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しおりを挟む目覚めるときれいに編みこまれたわらっぽい草の屋根とむき出しの梁や柱が見えた。俺の部屋ってこんなワイルドだったっけ? いや、絶対違う。身じろぐとたくさんのラグやクッションに埋もれていた。まるで布でできた巣のようだった。部屋は広めで跳ね上げ式の窓が二つ。入り口らしきところには布がかかっていて、反対側の奥まったところに木の扉がある。
パチパチとまばたきをしていると、その入り口らしき場所の布がめくれておじさんが入ってきた。あの時のひげもじゃのおじさんだ。俺とバチリと目が合うと、またあのキラキラした目で俺を見つめ返す。何事かを叫んで俺の側に来ると濡らした布で顔を拭いてくれた。
気付いたが言葉が理解できない。
おじさんは何かを歌うように話している。俺はそれに曖昧に笑い返した。どかどかと人の歩く音が響いて、おじさんが入ってきた入口からあのイケメンが入ってきた。俺のそばまで近づいてくると、どかりと座り頬を撫でてくる。あまりに顔が良いのでぽーっと見つめてしまった。男は俺のあごを取って顔を近づけブチュッとキスしてきた。俺が目を見開いていると、おじさんが俺の脇腹をつつく。驚いた拍子に口を開けたら男の舌が俺の口に入ってきた。
男の舌はザラリとして分厚く口の中がいっぱいになった。口の中のいろんなところを撫でられて驚きに固まっていると徐々に触れ合わさる舌が熱くなる。この熱さおかしくね? と思っていたらやっと口が離れて行った。
「どうだ?ファルハ。言葉は分るか?」
突然目の前の男が日本語をしゃべりだした。いや、口の動きと合ってないから同時通訳みたいなものだろうか。俺はおそるおそるうなずくと、男は嬉しそうに抱き着いてくる。
「ファルハ。私の名前はナミル。ファルハの名前は?」
え?俺ふぁるは? ときょとんとしているとおじさんとイケメンは真剣な目で見つめてくる。
「安井真人 まなとです」
「ヤーシュマナート…ファルハは可愛い名前だな。マナト」
そう言ってぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。そのまま、なぜかナミルの膝に抱きかかえられた。隣りにいたおじさんからは「アーリムです」と自己紹介された。慌ててぺこりと頭を下げる。アーリムさんはオールバックの似合うあごまわりにひげをたくわえた筋骨隆々のおじさんだ。にこりと笑うと目じりにしわが寄ってやさしい顔になっている。ナミルが気を引くように俺の頬を撫でた。
「魔力で回路を繋いだ。マナトの舌は柔らかくて気持ち良いな」
にっこりと笑っている。まりょく? ……異世界だ。
「マナト様はどちらからいらっしゃったのですか?もしや、落ち人でいらっしゃる?」
俺は首をかしげたが異世界転移者を落ち人と呼ぶラノベを見たことがある、たぶんそれだ。コクリとうなずくとおじさんはうなずいた。そこからはこの世界の”落ち人”というものについて詳しく聞いた。
「この世界では落ち人は数10年に一度あるかないかのとても珍しい事です。変な輩に無垢な落ち人が害されないように、拾った人間が後見につき、お世話をするのが習わしです。こちらの世界に慣れるまでは頼って下さいね」
害される……怖っ! ナミルに拾われてラッキーだったのかな。見上げるとナミルがじっと見ていた。だがその視線は俺の顔を通り過ぎて…ぎゃ。乳首とちんこが丸見えだ。
「お・・おれ!裸!! 」
恥ずかしくて体を抱きしめるように隠す。
「もし、ケガや湿疹などあればすぐさま治療を行わないとなりません。衣服を着ていてはそれを見つけるのも難しいので、恐れながら裸にさせていただいています」
良い笑顔で説明された。そう言うものなのかでも裸ってどうなんだ。
「マナト様、これから4日は部屋から出ないでくださいね」
俺は驚いてアーリムさんの方を見ると。
「まだマナト様はこの世界に慣れていませんし。どんな影響があるか分かりませんから、ここで様子を見てからの方が良いと思いますよ。ね、ぼっちゃん」
話を向けられたナミルはかくかくと首を縦に振って口角を上げた。言われたことにも一理あるので俺はしぶしぶうなずいた。
「マナト、安心しろ。俺がちゃんとお世話するから」
真剣な目で言ってくるからドキッとしてしまった。4日間はここでお世話をしてもらえるのか。俺はナミルに「よろしくお願いします」と頭を下げた。その頭をナミルは丁寧に撫でてくれた。アーリムさんは俺達の様子を微笑みながら見守っている。
「さしあたってマナト様の後見はうちのぼっちゃんです。手続きなどは我々にお任せください」
落ち人の手続きって何だろう。この世界で落ち人は稀だけれど、そう言う習わしがしっかりしているという事は全くないわけではないみたいだ。俺を抱きかかえているナミルを見上げた。ここ間違えようもなく異世界だ、4日間ここを出るなってそれまでは面倒を見てくれるってことか、4日過ぎたら俺はどうなるんだろう。
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