗くさいが落ち着く。
「君はこんなにかっこいいのだから恋人だってできたかもしれないのに」
「ケティの側にいるのを選んだのは俺だ。ケティの事情を分かって距離を置くやつらと友達になりたいとは思わない。だから、泣くな」
クレインが僕の側に立って俺の頭を掻き交ぜた後、指で頬をつつく。
「それに、かっこいいって?」
僕はクレインを見上げた。
「うん、困ってる僕をほっとけないって。自分の立場が悪くなるのに側にいてくれるクレインはかっこいいよ」
クレインは眉間にしわを寄せて、そっちのかっこいいかとぶすくれた。そして僕の隣に座るとまた僕のおなかを揉む。くすぐったくて声を出して笑った。もうだいぶつまむところも小さくなったけど、クレインは僕のおなかを揉むのが好きみたいだ。逃げるとクレインの手が頬を揉みだした。と、親指が唇をかすめる。ふにりと形を変えた唇は指が離れれば元のカタチに戻る。一瞬真剣な目にとらわれる。首をかしげるとクレインはふいと前を向いた。
僕も同じように前を向く。ベル号が遠くからこちらを見ていた。
「僕も冒険者になろうかな。父様は悲しむかもしれないけど。世界の広さを知りたい」
「たしかに世界は広いな」
クレインが笑う。僕自身がもっと強くなりたい。僕に巻き込まれてくれた彼を守れるように、いざという時は手放せるように。
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